第98話 呪いました

「うん、これで全ての材料は揃ったわ。早速始める?」


「は、はい…」


「それじゃ準備が出来たら呼ぶから」


 湖からの帰りは運よく襲われる事もなく、無事に昨日には王都に着く事が出来た。


 そして早速、フランを連れて魔法道具店『エリザベス』に来たわけだ。面子は前回と同じ。


「あの…ジュン様。ありがとうございます、ワタシの為に、こんな…」


「気にしなくていいから。俺が言い出した事だし、俺がやりたいからやったんだよ」


「…はい。それにアム様、カウラ様、ファウ様もありがとうございます。カタリナ様も」


「お、おう。アム様なんて言われると、なんかくすぐったいな」


「わたしも。慣れてないもんね」


「ファウ様…いい響き」


「お前達…まぁいい。私は大した事はしてないから、気にしなくていいぞ、フラン」


「そうですか?皆さんには御礼をしなければとジュン様の隠し撮り写真など用意したのですが。カタリナ様は不要ですか、そうですか」


「な、何!?そ、そうは言ってないだろう!」


 隠し撮り写真て…混浴とかしてるし、今更なぁ。余程恥ずかしい写真じゃなきゃいいけど……って、こんな感想が出るって、この世界に相当毒されてるな、俺。


「おいおいおい!よくこんな写真とれたな!」


「フフフ…伊達にジュン様専属の御世話係をやってませんよ」


「……一体どんな写真?一度見せなさい」


「ダメです。ジュン様には後程アム様達の㊙写真をプレゼントしますから。特にカタリナ様のは凄いですよ。大事なところもバッチリくっきりです」


「「「「な、なにー!」」」」


 ………………………ふっ。何度も言うが混浴までしてる今、その程度で動揺もしなければ喜ぶ事も無い。まぁ、御礼だと言うなら?受け取らない事も無いが?


『マスター………いや、ええわ。今回は何も言わんわ。マスターも対価を払っとるしな』


 いやいやいや…無いったらないんだからね!


「ちょっ、ちょっとまて!あたいらの㊙写真ってなんだ!」


「大事なところってなんだ!ま、まさか、まさかだよな!」


「おーい!準備が出来たから、来ていいわよ~」


「あ、はーい!皆様、いきましょう」


「「「「おいいい!」」」」


 ギャンギャンと騒ぐアム達をすまし顔でスルーして階段を降りるフラン。腕利きの冒険者と伯爵令嬢を相手にこの胆力……大物だな。


「来たわね。呪いは…えっと、フランだっけ?あなたにかければいいのね?」


「………………ええ、はい。そうです」


「どうかした?皆しておかしな顔して」


「おかしいのはあたいらじゃなくてあんただ。鏡見ろ、鏡」


「さっきまで浮かんでた焦りが吹き飛んだぞ。何なんだ、その姿は」


 地下室に入ればエリザベスさんが居る……それは当然だ。呼ばれたんだし。


 問題はその姿だ。動物…恐らくは牛の頭蓋骨をかぶり、皮の腰みの、骨の首飾り、怪しげな杖。


 身体には白い染料か何かで紋様を描き…上半身は裸。胸に羽飾りを着けて大事な部分を隠してるだけだ。


 これはもしかして、アレか?この世界におけるシャーマン的な格好なのか?


「…変態さんだ」


「まごう事なき変態」


「変態とは失礼ね。これは我が家に伝わる先祖伝来の呪術師の正装よ。お呪いや呪いは形が大事なんだから」


 はぁ…へぇ…まぁ普段からローブの下は全裸で過ごしてるとか言ってたし、それに比べたら…いや、こっちの方が変態だわ、多分。


「それじゃ、始めるわよ。あなた、服を脱いで全裸になりなさい。それからその魔法陣の中央で横になって」


「はい」


「はい、じゃねぇ。平気な顔して服を脱ぎだすんじゃない」


 子供とはいえ男の前で女の子が全裸にしようとするんじゃない…いや、エリザベスさんは俺が男だって知らないんだった。


 いや、でもフランは平気な顔して脱いじゃダメだろ。


『いや、脱ぐしかないやん。この場には女しかおらん事になってるんやから。慌てる方がおかしいんやで』


 ぐっ…それはそうかもしれんけども!


『気になるんやったらマスターは眼を逸らしてたらええやんか。自然に振舞わな怪しまれんで』


 …くぬぅ。…そ、そうする。


「何か問題があったかしら?」


「いや失礼。何もないので進めてください」


「…そう?じゃ、身体に紋様を描くわよ。少し冷たいし、くすぐったいかもしれないけど、我慢なさい」、


「はい……んっ」


 ……俺は一体何を見せられているんだろうかと思ってしまう。変態が少女を邪教の生贄にしようとしてるかイタズラをしようとしてるシーンにしか見えない。


『見いへんようにするんとちゃうんかいなマスター…ガッツリと見とるやん』


 いや無理だわ!無視出来ない存在感だものアレ!どうしても見ちゃうよ!


「これでオッケー。じゃ、呪いをかけるから、あんた達は魔法陣に近づいちゃダメよ。失敗の原因になるし、呪いがおかしな風に発動して巻き添えになるかもしれないから」


「お、おう」


 ㊙写真の事も忘れて、フランが心配でついつい身を乗り出していたアム達も後ろに下がった。


 こんな怪しい姿した人にイジられてる所を見れば無理もないと思う。誰だってそうなるよ、うん。


「始めるわよ。………ヨイセ・ノバツ・マ・ルミタ・ミス!ユシーリ・パア・ムルーゼ!」


「「「「…………」」」」


 何言ってるのかサッパリわからないし、前世でも今世でも呪いをかけるシーンなんて初めて眼にするからわからんが…呪いってこんな風にかけるのが一般的なのかなぁ。


 エリザベスさんは杖を振り回し、腰を振り、頭を左右に振り…激しく踊っている。


 それはもう激しく……乳が揺れる揺れる。しかも腰みのの下…ノーパンですね?


 取り合えず、心の中でありがとうとだけ言わせて頂きます。


「よくとれねぇな、あの羽飾り」


「どうやって着けてるんだろうね」


「謎」


「お前達…確かに謎だが、今はどうでもいいだろう」


 ああ、うん。確かにね。ただの鳥の羽にしか見えないけど、どうやって着けてるんだか。


 …ヌーブラ的な物だろうか?


「―――フランに呪いを授けよ!アッチョンプリケ!」


 いやそれ大丈夫!?そのセリフ大丈夫!?著作権とか版権問題とかに引っ掛からない!?


「ふぅ…終わったわ。呪いは完成したわよ。これであなたがお父さんの半径200メートル以内に入れば呪いは発動する。お父さんの鼓膜は確実に破れるわ」


「はい………………え?」


「「「「え?」」」」


 …なんて?


「今、鼓膜が破れるとか言いました?」


「言ったわよ?何、変な顔してるの?」


「お父さんのパンツの紐が凄い音を立てて切れるだけの呪いじゃなかったんですか!?」


「その音で鼓膜が破れるのよ。ただパンツの紐が切れるだけじゃ呪いというよりイタズラじゃない」


「その正論は腹が立つなぁ!」


 くっ…しかし、それだけデカい音なら確実に聞こえるだろうし、見つけやすくなる、か?破れた鼓膜は俺が回復魔法で治せば…いや、しかし…


「…他に言ってない事はありますか。音がなったとき衝撃波が起きるとかないでしょうね」


「それは無いわよ……ああ、そうそう。呪いが発動したらフランが着てる服が弾け飛ぶから、気をつけなさい」


「そういうの前もって説明してくれないかなぁ!」


 この人は…呪いをかけ終わった後でそんな…いや、その程度なら着替えを持って行くだけで済むけどさぁ!


「何言ってるのよ。人を呪わば穴二つって言うでしょ。呪いで人を害そうって言うのに何の代償も払わないで済むはずがないじゃない。むしろ憎い父親の鼓膜を破る代償が服だけで済むなんて、安い代償じゃない」


「フランがお父さんを憎んでるなんて、誰が言いました」


「え?憎いから呪いたいんじゃないの?」


「ち、違います。ワタシはお父さんを探してて、それで…」


「え?」


「え?」


 ………………………………………………アレ?


 もしかして俺達も呪いをかけて欲しい理由を言ってない?


『言ってないなぁ、確かに。その辺りの事情は全く説明してないで』


 …Oh,No。なんてこったい…それでこのすれ違いか。いや、それでも呪いの詳しい説明はあって良かったはず…エリザベスさんも詳しく聞かなったしさぁ。


「誰かを呪いたいなんて、聞いても暗い気分になるだけの、ろくでもない事しかないもの。あなた達は命の恩人だし、わざと深く聞かないで協力したのよ」


 ………うん。そう言われるとその通りだなとしか思えんな。


「それでお父さんを探したいからパンツの紐が切れる音で探し出そうって、そう考えたの?バカじゃないの?」


「ぐっ……他に手段のない、手詰まり状態だったんですよ」


「いや、だったら最初っからそう言いなさいよ。お父さんを探したいだけなら他の、もっと穏やかな手段で見つけてあげたのに。探し物が見つかるお呪いとかで」


「え?」


「言わなかった?落とし物が三ヵ月以内に見つかるお呪いがあるって。じゃあ人探しに使えるお呪いがあるとか思わなかったの?」


 ………………………………思わなかった。


「……あるんですか?」


「あるわよ。まぁ人探しの方はお呪いや呪いじゃなくて魔法に近いわね。こっちなら毒やら睾丸やら集める必要無かったのに」


「「「「………………」」」」


 ……この三日間の苦労は一体。いや…ちゃんと説明せず聞きもしなかった俺が悪いんであってエリザベスさんは悪くないのはわかっているんだが。


「……じゃあ、御願い出来ますか。フランのお父さんを探してください」


「いいわよ。地図はある?出来るだけ正確なやつね」


「はい、どうぞ」


「ん?王都の地図?お父さんは王都に居るの?」


「はい。多分、ですけど…」


「ふぅん。まぁやって見ましょ。フランは手を地図に置いてお父さんを見つけたいってだけ考えなさい」


「は、はい」


 王都の地図を取り出し、魔法を使うエリザベスさん。


 地図には何も変化が無いが…これで本当にわかるのか?


「…どうですか?」


「…お父さんは王都にいないっぽいわよ」


「え…そんな…」


「がっかりするのは早いわよ。ほら、今度は王国の地図を出して」


「あ、はい」


 今度はアインハルト王国の地図を出してからもう一度エリザベスが魔法を使う。


 すると今度は地図上の一点が光だした。


「此処よ。此処にお父さんは居るわ」


「おお!すげぇじゃんか!…って、そこって…」


「山の中?だよねぇ」


「確かに山の中だが…そこは…」


「あの湖の近くの山」


 …………逆戻りかい!

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