第111話 王子もでした
「聞いてなかったけど、ジーク殿下ってどんな人?」
「えっとね…ちょっと可哀想な事になってるけと…悪人じゃあないよ」
現在、女王陛下との非公式の会談の後で、ジーク殿下と会う為に城内を移動中だ。
途中、すれ違う人達に視線を送られ、それを見てドヤ顔するソフィアさんとアニエスさんを見て、嫉妬する女性達。
だが、誰も俺に話しかけたりはしなかった。
第一王女のアイが先導、重鎮の伯爵二人が左右を固めているとなれば、話しかけるなんて恐れ多い、となるようだ。
確かに、この面子を相手に引く事なく話しかける事が出来るのは最低でも侯爵くらいじゃないと。
そう。例えば――
「これはこれは。昨日に続き今日も会えるとは。幸運だな」
眼の前にいるレッドフィールド公爵とか、な。
「レッドフィールド公爵。アイシャ殿下の行手を遮るなど、不敬ではありませんか」
「これは失礼しました、アイシャ殿下。しかし、殿下が部屋から出ておられるとは珍しいですな」
「まぁね。そっちから来たって事はジークに会ってたの?」
「ええ。明日には領地に帰りますので、御挨拶を。それよりもアイシャ殿下。ジーク殿下を呼び捨てになさるのはお止めください。兄上か御兄様とお呼びいただきたく」
「やぁよ。ママもジークも構わないって言ってるんだから。放っといてよ」
「やれやれ…それで、殿下達はどちらへ?もしかしてジーク殿下に彼を紹介なさるおつもりで?」
「そうよ。いけない?」
「まさか。ジーク殿下は男友達を欲しておられるのは私達も知る所。ノワール侯爵となる彼ならば何も問題無い…とはならんでしょうが、私は反対しませんよ」
ん?俺とジーク殿下が友達になると何か問題があるのか?
「そ。なら、もういい?早くジークに会わせてあげたいんだけど」
「これは気が利かず、申し訳ありません。これにて失礼します。ではな、ジュン殿。次に会う時はゆっくり話したいものだ。ローエングリーン伯爵、レーンベルク伯爵、また会おう」
公爵はそう言うと護衛の騎士を連れて去って行った。
昨日の口振りからして、もう少し粘るかと思ったが存外アッサリと引いたな。
アイと一緒だからかな。それとも周りの野次馬を気にしたか。
「全く…あの方は…」
「完全にジュンを狙ってるな。相変わらず強欲な方だ」
「強欲?そう言えばレッドフィールド公爵ってどんな人なんです?」
「ん…そうだな…あの方は―――」
王城には五大騎士団と呼ばれる騎士団があり、その中に王国最強と呼ばれる白薔薇騎士団がある。
その白薔薇騎士団に次ぐ強さがあると言われているのが赤薔薇騎士団。
その赤薔薇騎士団の先々代団長がアン・ルー・レッドフィールド公爵だと言う。
能力の高さは本物で、公爵位を継ぐと同時に団長の座を譲り、公爵領に戻ったがその影響力は健在で慕う者も多い。
女王陛下からの信頼も厚く、王都に来た時限定だがジーク殿下に政治、軍事、統治に関する教師役を任されているそうだ。
此処まで聞くと、実直な軍人気質の良い領主のようにも聞こえる。
だがその反面、強欲な一面も確かにあるそうだ。
「先の帝国との戦争での戦功褒賞では娘をジーク殿下の婚約者候補にして欲しいと願い、認められた」
「…婚約者候補、ですか?婚約者、ではなく?」
「戦争の発端はジーク殿下を皇太子の夫に寄越せ、なのよ?なのにいくら戦功を挙げたからって自分の娘と婚約させろ、なんて言っても通らないわよ」
「だがレッドフィールド公爵は通した。婚約者候補という形で一歩下がって申し出たように見せてな。候補と言っても、もはや決まったようなものだと、誰もが思っているよ」
何故、ジーク殿下と娘の婚約を望むのかと言うと。王家もレッドフィールド家も長年男児に恵まれなかった。
大昔にレッドフィールド家に王家の娘が降嫁して嫁いで来たのを最後に、レッドフィールド家に王家の血が入っていないそうだ。
それは他家にも言える事だがレッドフィールド家は特に拘っていたのだとか。
「それから…今は王家の預りになってる例の廃鉱山。あそこの管理をレッドフィールド家に任せて欲しいと陛下に具申していたわ。流石に却下されていたけれど」
「廃鉱山はレッドフィールド公爵領から遠いからな。公爵としては多少無理してでも欲しかっただろうが…」
安定してミスリルが得られる鉱山なんて、誰もが欲しがるだろうしな。
てか、今は王家預りになってたのか。知らなかった。
「ジーク殿下の教師役を任されているのを良い事に、自分が王都にいない間は娘にやらせているしで、慕っている者は多いが嫌ってる者も多い」
ふぅん…あれ?じゃあなんで俺に拘る?ジーク殿下と娘を婚約させるつもりなら、俺に拘る理由がわからん。
『そら単純に娘が一人やのうて二人以上おるんやろ。マスターはノワール侯爵になるんやし、可能なら取り込みたいと思ったんとちゃうか』
ああ、なるほど。だから俺とジーク殿下が友達になる事に賛成なわけね。
多分、女王陛下がジーク殿下に王位を継がせたいと考えてる事も知っているんだろうな。
それじゃ俺とジーク殿下が友達になる事て出て来る問題って?
『そりゃマスターに御近付きになりたいって連中が益々増えるって事やろ。マスターと親しくなればジーク殿下とも親しくなれるって考えるんは自然な流れとちゃうか』
あぁ…確かに。そこら辺の対策はあるのかとアニエスさんとソフィアさんに聞いてみたが、返事をしたのはアイだった。
「ジークと友達になればジークがママに言って牽制してくれるから平気よ。ウチも居るしね」
なるほどね。ジーク殿下と友達になればアインハルト王国最高権力者が味方になる、と。
そうなれば確かに大手を振って歩けるな。男として。
「それでも言い寄って来るのは余程のバカか超大物のどちからよね。さ、着いたわ」
話しながら歩いていると目的地に着いていたらしい。
ジーク殿下の部屋は王城の最上階。当然、警備が厳しいのだが、その厳しさはジーク殿下を捕える檻にも見えるのは気の所為だろうか。
「ジークと約束してるのは聞いているでしょ。ママの許可もある。通して」
「少々お待ち下さい……どうぞ」
部屋の前で警備をしてる騎士の一人が中に入り、許可を得て出て来る。
中に入れば先ず目に入るのはジーク殿下…ではなく大きな犬。いや…狼か?
その狼を優しく撫でている金髪の少年がジーク殿下。
端正な顔立ち、スラっとした手足。涼し気な目。
確かにジーク殿下は美少年だ。まさしくThe王子という感じの。
後はメイドさんが二人居る。このメイドさんも護衛を兼ねているのだろう。それなりに強そうだ。
「来たよ、ジーク」
「よく来たね、アイ。今日はとても楽しみにしていたんだ。早速紹介してくれないかい?」
と、アイと会話するジーク殿下だが眼はずっと俺に向けている。
そして、なんだろう…その眼は。此処に来るまでにも散々見て来た眼にソックリなんですが。
「うん。ローエングリーン伯爵とレーンベルク伯爵は知ってるよね。で、彼がウチの婚約者でノワール侯爵家を再興するジュン。ジークと同い年だってさ」
「そうか、ジュンと言うのか。僕はジーク。ジーク・エルム・アインハルト。アイの兄だよ。よろしくね」
「はい、殿下。よろしくお願いいたし…殿下?近いです、殿下?」
自己紹介をしながら近付いて来る殿下は止まらない。
俺と殿下の距離はもう手を伸ばせば届く距離だ。
メイドさんが警戒を強めてるのがわかる。
「あの…」
「……結婚しよう」
「なんて?」
「ジーク?!」
「「「「ジーク殿下?!」」」」
前にも見た事があるパターンだと思ったら!
ジーク、お前もか!
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