第115話 溜息がこぼれました

「殿下先生、話していただけますか」


「勇者がジュン君を狙っているというのは、どういう事です」


 ベルナデッタ殿下の部屋を退室後、俺達はジーク殿下の私室へ戻った。


 護衛の騎士やメイド達は反対していたが強引に外に出して人払いをした。


 今、この場にはアイとジーク殿下。アニエスさんとソフィアさん、最後に俺の五人だけだ、


「…ごめんね。それはまだ話せないの。話せる時が来たら言うから、その時まで待って欲しいの」


「しかし…」


 勇者の事を話すとなると、俺が女神エロース様から送られた存在だと話す必要が出て来るからな。


 そうなったら更に面倒な事態になるから秘密にするしかない。いつかは言わなくてはならないだろうが、今はまだ早い。


 それはアイもわかっているようだ。


「勇者の事は気になりますけど、今はベルナデッタ殿下の事です。ジーク殿下、ベルナデッタ殿下は病気ではありませんよ」


「え?ジュン、君はベルが何を見てるのかわかったのかい?」


「はい。それについては女王陛下にも御話しする必要があるのですが…」


「ママにはウチから話すから。ジュン、続けて」


「…ベルナデッタ殿下は、未来視が出来るのだと思われます」


「「「なっ…」」」


 未来視、と聞いて驚いたのはジーク殿下、アニエスさん、ソフィアさんだ。


 アイは何となく予想していたのだろう、納得顔をしていた。


「ど、どういう事だ?未来視…未来に起こる事を視る事が出来るという事か?」


「そんな…神の如き力を、ベルナデッタ殿下は扱えると?」


「どんな未来でも見通せるわけじゃなさそうですし、知りたい事を知れるわけでもなさそうです。そこまで万能な力ではない、という事です」


「つまり、どんな未来が見えるのかはベル自身にも分からず、自分でその力を扱えるわけでもない、という事だね」


「そうです…あの、殿下。近いです、少し離れてください」


 今、割と真面目な話してるんで肩をくっつけないでくれませんかね。


 手を握る必要もないと思うのですが。あと、何で顔が少し赤いんですかね。


「…ベルナデッタ殿下は幼い頃、物心が付く前から未来視が出来たのだと思います。寝ている時は夢という形で。起きている時は幻のように。そして何より、ベルナデッタ殿下自身が自分の力に気付いてない。だから周りから見たら何を言ってるのかわからない、不可思議な言動をする子供に見えたのではないでしょうか」


「夢…幻…なるほど、納得出来る話だね」


「それなら過去のベルの言動も幾つか納得出来るしね。ああ、あれは未来を視てたから言った事、予言だったんだ、てね」


 恐らくはどうして知ってるのかとか…過程をすっ飛ばして結果だけを語った予言だったろうからな。


 今日まで誰も知らなかった事から察するに予言だと気付けるような、未来視でも出来なきゃ説明が付かないような内容ではなかったようだし。


「そしてベルナデッタ殿下が未来視が出来るのならば。聖女になるという話も妄想で片付けられなくなります」


「あ…そうか、それも未来視…予言なのか」


「だが聖女なんて古い御伽噺に出て来る、殆ど空想上の存在だぞ。何を持って聖女と呼ばれるのかもわからん」


「まさかベルナデッタ殿下が仰っていた強く美しく、国中の人気者だとか世界のカリスマになるだとかも本当の事で、それが聖女になる条件だとでも?それが本当なら何をどうすればいいのか、さっぱりよ」


「あ、それはウチが以前、ベルに聖女になるにはどうしたらいいか聞かれて適当に言った内容だから。無視していいわ」


 それもお前が犯人か。適当な事言い過ぎ……いや、不思議ちゃんだと思ってたなら適当な事言って誤魔化すのも無理ない事なのか。


「聖女に付いては俺達だけで調べるしかありませんね。アイとジーク殿下にはベルナデッタ殿下から聞き取りもしてもらって…女王陛下にも御話ししてもらって」


「任せてくれていいよ。母上は僕の話があると言えばすぐに聞いてくれるからね」


「ウチもそれでいいけど…聖女の事を調べるって言っても、何処で何をすればいいの?」


「聖女に付いては我々も調べますが…取り合えずは古い文献をあたるしかないでしょうね。ローエングリーン家が保有する書物にあればいいのですが」


「他国や他家を頼る訳に行きませんからね。レーンベルク家の書庫…それに白薔薇騎士団員の書庫も閲覧させてもらえるとして…王室書庫の閲覧許可も欲しい所ですね」


「王室書庫が本命だな。ジーク殿下、御願い出来ますか」


「わかったよ。あ、二人はもう少し僕から離れてくれないか」


「「ええ…」」


 殿下も俺から離れてください。手を握ろうとするのも止めていただきたい。


『ハァハァ…なんかマスターとジークがイチャイチャしてるの見てると…鼓動が速くなるわ。なんでやろ、これが恋?恋なんやろか』


 それは断じて恋じゃない。あと、勝手に俺の心臓の鼓動を速めるな、ドキドキするな。


 何回目だ、これ。


「しかし…ハァァ。やっとジュンの根回しのアレコレが終わって後は叙爵の儀を残すだけだと思っていたんだが…」


「また新たな問題が出て来ましたね。聖女に勇者ですか…やれやれ…」


「……理由は話せないけど、勇者の件に関してはまだ余裕があると思う。だから聖女の情報を集めると同時に勇者の情報も御願いね」


「「ハァ…」」


 侯爵になる事が決まって女王陛下と謁見、ジーク殿下と友達になって、ベルナデッタ殿下を紹介されて最後に聖女と勇者と来たもんな。


 溜息も出るってもんよね…ハァ…

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