第97話 警戒が必要でした
「あ~あ…全くヒデェ目にあったぜ」
「本当にな。何故こんな事になったんだろうな。なぁ~イーナ」
「うっ…謝ったじゃない…もう許して欲しいわ」
目的の湖に着いてすぐ。
イーナのやらかしでレイクドラゴンにより小さな津波を起こされ…俺達は退避が間に合わず水浸しに。
無事だったのは少し離れた場所で馬車で待機していたファリダさんだけだ。
「そ、それにホラ!目的のポイズングローブも楽に手に入りましたし!他にも沢山!これはもはやわたくしの手柄と言ってもいいのではなくて?ジュン様もそう思いませんか!」
「う~む…」
レイクドラゴンが起こした津波によって流され、打ち上げられたのは俺達だけじゃなく、湖に棲む魚達も打ち上げられた。
ポイズングローブだけでなくキングクラブ…その他の魚が多数。
キングクラブはひっくり返ってるか打ち付けらて気絶してたし、陸地に残された魚なんて簡単に捕まえられる。
目的は達成出来たし、オマケも手に入った。
だが、しかし…
「これをイーナの手柄とするのは嫌だな、正直に言って」
「全くだ。これはレイクドラゴンからの贈り物だろう。決してイーナ、お前じゃない」
「あたいもそう思うぜ」
「わたしも~」
「右に同じ」
「うぅ…皆、厳しいですわ…」
いやぁ…レイクドラゴンは良い奴だったしな。
確かに津波を起こして水浸しにされたが、沖に流されそうになったイーナを咥えて浜辺に帰してもくれた。
鱗を剥がした張本人のイーナを、だ。しかも釣り竿まで回収してくれた。
もはや紳士と言っていいんじゃなかろうか。
雄か雌なのか知らんけども。
「お嬢様、兎に角御着替えを。風邪を引いてしまいます」
「そうだな。ジュンは馬車の中で着替えるといい。私達は外で着替えるから」
「いやいやいや!逆だろ?外で着替えるなら男の俺だろ。俺が外で着替えるから…」
「ジュン様は何を仰ってますの?殿方が外で着替えるなんて…はしたない!」
ああ…そういうとこも逆転してんのか。女性が外で生着替えとか…何処のヌーディストビーチだ。
「あたいらの事は良いからサッサと着替えた方がいいぞ、ジュン」
「でないとカタリナに覗かれちゃうよ」
「だ、誰が覗きなんてするか!」
「逆にジュンが覗くのはアリ」
「だ、駄目ですわ!だって今日の下着は…普通ですもの!」
普通だろうが普通じゃなかろうが覗かない………普通じゃない下着って何?
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「よし、全員乗ったな。ファリダ、出してくれ」
「畏まりました」
着替えも終わり、荷物も乗せ終わり。
湖に着いて一時間も経たない内に帰路に着く事に。
今から帰路に着けば陽が落ちる前に途中にある村で宿をとる事が出来るだろう。
「ああ…結局街に入る事はありませんのね…会いたい人物が居たのですが」
「そう言う事は早く良いなよ。今からでも引き返すか?」
「いいえ、ジュン様。お気になさらずとも結構ですわ。あの街の代官の娘は年上ですが友人付き合いをしておりますの。近々子供が生まれるそうなので会おうかと思っていただけですの。子供が生まれたら会いに行きますわ」
それはそれは。大変におめでたい事で…って、やっぱり会いに行けばいいだろうに。
「良いのですわ。それによくよく考えれば今日は土産を用意してませんもの。また今度にしますわ」
「土産なら、それでいいんじゃね?」
「あ、それいいかも」
「ドラゴンの鱗…ちょっとしたお宝」
レイクドラゴンから剥がした鱗…津波に飲まれながらもしっかり持ってたらしい。
水色に輝く鱗は、今もイーナの手にあった。
「そうですわね。ですがこの鱗を送るにしても、このまま手渡しでは少々不格好ですし。アクセサリーか何かに加工して渡そうと思いますわ。今日は帰りましょう。余計な事言って申し訳ありませんでしたわ」
「お前が良いと言うなら良いがな。折角びしょぬれになってまで手に入れた鱗だ。失くすなよ」
「な、失くしたりしないわ。そろそろ許してちょうだい、カタリナ」
「別に怒ってない。私はお前に対してはいつもこうだろうに」
「そ、そんな事ないわ。やっぱり怒ってるじゃない」
やいのやいのと。そんな会話をしながら馬車は進む。
途中、幾つかの馬車とすれ違うのだが、皆冒険者、或いは傭兵と思しき人物を護衛として雇っているようだった。
中には幾人かの商人が固まって一団となり、何十人と護衛を連れていることも。
随分と警戒しているようだが、この辺りには危険な魔獣でもいるのだろうか。
「ん~…あたいが知る限りじゃ、この辺りに危険な魔獣なんていなかった筈だけどな」
「わたしもそう聞いてるよぉ」
「そうなのか?イーナ」
「そうね、わたくしもそう聞いてるわ。あの方達は魔獣以外の何かを警戒しているのではなくて?」
魔獣以外の何か…となると人間…盗賊か。
ん?人間、盗賊…そう言えば最近男を狙った誘拐の話があったな。
「ああ、あったあった。冒険者ギルドで聞いたやつな」
「あったねぇ…って、誘拐された人の捜索依頼が出されてたのって、この辺りじゃなかった?」
「何、そうなのか。それで彼女達は厳重な警戒をしてるのだな」
「いえ、お嬢様。目的は男、人攫いなのでしょう?男が商人団に混ざってるとは思えませんし、彼女達は別の理由で警戒しているのでは?」
それもそうか。しかし人攫いが横行してる地となれば警戒を強めるのも当然だと思うけど。
「…聞いた方が早えな。さっきの奴ら、まだそんな遠くに行ってねぇだろ。あたいが行って聞いて来るぜ」
「うん。気を付けてね」
「私達は此処で待つとしよう」
「あ、俺も行く。アムだけじゃ心配だし」
「そ、そうか?じゃ一緒に……いや、やっぱいいわ。ジュンが来ると全員付いて来そうだしよ」
…確かに。それじゃ馬車事戻った方が早いわな。
結局、アムが一人で走り、十分もしない内にアムは戻って来た。
「おかえり、アム。どうだった?」
「おう、ただいま。バッチリ聞いて来たぜ」
アムが聞いて来た話によれば、やはり護衛が大勢いる理由は人攫いの一件にあるらしい。
なんでも、これまでの人攫いは街や村で行われていたが警戒が強まった為に馬車を襲い、男がいれば攫い、居なければ荷物を奪って逃走、に切り替えたらしい。
男が馬車に乗ってる事は殆どない為に皆殺しにされて荷物が奪われるのが殆どだそうだが、一人だけ男が誘拐された事があったそうだ。
その男が誘拐された事件の時のみ唯一生き残りが居たのだとか。
男を狙って襲撃、居なきゃいないで強盗、か。物騒な世の中だな、ほんと。
「事件が起きてるのは王都とは逆方向だってよ。だから王都に向かうなら安全だろうけど、警戒はしとけって忠告されたぜ」
「王都とは逆方向…つまり、湖よりも更に進んだ方向で人攫いは頻発してますの?」
「そうなるんじゃねぇか?」
「なら人攫いはレンドン家の領内ギリギリか、もしくは隣の領地ギリギリで行われていたかのどちらかになるな」
「…そうなるわ。お母様から何も連絡を受けていないから違うと思うのだけど…」
「どちらにせよ、我々もより警戒を強めなければなりませんね。野営にならないように次の村に急ぎましょう」
人攫い、ね。もし襲ってきたら返り討ちに……って、まだデウス・エクス・マキナは使えないんだっけ?
『まだやな。あと十二時間はかかるで」
マジかよ。あと半日…それまで何も無ければいいけど。
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