第91話 腐ってました

 アイシャ殿下のニックネームはアイ。


 ファーストネームからミドルネーム、ファミリーネームまでアイで始まるなぁとは思っていたが。


 まさかニックネーム…愛称がアイというパターンで来るとは。


 ユウは未だに確信出来ないでいるが、今回は間違い無いだろう。


 アイシャ殿下がエロース様が言ってたヒロイン候補の一人、アイだ。


『…そーかそーか。遂に来たか。ユウは前世が男っちゅう事がネックになってメインヒロインレースから一歩後退したけど…アイがわての最大最強のライバルっちゅうわけやな!』


 まだそんな事言ってんの、お前…何だメインヒロインレースって。


 話がしたい事が増えたけど、今日はこれで帰ると…


「で、殿下!こ、これは一体何です!」


「こんな…破廉恥な!エロース教だって持ってませんよ!」


 アニエスさんとソフィアさんが待つ仕事部屋に変装してから戻ると二人がアイを捕まえて詰め寄っていた。


 どうやらアイが描いてる漫画に物申してるみたいだけど…破廉恥?


「あ、読んでくれた?感想は?」


「ふ、不潔です!」


「絵が大半を占める本というのは斬新だと思いますが、内容がいけません!小さな子供が見たらどうするんですか!」


「というか子供の殿下が何故こんな内容を描けるんです!」


 あー…察し。18禁な内容なわけですね…


「そう?控え目な方なんだけどな、これ。ならこっちはどう?この女騎士のモデルはレーンベルク団長なんだけど」


「わ、私がモデル?……な、ななな、何ですか、これぇ!」


「やっば女騎士と言えば女騎士✕オーク!くっ殺は外せないわよね!」


「何を仰ってるのかわかりません!」


 …オークに襲われる女騎士のモデルがソフィアさんなわけですね。


 多分、初めて漫画を読んだんだろう。それがエロ漫画で、しかも自分がモデルとか。


 何それ、どんな罰ゲーム?


「…これは…レーンベルク団長…こんな趣味が…」


「違います!殿下が勝手に描いたんです!私にこんな趣味ありません!殿下!何なんですかこれ!」


「何って、エロ本よ、エロ本。独り身の寂しい女性に送る夜のオカズ」


「殿下は本当に十二歳ですか!?」


 エロ漫画を描く十二歳…うむ、社会問題になりそうだな。


 日本で出版しようものなら確実にアウトだろう。


「こ、これが殿下のお仕事なのですか?」


「そ。もう何年もやってるのよ。ずっと昔から、ね」


「そんな言うほど昔じゃないでしょ、殿下」


「初めて出版したのは二年前じゃないですか」


 いや、今のは多分俺に向けて言ったんだ。


 前世から描いていた、と。


「に、二年前…十歳の頃からこんな物を!?」


「こんな物とは失礼ね。ウチの本、大人気なんだからね。それに製品化するにあたって色々準備が必要だったから、それも含めたらもっと前よ。大量印刷の設備や技術開発、アシスタントの教育…他にも色々。ほんと大変だったんだから!」


 そう言えば…漫画に使うトーンとか専用のペンだとか。元々あったとは思えないしな。


 しかし…


「布教活動ってこれの事か」


「その通りです。私もアシスタント達も、姫様の作品に魅力された信者達。私がモデルの作品もありますよ」


 クオンさんはダークエルフ…そしてメイド。


 そのクオンさんがモデルのエロ漫画…ちょっと読ませていただいてもいいですかね?


「なるほど…陛下が秘密にするように仰るのも当然です」


「そうですね…アインハルト王国の第一王女がこのような物を描いてるなど他国に知られたら…一体どうなるか」


 エロース教は絶賛しそうですけど。それどころかスポンサーになりそうな気がする。


「えー…じゃあこっちはどう?はい」


「どんな内容でも私は……こ、ここ、これ、これは!?」


「な、ななな、何ですか、これは!」


「ツンデレ王子✕ドS執事!王子のモデルは勿論ジークよ!」


 あぁ…それはダメじゃないかなぁ。だって、それってアレでしょ?執事は女じゃなくて男なんでしょ?


 ボーイズラブはこの世界に持ち込んじゃダメだと思うなぁ、俺は。


『ツンデレ王子とドS執事…な、なんやろ、なんかトゥンクって…』


 勝手に俺の心臓でトゥンクするな。俺が勘違いしたらどうする。


「こ、こんな…お、男同士で……わ、え、そ、そんな事しちゃうんですか…ええぇ」


「れ、レーンベルク団長、モジモジするな。それ以上は止めておけ。戻れなくなるぞ」


 そーです、その扉を開くのはソフィアさんには早すぎる。


 はい、ボッシュート。


「ああ…」


「残念そうな顔をするな……で、では殿下、失礼します」


「うん。あ、続きが読みたいなら中央通りにある書店『本の泉』で売ってるからね」


「「……」」


 …これは二人とも買いに行くな。どうやらアイの布教活動は成功してしまったようだ。


「あ、そーだ。ジュン!今度ツンデレ王子✕イケメン冒険者描いていい?冒険者のモデルは勿論ジュンで!」 


「却下!却下却下!ぜっーたい却下!」


 ジーク殿下の相棒云々ってこれの事か!誰がそんなの引き受ける……はっ!まさかジーク殿下と友人になれって、それが真の目的!?


「ジーク殿下とジュン君が……ゴクリ」


「そ、それは……禁断の扉だな…だが、何故だ…初めての戦場よりもドキドキする…」


「フフフ……計画通り」


 あああ…ソフィアさんとアニエスさんが…完全に堕ちた。


 これ以上犠牲者を出さないようにしなくては!


『マ、マスター。わてもツンデレ王子✕ドS執事が読みたいんやけど…』


 お前もかーい!絶対嫌だよ!お前が読むって事は俺が読むって事じゃんか!


 なんだその拷問!

 

『えー!ええやんええやん!わての初めてのワガママ!叶えてぇや!なあなあ!』


 今は拒否出来てもアイと結婚して一緒に暮らす事になったら……アイとの婚約…早まったかもしれない。

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