第100話 意外な一面でした

「こんなに早く同じ道を通る事になるなんてねぇ」


「ん。とんぼ返り」


 俺達は今、予定通りにフランのお父さんが居るという山へ向かい、馬車で移動中だ。


 面子も予定通り…ではない。


 王都を出て二時間。もういいだろう。


「もういいよ、フラン。出て来な」


「へ?フラン?居るの?」


「何処に?」


 馬車に積み込んだ木箱。食料が入ってると説明したが、この中に入ってるのがフランだ。


「…失礼します」


「わ。本当に入ってた」


「どうして?」


 昨日の話し合いではフランは連れて行かないことになっていた。


 しかしメーティスが寝た振りをして沈黙を決め込んだ後、フランが部屋を訪ねて来た。


 用件はやはり明日は自分を連れて行って欲しいというもの。


 危険は承知の上だと言うし、気持ちもわかる。


 俺の言う事を聞く事を絶対条件に連れて行く事にしたのだ。


「なんだ、もうバラすのか」


「仕方ないでしょ。こんな小さな木箱にずっと入ってるなんて無理よ」


「そりゃそうよね。むしろよく我慢した方じゃないかしら。私なら五分と我慢出来ないもの」


「それはジーニが堪え性が無いだけよ」


 どうやら元Sランク冒険者の三人はフランの存在に気が付いていたらしい。


 流石と言うべきか。


「…とーぜん、ウチも気付いてたよ……zzz」


「眠いなら寝てていいから」


 さっきから無口だったアイがアピールしてくる。


 なんでも徹夜で仕事を数日分片付けたそうな。


 勿論、漫画の仕事だ。


「えっと、皆…フランの事は…」


「気にしなくていいんですよ、ジュン君」


「優しい貴方の事だもの。その子に頼まれて断りきれなかったのでしょう?大丈夫、子供が一人増えたくらいなんともないわ。私が護ってあげるから、心配しないで」


「くっ…いい事をみんな言われた…私のセリフが…」


 院長先生は相変わらず母性と包容力溢れる人だった。


 ただ、今の格好は孤児院の院長の服装ではなく、現役冒険者時代に使っていたという軽装の防具に身を包み、いつもは私室の壁に飾ってる戦斧を持って来てる。


 ジーニさんは司祭服でいつもと同じだがメイスと小盾を持ってる。


 ステラさんは軽装の防具に腰と脚にナイフが装備されている。


 こうして見ると三人共現役冒険者のようだ。


「ありがとうございます。カウラにファウも、悪いけど協力して欲しい」


「ジュンに頼まれたら仕方無いね」


「どんと来い」


 カウラとファウも快諾してくれる。アムは御者をしていて話が聞こえていないが、きっと同じように快諾してくれるだろう。


「ありがとうございます、皆さん。御礼にジュン様の写真を」


「そういう事、やめなさい」


 この子、前回ので味をしめてないかい?これからも俺の写真を使って問題を解決するようじゃ…この写真が元で俺が男だとバレかねないし。


「カウラ、その写真ちょうだい」


「やーだ」


「ケチ」


「ケチじゃないもーん」


 ちゃっかりと写真を貰ってるカウラとファウがなにかやっている。


 それを見て微笑むジーニさん。


 何か面白いとこありましたかね。


「懐かしいわねぇ。私達も三人で馬車の中で楽しくお話ししてたわよね」


「そうだったか?」


「殆どジーニの猥談じゃなかったかしら」


「猥談とは失礼ね。エロース教に伝わる説話よ」


 それならば猥談で間違ってないと思います。聞かなくてもわかります、はい。


 …ん?今、三人って言ったか?


「院長先生達は四人組の冒険者パーティーだったんじゃ?今、三人って…」


「あぁ…あの子は極端に無口な子だったから」


「今もそれは変わって無いでしょうね。何処で何をしてるのやら。ステラは知ってる?」


「未だ現役の冒険者だって事くらいしか知らん。ただ…あの性格だ。私達以外とパーティーは組めないだろうから、ソロだろうな」


 未だ現役の冒険者?院長先生達が引退したのは三十年くらい前らしいから…四十年くらい冒険者をやってるのか。


「私達が十二年冒険者をやっていたから、今も冒険者なら四十二年は冒険者をやっている事になるわね」


「あの子は冒険者であり鍛冶職人だったから。素材集めの為に冒険者を続けてるのでしょうね」


「名前はドミニー。頑丈な全身鎧を着てハンマーと盾を手に前で戦うドワーフの戦士だ」


 ほう、ドワーフ。そう言えば純血のドワーフにはまだ会った事が無いな。


 で、鍛冶職人か。やはりドワーフと言えば鍛冶だよな、うんうん。


「そのドミニーって人にも物騒な二つ名があるんですかぁ?」


「ぶ、物騒…私のはそんなに物騒じゃないだろう?」


「…ドミニーの二つ名は『無口な鉄サイレント』よ」


「無言で攻撃を防ぎ、ひたすら耐え凌ぐ。その鉄壁の防御力から付けられた二つ名なの」


 二つ名でも無口なのをアピールされるとか、よほど無口な人らしい。


 ああ、それでお喋りの記憶は三人にしかないと。


「言っておくが、仲間外れにして会話に入れなかったわけじゃないぞ。アイツは本当に無口なんだ」


「ドミニーの声を聞いたのって何度あったかしら。片手で足りるくらいにしか聞いてないかもしれないわね」


「戦闘中ですら最低限のジェスチャーで済ませるから、その内何も言わなくてもわかるようになっちゃったのよね」


 それは…パーティーとしては理想的なのでは?


 何のサインも無しに最善の行動と連携がとれる仲間…やだ、かっこいい。


「あー…まぁドミニーに関してはそうなんだが…」


「実際は私とステラ、ドミニーの三人がマチルダに合わせてたってのが正解ね」


「戦闘中のマチルダは本当に酷かったからな。いや、多分今も変わってないんだろ」


「う…子供達の前で…止めて欲しいわね」


「遅かれ早かれだろう。誘拐犯とは戦う可能性が高いのだし」


 んん?母性の塊である院長先生が酷い?どういう事だろうか。


「こいつは戦闘になると人が変わるんだよ」


「ジュン君達はマチルダは優しい、母性のある女だとか思ってるんでしょうけど。戦闘中のマチルダには母性なんて欠片も無いわよ」


 戦闘中は人が変わる?…まぁ、そういう人も居るんじゃね?


 スイッチが入ると人が変わる奴って確かに居るし。


『マスター、魔獣が一匹来るで。空中からや』


 突然のメーティスからの敬語。空中から来る…つまりは飛行する魔獣か。


「カウラ、空から魔獣が来る。弓を構えて」


「え?魔獣?何処から…あっ、本当だ!」


「ほう?アレはヒポグリフだな。こんな所で珍しい」


 ヒポグリフ…確か、グリフォンと馬の合の子だったか。


 下半身が馬だし、間違い無さそうだ。


「私達の馬を狙っているみたいね」


「そのようだな。よし…カウラ、構えなくていい。折角だからマチルダ、腕が錆びてないか見せてみろ」


「………わかったわよ、やればいいんでしょ、やれば」


「うむ。アム!魔獣が来る!馬車を停めろ!」


「うぇ?!マジか!何処だよ!」


 馬車が停まったのを確認して屋根に登る院長先生。


 そして馬を狙って急降下してくるヒポグリフ。


「……ヒャッハー!首おいてけぇ!」


『キュアァア!』


 …へあ?今、院長先生がヒャッハーって叫んだの?


 そして首おいてけ?


「うむ。やはり変わってないな。いや、変わるな、か」


「ひたすら首を落とすやり方もね。そんな殺し方ばっかりだから『断頭台ギロチン』なんて二つ名が付くのよ」


「……生物は首を落とせば死ぬように出来てるから、いいのよ。苦しませる事もないし」


「その言い分も変わってないな」


 …戦闘が終わると直ぐに戻るんすね。院長先生にこんな一面があったとは…


「…ん、なに?なんかあったの?」


「魔獣が一匹、襲って来ただけですよ、殿下」


「マチルダが仕留めましたので、ご安心を」


「そっかぁ…んじゃ、ウチはもう少し寝るねぇ…」


「ええ、ごゆっくり」


 …魔獣が一匹襲って来ただけ、ね。


 ヒポグリフって確かBランクの冒険者が二、三人で倒すのが普通の魔獣。


 それを何てことのない出来事のように…実に頼もしい。


 俺Tueeeee…今回も出来ない気がしてきた…




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あとがき


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