第109話 相談されました

~~アイ~~


「それで、話って何?」


「………」


 ジュンが散髪の後、ローエングリーン伯爵らと出掛けたのを見届けて、さぁ帰ろうって時に女の子に話があると言われてジュンの屋敷に戻った。


 この子の名前は確か…ユウね。ジュンと同じ孤児院で育ったジュンの妹のような存在だって聞いてる。


 そのユウがウチに何の話があるのかしらね。


「先ずは私の御願いを聞いて頂き、ありがとうございます」


「それは気にしなくていいわ。あと歳も近そうだし、言葉使いも気にしなくていいから。それで?」


「…殿下は転生者ですよね」


「!……へぇ」


 ウチを転生者だって言えるって事は、やっぱりこの子も転生者、か。


 ふぅん…ウチは前世と殆ど変わらない容姿で転生したけど、この子もそうなのかな。


 可愛い子ね…お人形さんみたい。


「どうなんですか」


「ええ、そうよ。ウチは転生者。飛行機事故で死んで、女神フレイヤ様に転生してもらった元日本人。あなたは?」


「私も同じです。でも私は女神様に転生してもらってないですし、記憶も不完全です」


「不完全?どういう事?」


 詳しく聞くと、ユウは前世での記憶は知識なんか残ってるけど、自分に関する事は殆ど覚えていないのだとか。


「それと…………前世では私、男でした」


 …………ホ~ホケキョ


「………て、イヤイヤ!なんて!?今、何て言ったの?お、男?男だって言ったの?生えてるの!?」


「……今は生えてません。あくまで前世が男だっただけです。性同一性障害だったみたいです」


 性同一性障害?身体は男だけど心は女だったって事ね…な、なるほどね…ハァ~ビックリしたぁ。


 それにしても……この子も前世と殆ど同じ容姿なのかな。だとしたら、この見た目で生えてたって事になるけど…ヤバ、新しいネタが浮かんで来たぁ!早く、早く描きたい!


「…やっぱり驚きますよね。お兄ちゃんも同じように驚いてました。それで、その事で相談があるんですけど…殿下?聞いてます?」


「この場合、ジュンが受け…いえ、攻めね。恥じらうユウを強引に……ハッ!う、うん、聞いてるよ、聞いてる、うん」


「…お兄ちゃんも私が前世で男だったと聞いて、驚いていました。その事で相談があるんです」


 ああ…そりゃそうよね。妹だと思ってる子が前世で男だったって聞いたら驚くよね、うん。


 会って間もないウチですら驚くもん…長年一緒に暮らしてたジュンの衝撃は…きっと想像以上ね。


「それで、相談って?ジュンが驚くのは無理もないし、誰だって驚くと思うわよ」


「それはわかってます。お兄ちゃんは前世が男だったからって私を嫌いになったりしないって言ってくれました。でも…やっぱり何か引っ掛かるみたいで。このままじゃ私と結婚してくれないんじゃないかって不安で」


「ああ…うん、なるほどね」


 わかる、わかるわぁ。そりゃね、妹として接するだけなら兎も角、結婚するとなると引っ掛かってくるよね、うん。


 本来なら前世で男だったとか女だったとか、現実感が無くてどうでもいい話なんだけど、ウチらみたいに前世の記憶がバッチリ残ってる場合は別。現実感…すっごくリアリティで溢れてるもん。


 嫌いになる事は無いけど、何かが喉に引っ掛かってるかのような感覚になってるんだろうな、きっと。


 それを飲み込むには…時間がかかりそ。


「で、それが相談事?」


「…はい。私、どうしたらいいんでしょうか。このままじゃ私だけお兄ちゃんと…結婚出来ない…か、も…し、しれない…」


「うっ…」


 泣く程不安かぁ…ジュンが引っ掛かってるのを敏感に感じ取った、というのも理由だけどユウ自身が引け目に感じてるんでしょうね。


 でも前世で男だったなんて理解してくれる人、そうそう居る筈ないし。


 ジュン本人に相談なんて出来る筈もないし、必然的にウチに相談するしかなくなるわけね。


 で、相談内容が…


「ジュンと結婚するにはどうしたらいいか、ね。でもジュンが冒険者として活動出来るように支援する、その見返りとしてジュンと結婚出来るのがジュンを護る会なんでしょ?ユウも入ってるなら、大丈夫なんじゃないの?」


「…正確には結婚を前向きに検討する、です。つまり本当に結婚するかはお兄ちゃんの意思次第。他の人はすっかり結婚出来る気でいるけど…弱味につけこむようなものだし、私だけ省かれるなんて事も…十分考えられるし…」


 うう~ん…ウチはまだジュンと出会ってまだ日が浅いけど…他の人と結婚したらユウだけ省くなんてしないと思うけどなぁ。


「そんな事ないと思うけど……って、なんか騒がしいわね」


「…ああ、多分お兄ちゃんの髪の毛を巡って争ってるんだと思います」


「髪の毛って…散髪で切った髪を?」


「はい。多分、ピオラ先生が奪取して逃げ回ってるんじゃないでしょうか」


 …ピオラ先生って、確かジュンの姉みたいな人で、同じ孤児院で育った人よね。


 ジュンの髪の毛で何するんだろ…まぁ、それはいいとして。


「兎に角、ジュンと結婚するにはどうしたらいいのかって話よね。うう~ん…ユウって今幾つ?」


「十一歳です。今年十二になります」


「ふむ…初潮は終った?」


「…………はい?」


「初潮よ、初潮。終わったの?」


「……お、終わってますけど…それが何か?」


「よし。じゃ、ジュンに夜這いかけなさい」


「………は!?夜這い!?」


 そう。そして妊娠…しなくても一度でも抱いた女なら責任をとって結婚するのがジュン。


 多分、ジュンならそうする。


「そ、それはそうかもしれませんけど、私はまだ子供だし………け、経験もないし……」


「大丈夫!ウチも無い!前世でも無い!」


「いや殿下の経験の有無は関係ないですよ!それに夜這いなんかしたら逆に嫌われちゃう可能性もあるじゃないですか!」


 嫌われる…かなぁ。怒りはするかもしれないけど結局は赦しちゃう気がする。


「だ、大体経験も無いのに夜這いなんて出来ると思えないし…それにお兄ちゃんは強いから、簡単に追い出されちゃいますよ」


 この子、ジュンが強いって知ってるんだ。ウチも見れば大体の強さはわかるし、ジュンはこの世界では最強の人間でしょうね。


 女神様の使いなんだから当然かもだけど。


「そうね。じゃ、ウチと一緒にヤる?」


「………はひ!?一緒に!?」


「そ。流石に初夜は勘弁して欲しいけど、妻が千人もいたら毎回一人ずつじゃ順番がいつ回って来るかわかんないしね。遅かれ早かれ複数人プレイに発展すると思うよ。その時、ユウもしれっと混ざればいいのよ」


 うん、我ながら完璧。ウチと一緒ならジュンを寝技で封じる事も可能。それなら未経験のユウでも問題なくデキる筈。


「……殿下はそれでいいんですか。本当ならお兄ちゃんを独占したいんじゃ…」


「そりゃしたいけど。ウチはジュンと出会った時にはもう独占不可能な状態だったしね。ううん、この世界に転生した時点で一人の男を独占するのは不可能。それに千人も妻がいる男と結婚するのに一人や二人増えた所でなんとも思わないって」


 まだ誰とも結婚はしてないんだけど。細かい所は置いとくとして。


 元々ユウは同じ妻仲間になると思ってたんだし、問題無い無い。


「ま、ウチもユウも成人するまでは結婚出来ないと思うし。それまでにジュンと結婚の約束が出来ないようなら、夜這いすればいいんじゃない?…最終手段があるってだけでも気は楽になるでしょ?」


「そう…ですね。ありがとうございます、殿下」


「アイでいいよ。親しい人は皆そう呼ぶの、前世からね。プライベートな時はタメ口でオッケーだし」


「……わかった。ありがとう、アイ」


 うんうん。ウチも歳の近い友達が出来て嬉しい。貴族の子はウチとはどうも一線引いて接してくるし、話が合わないからやりにくいのよね。


 ウチに貴族のアレコレとか話されても困るっちゅーの。


「…そうだ。アイは女神フレイヤ様に転生してもらったって言ってたけど、何か使命とかあるの?」


「うん。ウチの使命は女神エロース様に遣わされたこの世界の救世主を護る事。つまりジュンの事ね!」


「…それにしては出会うのが遅くない?それに護るって…何から?」


 だってしょうがないじゃない。


 女神フレイヤ様と女神エロース様は仲が悪いらしくて、ジュンの情報とか殆どもらえなかったし。


 じゃあ、何で手を貸すんだって聞けば嫌がらせをしようとしてる女神にフレイヤ様が口を滑らせた事が切っ掛けで動きだしたらしいし。


 だからエロース様からジュンの情報は貰えなかったからウチが自力で探す羽目になったってわけ。


 結局、向こうから来てくれたんだけど…ウチだって探してはいたのよ?クオンとか使って。


「…で、何からお兄ちゃんを護るって言うの?」


「あ、それも調べてはいるんだけどね。一向に情報が入らなくて」


 これでも一国の王女だから、それなりに情報を集められる立場なんだけど全然集まって来ないのよね。


「ユウはさ……勇者の噂とか聞いた事ない?」

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