第101話 村に来ました

「うぉ~い。着いたぞ~村だぞ~」


「着いたか。宿が空いていればいいんだがな」


 王都から目的の山まで馬車で二日の旅。


 一日目の今日は陽が沈んだ頃に村に着いた。


 此処で一泊してから翌朝出発。前回と同じ行程の予定だ。


 幸いにして宿は空いており、全員分のベッドを確保出来た。


「それじゃ宿もとれた事だし酒場に行くぞ。今夜は私が奢ってやる」


「お!マジか!」


「やった~」


「ゴチ」


「いいの?ステラ」


「ウチが払ってもいいよ?」


「いくら王女だからって子供に払わせれるか。最年長の私に任せておけ………うぐっ」


「自分で最年長って言っておいて泣くのはやめなさいよ…」


 最年長…確かステラさんは八十歳だったか。


 年齢を言うのは平気なのに最年長というのは嫌らしい。


「いらっしゃいま~せ~!わぉ、団体様のお着き~!何名様ですか~?」


 宿に併設されてる酒場に入ると看板娘と思しき女の子が眼に入る。


 桃色の髪にたわわに実った胸に桃尻…果物畑みたいなお嬢さんやで!


『何言っとるんや、マスター…普段禁欲生活してる反動かいな。偶におっさんくさくなるなぁ』


 おだまりっ。…しかし、こんな何処に出しても恥ずかしくない看板娘が居るのに酒場は人気が少ない。


 少数の村人…女性が五人程いるだけだ。前回はもう少し居たと思うのだが。


「九人だ。しかし、この時間の酒場にしては客が少ないようだな」


「そ~なんですよぅ~。今、湖の方面に行く人と来る人が減っちゃってて~。なんでも人攫いをする盗賊団が出てるとかで~。こちらのテーブルにどうぞ~」


 なるほど、前回来た時はまだ湖を行き来する客が居たと。


 そして此処まで噂が広がり、警戒して旅人が減ってるということは、だ。


「急がないと盗賊団が棲み処を変えるかもしれませんね」


「あ?何でだよ?あ、エールくれ!」


「あんまり飲みすぎないでよぉ、アム。わたしはミードで~」


「同じくミード」


 何故急がないとダメなのかと言うと。


 旅人が減ってるという事は盗賊にとって獲物が居なくなるという事。獲物が居なくなれば新たな獲物を求めて棲み処を変えるだろう。


 獣のように。


「ふぅん…大体よ、何だってその、盗賊団?の連中は山の中にいんだ?何にもねぇんだろ、そこ」


「プハァー!クゥ~!…何にも無い、事は無い。確かに記録上は建築物は無いが洞窟なんかがあれば拠点には出来るし、すぐ横には湖から伸びる河があるしな。おーい!次はワインをくれ!」


「河?河があるから何なんだよ」


「それはだな…」


 ステラさん曰く。


 その湖から伸びる河は広く、長く、深い。そこそこ大型の船も出せる程に。


 しかも国境付近まで伸びる大河。船さえあれば逃走経路として使えるわけだ。


「ふぅん。でもさ~ただの人攫い、盗賊団風情が船なんて持ってんの?あ、ウチにもワインちょうだい」


「殿下、聖職者の私の前で子供がお酒を飲めると思わないでくださいね」


「貴女はエロース教の司祭でしょ?じゃあ聖職者じゃなくて性職者じゃん。堅い事言わないでよ」


「…性職者なのは認めますが、ダメなものはダメです」


 あ、認めちゃうんだ。認めちゃダメな気がす…エロース教信徒ならそうでもないのか。


 それはさておき、だ。船に関しては俺もアイと同意見。


 海賊って言葉はこの世界にもあるから、海に行けば船を持ってる無法者は居るだろうけど、陸上で活動してる盗賊がそう簡単に船なんて用意出来るだろうか。


「別に盗賊が船を持ってても不思議じゃない。それも奪えば良いし、スポンサーが居るのかもしれないしな」


「スポンサー?盗賊に金出してる奴が居るって事?」


「そうだ。もしくは今回の奴らは盗賊団じゃなく、どっかの国の暗部だったり裏社会の人間だったり…色んな可能性がある。ついこないだの廃鉱山の一件のように、な」


 つまり…またドライデンの人間が関わってる可能性がある、と。


 それに、その河が流れる先にある国って…ドライデンじゃん。


「まーたあの国かよ…んじゃよ、ドライデンに逃げられないようにした方がいいんじゃねぇ?」


「当然だ。だが、その辺りはローエングリーン伯爵と白薔薇騎士団の仕事だ。連中に任せるさ」


 流石というべきか。普段は残念エロフでも元Sランク冒険者で現役冒険者ギルドマスター。ちゃんとその辺りの情報を共有し、手を打っていたらしい。


「聞いての通りよ、フラン。貴女のお父さんはきっと大丈夫。だから安心して、今は御飯を食べなさい」


「そうだぞ。お前は少し肉が足りん。もっと肉を食え、肉を」


「…ありがとうございます」


 普段は子供らしからぬ事を言うフランも、この旅では暗い表情をよく見せた。


 自分に残された最後の肉親の危機となれば、無理もない。


「ふぅん…現時点で人攫い集団が逃げた場合の対処はしてるってわけね。じゃあ、その逆は?」


「逆?逆とは?」


「旅人が減った。村や街でも誘拐の警戒をして警備が厳しくなってる。なら連中がとる行動は?一、場所を変える。二、逃げる。三、強硬手段に出る。のいずれかだと思うんだけど。場所を変えた場合は一早く発見して追うしかないと思うけど、強硬手段に出た場合は?」


「強硬手段って…」


 村や街に入ってこっそり誘拐するのではなく、正面から乗り込んで略奪の限りを尽くそうって事か?


「人を攫う理由なんて、奴隷として売りさばくとか労働力として使うかでしょ?今回は男を攫ってるとこから考えるに売り物にするつもりなんでしょうけど。その場合、目標数とかありそうじゃない?それに足りてない時、どうするか、どう動くのかって事」


「アイ…結構頭使えるんだな」


「む!失礼な!ジュンってばウチの事バカだと思ってない?!」


 ごめんなさい、アイに持ってるイメージはもう腐女子だったので。賢いデキる女というイメージはこれっぽっちも。


「ぶぅぅ!…で、どうなの?」


「…最低限の強化はしてるだろうが、そういった事態に対応出来る充分な備えはされていないだろうな」


「位置的に一番危険なのはこの村だと思うけど…数名の騎士と十数名の兵士が増員、派遣されてる程度でしょう。相手の数にもよりますけど…完全に守り切れるかと言われれば頼りない、ですね」


 いや、その前にこの村に男いるの?人攫い集団の目的は男なんだから、男が居ないなら来るとは思えないけど。


「それもそうだな。おい、お前。この村には男が住んでいるのか?」


「はい~?居ますけど…ダメですよ~、お客さんに紹介なんて出来ませんから~。そういうのはエロース教の神子様を頼ってくださいね~」


「そうじゃねぇよ。さっき人攫い集団が出るってあんたも言ってたろ。ならこの村の男も危ねぇんじゃねぇかって話だよ」


「ああ~お客さん達が護ってくれるんですか~?そういう事なら~…今は二人ほど居ますよ~。村長さんのお孫さんと四十代のおじさんが~」


「お孫さん…その子はおいくつなのかしら」


「まだ五歳で~将来は私も貰われちゃうかもです~……正直、あんましいい男にはならなさそうだけど、贅沢は言えないですし~」


 お姉さん、どう見ても十八かそこらに見えますけど。その子が成人するまで待てるんですかね?いや、俺には全然全くこれっぽっちも関わりの無い話ですけども。


「五歳……絶対に誘拐なんてさせない…」


「い、院長先生?ど、どした?」


「な、なんか怒ってる?」


「激オコ?」


 突然、院長先生から僅かに殺気が。村長のお孫さんの話を聞いて怒っているようだけど…何故?


「あ、ああ…ごめんなさい。気にしないで」


「…ふぅ。マチルダ、お前全然飲んでないだろ。もっと飲め。おい、こいつにエールを追加だ」


「やめてステラ。私がエール苦手なの知ってるでしょ。ミードにしてちょうだい」


 そうこうしてるうちに夜も更け。


 宿屋に戻り、さぁ寝るか、となった時にそれは聞こえて来た。


「…なんだ?警鐘?」


「何かあったみたいね」


「殿下の予想が当たったのかしら」


 人攫い集団が来たのか、そう思い窓を開け、耳を澄ますと聞こえて来た内容は…


「魔獣だ!魔獣が来たぞー!」

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