第110話 アッサリしてました

『――てな感じやな』


「……へ~」


 服を仕立てに行って帰ってくれば屋敷が荒らされていた。


 何があったのかをメーティスに聞けば…大体は予想通りだ。


 アム達が言ってた内容と合致するし、どちらも本当の事を言っているのだろう。


 何やってんだか…と言うのが俺の正直な感想だ。だって散髪で出た髪の毛だぞ?普通捨てるだけじゃん。


 それを皆して奪い合って屋敷を壊すとか…メーティスが参戦しなきゃそこまでやらなかったっぽいけど。


『でもやで。わいが参戦せんかったらピオラがマスターの髪の毛をゲットしてたんやで?それで人形作るとか…マスターかて嫌やない?』


 …それには同意する。


 屋敷に帰った時、ピオラも居たが…俺が話しかけるまでずっと、沈んだ眼でブツブツ言ってたらしい。


 俺を見つけたピオラは奪われた髪の毛で何を作るつもりだったのか熱弁。


 俺の髪の毛を使って人形を作るつもりだったとか…なにそれ、呪いの人形?


 つい最近呪いで痛い眼見てるので、もうお腹一杯なんですけども。


「だからね、ジュン。古くなった肌着とかあれば頂戴。仕方ないからそれで代用するから。お姉ちゃんの御願い!」


 とか言ってたけど、断固拒否させてもらった。


 それにしてもアム達だけでなく、クライネさん達も争奪戦に参加していたのにピオラが勝利する寸前だったとは…いくら本気で戦っていないとはいえ異常だろ。


 メーティスには勝てなかったが、それでもかなり粘ったらしいし。


 本当にピオラのあの能力は何なんだ。未だに謎のままだわ。


『それでやな。マスターの髪の毛が手に入った事で、わいのマテリアルボディが完成に近づいたで!近々お披露目出来るから、楽しみにしててぇや。超マスター好みのボディに仕上がってるはずやからな!』


 ああ、そう…まぁ、メーティスなら俺の好みとか把握してるだろうからな。


 一からボディを作れるなら、俺好みに作る事も可能だろうな。


 ……でも期待はしないでおこう。


『なんでやねん!超期待せぇや!……まぁええ。わいには絶対の自信があるからな。その時が来たら必ずわいに惚れる事請け合いや』


 はいはい。明日は女王陛下に会うし、そろそろ寝るぞ。


『ふーんだ!絶対に惚れるんやからな!おやすみ!』


 翌朝。アニエスさんとソフィアさんに連れられ登城する。


 今回は変装せずにスーツを着ているのだが…周りからの視線の集りが凄い。


 王城には色んな人…文官、武官として働く貴族。城内警備をする騎士や兵士。使用人として働く執事やメイド。


 そういう人達が女王陛下の下まで向かうまでにすれ違うのだが…皆が皆、足を止めて俺を見つめて来る。


 案内役として先導してる人もチラチラと振り返って来るし…ちゃんと前見て歩かないと危ない…って、言わんこっちゃない!


「きゃっ……あ、ありがとうございます」


「いいえ。ちゃんと前見た方がいいですよ」


「「「オオッ…」」」


 躓いて転びそうになったのを腕と掴んで助けただけなのだが。周りで見てた人から溢れるのは感嘆の声。


 中には涙を流してる人もいれば「尊い…尊い…」と呟いてる人もいる。


 そして、そんな視線が集まる中、俺と腕を組んでドヤ顔するアニエスさんとソフィアさん。


 あ、そんなに胸を押し付けないでくれます?あと、ドヤ顔もそろそろ止めた方がいいですよ。


 ほら、あの人なんて羨ましい妬ましいって眼で訴えてますよ。憎しみで人が殺せるなら殺してやるって眼をしてますよ。


「ああ~気分いい!気分いいな!」


「ええ、本当に。あ、アイツ、私に嫌味言ってたやつですよ。『いくら強くて英雄と呼ばれようと結婚は出来ないんですね、プッ』とか言ってたんですけど……プー!クスクス!あの悔しそうな顔!大体お前も結婚してないだろって話だってーの!」


 …ちょっとキャラ変わってません?ソフィアさん。


 昨日の服飾店の時といい、そんなにドヤりたいですか?


「やっほ。来たわねって、何、そのドヤ顔」


「あ、殿下先生」


「わざわざ殿下先生…いえ、殿下自らお迎えに?」


「うん。此処からはウチが案内するから、貴女は下がっていいよ」


「え……は、はい、それでは……うぅ…」


 アイに案内役を代われと言われて、無茶苦茶残念そうに案内役の人は下がっていった。


 なんか物理的に後ろ髪が引かれてるようにすら見えたし、今もずっと俺達の背中を見送ってるけど、途中で案内が終わっただけで、そんな残念そうな顔せんでも。


「それで、そのドヤ顔は何…って、ああ、もういいわ。わかったから」


「うふふ…気分いいですよ」


「次はウチに譲ってね。着いたわ、此処よ。入るわよ、ママ」


 アイに案内された場所は謁見の間ではなく陛下の執務室。


 中には陛下以外の人物は居らず、陛下は机で書類仕事をしていた。


「…ん。来たか。少し待て」


 入室した俺達に一瞥をくれる事も無く、仕事を続ける陛下。


 入室したまま五分。区切りのいいとこまで進められたのか、そこで筆を止めた陛下がこちらを向いた。


「待たせたな。ローエングリーン伯爵、レーンベルク団長。で、その男が例の…ほぉう。おっと、すまんな、立たせたままで。座ってくれ」


「「ハッ」」


 女王陛下を見たのは遠目で見ただけだから、こんな近距離で見るのは初めて。


 御多分に漏れず、やはり陛下も美人だ。年齢は確か三十代半ばだったか。


 見た目は二十代の金髪ショート、ツリ目の美人さん。


「で、お前がジュンか」


「はい。女王陛下には初めて御目にかかります。ジュンといいます」


「ふうん…二人が言うように中々男前じゃないか。ま、我のジークほどじゃないがな」


「「……」」


 俺よりジーク殿下の方が上だという言葉に不満なのを顔には出さないが雰囲気には出してる二人。


 が、相手は女王陛下なので、それ以上は何もない。どうかそのままで抑えててくださいね。


「で、確認するが、誘拐事件を解決した事でお前をノワール侯爵とし、アイ…アイシャとの婚約を発表する。同時にアイシャは王位継承権を放棄する。それでいいんだな?」


「はい。俺…、いえ私はそれで問題ありません」


「ウチもそれで問題無いよ、ママ」


「私共もそれで構いません」


「うむ。しかし、本当にお前は出自のわからない孤児なのか?その黒髪…本当にノワール侯爵家の血筋と言われても信じてしまいそうだぞ」


「偶然にしてはよく出来てると、私も思います。ですが…」


「我がローエングリーン家も過去にジュンの出自について調べています。ですが何もわかりませんでした。ジュンが黒髪だったのは幸運だったとしか言えません」


 ノワール侯爵家の直系は黒髪だったか。王国に他には黒髪が居ないわけじゃないけど珍しい色だからな。多少は信憑性を持たせられるってわけね。


「女として育てられたからか礼儀も知ってるようだし、鍛えられてもいる。侯爵にしても問題はなかろう。お前達が支えるなら、尚の事な。少し頭が回る奴ならノワール侯爵の血筋だっていうのは嘘だと見破るだろうが、上手くやれよ」


「承知しております」


「うむ。では正式に叙爵の儀を行うのは来週だ。ジュン、その時までに自分のミドルネームを考えておけ。では、話はこれで終わりだ。退室せよ」


「「ハッ」」


 と、もっと何かあるかと思っていたが、アッサリと陛下との面会は終った。


 色々とあれやこれやと聞かれるかと思っていたのだが。


「陛下はお忙しい方だからな。合理的で無意味な会話は好まない方だし」


「でも陛下は言った事はやる方。約束は必ず守ってくれるわ。ジュン君がノワール侯爵になるのは確定よ」


 そうなるのか…なんかアッサリしすぎてて実感がわかないな。叙爵の儀とやらでわくだろうか。


 それじゃ、面倒臭い人に絡まれても嫌だし、サッサと帰ろうか。


「ちょい待ち。このままジークの部屋に行くよ。言ったでしょ?ジークの友達になってって」


 ああ、そっか。そっちもあったか…

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