第85話 ダンジョン化が進んでました
「さぁさぁ!ドラゴンちゃんは何処かなぁ!」
「何でそんなにテンションたけぇんだよ…」
俺達は今、廃鉱山内部に居る。
勿論、ミスリルドラゴンをどうにかする為だ。
「なぁ、やっぱジュンは帰らねぇ?」
「わたしもそれが良いと思うよ?」
「無理は禁物」
未だにアム達が反対するように、ソフィアさん達も本音では反対だと顔に書いてある。
だがキスの条件は廃鉱山に行かせてくれる事だから、此処で待つ事になるならキスは無しと説明。
渋々ながら納得し、同行を認めてもらった。
キスの件をカウラに聞かれてしまったので、アム達にもキスする事になってしまったが。
今、この場に居るのはアム達の他にソフィアさんとナヴィさんを含む白薔薇騎士団十名とステラさんだ。
カタリナとイーナは置いてきた。
カタリナはともかく、イーナのドジを此処で炸裂されてはたまらない。
二人共に不機嫌になっていたので、後で何かしらのフォローをしなければならないだろうが…今はそれよりも、だ。
「ステラさん、どっちです?」
「こっちだ。脇道から魔獣が出て来るかもしれん。気を付けろ」
と、ステラさんは言うが廃鉱山内にミスリルドラゴン以外の魔獣が残っていない事はメーティスが確認済みだ。
…人間も残ってないみたいだが。
「うげっ…グロ…」
「冒険者やってると偶に見るけど…慣れないね」
「閲覧注意」
坑道には逃げ遅れたと見られる犯罪者の死体がチラホラと散見した。
魔獣や猪なんかを狩って解体してる経験があるから吐かずに済んではいるが…見ていて気持ちのいい物ではない。
坑道内は明かりが少なく、光源は各々が持ったランタンくらい。
だから、あまり見る事無く済んでいるのだが…偶に靴から伝わるグニャとした感触については考えないでおこう…
「ふぅん…冒険者をやりたがるだけあって肝っ玉は座ってるな。普通の男なら気を失ってるか逃げ出してるぞ。多分」
ステラさんがそんな事を言うが…それはこの世界の男に限らず一般人なら大概逃げ出すんじゃないだろうか。
何かに食い散らかされた人間の死体があるんだぞ?そりゃ逃げるよ。
「しかし不憫だな。最初から男として育てられていれば、冒険者になりたいとか考える事も無く、贅沢に生きる事が出来たろうに。マチルダの気持ちはわかるし、理由も納得だがな。ジュン、お前自身はどう思ってるんだ?」
前にも似たような事聞かれたな。やはり一般的な男の生活を知っている人からすれば俺は気の毒に見えるらしい。
そんな事無いって事もわかりそうなものだがなぁ。
「院長先生には感謝してますよ。一般的な男の生活は俺も聞いて知ってますが、羨ましいと思った事は無いです」
「……そうか。だが私と結婚したらうんと甘えさせてやるからな」
「はあ……ん?」
なんか結婚とか聞こえたが?俺はいつ、ステラさんと結婚する事になった?
「おい、こら。何言ってやがる年増エルフ」
「ギルドマスターって院長先生や司祭様とあんまり変わらない歳なんでしょ!歳の差を考えなさいよ!」
「ロリコン」
「誰が年増か!誰がロリコンか!私はまだ八十だぞ!まだ数百年はこの若さのまま!ピッチピッチだぞ!見ろ!」
何故脱ぐ…いや、ピッチピッチだって証明したいんだろうけどさ。
…エルフってスレンダーなイメージあるけど、脱いだら凄いんです系だったんですね、ステラさんてば。
「ちょっと煩いっスよ。魔獣がまだ居るかもしれないんスっから静かにして欲しいっスね…ん?」
「何か近付いて来るよ!」
何かが近付いて来る?それはおかしいな…メーティスの調べじゃミスリルドラゴン以外に生きてる存在は居ない筈だが。
だがカウラだけでなくナヴィさんも何かに気付いたらしい。
武器を構えて止まるように指示を出していた。
指示に従い少し待っていると奥から来たのは…
「うわぁ…やだやだ…」
「うっ、ぷっ…」
「夕食をリバースしそう…」
ゾンビだ…それもまだ新しい死体の。
恐らく…というかほぼ間違い無く。逃げ遅れた犯罪者、その末路、成れの果てだろう。
「こんな短時間でゾンビ化するなんて…」
「ミスリルドラゴンが居座ってる影響が早くも出て来たな。ミスリルドラゴンを主としてダンジョン化が進んでるんだろう。早くどうにかしないと、どんどん魔獣が集まって来るぞ」
どういう事かと言うと。閉鎖的な空間に強い魔獣が棲み着くと魔素…魔力の源が溜まりやすくなる。
そういった空間は魔獣にとって心地よいらしく、魔獣が集まって来る、という事らしい。
「あのよ、それって…」
「此処に来るまでにあった死体もゾンビ化するって事じゃ…」
「いずれはするだろうな。ミスリルドラゴンから近い位置にある死体から順にゾンビ化していくだろうから、途中にあった死体はまだ大丈夫だろうが」
それでものんびりゆっくりとしない方が良さそうだ。
差し当たってはあのゾンビ達をどうにかしないと。
「というわけで。此処は俺がや―――」
「フッ!」「ハァァァ!」「セェイ!」
…あっと言う間に白薔薇騎士団が片付けてしまいました。
そりゃあね、成り立てのゾンビなんて最強騎士団にしたらザコでしょうけど。少しくらい出番をくれたって…
「ファウ。念を入れて燃やしとけ」
「ん」
本来なら坑道内で火を使うなんて駄目に決まってるんだが…今回は仕方無い。かなり広いし、一酸化炭素中毒になったりはしないだろう。
ゾンビを片付けて移動を再開。
奥に行くほど死体が増えるが魔獣の死体も僅かだが転がっていた。
犯罪者達も無抵抗で殺られたわけじゃないらしい。
「それにしてもデカいな、此処。地図はチラッと見たけど、坑道も複雑だしよ」
アムの言う通り、この廃鉱山はかなり大きく、坑道は入り組んでいる。
崩落しないように補強されているようだが、ミスリルドラゴンが暴れたら山全体が崩れるんじゃないかと心配になる程に入り組んでいた。
「此処はほんの数年前まで活気のある鉱山だったからな。それも五十年もの歴史のある鉱山だったんだ」
「五十年…ってすげぇのか?」
「凄いわよ。鉱山は採掘ペースにもよるけれど三十年も続けば長い方なの。それが五十年も採掘出来たなら、此処は世界有数の鉱山だったと言って良いでしょうね」
へぇ…それはそれは…って、そんな大鉱山をユーバー商会は持ってたのか。
それにもう一つ稼働中の鉱山を持ってると?
確かにユーバー商会は大商会だな。
「いや、最初はこの鉱山の所有権を持ってたのはユーバー商会じゃない。確か今は断絶した侯爵家…ノワール侯爵家が持っていて、それをユーバー商会が格安で買い取ったんだったか。三十年ほど前の話だ」
「流石当時を知る生き証人。よく覚えてるっスね」
「今回の事で調べ直したんだ!」
それでもユーバー商会が大商会なのは変わらないだろう。
しかし、だからこそ焦ったのかもな。
「もう一つの鉱山もいずれは廃鉱になる。そうなる前に新しい商品、商売を確保したい。その為にジュン君を欲しがったんでしょうね」
そんな所だろうな。悪い人じゃなかったし、友人になったベニータの為にも、もう一つや二つ何か提案してから去るとしようか。
「待って、何か聞こえる…大きな生き物の寝息みたいなの」
「ミスリルドラゴンだな。奴は恐らく、この先の縦穴を降りた先、魔草を栽培してた広間に居る」
どうやらミスリルドラゴンは近くに居るらしい。
はてさて…バトルになるかな?
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