第112話 拗らせてました

「ちょ、ちょちょ、何言ってるのジーク」


「ジーク殿下!彼は美しくはありますが男ですよ!」


「そんな事はわかっているよ!だけどそんな事は些細な事だと断じれるほどに彼は美しい!僕が出会った誰よりも!ならばもう彼と結婚で良くないかな!」


 いや、その理論はおかしい。てか殿下が欲しかったのは男友達なんでしょ、彼氏じゃないんでしょ。


 それで何故、結婚となる。俺とアイの婚約の話は聞いている筈だし、おかしくないかい。


「大体女なんてロクなもんじゃないよ!隙あらば押し倒そう、唇を奪おう、既成事実を作ろう、そんな奴ばっかり!僕が寝てようがトイレに入ってようが入浴中だろうがお構いなし!挙句の果てには皇帝に狙われるし!皇帝からの贈り物が媚薬入り焼き菓子ってなんだよ!歳考えろよ!お前はババアで僕は七歳の子供だぞ!戦争まで起こしやがって!僕がどんだけ肩身の狭い思いしたと思ってんだ!大体だな――」


 お、おう…普段から抑圧されてるのか女性への不満を語り始めたと思ったらヒートアップしてきたぞ。


 かなり女性に対して不満が溜まっていたらしい。


「(てか、皇帝からの贈り物の焼き菓子に媚薬?確かツヴァイドルフ帝国との戦争の理由はジーク殿下を皇太子の夫に望んだのを断ったからでは?ジーク殿下を望んだのは皇帝自身なんですか?)」


「(ああ…そうか、ジュンは知らない…いや、知ってる筈がないな)」


「(皇帝は皇太子の夫として迎える体でジーク殿下を自分の物にするつもりだったのよ。そうでないと周りが納得しないから。何せ皇帝は当時四十代。皇太子は二十歳だったから、どっちにしてもアウトだったのだけどね)」


 更に詳しく聞くと。皇帝が王国に訪れた際、ジーク殿下に挨拶されて以来御執心。頻繁に贈り物をするようになり、再会した時に媚薬入りの焼き菓子を食べさせる事件が発生。女王陛下が激怒し、帝国との仲が一気に険悪になり、戦争にまで発展したという。


 …この世界、まともな女性っていないのだろうか。かと言ってまともな男も少ないのがなんともアレなのだが。


 それにそんなおバカな理由で戦争になったとか…前代未聞過ぎない?


 ツヴァイドルフ帝国の歴史書に愚帝として名を残している事だろうな。俺なら残すよ絶対に。


「――という訳で!女は信用しちゃいけない!君だって苦労して来た筈だ!僕の気持ちはわかるだろう!」


「…理解は出来ますけども。だからって男がいいとはなりませんよ」


「何故だ!何も問題無い筈だろう?!男同士でも子供は作れるんだしさ!」


「「「What’s?」」」


 今、男同士でも子供が作れると言ったのか?いやいや…いくら異世界だからってそんな馬鹿な。


 エロース教で性教育はしっかり普及されてるし…って、もしかして、もしかする?


「あの、殿下はもしかしてエロース教での性教…あ~…教えを受けた事はないのですか?」


「ある訳がないよ!エロース教の教会なんかに行ったら最後!僕は干からびるまで絞りつくされるに決まってる!母上も父上もそう言ってたし間違いない!」


 ああ…うん、やっぱりね。教育係はいてもその辺りの教育はされてないらしい。いや、それでも男同士で子供が出来るなんて思うだろうか。


「あの…ジーク殿下。男性同士で…その、愛し合っても子供が出来る事はありません」


「アハハ!まさか知らないのかい、レーンベルク団長。イザベラ達も言ってたし、間違いないよ」


「イザベラ?」


「レッドフィールド公爵の娘だ。三つ子のな」


 ほう、三つ子。そしてその三つ子が殿下の教育係なのね。そして殿下に正しい性教育をするのは羞恥心が邪魔をして出来なかった、と。


「それにアイの漫画でも男同士の絡みがあって最後は子供を抱いていたしな。という事はアイでも知ってる事なんだよ?どうしてレーンベルク団長が知らないんだい?」


「……あ」


 お前か!お前が犯人か!お前がジーク殿下に間違った知識を植え付けた主犯か!


「(てか見せた漫画ってジーク殿下がモデルのやつだろ!本人に見せるとか何考えてんの!?結果とんでもない事になっちゃってるじゃんか!性癖歪んじゃってるじゃんか!)」


「(ご、ごご、ごめんなさい!でも喜んでくれたし、褒めてくれたし!ウチだってまさかこんな事になるとは夢にも思わずで!)」


 そりゃそうだろうけども!何も男にそんなもん見せんでも!布教活動も大概にせぇよ!


 有害図書指定にするよう訴え出すぞ!これ以上犠牲者を出さない為にも!


『えええ!それは困るわ!わて、まだ読んでないねんで!せめてわてが手に入れてからにしてぇや!』


 だまらっしゃい!それは絶対に阻止するからな!俺の尻の為にも!


「と、兎に角ですね、ジーク殿下。俺…いえ、私は普通に女性が好きなので、男同士で結婚するつもりは無く…今日はジーク殿下と友人になれたらと思い、御時間を頂いたわけで」


「むっ…そうか。少々事を急ぎ過ぎたようだね。失礼した」


「いえ、わかって……あれ?わかっていただけてます?」


「勿論だよ。先ずは友達から始めようという事だねっ!勿論OKさ!」


「うん、わかってませんね」


 そんな良い顔でサムズアップされましても。てか、徐々に距離を詰めて来るのやめてください。


「…んんっ。ね、ウチが言った通りジークは可哀想な事になってるでしょ?…想像以上に」


 最後の言葉に万感の思いが込められてる気がするな。


 女性嫌悪…までは行ってないか。女性不信を拗らせて男色に走っ……完走はしていないと信じたい。信じたいが警戒は必要だろう。ターゲットにされては堪らないし。


「よし、じゃあ一緒に御風呂に入ろうじゃないか。友人同士の裸の突き合いというやつだよ」


「なんかニュアンス間違ってません?」


 裸の付き合いだよね?裸で突き合うじゃないよね?あ、それ以上近づかないでくれます?


「これもダメか…アイ以外にも婚約予定の女が居ると聞いていたのに、意外とガードが堅いのだね」


「御願いしますから殿下、その先にある扉は開かないでくださいね」


 マジ勘弁して。そこで停まってください。それ以上進んではいけない。


「もっと他にあるでしょう。友人とする、友人らしい事」


「他に?ふむ…なら僕の悩みを聞いてくれないかな。友達なら悩みを聞いてくれるし、悩みの解消に協力してくれるよね?」


「……取り合えず、お聞きしますが内容によっては協力出来ませんからね」


「うん、勿論君が何でも解決出来るなんて思ってないよ。悩みというのは妹のベルナデッタの事でね」


「ベルナデッタ殿下の?」


「うん。既にアイから聞いているかもしれないけど、ベルは…ベルナデッタは…えっと、病気でね。治療に協力して欲しいんだ」


 病気?ジーク殿下じゃなくて?

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