第102話 優秀過ぎました

「ジュン!起きてっか!」


「魔獣が来たって…あれ?あー!


「流石ジュン、速い」


 宿泊中の村への突然の魔獣の襲撃。


 まだ寝間着に着替える前だったので愛用のショートソードとナイフだけを持って窓から飛び出た。


 魔獣の襲撃…遂に俺Tueeeeeeのチャンス到来!


『ぶぎゅ!?』


「た、助けって…アレ?」


「まず一匹!」


 今のはビッグイヤー…耳を翼のように広げて滑空出来る大型の鼠型の魔獣だ。


 難度Eの魔獣で雑魚と言っていい。この程度の魔獣ばかりなら数をこなす!


「さぁ次は!………あれ?」


「君は冒険者か!協力を感謝する!」


「此処は我々に任せておけ!」


 …司祭様が言ってた村の防衛に派遣された兵士と騎士か。騎士が五人、兵士が二十人くらいか?


 結構居るなぁ…あ、あれは村の自警団?


「魔獣はもういねーのか!」


「今ので最後っぽいな!」


「ハッ!準備運動にもなりゃしねぇな!」


 ……終わっちゃったの?今更だけど、この世界の女性、逞し過ぎませんかね。


『今更やな。それよりや、急いで村長の家か四十代のおっさんが居る家に向かった方がええでマスター。この魔獣は囮やし』


 囮?…人攫い集団が入り込んでるのか!


『せや。誘拐されそうな所を華麗にあっさりと救い出す…これも俺Tueeeeeeなんちゃうのん?』


 わかってきたな相棒!よし、これで上手く行けばこないだのやらかしは赦してやる!近い方の家ばどっちだ!


『おっさんの家の方が近いな。あっちの青い屋根の家やで』


 よし!今助けるぞ、知らないおじさ…ん?


「お?来たのかよ、ジュン」


「こっちは片付いたよ~」


「おじさんは無事。ぶいぶい」


 …アム達が既に此処に居る、そして捕縛されてる怪しげな風体の女が三人。という事は…村長のお孫さんの方にも既に?


「そっちは院長先生と司祭様が行ったぜ」


「殿下とギルドマスターは外に行ったよ。魔獣を操ってる奴と捕まえた男を運ぶ為の馬車か何かがある筈だって」


「魔獣が囮だと気付いたのもギルドマスター」


 …おんのれぇぇぇ!またしても!またしても俺Tueeeeeeのチャンスがぁぁぁ!


 いや、諦めるのはまだ早い!意外と誘拐犯が手練れで院長先生達が苦戦してる可能性も!


『そんなん期待するんは不謹慎やけども、その可能性は無くはないな。一応向かった方がええんとちゃう?村長の家はひと際大きな家の、アレや』


 アレか!間に合うか!間に合ってくれ!


『…どっちの意味で言っとるんや?ああ…あかんぽいなぁ』


 あかんぽい?あ…


「あ、ジュン。怪我はない?」


「遠目で見てたけど、魔獣を一匹始末してましたね。素晴らしいわ、ジュン君。ああ、凛々しいジュン君を写真に収めたかった…」


「ぶわぁぁぁぁん!マァ~マァ~!」


「あぁ…怖かったわね、よしよし」


 …戦斧と自分の身体に付いた返り血を拭う院長先生。


 何故か恍惚の顔をしつつ、くねくねと腰を動かす司祭様。


 院長先生の足下に転がる二人分の首無し死体。


 失禁しながら泣き叫ぶ子供と慰める母親。


 なんだこのカオス。


「…そっちも無事みたいで、何よりです」


「ええ。此処にいない村長も無事よ。今は騎士を呼びに行ってるわ」


「それは何よりで…」


「……何故、そんな微妙な顔してるの?」


 いや、だって…俺Tueeeeeeが出来なかったのもあるが、あの優しい院長先生が返り血を浴びて真っ赤に染まってるとか…ギャップがエグすぎて。


 首を落とすのは魔獣だけじゃなかったんですね…そして察するに子供の眼の前でそれをやった、と。


 まだ五歳の子供の眼の前で首狩り…なにそれ拷問じゃん。トラウマ、PTSDになっても不思議じゃないぞ。


「………大丈夫かな、その子。これから悪夢にうなされる日々が続いたりしなきゃいいけど」


「あ、大丈夫よ。私の魔法で悪鬼のようなマチルダの姿は消しておくから」


「……誰が悪鬼よ」


 …その手慣れた感じから察するに、昔から何度かやってるんですね?こういうアフターケア。


「後はステラとアイシャ殿下ね」


「本当にアイシャ殿下にも行かせたの?私達も行った方が良いかもしれないわね」


 ハッ!そうだ!まだ俺Tueeeeeeのチャンスが!メーティス!アイとステラさんが何処に居るかわかるか?!


『あー…そう言うやろと思って偵察機で探してたんやけどな。遅かったわ』


 なん…だと…それってつまりは…


「ただいま~そっちも終わった?」


「無事なようだな。ジュンも怪我もないようで何よりだ」


 …そちらも怪我一つなく終わったようで、何よりです。


 前々から思ってたけど俺が俺Tueeeeee出来ないのは周りが優秀過ぎるせいもあるよな、うん。


「それでステラ。どうだったの?」


「やはり外で待機してる奴らが居たぞ。馬車が一台と賊が三人。うち一人は奴隷だった。どうもその奴隷が魔獣を操る事が出来るようだな」


 奴隷…そんな能力を持ってるなら冒険者としていくらでも稼げただろうし、御金には困ってなかったろう。犯罪を犯して捕まった犯罪奴隷の可能性はあるが…十中八九、無理やり奴隷にされた違法奴隷だろうな。


「ところでフランは?一人なのかしら」


「宿じゃない?って、あら?来たわね」


 司祭様の言葉に振り返ると確かにフランが向って来てる。


 …何処から用意したのか木槌と杭を持って。


「襲撃犯は捕まえ…てはいないようですね」


「…私と殿下で捕まえてる。騎士に馬車ごと引き渡したがな」


「アム達も捕縛してたよ。今頃は引き渡してるかもしれないけど…」


「そうですか…拷問にはワタシも立ち会う事は出来ますか?」


 拷問て…父親の居場所を聞き出すつもりか。そりゃ気持ちはわかるけど…何も自分でやろうとしなくても。


「…出来る訳ないだろう。捕縛に協力した我々ならばまだしも、お前は居合わせただけの子供だ。例え協力者だとしても子供に拷問なんて見せられるか」


「…殿下の御力を使っても無理ですか?」


「そりゃイケるだろうけどさ~。今回ウチはお忍びで来てるし、子供に拷問させるなんてウチも反対だから。諦めなさい」


「……対価にジュン様の㊙写真を――」


「次、同じ事言ったらひっぱたくわよ。聞き分けなさい」


「……」


 おおう…またしてもアイの意外な一面…結構厳しい所もあるんだな。


 強めに一喝され黙ったフランだが、不満は隠せてない。表情にそれがアリアリと見て取れた。


「…はぁ、仕方ないな。行くぞジーニ」


「ええ。フランさん、私の精神魔法で洗いざらい聞き出してくるから、安心して宿で待ってて」


「出発の予定を早めるから、お前達は先に寝ておけ。フランもだぞ」


 ステラさんとジーニさんが気を使ってそう言ってくれた事で、ようやくフランも納得して宿に戻った。


 さてさて…こちらが望む情報は聞けるだろうか。


 フランの父親に関する情報…あとは俺Tueeeeeeが出来そうかどうかとか…


『マスター…そんなん聞いてくれへんと思うで』


 望みは捨てちゃいかん!

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