第80話 撃退してました
『マスター!侵入者やって!早う起きぃ!』
「…侵入者!?」
緊張感を含んだメーティスの警告に飛び起きる。
周りを見回してもユウ以外には居ないが…何処だ?
それに少し外が騒がしい…何が起きてる?
『わからへん!でも屋敷内に侵入者がおるんは確かや!侵入者は三人!マスターを狙った動きやない!となると狙いは――』
―――ゼニータ会長か!
此処はゼニータ会長の屋敷。なら普通に考えて侵入者の狙いはゼニータ会長か金目当てになるはず!
『ただの泥棒なら白薔薇騎士団の警備を抜けられるわけないからな。実際、何人かは白薔薇騎士団に捕まっとるみたいやし』
……そう言えば屋敷周りに白薔薇騎士団が張ってるんだった。
て、そんな事考えてる場合じゃない!
「ユウ!起きて!」
「……ふぁ?」
「侵入者がいる!ユウは隠れてて!」
まだ完全に目を覚ましてないようだが緊急事態につき簡素に状況説明。
それでもユウは即座に頷きクローゼットに隠れた。
次は侵入者への対処だ。
メーティス!一番近い位置に居る侵入者は!
『この部屋の真上!窓から侵入しようとしとる!』
そこって…ベニータの部屋か!しかも窓からって…そこ三階だぞ!
『屋上からロープを下げとるんや!ええから早う窓から出ぇや!』
わかっとるわい!この部屋の上…アイツか!
「そこまで…だ?」
「ぐふぅ…」
ロープにぶら下がった侵入者が気絶して落ちた。生きてる…か?
遠距離から風魔法で攻撃…あ、ハエッタさんが木の上から手を振っとる。
「……」
『マスター…まさかこんな事態やのに俺Tueeeeeのチャンスを奪いやがって、なんて考えてへんやろな?』
…ハッ!そ、そんなわけあるかい!人命最優先だ!
メーティス!次の侵入者は!
『次はゼニータ会長の自室や!ポニータもそこにおる!一階中央奥!侵入者も二人!』
屋敷の主の部屋が一階?…そう言えば階段を登るのが辛くなったとかで部屋を移したとか食事の時に言ってたか。
とかなんとか考えてる間に到着ぅ!身体強化の魔法を使えば二階から一階への移動なんて一瞬よ!
「ゼニータ会長!侵入者で…す?」
「おや?ジュンさん」
「ジュンさんも侵入者に気が付いていましたか。流石現役冒険者ですね」
……ゼニータ会長とポニータさんの足元には侵入者と思しき人物が二人、転がっている。
ピクリともしないが…死んでる?
『一応は生きてるみたいやで。ほっとけば死にそうなくらいに虫の息やけど』
…誰が倒したんだ?え、まさかゼニータ会長とポニータさんが?
「私も昔は行商人だったんだ。盗賊や魔獣から身を守る為に鍛えていたのだよ。自衛の為にね。そうは見えないだろうが。アッハッハッ!」
「私も同じく。こうして魔法道具も常備してますし、そう簡単に殺られたりはしません」
「商会が大きくなると敵も増えてね。こうして命を狙われたのは初めてじゃないんだよ」
……そっか、うん、無事なら何よりです、はい。
六十代と四十代の商人に返り討ちに合う暗殺者ってなんじゃい…なんて思ってませんよ、ええ。
勿論、俺Tueeeeeのチャンスが失われた、なんて考えてませんとも、はい。
『はいはい。わかったから、取り敢えずそいつら縛っとき。魔法で回復も忘れんとな』
死んでしまったら情報が抜き取れないからな。わかってまんがな。
「しかしどうします?このまま死なれたら誰の手の者かわかりません…おや?」
「ほう!素晴らしい!君は回復魔法を使えるのか!」
あまりこの二人の前で魔法を使いたくは無かったが仕方なし。
後は…外はもう終わってるか?メーティス。
『終わっとるで。今、クライネが玄関叩いとるわ。すぐにそこに来るやろ』
どうやらこれ以上の襲撃は無さそうだ。残念…なんて思ってませんよ、はい。
「よし、早速尋問しようか。ジュンさん、君は見なくていい。後は私達に任せ――ん?」
「ゼニータ様!し、白薔薇騎士団の方が!」
メーティスの言う通りクライネさんとハエッタさん、他二名の白薔薇騎士団員が入って来る。
クライネさんの第一声はゼニータ会長の安否では無く…
「ジュン君!怪我はありませんか?」
「まさかまだ侵入者か居たなんて…迂闊でした」
縛られて転がってる侵入者…暗殺者達を見てから俺の心配をしていた。
普通、そこは暗殺対象になった人達を心配する所では?
『いやいや。クライネらからしたらゼニータ会長らはまだ容疑者の段階やからな。マスターだけやろ、黒やと思ってないの』
何でだよ。暗殺者に狙われてるって事はだ、状況から考えて廃鉱山に居る連中から放たれた刺客の可能性が高いわけで。
つまり、ゼニータ会長らはそいつらの仲間じゃないって転がってじゃねぇの?
『単にトカゲの尻尾切りにあっただけかもしらんやん。白薔薇騎士団が廃鉱山を探ってる事に気付いた、逃げよう。ゼニータ会長らには余計な事喋らないように口封じしよう、てな感じで』
…そういう事もあるか。でも、多分ゼニータ会長達は白だと思うんだよなぁ。
「どういう事かな、ジュンさん」
「貴女は白薔薇騎士団と繋がりがあるのですか?」
「…こういう事態になっては仕方ありませんね。全て説明しますのでユウを連れて来ていいですか?」
許可を貰えたのでユウを迎えに行き、ゼニータ会長の自室に戻る。
やや遅れてポニータさんに連れられてベニータも来た。
ベニータは襲撃に気付かず、寝たままだったらしく寝間着のままなんだが…ファリダさんが着てたようなスケスケのネグリジェだ。
十五歳がなんちゅう大胆なネグリジェ着とるんや、けしからん!
…着痩せするタイプだったんですね、ベニータさん。
「ジュンお姉ちゃん、見すぎ」
「あ、はい」
「?」
前世の記憶があるユウの反応はベニータには理解出来ないようだ。
いや、それ以前に俺が男だと知らないんだから判らなくて当然か。
「これで全員のようですね」
「ええ。ではお聞かせ願えますかね、全てを」
「お話ししましょう。貴方達からも全て聞かねばなりませんから」
クライネさんによる、ユーバー商会、ゼニータ会長らにかけられた嫌疑を含む全ての説明が始まった。
その結果、ゼニータ会長らが黒なのか白なのか…ユウにはもう答えが出ているのだろうか。
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