第81話 何かが起こったようでした

「……なるほど。それは私達が疑われるのも無理は無い。というより、疑われて当然だな」


「ええ…私でも疑いますよ」


「……」


 クライネさんの説明を聞いたゼニータ会長とポニータさんは納得の表情を浮かべていたがベニータは悲しそうだった。


 そして、その視線は俺とユウに向けられている。


「…スパイだったんだ」


「…ああ」


「言い訳はしないわ」


「ひどい…お友達になれたと思ってたのに!」


 …ベニータからすれば、そう見えるだろう。


 罵倒されるのは仕方無い。こうなったからには甘んじて受け入れよう。


「なんとか言いなさいよ!」


「……」


「…言い訳はしない、でもね、ベニータ。私もジュンお姉ちゃんも、ベニータの事は友達だと思ってるわ」


「そんなの嘘よ!」


「嘘じゃないわ。お姉ちゃんなんて、もしゼニータ会長らが捕まったらベニータだけでも助けられないか、とか考えてたんだから」


「え?」


 え?


 いや、思わず俺も声をあげそうになったが…何故それを知ってる?


 確かにチラッとそんな事を考えてはいたが、口には出してないぞ?


『そらアレやろ。嘘も方便。この場を治める為のな』


 ああ、うん。そういう事ね。はいはい、合わせますよ。


「…本当に?」


「本当よ。ねぇ、お姉ちゃん?」


「ああ、本当だ」


「……なら、赦す」


 取り敢えず、ベニータの怒りは治まった…が。


「「ジー……」」


 今度はクライネさん達からの視線が突き刺さる。


 その視線が言っている。「また増やすつもりなのか」と。


 今回はアレですよ、俺にとってもベニータにとっても友達感覚ですから! 


 決して男女のアレコレじゃありませんから!


「…はぁ。それではゼニータ会長。次はこちらが説明を聞く番です。先ずは廃鉱山に居る連中は何者ですか」


「…知りません。あの廃鉱山…山は売却したのです。なので、あの山に誰か居るならそれは売却相手が用意した人間の筈です」


「売却?廃鉱山を?」


「ええ。坑道でキノコを大量に育てるとか言ってましたが」


 …わざわざ坑道でキノコを?そりゃ育てる場所には困らないだろうけどさ。


 間違い無く嘘だろうけどさ。


「言っていた…ゼニータ会長は売却相手と直接交渉しているのですね。売却相手は誰です」


「サウザン商会のユダ会長です。金貨五千枚で売却しました」


 …裏切りそうな名前だなぁ。名前で判断しろって言われたら

黒だって断じてしまいそうなくらいに。


 そして廃鉱山に金貨五千枚…約五億円か。


 高いのか安いのか、わからんな。


「サウザン商会…確か王国の西方に拠点を持つ商会ですね。農作物を中心に他国との貿易で勢力を拡大している」


 王国の西方というと…ドライデン連合商国がある方角だな。


 なるほどなるほど。点と点が繋がって来たじゃありませんかぁ?


「その売却における契約書等はありますか」


「少しお待ちを…こちらです」


「…確かに、サウザン商会とありますね。こちら、預からせてもらっても?」


「勿論、構いません」


 此処までのやりとりを見るに…やっぱりゼニータ会長は白に思えるんだが。


 ユウは…首を横に振ってる?ユウはゼニータ会長達は黒だと判断してる?一体何故…


『そら廃鉱山の連中がやってる事の内容次第やからな。国家転覆罪とか一発アウトな犯罪をやってたら、知らずにとは言え廃鉱山の提供をしとる時点でなんらかの責任を問われる可能性はあるわな』


 …それは厳しい、と思わなくもないが…仕方ない、のか?


「では次に。勧誘した孤児院の子供達は何処に?」


「それも知りません…そもそも私達が勧誘したのはジュンさんとユウさんの居る孤児院のみ。孤児で多少優秀なら誰でも良いとばかりの勧誘などしておりません」


 孤児の勧誘はユーバー商会を騙った何者かの仕業という事か。ゼニータ会長が孤児院の子供を熱心に勧誘してると聞いて隠れ蓑にした…ってとこか。


 なら子供達が居るのは…廃鉱山か?


『現状で考えられるんはそこくらいやしなぁ。可能性は高いんちゃうか』


 だよなぁ。他に考えられるとしたら…ドライデンに違法奴隷として連れて行かれた、か。


 …もし、そうなら助けに行かないとな。


「…私達からも質問しても?」


「何でしょうか」


「こいつらが廃鉱山に居る連中の仲間だとして、何故今更私達を殺そうと?」


「それは…恐らく廃鉱山を探られてる事に気付いたのでしょうね。今頃は撤収作業に入っていて…貴女方を襲ったのは罪をなすりつける為か口封じ。そして証拠の回収…でしょうね」


 ヒラヒラとさっきの契約書を振るクライネさん。


 クライネさんの予想はおおよそメーティスの予想と一致するな。


「な、なら早く廃鉱山に向かわなくては!」


「ご安心を。向こうには団長が居ます。白薔薇騎士団の半数を率いて、ね」


「白薔薇騎士団の団長…アインハルトの英雄が、ですか」


 ステラさんも居るし、戦力的には問題無い筈。


 よっぽど想定外の事態にならない限り大丈夫―――


「副団長!団長からの伝令です!」


 とか考えてたのがフラグだったのか。顔を青くした伝令がクライネさんに耳打ち、クライネさんも顔を青くした。


 廃鉱山で何かあったんすね…よっぽど想定外の何かが。

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