第88話 修羅場でした
「ジュン、お前は第一王女殿下について知ってる事はあるか」
急遽、第一王女と会う事になり王城へ向かう途中馬車の中でアニエスさんにそんな質問をされた。
知ってる事って言われてもな…特に調べてもいないし、自然に耳に入って来る程度の事しか知らないな。
「ん~…居るって事しか知りませんね」
改めて考えても本当にそれしか知らないな。メーティスに調べて貰えばわかるんだろうけど、そんな考えが浮かぶ事も無かったし。
「そうか。ま、そんなものだろうな」
「あの方は極端に表に出ようとしませんからね。社交界にも出ませんし、普段何をされてるのか私も知りませんよ」
「私もだ。王城に行ってもですれ違う事も殆どないぞ」
…それは働いてないって事では?
この世界、男は何もしなくても許されるが女は許されない。働く男は王族や神子くらい。
そして王族の女は子供の内から働いてるものだと聞いていた。
なのにこの国の第一王女は伯爵にすらよく知られてないという。
それはつまり働いてない…引きこもりのニートなのでは?
「いや、仕事はしてるらしいんだ。何をしてるのは知らないが」
「仕事をされていたのですか。私は噂で体術の天才で、体術において王国内に敵う存在はいないとだけ聞いてますが」
「何?それは初耳だな。だが殿下はまだ十二歳だろう。それで体術において王国最強だと言うのか?」
俺は第一王女が十二歳なのも今知りましたけどね。てか、名前も知らねぇよ、俺は。
「名前も知らないのか…第一王女殿下の名前はアイシャ・アイリーン・アインハルト。陛下の第二子にして長女、次期女王筆頭候補であらせられる」
「偶に来る外国からの来賓や面会を願う貴族達と会う時にくらいしか公務をされないので、私もあまりお会いした事ないのだけどね」
つまりジーク殿下の妹だよね。この世界はほぼ全ての国で女王制だから第一子で長男のジーク殿下が王太子にならないのはわかるんだけど。
「あれ?第一王女殿下って事は第二王女殿下も居るんですよね?俺、そっちも知らないんですけど」
「ああ…第二王女殿下か。あの方はあの方で問題があってな。何というか…うん、独特な方でな」
「第二王女殿下はまだ幼いのもあってあまり表に出てないのよ。今、八歳だったかしら」
「確かもうすぐ九歳になられる。が、表に出てないのは幼いからではない。あの方を表に出すのは不安だからだ」
…それ、他の人に聞かれちゃまずいんじゃ?解かってるなら黙ってろ?あ、はい。
「で、結局名前と年齢、それと体術の天才って事以外の情報は無いって事ですか?」
「そうなる」
「あとは容姿なんかも伝えられるけれど、今から会うのだし必要無いでしょう?」
「ま、可愛らしい方だよ。あと陛下とは全然似ておられないとだけ言っておこうか」
女王陛下は一度演説してるのを見た事があるけれど、野性味のある人だったな。ヒョウ柄の服とか似合いそうな…金髪のショートカットな美人だった。
「ところで俺、こんな格好ですけど大丈夫です?正装とかクリスチーナがくれたスーツくらいしかないけど、この格好よりはいいでしょう?何処かで着替えれます?」
「必要無い。お前は冒険者をやっていて、男である事を隠す為に女の服装をしてると伝えてある」
「今日は急だから礼服は用意出来ない事も伝えてあるわ。殿下もそれはどうでもいいって言ってたから、良いのよ」
でも殿下以外の人にも会う事になりそうだし、城にいる人に俺の事覚えられるのも避けたいんだけどなぁ。
「そう言うと思って司祭様にいつぞやの変装道具を借りに行かせている。今頃城の前で待っている筈だ」
「でも殿下と会う前に外してね。途中は変装させてもいいけど殿下の前では素顔を見せるように言われたから」
…なんか、アレだな。筋を通せみたいな事言ったり素顔を見せるように言ったり、何となく真っ直ぐな性格な人に思える。
こういうタイプは下手な事言わずにストレートに簡潔に言ってお願いするのが良さそうだ。
「着きましたね」
「うちの使用人は…居るな。少し待て」
それから馬車内で変装をしてから城内へ。
普通なら平民が城内に入るには色々な手続きと審査があるのだがローエングリーン伯爵と白薔薇騎士団団長の連れという事でフリーパス。
転生して初めて王城内に入ったが…デカいな。
城内には常駐の騎士、使用人含め常に数千人が働いているらしいし。そりゃこれだけデカい城だと維持するだけの使用人の数も相当数必要だろう。
「ローエングリーン伯爵だ。アイシャ殿下と面会を希望する。取り次いでもらいたい」
「畏まりました。暫しお待ちください」
待機室のような場所に通された後、官吏のような人にアニエスさんがそう伝えて待つ事数分。
一人のメイドさんが入って来た。
「お待たせしました。殿下がお会いになるそうです。御案内します」
「うむ」
メイドさんに案内された先は城の三階の奥の奥。一番奥の部屋に殿下が居るという。廊下の途中に騎士が立っていたが、王族の私室がある場所だからだろうか?
「いえ、殿下の私室があるにはあるのですが、今、殿下が居られるのは仕事部屋です」
「ほう?仕事部屋だと?我々に殿下の仕事を見せても良いのか?」
「構いません。殿下自身は隠しておられませんし。陛下が極力隠すように仰ってるだけですので」
「……ほんとーに良いのか?」
普通に考えてダメじゃね?陛下は隠すように言ったんでしょ?極力って事は少しはいいって意味じゃないと思うよ?
「良いのです。殿下は布教活動をされておいでですから。かくいう私も信者の一人でして」
「…布教活動?なんだ、殿下は新興宗教でも始められたのか?」
「王族が新興宗教を始めるなんて聞いた事ないけれど…そうなの?」
「まさか。宗教ではありません。ですが殿下が布教活動と仰ってますので。私共もそれに倣ってそう言ってるだけです」
……何だろう。すんごい引っ掛かる。宗教以外で布教活動って言葉を使うのを、俺は知ってるぞ。
「こちらです。殿下、お客様をお連れしました」
案内された先は
メイドさんがノックするが返事なし。しかしメイドさんが気にせず扉を開ける。
眼に入って来た光景は…
「ちょっと!三番取って!三番のトーン!あとこれもベタお願い!」
「殿下、此処は何処のシーンなんですか!」
「そこは花畑!背景にお花描いてお花!」
「殿下、これ締切に間に合いますかね!」
「いけるいける!いけると思ってやりなさい!」
これ、アレだよね。漫画家の作業風景だよね?
しかも修羅場ってらっしゃる…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます