第104話 タフでした

「それじゃ、私はこいつらを連行する為の兵を回してもらうよう、要請してくる」


「頼んだわよ、ステラ」


 此処で捕縛した賊の数は三十五人。


 捕らわれた男達も居るため、俺達だけで移送は難しい。


 そこで兵士を回してもらうよう、要請をする必要があるわけだ。


 いつもなら白薔薇騎士団かローエングリーン伯爵家の私兵に協力して貰うのだが、今回は俺の手柄にする必要がある為に、手を借りる事は出来なかった。


 なら兵士を呼んじゃダメじゃんって?


 そこはそれ、ただ移送の為に兵士を呼ぶのと白薔薇騎士団かローエングリーン伯爵家の力を借りた、では与える印象がまるで違うって事だ。


「で、ここからが本題だな」


「だなぁ…まだ目を覚まさねぇのか?」


 フランのお父さん…パンツの紐が切れてる男性は一人。


 最終的に九人になった男達の中でパンツの紐が切れてる人を探すのは容易だった。


 気絶してる内に調べたので面倒な説明も不要だったし明らかに年齢的に違うだろう人物も省けたし。


 アッサリと見つかった男性は三十代後半から四十代前半くらい。カタリナの父親よりは太ってはいないが小太りで、頭髪が寂しい事になってる。


 白髪交じりのバーコードハゲな小太りのおっさん。


 それがフランのお父さん…らしい。


「男性は痛みに弱い方が多いですから。恐らくは今までの人生で感じた事の無い痛みでしたでしょうし」


「蝶よ花よと大事に大事に育てられたでしょうから、誘拐されて気が気でない精神状態だった筈だし…痛みによる気絶とはいえ、久しぶりの睡眠になるんじゃないかしら」


 因みに。賊の耳…鼓膜は治していないが、男達には回復魔法をかけてあるし全員息があるのを確認済みだ。


 賊は縛った上で一箇所にまとめて監禁してある。


 後は兵士が来るのを待ちつつ、男達が目覚めるのを待つだけなのだが…する事がない。


 大捕物を想定していたのアッサリと片付いてしまったし、何というか、こう…不満が残る。


 それに何か小腹が空いてきた……よし。


 一狩りすっか!


「と、いうわけで。ちょっと離れてもいい?」


「いや、ダメだろ。ジュンの功績にしなきゃなんねぇのに、何言ってんだ」


 Oh…そりゃそうか。男達には俺が主になって救出に来たと説明しなきゃだから、目が覚めた時に居なきゃ拙いか。


「でも、食事は用意しておいた方が良さそうね。兵士が来るまでどれだけ時間がかかるか読めないし…来たとしても街や村に戻るまで何も食べさせないわけにもね」


 と、院長先生の御言葉もあり、狩りに行けるかなと思ったがアム達三人だけが行く事に。


 司祭様は賊の監視をしてるし、この場に残ったのは俺とアイ、院長先生とフランだけになった。


 呪いが発動して全裸になったフランだが、今は俺の服を着てる。


 フランも着換えは用意していたのだが馬車に置いて来た為の一時凌ぎだ。


 その、俺の服を着てるフランだが…今は父親を膝枕している。


 膝に乗せた父親の頭を撫でるフランは、とても十二歳前後の子供とは思えない慈愛に満ちた表情で…って、フランが何歳なのか聞いてないな、そう言えば。


 院長先生は捕らわれた男達の中で最年少…恐らく七歳くらいな子供を膝枕している。院長先生も慈愛に満ちた表情で…表情だけ見れば聖母のように見えるが全身を見るとギャップがエグい。


 普段の院長先生の服装なら問題無いが、今は冒険者スタイル…特に戦斧がイカつ過ぎる。

 

 そしてアイはと言うと…


「…何してんの?」


「暇だからジュンをスケッチング。自分とジュンをモデルにした話を描いてってお願いされちゃってさぁ」


「…勘弁して」


 それってエロ本のネタでしょ?それに自分を使ってくれとか…それ何てプレイ?


 誰がそんなアホなお願いしたんだ。


「ジュンを護る会の主要メンバーのほぼ全員」


「嘘だろ…」


 自虐的過ぎる。黒歴史確定案件だろ…将来自分の子供とかに読まれたりしたらどうすんだ。


「てか、スケッチブックなんて持って来てたのか」


「ウチ、収納スキルっぽい・・の持ってるから」


「…なるほど」


 ぽい、ね。つまり俺と同じで本当の能力は別物だと。


 アイとはもう一度じっくり話す機会が欲しいな。


 アイを転生させた神様…女神フレイヤだっけ?フレイヤ様から聞いた話の内容ももう少し詳しく聞きたいし、アイの能力についても…


「帰ったぞー」


「猪が狩れたよぉ。ついでに焼いて来たよぉ!」


「狩りたて焼きたて」


 アム達が帰って来た。しかも焼きたての串焼きを持って。


 塩のみのシンプルな串焼きだが…暴力的に美味い!


「…スンスン…肉の匂い!」


「きゃっ」


 フランのお父さんが跳ね起きた。俺達が食べる肉を見て叫んだ。


「肉…俺様にも食わせろ!」


 わぁ…初対面の人間にいきなりそれか。


 状況が理解出来ていないのは仕方ないけど、囚われの身だった事も忘れてません?


「早くよこせ!」


「落ち着けよ、おっさん。ちゃんと用意してあるからよ。ほれ」


「はい、どう…わっ」


「ハグハグ!」


 カウラからひったくるように肉を受け取ったフランのお父さんは礼も言わずに肉を頬張り始めた。


 そして同じように匂い釣られたか、他の男達も目を覚まし、同じように肉を要求して来た。


 その態度の偉そうな事…自分達の状況わかってます?


 まともなのは院長先生が膝枕してた七歳の子供だけという…あんたら、子供ですら出来る事が出来てないって自覚してくれません?


「ぷふぅ…おい、次は酒だ!酒を出せ!」


「俺もだ!ワインを寄越せ!」


「グラスも用意しろよ!」


 …殴っていい?ねぇ、殴っていい?


 何なんだ、こいつらのこの態度は…神子マイケルを思い出す…カタリナの父親、ユーグがマシに思えて来るぞ。


『我慢や、我慢。ほら、こいつらに状況を説明せな。それはマスターの仕事やで』


 ええ…説明聞くかな、こいつら…


「…食べながらでいいので聞いてください。俺達は―――」


「やかましい!酒を出せと言ってるのがわからんか!」


「大体いつまで俺達をこんな所に閉じ込めておくつもりだ貴様ら!」


「……俺達は賊ではありません。俺達は―――」


「いいから酒を出さんか!」


「肉以外の食い物もだ!」


「フルーツは無いのか!」


 ピキッ


 あ、何か頭の中から音が聞こえた気がするわ。なんだろう、そろブチッとキレそうな気がするなぁ。


「聞こえんのか!サッサと―――」


 無言で魔法を壁にぶつけて黙らせた。


 ワザと男達の間を通すように放ったので迫力はあったろう?


「そのまま黙って聞け。いいな」


「「「「コクコク」」」」


 威張り散らす癖に脅しには弱いとか…情けな。静かにしてる分には良いし、目論見通りなんだけどさ。


「…俺達は貴方方を救出に来た冒険者です。既に賊は捕らえ、監禁しています。皆さんを安全に帰す為、仲間が兵士を呼びに行ってます。兵士が来るまで…お・と・な・し・く!お待ちください!以上!」


「「「「……」」」」


 あの程度の脅しですっかり大人しくなって…まさかこれが普通なんて言わないよな。


 この世界の男の大半がこんなんだなんて言わないよな。


『…残念ながらマスター…こんな奴らが大量におるんがこの世界の現状やで』


 嘘だろ、マジかよ…いや、あんな男をダメにする生活が一般的なら、その結果生まれるのが…こいつらのようなDQNなのか。


 だとしたなら…神子セブンって、もはや神じゃね?


 エロース教の神子教育機関とやらに全員通わせるべきじゃね?


『まぁ…その方がまともな男は多くなりそうな気はするなぁ、確かに』


 だよなぁ……今からでもこいつらは通わせた方が良いと思う。


 結構本気で。


「あ、あの…」


「……なんだ」


 フランが父親と会話を始めようとしている。


 しかし、あれじゃあな…多分、フランが期待する反応は…


「フラウ、という女性を覚えていますか。戦争で亡くなった、白薔薇騎士団の…」


「あぁ?覚えてねぇよ。それがどうかしたか」


「…お母さんなんです、ワタシの…そして、貴方がワタシのお父さんで…」


「あぁ?そうなのか?だが、俺が何人の女を抱いたのか、何人子供が居るのか、俺自身わからねぇくらいなのに、お前が娘だとか言われてもな。知るかよ。俺に何をして欲しいってんだ?引き取って育てて欲しいってんなら無理だぞ。孤児院にでも行けよ」


「……」


 こいつの言い方は腹が立つが…これは仕方が無い。


 確かに、この世界では男が少なく複数の女で一人の男を共有する。


 だから生まれた事も知らない娘が居る、なんて話もザラにある…が。


 それはそれ、これはこれ。


「それが父親に会いたい一心で此処まで来た娘に言うセリフか」


「…なんだ、テメェ。大人しくしてるだろうが、あべし!」


 こいつがムカつく事には変わりない。本当はグーパンしてやりたかったが、フランの前だしデコピンで勘弁してやる…ん?


「おい?」


「あー…ダメだ。気絶してっぞ」


「ええ…デコピンで?」


「弱。マイケル並」


 いや、マイケルにやったよりはキツめにやりましたけどね?


 それでも全然本気じゃない…精々小学生が本気出した程度だと思うんだが。


 いやいや、そんな事よりも、だ。


「フラン…大丈夫か?」


「…グスッ…ふぇぇ」


「あぁ…よしよし」


 フランに抱きつかれ、泣かれてしまった。


 アム達が後でうるさそうだが、今回は……ん?


「グヘヘヘ…良い匂いがします」


「…フラン?」


「ハッ……ふぇぇん」


「いやもう嘘泣きってわかってるから」


「嘘泣きじゃありません。このまま抱きついていればムラムラしたジュン様にキズモノにしてもらえるとか考えてません」


 貧弱過ぎる男とは正反対に…この世界の女はタフ過ぎる…

 

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