第103話 発動しました
魔獣の襲撃と誘拐犯の捕縛・撃退が終了した翌朝に…朝日が昇り始めた頃なので翌朝というより数時間後という感じだが…村を出た。
酒を飲んだ上で短時間の睡眠なので皆キツそうだ。
「ふぁふ…ねむ…ジュンは平気そうだな」
「いや眠いですよ、普通に」
メーティス曰く俺はいくら酒を飲んでも潰れる事は無いそうだ。
メーティスが俺の身体を操作する事でアルコールの分解速度を速める事が可能だとかなんとか。
「皆、眠そうだが…特にフランが酷い顔してるが、捕縛した賊から引き出した情報を共有するぞ」
「……」
フランは昨晩、ステラさんと司祭様が戻って来るのをずっと待っていたらしい。
帰った来た二人を捕まえたフランは賊から引き出した情報を一足先に聞いて、そのまま寝ずに起きていたのだとか。
御者は司祭様がしてくれてるので全員が話を聞ける事になる。
「まず賊共の拠点だが湖近くの山中で間違いない。船も用意してるそうだ。そして予想通りに…連中はドライデンから来た賊だ」
またドライデンの裏社会の人間か…廃鉱山で魔草を育ててた一件といい、アインハルト王国で好き勝手してくれているらしい。
孤児院育ちの俺に愛国心なんて立派なものは無いが、それでも憤りを覚える。
「続けるぞ。殿下が言ってたように、連中は最後の荒稼ぎとして村を襲撃したらしい。他の村と同時にな。全員が戻れば撤収、船で逃げるつもりらしい」
「おいおい。んじゃ急がねぇとヤバいんじゃね?」
「そうだよ~船で逃げられちゃ…」
「問題無い。言ったろう、その辺りも対策していると。今頃はドライデンとの国境付近に領地を持つブルーリンク辺境伯が兵を出して網を張っている筈だ。私達で捕縛出来れば無駄足で終わるだろうがな」
…辺境伯なんて上から数えた方が早い上級貴族に無駄足なんて踏ませていいんだろうか。
後々睨まれる事にならなきゃいいけど。
「ウチはブルーリンク辺境伯の事はよく知らないんだけど、ドライデンと繋がってるなんて事はないでしょうね」
「それは無い…と、断言は出来ない。私もブルーリンク辺境伯と会った事はないしな。だがブルーリンク辺境伯の現当主は堅物で不正を嫌う人物らしい。例えそれがブラフで裏でドライデンと繋がっていたとしても白薔薇騎士団が現地に行っている。迂闊な事は出来んだろうさ」
堅物、ね…だから安心とは言えないが、今回は大丈夫だろう。
何故なら俺も手を打っているしな。
というわけで、賊の様子はどうだ?メーティス。
『特に大きな動きはないでぇ。出払ってる連中が戻り次第、船に乗って逃走出来るように準備はしとるけどな』
昨日の襲撃後、寝る前にメーティスに行って偵察機を出させた。あっさりと賊の拠点を発見し、現在も監視中だ。
「賊の拠点は具体的に山中の何処?」
「土魔法使いを使って洞窟を作って、そこを拠点にしてるらしい。人目に付かないように普段は土魔法で入口を塞いでるそうだ」
「土魔法ならファウも使えっから、入口を開けれるよな?」
「もち。お任せ」
更に補足すると、洞窟を拡張し船の近くまで行けるよう逃げ道を作ってあるらしい。
捕まっている男の人数は七人。その内の一人がフランのお父さんの筈だ。
「で、実際問題あたいらは間に合うのかよ。連中が逃げるより先によ」
「ああ問題無い。一番遠くに行ってる奴らが戻るのが早くても今夜だそうだからな。十分に間に合う」
「でもよ、あたいらが捕まえた奴らが戻らなきゃ、その時点で逃げたりしねぇ?」
「可能性はあるがな。だが連中が捕まった事を即座に知る事は不可能だ多少は余裕があるさ」
「……そうでないと、困ります」
…このまま行けば間に合う。だがフランにとっては気が気でないだろう。
「…例え私達が間に合わなくても国境を越える前に必ず補足される、心配するな」
「大丈夫よ、フラン。貴女のお父さんは必ず救い出して見せるから。ステラ、具体的な救出作戦を」
「ああ。先ずは私が潜入するから、お前達は―――」
こうして作戦を決めつつ進み。
陽が完全に沈んで頃に目的の場所に着いた。
今夜は満月。雲も少なく、星も良く見える。
「あそこだな…あの大岩が目印だ。あの少しばかり周りの土と色が違ってる所が入口だろう」
「あそこか。完全に塞いでるんじゃねえんだな」
「完全に塞ぐと空気の流れが止まってしまうからな。…どうした?」
「えっと…よく見えるなぁ、と思って。わたしには全然見えないから」
「ウチも。月明りくらいしか無いのに、良く見えるわね」
「あたいは夜目が効くからな」
「私もだ。伊達に二つ名持ちの冒険者だったわけじゃない」
アムは猫獣人だしステラさんは元Sランク冒険者パーティーの斥候役。
こんな夜の山中でもバッチリ見えてるらしい。
まぁ、俺も見えるんだが…これも特性ボディの御蔭か。
「それじゃ行って来る。見つからないように大人しく待っていろよ」
「つか、どうやって潜入するんだよ。完全に塞がっちゃいなくても、人間が入れる大きさの穴じゃねえだろ」
「フッ。問題ない。任せておけ」
そう言うとステラさんは入口に近づいて行き…突然スッーという感じで消えた。
ずっと眼で追っていたのに、見失ってしまった。
「院長先生、今のは?」
「あれがステラの二つ名の由来よ」
「突然、消滅したかのように消えたでしょう?だから
「どういう能力なのか、詳しく話すのは止めておくわね」
多分、スキルだな。詳しい事は…メーティスはわかったか?
『恐らくは一時的に空気に変化するスキルやな。それなら問題無くあの穴から侵入出来るし』
なるほど空気に…なら確かに潜入出来るし、見つかる事もないだろう。
実際、僅か十数分後にはステラさんは戻って来た。
「確認して来たぞ。現在囚われている男は八人。私達が捕まえた奴らともう一組が戻って来るのを待っているようだ。その一組が戻り次第、救出作戦を開始…お?」
「戻って来たみたいね」
俺達が此処に着く迄の間に一人の男性を捕まえた一組の襲撃犯が戻っており、今しがたもう一組が戻って来た。
これで全て揃ったはずだ。そして、奴らが逃走を開始する前に救出しなくてはならない。
「よし、ファウ。男達が囚われているのは一番奥。あの辺りから真っ直ぐ掘り進めば繋がる筈だ」
「ん。了解」
作戦はこうだ。
先ず、ステラさんが潜入して洞窟の地形、囚われている男達の居場所を把握。ファウが土魔法で外側から掘り進み、直通の道を作る。院長先生達が賊を制圧してる間にアム達が男達を逃がす。
俺も男達を逃がす側に入れられたが…フフフ…みすみす俺Tueeeeeeのチャンスを逃す気はない!
一瞬で賊を制圧してやるぜ!
「ここか。よし、やれファウ」
「ん。…ん!?」
「え……きゃあ!」
突然、フランの服が弾け飛んだ。
そして洞窟の方から聞こえて来る強烈な炸裂音…これってまさか!
『フランにかけられた呪いが発動したんやな』
わーすーれーてーたー!これってマズいのでは!?何かマズい事になるのでは!?
「い、一体何だ?何が起きた!って、大丈夫かカウラ!」
「み、耳が~耳が痛い~…」
兎獣人のカウラにはさっきの炸裂音は堪えたらしい。頭を抑え…いや、耳を抑えてうずくまってしまった。
「と、兎に角、ファウ。穴を掘ってくれ」
「ん」
「…俺も手伝う」
俺とファウで掘り進んだ先はドンピシャで男達が囚われている部屋。
そして男だけでなく、賊の全員が耳から出血し気絶していた。
『そら洞窟なんて密閉された空間で鼓膜が破れるような爆音が響けばなぁ。さぞかし反響したやろし。全くの無防備、不意打ちやし。そら気絶もするわな』
つまり…洞窟内の賊は全滅、か?マジで?
「これって…アレだよな。フランにかけられた、あの呪い…」
「うん…すっかり忘れてたけど…」
「お父さんのパンツの紐が物凄く大きな音を立てて切れる呪い」
「なんだ、そのバカみたいな呪い…」
「それでこうなったって言うの?」
「さっきの音がそうかぁ。ま、楽で良かったんじゃない?」
その後調べた所、やはり賊は全員気絶…簡単に捕縛出来た。出来てしまった。
……んもぉぉぉ!まーた俺Tueeeeeeのチャンスがぁぁぁ!
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