第99話 新機能が追加されました

「というわけで、明日からジュン君は連続誘拐事件の解決にあたる事になったわ」


「無事に解決出来れば例の手柄としては十分でしょう。故に今回はジュン君を前に出しつつ完璧なバックアップ体制を築かなければなりません。しかし、白薔薇騎士団はまだ十分な人員を割く余裕がありません。そこで皆さんに協力をお願いいたします」


 フランのお父さんが湖近くの山中に居る、とエリザベスさんの魔法で判明した日の夜。


 誘拐事件が頻発してる地域である事、男性が山中に居るという状況を鑑みた結果。フランのお父さんは誘拐された被害者の一人である可能性が高いと判断。


 その事をソフィアさんに相談したら、全員を集めての会議が開かれる事になったわけで。


「ジュンに手柄を立てさせるのは既定路線だから問題無いが…そこにフランとやらの父親がいるというのは確かなのか?」


「実際に現地に居るのを確認したわけではないんでしょう?」


 アニエスさんの言葉に院長先生が続く。確かにエリザベスさんの魔法の信憑性は確かめたい所だろう。


 だが、それについては検証済みだ。


「それは信じて良さそうです。俺達で確認しましたから」


「ああ。あたいも試したけど、バッチリだったぜ。なぁクリスチーナ」


「うん。今日、私が何処に居たのか予定を知らないアム達に当てられたからね」


「私もです。信憑性は高いと判断しました」


「ふむ…」


 自分の魔法を疑われた事に若干不満顔だったがエリザベスさんも協力してくれた。


 クリスチーナとソフィアさんの居場所を魔法で調べてもらい、後程二人に確認すればバッチリ正解だった。


 エリザベスさんの魔法は信用して良さそうだと判断出来たわけだ。


「それならそこに誘拐された男達が集められているとして、だ。早急に動かねば何処かに連れて行かれる可能性が高いだろう。時間はあまり残されていないぞ」


「ええ。それにあまりに大規模な部隊を派遣すれば何処か別の場所に移動してしまうでしょう。男を誘拐なんて危険極まりない事をしてるのは犯人だって自覚してる筈。警戒はしてるでしょうから」


「そこでジュン君と共に行動するのは少数精鋭が理想なのですが…団長や私は同行出来ません。面が割れてる可能性が高いので」


 ソフィアさんは白薔薇騎士団の団長で英雄だ。クライネさんもソフィアさん程じゃないが、白薔薇騎士団の副団長。どちらも有名人だ。


「となると…院長先生、いや『断頭台ギロチン』のマチルダ殿と『精神破壊ナイトメア』ジーニ殿が適任だと思うが、どうかな」


「…ええ、構いません。昔ほど動けないと思いますが、ジュンの為ならば。それに誘拐などと言う卑劣な行いを許す訳には行きませんし」


「…私も異存はありません。ステラにも声をかけるけど、よろしい?」


「元Sランク冒険者で現冒険者ギルドマスターの『消滅バニッシュ』のステラか。ジュンを狙っているというのは不安だが、実力的には申し分ないだろう」


「……ステラは私達で止めますから、御安心を」


 ステラさんの二つ名を初めて聞いた。消滅…姿が消滅してしまったかのように錯覚してしまう程の潜入技術を持ってる事が由来とかか?


 確か院長先生達は四人組の冒険者パーティーだったんだよな。残る一人の二つ名も知りたいとこだ。


「あ、ウチも行くよ。久しぶりに運動したいし、外出もしたいし」


「…は?殿下先生、それは…」


「殿下先生が行くとなれば余計に護衛を増やさなければなりません。自重して頂きたく…」


「だいじょーぶ。ウチに護衛は不要だから。今までも無断で城を抜ける事もあったしぃ。平気平気。それにどうせ離れた位置に部隊を置くつもりなんでしょ?」


「それはそうなのですが…はぁ、わかりました。くれぐれも無茶はなさらないでください」


「うんうん。ウチが居れば万事オッケーだよ!」


 と、言う訳で。明日の早朝に現地に向かって出発する事になった。


 同行者は院長先生、司祭様、ステラさん。それにアム達も付いて行くと言って聞かずに同行が決定。最後にアイだ。


 王女が誘拐犯の逮捕に来ても良いのかとか思わなくもないが、万一何か起きても責任は問われないとの事だ。


 女王陛下とそういう話にしてあるとの事だが…どんな話をしてるのやら。


 それはそれとして、明日は早い。そろそろ寝るとしようか。


『おっと、その前にマスター。なんだかんだでタイミング逃してたけどデウス・エクス・マキナに追加された新機能のお披露目や』


 新機能?ああ…アップデートされたんだっけか。


 今回は一部機能が使えなくて困った場面が無かったしメーティスもアップデートが終わった事を言わなかったし、忘れてた。


 で?どんな機能が追加されたんだ?


『ふっふっふっ…眼を見開いて刮目しいや!』


 おおう?何か出て来た……って、妖精?


「どや!これがわての新しい姿、その一つや!」


 30cmくらいの人間に羽がある、妖精のような姿の何かが空中でふんぞり返って関西弁を喋ってる…って、おいおいまさかメーティスか?


「おーい?マスター?何か感想言ってえや」


 心での会話が通じてない?偵察機やパワードスーツに意識を移した時と同じか。


「えっと、メーティスなんだよな?」


「せや!どうやこの愛らしい姿!実にプリチーやろ?」


「それは認めるけど、何だよそれ。どういう事なんだ?」


「勿論、これがデウス・エクス・マキナに追加された新機能や。これは偵察機の新型になるんやけどな。この姿やと何と!魔法が使えるんや!今までよりも偵察機で出来る事の幅が広がったっちゅうわけやな!ただし!この姿やと従来機より遠くまで行けんし、スピードも出せへんから、その辺りは使い分けやな」


「なるほど」


 確かに、小さいとはいえ手足があるのも大きな違いだろうし。魔法も使えるなら戦闘のサポートも出来るという事か。


「でも何で妖精?他にも選択肢はあったと思うが」


「そらあれや、わてが宿る姿やねんから可愛い姿やないとな」


「ん?それはメーティスが意識を移して使う事が前提なのか?」


「せや。わてが意識を移さんでも使えるっちゃ使えるけど、それやと魔法は使えんな。そうなるとただ妖精の姿をしただけの偵察機にすぎんわ」


 あくまでも中身はデウス・エクス・マキナって事か。それにしては無機質な機械ではなく有機的な肉体に見えるが。


「ふふん。そこらへんはこだわりにこだわり抜いた有機マテリアルボディやからな!」


「んん?こだわり抜いたって、まるでお前がその姿をデザインしたみたいに聞こえるが?」


「せやで。今回デウス・エクス・マキナに追加された新機能は有機マテリアルボディを作る機能なんや。素材の方は神様に用意してもろたんやけど」


「ほほう?それって俺にそっくりなボディを作って影武者的な存在を作る事も可能って事か?」


「え?」


「え?…ってなんだ。なにか問題があるのか?」


「い、いやぁ…可能か不可能かで言えば可能やったんやけど…この有機マテリアルボディは二体までしか用意でけへんのや」


「だったらもう一体作れる……おい、まさかだよな?」


「も、もう一体も、もう作っちゃってたり…アハハ!」


 おいいいい!何やってんだ!影武者があればお前、色んな制限が外れて俺Tueeeeeeが簡単に出来た筈なのに!


「お、お前というやつは…一体何を作った!」


「せ、正確にはまだ作りかけやねんけど、もう変更は効かん段階まで作っちゃっててやな…」


「何を作った!」


「わ、わての日常生活用ボディ…」


「はぁ!?お前の日常生活用ボディ?!」


「だ、だって!わてかてマスターと触れ合いたいし!マスターと一心同体なんも悪くないけどやっぱり生身でイチャイチャしたいっちゅうか!アイっちゅうわての存在を脅かす存在も出て来たし!わてかて美味しいもん食べてみたいし!わてかて色々やりたい事あるんやもん!ええやん!」


「ぬっ…くっ…」


 こいつ…初めてこの世界に来た時から睡眠が必要だったり拗ねたりと人間ポイ所の有る奴だと思っていたが…此処まで人間味のあるやつだったとは。


「……まさかとは思うけど、人間の身体を手に入れたらアイが描いた漫画を読める、とか思って用意した。なんて言わないよな?」


「………………まさかぁ。いくらなんでもそんなアホな理由なわけないやん?あ、そろそろ寝な明日に響くなぁ。おやすみマスター!」


「おいいいい!その反応図星だろ!絶対にそうだろ!あっ、こら!」


 おい!俺の中に戻ったんだろ!聞こえてるんだろ!


『…………zzz』


 寝たふりすんなぁぁぁぁ!!

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