第78話 奪われてしまいました

「で、何か怪しい所あった?」


「今のところは何も無い、かな」


 ユーバー商会本店での職場体験初日が終わった日の夜。ゼニータ会長の屋敷に招待され俺とユウは二人で一部屋を与えられた。そこで今日の事と今後の事を相談している。


 俺とユウが提案したレンタルサービスとオーダーメイドの件をゼニータ会長はベタ褒め。


 とても良い笑顔で俺とユウを褒めていた。


 まだ一日しか過ごして居ないが、ゼニータ会長の印象は悪くないんだよな。俺自身はそれほど執拗に勧誘されてないから元々の印象がそんなに悪くなかった事もあるかもしれないが。


「そうなんだよね…意外とゼニータ会長やその娘、孫の印象は悪くないんだよね。ユーバー商会は黒な筈なんだけどなぁ」


 …黒な筈?確かにユウが調べた話が全て真実なら疑わしいのは確かだが、それでも疑惑止まり。


 黒だと断じれるような情報は昨日までも今日も挙がってないが。


 その辺りの事をユウに確かめると、ようやくユウの謎の能力の秘密がわかった。


「……実は、私もギフト持ってるの。多分、ギフト」


「ほう、ギフト。それはどんな?」


「超直感、かな」


「超直感?」


 超直感、その能力を詳しく聞くと。


 全ての物事に対して使えるわけでは無いが直感を働かせて判断した場合、それはほぼ確実に正解するという能力。


 例えば今回のようにユーバー商会が何らかの犯罪を犯してるのかいないのか。


 俺が世界一強いと知っていた事とか。


 しかし、それらを判断するにはある程度の情報が必要。ユーバー商会の黒い噂とか孤児を集めてる事だとか。俺の情報は一緒に暮らしてたユウなら集める事が出来たし転生者だと気が付いていたしで、超直感を働かせる事が出来たのだと。


「なるほど。色々腑に落ちたよ。完全記憶能力と超直感。それらを使いこなす頭脳。それがユウの優秀さの正体か」


「え、えへへ…そこに美少女も付け加えてくれてもいいよ?」


「……うん、そうね。美少女美少女」


 ユウの前世が男だった件はまだ未消化で俺の中でモヤッとした物で残ってるな。


 いや、ユウの事を嫌ったりしてないし気持ち悪く思ったりもしてない。だけど、こう…美少女アピールされたりすると出てくるな。


「……で、その超直感でゼニータ会長達の善悪、白か黒か。判断出来ないのか?」


「あー…まだ判断出来ないかなぁ。でも、現時点でまだユーバー商会は黒のままなんだよね…」


 ふむ…ゼニータ会長達については新たな情報を増やすしかない、と。つまり明日以降の調査にかかっているわけだな。


「そうなるね。帳簿とか見せてくれたら不正とか商会内の物流とかもある程度わかるんだけどなぁ


 そりゃ帳簿を見れたなら不正があればわかるだろうけど、物流とかわかるか?


『わかるやろ。何処で購入して何処に売却したとかもわかるやろから。そしたらユーバー商会のバックに付いてる存在も見えて来るってもんやろ』


 なるほど。しかし所詮は体験で来てるだけの子供にそんなもの見せてくれる筈もない。


 不正をしてるなら裏帳簿があるだろうが尚更見せてくれる筈もなし。


 となると後は…


「廃鉱山とダミー商会の調査結果に期待したい所だけど…」


「此処にいる限り、白薔薇騎士団からの情報提供は難しい、かな」


 今居る場所は王都内とはいえゼニータ会長の屋敷だし、昼間はユーバー商会本店に居る。


 そんな状況で白薔薇騎士団と接触して情報を得る方法は決めてないし…いや、本気出せば抜け出す事は簡単だしメーティスに頼めばその辺りの情報も集めてくれるんだろうけども。


『そやな。わいなら可能やで。ちと時間はかかるけど…お?マスター、誰か来るで』


 誰か来る?誰かって…こんな時間に?ゼニータ会長とかか?


『わからへん。悪意は感じへんけど、念の為に用心して戦闘態勢を取るんや』


 お、おう。


 こういう気配を感じるとかバトル漫画の強キャラみたいな真似はまだ出来ないな。


 兎に角、俺に害意が無くともユウにはあるかもしらんし。ユウを護れる位置に着かねば。


「……お兄ちゃん?どうし――きゃっ、――もごもご」


「ふっ…流石だな。まさか私が気付かれるとは」


 姿を見せた人物の顔を見て、叫びそうになったユウの口を咄嗟に塞ぐ。


 どうやって部屋に入ったのかわからないが、いつの間にか部屋の中にステラさんが居た。


「もう少し穏やかに来て下さいよ。悲鳴あげそうになりましたよ」


「嘘つけ。お前は私の存在に気が付いていただろうが。それにお前がユウの口を塞がなくても私が塞いでいたさ。これでも元Sランク冒険者の斥候だぞ。そうは見えない美貌だろうがな」


 …まぁ確かにエルフですしね。年齢は知らないし見た目は二十代前半の美女だけど、きっと院長先生と同じかそれ以上なんだろうし。


「それで?わざわざ此処まで忍び込んで来るなんて、重要な用件があるんでしょ?」


「こんな時間に来るとなれば決まってるだろう。勿論夜這いに――」


「大声出しますよ」


「チッ…冗談だ。私はお前達と外との連絡役だ。お前達が掴んだ情報を外…白薔薇騎士団やローエングリーン家に伝える。逆に外からの情報をお前達に伝える。その橋渡し役を私が担う事になった」


 おう、タイムリーな御登場だな。御都合主義とも言うが。


 しかし、だ。


「でも、これって不法侵入…犯罪なんじゃ?」


「その通りだ。だからバレと拙い。非常に拙い。私は冒険者ギルドのギルドマスターでもあるし、立場的にも拙い。だからさっさと用件を済ませて帰らせてもらうぞ。次からはもっと安全に来れるように、毎日この時間にバルコニーに出てろ」


 …バルコニーまで来れるなら部屋の中で話した方が安全な気もするが。まぁ此処は専門家の言う事を聞いておこう。


「わかりました。それで今日の用件はそれだけですか?外からの情報は無しで?」


「いいや。白薔薇騎士団からの情報だ。廃鉱山の情報はまだだがダミー商会とやらの存在を確認。何をしているのかはまだ詳しくは不明。それからお前達以外の孤児達の姿は本店でも他の店舗でも確認出来ず。それから他の孤児達を勧誘したのはユーバー商会の者と名乗っただけで、ゼニータやポニータが直接勧誘したのはお前達二人だけ、との事だ」


 …つまりユーバー商会の人間だと謳って孤児院の子供達を騙した奴らがいるかもしれないって事か?もしくはユーバー商会の誰かがゼニータ会長に黙って勧誘していたか。


 これならユーバー商会は黒だがゼニータ会長は悪人じゃないと思える事に矛盾は生じないが…


「お前達の方は何かあるか?」


「いえ…強いて言えばゼニータ会長らは悪人に思えないって事くらいですね」


「そうか。では私は帰る。だがその前に駄賃を寄越せ」


「は?駄賃て…御金取るんですか?俺達から」


 そりゃタダ働きは嫌だろうけど、そういうのは雇い主に言ってもらわねば。


 俺達にそんな事言われても困る。


「金は白薔薇騎士団から貰ってる。私が欲しいのは別のモノだ」


「じゃあ何…むぐっ!」


「あー!!」


「フッ…確かに頂いたぞ。じゃあな」


 …く、唇を奪われてしまった。しかも舌を入れられたぞ。


 ちょっと気持ち良かったのが悔しい…はっ!


「…お兄ちゃん!口直し!口直ししよう!」


「しない!たかがキスでそんな血眼になるな!落ち着け!」


「たかがキスなら私としてもいいじゃない!さぁさぁ!さぁー!」


「やめい!キスをせがむのに何故服を脱ぐ!脱ぐな!騒ぐな!」


 その後…ユウの暴走は俺達が騒いでるのを聞きつけたポニータさんが来るまで続き。夜中に騒いだ事の謝罪と弁明をする事になるのだった。


 おのれ…ステラさんめ。余計な事してくれよってからに。


『満更でもないように見えたけどなぁ、マスター?』


 …………そんな事ねぇよ?ほんとだよ?

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