第71話 心当たりがありました
クリスチーナからユーバー商会が俺とユウに眼を着けたらしいと聞かされた。
そんな事を聞かされたら気になるというもの。
俺はいいとして、ユウは力尽くで来られたら対処は難しい筈だ。
暫く孤児院に寄って無かったし、一度行ってみるか。
「孤児院に行くのかい?」
と、考えていたらクリスチーナに読まれた。
そんなにわかりやすい顔してたか?
「なら、あたいらも行くか。途中で土産でも買ってよ」
「ん。甘い物がいい」
「それ、ファウが食べたいだけでしょー」
というわけで全員で魔法道具店『エリザベス』に行った後、孤児院に行く事に。
土産の甘い物はクリスチーナに用意してもらった。
「魔法道具店『エリザベス』か。オーナーのエリザベスには私も一度会った事があるよ」
何の為に会ったかと言うと、エチゴヤ商会専属にならないかとスカウトに行ったのだとか。
「彼女は腕のいい魔法道具技師として有名でね。商業ギルドに登録してはいるが商売熱心ではない。だから―――」
エチゴヤ商会専属になってもらい魔法道具作製に力を注いでもらう。
代わりに販売はエチゴヤ商会でやろう、と。
そんな話を持ち掛けたが断られたそうだ。
「断られたのはうちだけじゃなく、王都にある商会の殆ど…ダイアナ商会やユーバー商会も断られた筈さ」
断った理由は自分の時間が減るから。それと、お金はもう十分にあるから。だそうだ。
「ふぅん…確かに色んな魔法道具が売ってたよなぁ」
「それに商売もやる気無さそうだったね」
「趣味に走ってた」
ああ…そうだった。屍草も呪いに使うんだったな。
誰を呪うんだか。
「着いたな」
「今日は直ぐに出てくるかなぁ」
店に入ったが、やはり店内には居らず。
何度が呼んで漸く出て来た。
「…何よ、煩いわね……貴女誰だっけ」
「…指名依頼で屍草を採取するように言われた者ですよ」
「…ああ。思い出したわ。思ったより早かったわね。じゃ、見せて」
「はい。これです」
十一本の屍草を提出する。異空間に収納してる間は時間が止まる仕様なので鮮度は抜群だ。
「…凄い。本数もだけど鮮度が抜群。どうやって保存……」
「だから寝るなっての!」
前回に続き話途中に寝てしまうエリザベスさんを叩いて起こすアム。
この人、いつも寝不足なのかな…
「痛いじゃない…」
「なら寝るな…前にもやらなかったか?このやりとり」
「仕方ないじゃない眠いんだもの…ええっと…何だっけ」
「…依頼は完遂したのを認めたなら、報酬をください」
「ああ、そうそう。報酬ね。ちょっと待ってて」
奥に引っ込んで戻ったエリザベスさんの手には小袋が。
テーブルに置いた音からもわかるように報酬の金貨だ。
「一本あたり金貨三枚だから報酬は三十三枚。状態が良かったから色付けて三十五枚。確認して」
金貨三十五枚…平民の一人暮らしなら一年は暮らせる金額だな。
それがFランク冒険者が二週間で稼げるとは。
まあ後でカタリナ達と山分けするから俺の取り分はもっと少ないが。
「ありがとうございます。金額三十五枚、確かに」
「ええ。また何か欲しい物が出来たら貴女に頼むわね」
「なるべく近い場所にある物でお願いしますね。そうだ、それを使った呪いって誰にかけるんですか?」
「前に商談に来た商会のおばさんと愛人の男。おばさんは断ったらネチネチと嫌味を言ったし嫌がらせもして来たから。愛人は私のお尻を揉んだから」
……仕返しって事か。確か一週間手汗が凄く出る呪いだったか。
愛人はともかく、商会のおばさんとやらは大変かもな。
商人なら商談相手と握手とかするだろうし。
何処のおばさんかは知らないが。
「確か…エンビーとか名乗ってたわ。家を吹っ飛ばせるような魔法道具を作ってくれとかなんとか」
「「「「……」」」」
あの人かー…そしてその依頼のターゲットは間違い無くクリスチーナ。
作れるかどうかは知らないが断わってくれて本当によかった。
「とんでもない事考えるな、あのおばさん」
「全くだね。エリザベスさん、遠慮はいらない。思いっきり呪ってやりたまえ」
「そのつもりよ」
既に奴隷落ちしてるってのは…言わないでいいか。
そこまでやろうとしてたなら流石に気の毒とは考えない。
「…それじゃ失礼します」
「ええ。冒険者ギルドにはちゃんと依頼達成で報告しておくからね」
そこでエリザベスさんとは別れた。
孤児院に向かう道中の話題は勿論エリザベスさんだ。
「いやはや。まさかエリザベスさんにエンビー会長が商談を持ち掛けてたとはね」
「断わってくれて良かったよね」
「意外…って言えるほど、あの人の事は知らねぇけど。良識はあるみたいだよな」
「家を吹っ飛ばせる魔法道具…それはもはや兵器」
恐らくは魔法使いも雇おうとしたんだろうな。
でも魔法使いは貴重だし、家を吹っ飛ばせるような魔法使いは国か貴族のお抱え、或いはファウのように冒険者として真っ当に生きて成功してる。
雇う事は出来なかったんだろうな。
「ジュン!こっちに来なさい!」
孤児院の前まで行くと、そこにはピオラの姿が。
何やら最初からお怒りのご様子…何かしたっけ?
てか、なんで来るのがわかった?
「ジュンが近くに来たらわかるもの。それよりも!二週間も王都を離れるならちゃんとお姉ちゃんに連絡しなさい!まる一日帰って来なくてアムに聞きに行ったんだから!」
「ああ…そう言えばそうだったな…」
「王都から出た事も伝えてないのに何でわかったんだろって話してたね」
「謎能力」
…相変わらずわけのわからん超能力だな。
王都から俺の気配が消えたのがわかるとか…どうなってんだよ、一体。
「聞いてるのジュン!」
「あ、はい。すみません」
こういう時は黙って叱られよう。下手な言い訳は逆効果。
それはもう身に沁みて―――
「おかえりなさい、皆。さ、お入りなさい」
と、思っていると院長先生から助け舟が。
ピオラはまだ言い足りなさそうに見えるが、諦めて怒気を抑えていた。
「良いところに来てくれたわ。相談したい事があったの」
「相談?あ、ちょ、引っ張るなってば!」
「あたしにもちょーだい!」
「ずるーい!わたしもー」
持って来たお土産を配っていると院長先生が相談があると言う。
もしかしなくてもユーバー商会の件だろうか。
「そう。それとユウがジュンと二人切りで話がしたいって言ってるの。部屋で待ってるから先にユウの話を聞いてあげて」
ユウが話を?心当たりは…あるな。
「わかった。行って来るよ」
「お願いね」
「おい、ジュン、何処へ…って、尻尾引っ張るんじゃねぇよ!」
「耳も触っちゃダメ!」
「…乗るのもダメ。潰れる」
相変わらずフリーダムな子供達はアム達に任せ。
俺はユウの部屋に。
部屋で待っていたユウはいつも通りに見えた。
「おかえり、ジュンお兄ちゃん」
「ただいま、ユウ」
さて、聞かせて貰おうか。ユウは何者なのかを。
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