第69話 調子に乗りました

~~メーティス~~



「ちょ、メーティス?!あぃ――!」


 なんかマスターの声が聞こえた気がするけど、今にも襲撃が始まりそうやし、時間がない。


 話の続きは帰ってからにするしかないな。


 さてさて、敵さんの動きはと…


「おい、配置はどうだ」


「そろそろ完了するっすね。衛兵も騎士団も来る様子はないっすね」


「よし。五分後に突撃すっぞ」


 おっと、後五分の猶予はあったか。


 んで、あの眼帯女が頭みたいやな。


 …意外とチンピラ共の統率が執れとるな。どうやら幾つかの傭兵団がメインで、多少の冒険者崩れがオマケやな。


 っと、現場に到着~。さて、どうしてやろうかぁ。


 なんだかんだでマスターはクリスチーナらを大切に思うとる。そのクリスチーナらに手を出そうっちゅう輩に手心を加える必要はないんやけど…


『なんだかんだで女神様の御墨付の善人のマスターや。命を奪うまでは出来んな』


 デウス・エクス・マキナの武力を使えば簡単に始末出来るんやけど…本気出すとエチゴヤ商会どころか王都全体にまで被害出るしな。


 となると、執るべき手段は…


「…月が出てるな」


「は?…そうっすね?」


「暗がりに潜んでても目立つとバレる。まだ深夜でも無いし、騒いでると見つかる。再度目立たず静かにしてろと伝言―――」


「頭?どう――」


「おい?二人共どうし――」


 こうやって手刀で気絶させていくのが一番ええな。デウス・エクス・マキナに入ってる武神様のモーションデータを使えば殺さず無力化は簡単や。


 さて、次に行こか~。


「おい、開始の合図はまだ――」


「さっき五分後って連絡が来たばかり――」


「な、なんだ、今の真っ黒な――」


 おう、やっぱこれだけの人数がおると多少は見られるわな。高速で動きながら手刀なんてしたら狙いがそれるし、その勢いで首が飛びかねんしなぁ。物理的に。


「暇だなぁ…おい、どしたん?」


「いや、別地点で待機してる奴らと連絡付かなくて。あと、さっきチラっと妙な影が見えたような…」


「妙な影って何―――」


「何か全身真っ黒な黒づくめの―――」


 やっぱ百人もおったら多少時間かかるなぁ。仲間がやられてる事に気付いて騒ぎ出す前に終わらせたいとこやけど…お?


「お、おい!どうした!どうした、お前ら!連絡付かねえと思ったら何寝てやが――」


 危ない危ない。気付かれて騒がられるとこやったわ。お?


「今、何か居なかったか!?」


「やっぱ誰かに襲撃されてんぞ!頭もやられてる!」


「マジか!早く他の奴らに報せっ――」


「おい、何してる!早く報せに、き、気絶してる!」


「やっぱなんかいるぞ!一瞬姿を見せたと思ったらあっと言う間に消え――」


「な、ど、どうなって――」


 頭と連絡付かなくて確認きよったか。頭の遺体がチンピラホイホイになっとるがな。


 いや、殺してないんやけども。


「おい。開始の合図はまだかよ~」


「妙だな。もう予定時間は過ぎてるって――」


「ん~?どうし――」


 未だに持ち場に残っとるんはチンピラの中でもボンクラか任務に忠実なクソ真面目な奴だけやな。


 ま、ボンクラの方が多そうやけど。


『ええっと…あと残っとるんわっと。あそこの三人やな』


 ふふん。百人程度のチンピラ、わいとデウス・エクス・マキナの敵やないな。


 よし、折角や。最後にちょっとくらい目立ってもええやろ。


『ふふふ…実体を見せずに忍び寄る黒い影――』


「あ?なんだ、こいつ」


「実体を見せずにって、思いっきり見せてんじゃん」


「酔っ払いか?珍妙なかっこうしやがって。あっちいけ、シッシッ」


 ……最後まで聞けや!こんなチンピラどもにツッコまれるん腹立つな!


『悪党は成敗や!』


「うっ!」


「な、なにも、うげっ!」


「は、はやっ、かはっ!」


 犯罪を犯す寸前のチンピラがわいを侮辱するなんて、許さへんで。


 全く…ん?


『ん?まだ居ったかって…あんたらか。しもたぁ…姿を見られる気無かったのに』


「テメェ、なにもんだ!名を名乗りやがれ!」


 アム達に見つかってもうたかぁ。


 名乗れって言われてもなぁ…正直に話しても問題無いやろけど…いや、そうでもないか。


 もしマスターがわいの名前出してるとこ聞かれでもしたら面倒やしなぁ。どうしよかなぁ。


「…テメェは誰だって聞いてんだよ!」


『…そんな武器向けて怒鳴らんでも。わいはあんたらの敵ちゃうで。むしろ味方やねんで?御覧の通りあんたらの敵をやっつけたわけやし』


 アムもカウラもファウも敵意むき出し…いや、警戒されてるだけか。


 確かにアムらからしたらわいは正体不明の輩やけど…折角助けたんやし、武器向けたりせんでええやん?


 あと、その大声はご近所迷惑やで。


「…そいつはありがとうよ。礼もしたいし、取り敢えず、その変な兜脱いで顔見せてくんねぇ?」


『礼には及ばんて。ほな、わいは忙しいんで。ここらで御暇するわ。こいつらの処分はまかせたでぇ』


 …いや、変な兜呼ばわりは気に入らんけど、多少は落ち着いたみたいやし、ここは任せてもええやろ。


 わいがこんだけ長時間、長距離マスターと離れたんは初めてやしな。今頃マスターは心細くて泣いてるかもしらんし。


「て、テメェ!一体なにもんだ!せめて名乗りやがれ!」


『名乗り?…そやなぁ……名乗るほどのもんではないけど、謎のヒーロー、ブラックとでも呼んでや。ほな、さいなら』


 うわ、我ながらカッコええんちゃう?見返りを求めず、颯爽と去りゆく謎のヒーロー、その名もブラック!


 めっちゃカッコええんちゃう?めっちゃイケてるんちゃう?


『ワハハハハ!なんか楽しうのう!そや!マスターへの土産に屍草見つけて帰ろ!』


 う~ん!わいって気が利くぅ~!

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