第84話 想定以上の大物でした

「これは……」


「すげえ数の魔獣死体だな…血の匂いがすげえ」


 王都から出て一日。


 クライネさんに代わりハエッタさんが率いる白薔薇騎士団にアム達、カタリナとイーナも予想通りに合流。


 俺に帰れというアム達を宥めつつ向かった廃鉱山で見た光景はおびただしい数の魔獣、その死体。


 近くの街からの応援も来てるようで死体処理に追われている様子が見て取れた。


 だが廃鉱山から出て来る魔獣は打ち止めになってるようで、戦闘は起きていないようだ。


「ハエッタ?クライネはどうしたの?それに、なぜジュン君が来てるの?」


 周りにアレコレと指示を飛ばしてるソフィアさんに近づくと、直ぐにこちらに気が付く。


 ソフィアさんは魔獣の返り血などで汚れてはいるものの無傷。若干の疲労は見えるが、まだまだ元気なようだ。


「帝国との戦争中はもっとキツかったもの。それよりクライネは?」


「ええ、説明します」


 ハエッタさんがゼニータ会長の屋敷で襲撃があった件を説明。十名程の団員を残しクライネさんが捕縛した暗殺者の尋問に残った事等を説明。更に…


「クライネが残った理由はわかったわ。でも、なぜジュン君を連れて来たの?アム達やカタリナ殿にイーナ殿が来てるのはジュン君に付いて来たんでしょうけど。此処は危険よ?それがわからないクライネじゃないでしょうに」


「うふふ……それはですね……ゴニョゴニョ」


「なんなの、そのニヤけた顔…………ええ!?」


 驚愕と期待を混ぜた顔で俺を見るソフィアさんに頷きで返すと、ソフィアさんは拳を突き上げガッツポーズ。


 クライネさんを大絶賛していた。


 …そこまで喜ばれると恐縮…いや、ちょっと怖いです。


「なぁジュン。一体どんな条件出したんだよ」


「私も気になるな。レーンベルク団長の様子からして何かの交換条件を出して同行を認めさせたんだろう」


「わたくしも気になりますわ!」


 と、アム達に詰められるがそこは華麗にスルー。此処でキスを条件に出したなんて言えば荒れるのが目に見えてる。


「そんな事よりソフィアさん、状況の説明を御願い出来ますか」


「うふふふふ………はっ。…そ、そうね。取り合えずハエッタ、王都組の団員は魔獣の死体処理と周辺の警戒に当たって。廃鉱山組の団員は休息をとらせるわ」


「了解です」


 他にも細かい指示を出した後、移動するソフィアさんについて向かった先は白薔薇騎士団が設営した陣地。


 その中にある天幕の一つに入り、各小隊の隊長クラスが集まるのを待つ事数分。


 最後に入って来た人物はステラさんだった。


「ステラさん、無事でしたか」


「なんだ、お前も来たのか。さては私が心配でたまらなかったんだろう。愛い奴め。では感動の再会を祝して――」


「あたいらが居るのにそんなんさせるわけないだろが!」


「ジュンから離れて!」


「この色ボケエロフ」


「チッ…」


 無事どころか全然元気だな。それよりもエロフなんて言葉誰にならったんだファウ。


「……いいかしら?状況の説明をするわよ」


 ソフィアさんとステラさんの説明が始まった。


 ステラさんが廃鉱山に潜入した事で多くの事が判明。


 先ず、廃鉱山に居た連中はドライデン連合商国の人間で間違いなく、ゼニータ会長らを襲ったのは裏社会の人間だ。


 廃鉱山内部には騙して連れて来られた孤児院出身の子供達や奴隷商人から購入した奴隷が居て、彼女達に危険な作業をさせていた。


 そして廃鉱山で何をさせていたのかと言うと…


「連中はコレを栽培させていたんだ」


「…コレは?」


「魔草だ」


「おいおい…魔草ってあの魔草かよ」


 魔草…様々な禁制の薬品の材料となる魔力を含んだ植物で国が指定した機関ではないと所持も栽培も禁じられている。


 魔草を使って作られる物の代表的な例が魔薬。日本では麻薬と呼ぶ、悪魔の薬だ。


 一応、媚薬等のクリーンな…そうとは言えないかもしれなが、真っ当な薬の材料にもなるのだが、裏社会の組織と繋がってる連中が秘密裏に栽培させて使用する目的なんて魔薬しかないだろう。


「知ってると思うが魔草には魔獣を引き寄せるという性質がある。だからこんな廃鉱山で栽培してたんだろうが…地中から虫系の魔獣が出て来てな」


 ステラさんが侵入して状況をほぼ把握してすぐ、魔草に惹かれた魔獣達が出現。


 大混乱に陥ったがその混乱に乗じて子供達と奴隷達を脱出させる事に成功した。


「悪党どもに魔草のしぼり汁を振りかけてやった。上手く囮になってくれたよ。そこまでは良かったんだが…」


 …囮に使われた悪党どもは全滅だろうな。因果応報、自業自得なのはわかってるが、魔獣に喰い殺されたと思うと、ちょっと来るモノがある。


「最後にとんでもない大物…ミスリルドラゴンが現れたんだ」


「はぁ!?マジかよ!?」


「それって…伝説上の、おとぎ話の類に出てくるような存在ではないのか?」


 ミスリルドラゴン…身体を覆う鱗がミスリルで出来ている、目撃例の少ない非常に強力なドラゴン。


 その生態は謎に包まれており、わかっている事は少ないが高い知性を持ち人語を解する事がわかっている。


 本当にミスリルドラゴンが現れたなら…国中の噂になるな。


「ミスリルドラゴンも地中から出て来た。だから普段は地中に隠れている為に目撃例が少ないのかもな。ま、それは後で考えるとして、だ。続きを話すぞ」


 ミスリルドラゴンの出現により、溢れるように現れた魔獣達は怯えて逃げ出した。


 子供達と奴隷達は無事だが悪党どもは大半が死亡、僅かな生き残りは捕えて後方へ移送、余罪を追及中だそうだ。


「魔草に惹かれて集まった魔獣は討伐したけれど鉱山内部にはまだ残ってるかもしれないわ。それとミスリルドラゴンが残ってるのは確実ね」


 ほほう!つまりはアレですな!俺Tueeeeeeのチャンスですな!


 魔獣の討伐はほぼ完了してると聞いて絶望的かと思ったけど…神は俺を見捨ててはいなかった!


『と、考えるんは早計やで、マスター』


 …なんだよ、水差すなよ。ミスリルドラゴンが居るんだろ?強いんだろ?じゃあ俺Tueeeeeeのチャンスじゃん。


『いやいや。ミスリルドラゴンは人語を解するんやで?なら交渉次第で殺さんで済むかもしらんやん。そういう存在を問答無用で殺すんはマスターかて嫌やろ?』


 ぬ…それは確かに。人類に友好的なら殺すのは抵抗あるな。


「因みに虫型の魔獣が嫌いなのか魔草を独占したかったのか知らんが、いきなりドラゴンブレスをぶっ放した事を考えるに話合いで解決は難しそうだと私は考える」


「そりゃ友好的だとは思えねぇわな」


 ……そう言えば遠目に見た廃鉱山に円形状の大穴が空いてたなぁ。なんの穴かと思ってたら、ドラゴンブレスの痕か。


「兎に角、朝になったらミスリルドラゴンに会いに行くわ。幸いミスリルドラゴンは一体のみ。ならば私達だけでどうにかなると思う。あ、ジュン君はお留守番ね」


 言うと思った。だがそうは行かない。ようやく巡って来た俺Tueeeeeeのチャンス!


 決して逃すまい!

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