第105話 女のフリをやめる事にしました

 フランのお父さん…愚父を助けた一件から一週間が過ぎた。


 あの後、ステラさんが兵士と移送用の馬車を連れて来るまで数時間。


 山を下山する間も殆どの男達は不満たらたらで。数分で疲れただの歩きたくないだの、俺達を背負って歩けだの言いたい放題だった。


 しまいにはその場でしゃがんで動こうとしなかったのでゴーレムを人数分出して運ばせた。


「ヒィィィ!高い高い!」


「おいい!もっとゆっくり歩かせろ!揺れて気持ち悪い!」


「さ、最悪の乗り心地だ…馬車よりも気持ち悪いとか…」


 それでも文句タラタラだったが無視して下山し、待たせてた馬車に放り込んだ。


 その後に男達を元居た場所に送り返すのは兵士達にお任せした。


 捕まってた男の中にはイーナの友人の旦那…男爵家の男も居たそうで。


 御礼もしたいので子供が生まれたら会いに来て欲しいとイーナに連絡が来たそうだ。イーナに一緒に来て欲しいと言われているが…行ったら旦那にも会いそうだし、丁重にお断りさせてもらった。


 父親に拒絶されてしまったフランだが、落ち込んでいる様子は見えない。少なくとも表面上は。


 なんでも父親に受け入れられない事は覚悟してたらしく、その場合のプランも考えていたのだとか。


 そのプランというのが自分で子供を産むというのだから笑えない。だってターゲットは俺なんだもの。


 そりゃフランの望みは家族が欲しい、なんだから残された手段はそれしかないってのはわかるが…ターゲットが俺なのはいただけない。


 とりあえず元気だからいいかと華麗にスルーしてるが…毎朝起こす時にベッドに入って来るのは勘弁願いたい。


 以上がフランのお父さん探しの結末。戻って来てからは冒険者業をしながらも平和に過ごして居たのだが…朝食時、屋敷にアニエスさんとソフィアさん達が来た。


 どうやら明日、城に行かねばならないらしい。


「ジュン君のノワール侯爵の叙爵が決まったのよ」


「ついては、陛下が一度お前に会いたいそうだ。正式な叙爵はまた後日になるがな」


 との事だった。


 男達を救出した事が功績として認められたらしいが…ぶっちゃけそこまで大した事してないんだがなぁ。


「とんでもないわ。あの一件はかなりの大事なのよ?」


「何せ裏にドライデンが居たわけだからな。捕まえた奴らから辿ってもドライデンの上層部には責任を問えないが、国家の陰謀を未然に防げた功績は大きい。ブルーリンク辺境伯なんかは凄く感謝していたぞ」


「ドライデン関係はあの方の管轄ですからね」


 そのブルーリンク辺境伯からも俺をノワール侯爵にする事に同意すると書いた女王陛下宛の書状を秘密裏に受け取り、直接手渡ししたそうだ。


 しかし、ドライデンは何故こうも王国で暗躍しているのか?


「あの国は今、深刻な男不足だからな」


「その点、アインハルト王国は近隣諸国の中では比較的マシだから。それで眼を着けたのでしょうね」


「いくら商人の国でも男という商品を用意するのは並大抵ではないという事だ」


 ならエロース教を頼ればいいのに、と思うがそうはいかないらしい。


 なんでもドライデン連合商国とエロース教は過去に派手に揉めた事があるらしく、ドライデンからエロース教の完全撤退寸前まで行ったらしい。


 エロース教を敵に回せば国民からも他国からも見放されかねない。それを恐れてエロース教に迂闊に頼る事が出来ないし、エロース教もドライデンを積極的に支援するつもりもないのだとか。


 だから他国から男を奪うなんて計画を立てた。廃鉱山で魔草の栽培をしていたのも子作りの為の媚薬作成に使うつもりだったのだろうと予想されている。


「今後も何かしてくるかもしれないわね」


「流石に暫くは大人しくしてるだろうがな、ブルーリンク辺境伯の眼が暫くは厳しくなるし」


「相当怒ってましたからね」


 捕まえた賊の身柄はブルーリンク辺境伯に引き渡したらしい。賊が連れていた奴隷は違法奴隷だったらしく、事情聴取の後、解放されたそうだ。


「話が逸れたな。兎に角、明日城に行くから。服装はこないだのスーツでいい」


「ちゃんとした貴族服は叙爵の日までに間に合わせればいいわ。あとは……ジュン君、髪を切る気はある?」


「へ?髪ですか?」


「ジュン君自身が侯爵になれば、もう女のフリをする必要は無くなるわ。殿下先生…アイシャ殿下の御蔭で女王陛下の直臣にもなれる。…アイシャ殿下と婚約する事が条件だけれど」


「だが女王陛下に拝謁賜るのに男が女のフリをしたまま、というのもいただけない。正式な叙爵の日まではカツラなんかで誤魔化す必要があるが…どうする?」


「いまの髪型が気に入ってるなら無理にとは言わない――」


「切ります!」


「あ…そう?」


 いやだって大変なんだもん、この長い髪!食事と風呂の度に纏めないと邪魔で仕方ないし、洗うのも乾かすのも時間かかるしさぁ!


 自分も長髪してようやく女性の大変さを知れたよマジで!


「えー…ジュン、髪型変えんのかぁ?」


「ずっとその髪型だったのに……綺麗な髪だし、切っちゃうの勿体ないよぉ」


「美髪。勿体ない」


 美髪ってなんじゃい…切るったら切るの!


『なぁなぁマスター。切った髪の毛はわてがもらってええ?』


 ……そんなもんで何する気だ。カツラでも作る気か?


『まさかぁ。ほら、例のわて専用マテリアルボディに使お思って。マスターの髪を使うて今のマスターの髪型をわてがするんや。素敵やと思わへん?心臓がトゥンクってなるやろ?』


 ………………………何とも言えない気分になるだけだな。


 どちらかと言えば…気持ち悪い?


『なんでやねん!心臓だけやのうて髪の毛も同化したようなもんやん!』


 ああ…そういう考え方もあるか。わかったよ、好きにしろよ。


『よっしゃ!これで完成に一歩近づいたわ!髪型が悩みの一つやってんなぁ』


 メーティスは俺の心臓……心臓が髪の毛を欲しがるって、心臓に毛が生えてきそうで嫌だな。


「それじゃ午後からローエングリーン家お抱えの理髪師を連れて来る。どんな髪型にするか考えておけよ」

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