第90話 想定内と想定外でした

 アイシャ殿下は転生者だった。


 それは殿下のコスプレを見ればわかる。間違いない。


 それにユウと違って完全に記憶がある状態で。そうでなきゃ此処まで完成度の高いコスプレなんて出来やしない。


「それでアイシャ殿下。如何ですか?」


「えっと…き、気持ちは嬉しいし、ウチも出来るならそうしたいけど…ウチはまだ十二歳だし…そうは見えないかもだけど…成人するまで待って欲しいかな。やんなきゃいけない事もあるしさ」


「わかりました。そうしましょう」


 というわけで、俺とアイシャ殿下の婚約が決まった。


 と言っても、まだ当人同士が決めただけで色々クリアしなければならない事があるが。


「おかしいわ…ジュン君との結婚に向けて問題を無くす為に殿下に協力をお願いしに来たのに…」


「まさかジュンが殿下に惚れるとは…逆は想定内だったが…」


「ま、まぁまぁ。ウチだってジュンほどの男が来るなんて思ってなかったから、この事態は想定外。来ても精々並程度だろうって思ってたのにさ」


 その場合はどうするつもりだったのかと問えば、自分の名前で俺に干渉する事を禁じるだけで十分だろうと考えていたらしい。


「いやぁローエングリーン伯爵やレーンベルク団長が言うような傾国の美少年なんて居るわけないって思ってたけど。まさかジーク以上の美少年が来るなんて。あ、そーだ。今度そのジークに会ってくれる?」


「俺がですか?何故です?」


「ジークは男友達を欲しがってるの。寝言でも言ってるらしいから、よっぽど欲しいんだと思うの。あれだけ女に囲まれた生活してれば無理ないけど」


 さもありなん。俺だって欲しいもの男友達。


 でも、男友達の紹介くらい王族なら簡単に出来そうなもんだけど?


「そうなると貴族の男になるわけだけど、まともなのいないもん。女とみれば見境なく口説くようなのばっかり。酷い奴はウチを無理矢理押し倒そうとするんだから。潰してやったけど」

 

 …一体ナニを潰したんですかね?あ、言わなくていいです。


「で、お願い出来る?ウチから見てもジークは可哀想だからさぁ。未来の義兄だし、ね?」


 チラッとアニエスさんとソフィアさんを見ると頷いている。


 今後を考えてもジーク殿下が味方になるのは好ましいという事か……あれ?


 じゃあ最初っからジーク殿下に協力を要請すれば良かったんじゃ?


 そう問うと、それは不可能だと返された。


「ジーク殿下に会える女性は限られてるのよ。ジーク殿下を狙う不届き者が多いから」


 この場合、命を狙うのでは無く貞操を狙ったという事だ。


 帝国からも狙われて戦争になってる事もあり、軽い女性不信に陥ってるとか。


 だから会う必要のない女性には極力会わないし、女王陛下以下、周りも協力してるのだと言う。


 それでも世話役や護衛は必要なので結局は女に囲まれてるのは変わらないのだが。


 兎に角、王国の名門貴族ローエングリーン伯爵であるアニエスさんや白薔薇騎士団団長のソフィアさんでもジーク殿下に会う事は難しいのだとか。


「そういう事なら、はい。友達になれるかはわかりませんが、ジーク殿下にお会いするのは構いませんよ」


「ありがと。御陰で色々捗るわ。あ、あとタメ口でいいよ。こ、婚約するんだしぃ、えへへへ」


「あ、はい。じゃなくて、わかった……ん?」


 ……んん?捗るって何がだ?俺とジーク殿下が会う事で何が捗る?


「それじゃ、今後はジュンをノワール侯爵になれるように動くとして。今日のところは解散でいい?さっき見てわかったと思うけど仕事が忙しくて」


「はっ。それではこれで失礼―――」


「アニエスさん、待ってください。殿下と二人だけで話がしたいんですが」


「――え。そ、そんな…まさか!?今から此処で!?」


「……何を考えてるのか知りませんけど。本当に話をするだけです。五分くらいで構いませんから」


「ウチは構わないよ。婚約者の頼みだし。そうだ!待ってる間にこれ読んでて!」


「「は、はぁ…」」


 二人に渡したのは恐らく殿下が描いてる漫画だ。


 アニエスさんとソフィアさんには漫画を手に仕事部屋に行ってもらい…殿下と二人切りなった。


「それで何の話し?ウチの個人情報が聞きたいとか?」


「個人情報、ね。的外れではないな」


「ん?スリーサイズなら上から――」


「飛べない豚は…」


「!!!……ただの豚だ」


 やっぱり…喰い付いた。そしてこの反応…間違い無い。


「そんな装備で大丈夫か?」


「大丈夫だ、問題無い」


 殿下の眼が輝いている。殿下も確信している筈だ。


「転生者…だよな?」


「…うん!」


 コスプレを見た時点で確信してはいたけど、やはりだ。


 殿下は転生者、そしてアニオタだ。ゲー厶もかなり好きだったと見た。


「ジュンもそうなんだよね!くぅぅ!うっれしい!じゃ、ウチが何のキャラのコスプレしてるかわかるんだ!」


「うん。俺もそのキャラ好きだよ」


「だよねだよね!他にはどんなキャラが好き?ウチはね――」


「悪い、その話はまた今度な。今は大事な事だけ確認させてくれ」


 俺は殿下に前世の記憶は全てあるのか、転生には神様が関わっているのか、何らかのギフトやスキルを持っているのかを聞いた。


 返答は…


「うん。記憶は残ってるし、神様にも会ったよ。記憶は十二年以上も前だし、普通に忘れちゃってる事もあるけど」


 …神様が関わってる!女神エロース様から俺と同じ理由、それか俺のサポートで送られた存在とか。


 それとも女神エロース様を恨んでる神様が送った嫌がらせ要員か。


 はたまた全くの無関係、別の理由で送られた存在か。


「ウチはね、女神フレイヤ様に転生してもらったの。女神エロース様がこの世界を救う為に送った存在を狙う奴が居るから護ってやれって。もしかして、それがジュン?」


「…うん」


 別の神様が俺の為に送った存在だったか…そして俺を狙う奴って多分、女神エロース様を恨んでる神様からの嫌がらせに送られた奴だよな。


 うわぁ…やだやだ。


「そっかぁ!つまりウチらは運命の二人!ウチが絶対に護ってあげる!その為の力も貰ったし!」


「へぇ?それってどんな―――」


「あのぉ殿下ぁ。そろそろ仕事しないとマジのガチでヤバいですよぉ」


 控え目なノックのあと、隣の仕事部屋に居た人が顔を出す。


 今日は此処までにするしか無さそうだ。


「殿下、話はまた今度。出来るだけ近い内に」


「…うん、ごめんね。じゃ…あ、そうそう!親しい人はウチの事はアイって呼ぶから!ジュンもそう呼んで!」


 ……なんて?



――――――――――――――――――――――――


あとがき


フォロー・レビュー・応援・コメント ありがとうございます。


アイの容姿イメージに関しては察してくださいとしか言えませぬ。


作者の好みじゃないのかって?それも察してくださいとしかry

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