第67話 先を越されました

 という事があったわけだ。


 俺はイーナを抱えたまま、何とか川からはい上がり、デウス・エクス・マキナで岩壁に穴を明け、そこにイーナを寝かせた。


 イーナに見られる可能性があったが、山小屋や洞窟なんて都合のいい物は無かったので仕方ない。


「うっうぅ…」


『取り敢えずマスター、暖をとらな。マスターは大丈夫やけどイーナがもたんわ』 


 もうすぐ春だし、今は夜。


 ずぶ濡れのままでは肺炎になりかねない。


 空間転移が使えたら、色々解決出来るんだが…


『あかん。まだメンテナンス中や。もう暫くかかるでぇ』


 仕方ない。


 取り敢えず燃料になりそうな枯れ枝を集めて、火を点ける。


 後は身体も拭かないと。って、もしかして物を取り出す事も出来ないのか?


『そっちは大丈夫や。ほらタオル』


 備えあれば憂いなし。これで………


『どないしたんや、マスター』


 ねえ?誰がイーナの身体拭くの?


『誰がって…マスターしかおらんがな』


 俺が?イーナを?でも、服も着てるよ?


『ええからサッサと脱がして身体拭きぃや。孤児院でアム達の身体散々拭いて来たのに何を今更』


 それはそれ、これはこれと言いますか…ええい!


 後で文句言うなよ!


『誰に言うてるん…イーナなら文句言える立場やないし、大丈夫やて』


 そうかもしれんが…くっ!


 カタリナもだがイーナも十五歳にしちゃ発育良すぎ!


 鍛えてるから程よく引き締まってるのに胸デカいし!


 めっちゃ良いおっぱいしてんな、チクショー!Fカップはあるんじゃね?!


 無駄毛処理も完璧…ってなんで下も剃ってんだよ、こいつは!


『マスター…なんだかんだ言ってジックリ見てるやん。因みにFカップで正解やで』


 その後もてんやわんやになりながら身体を拭き…俺の服をイーナに着せてから俺も着替えて、ようやく一息つく事が出来た。


 そして考えるべきは今後の行動だけど…先ず、ソフィアさん達はどうしてるだろう?


『川の流れに沿って進んどる。めちゃめちゃ取り乱しとったけど、今は何とか平静を保っとる感じや』


 どうやらメーティスがソフィアさん達にも偵察機を付けたらしい。


 気が利いてるな…川に沿って進んでるなら、その内に合流出来るだろうけと…どれくらい時間かかりそうだ?


『そやなぁ…後二時間は掛かるんちゃうか。焚火の煙を見て気が付いたら、の話やけど』


 今は夜だしな…山の中を進んで焚火の煙なんて気が付けるかどうか…


『せやな…空に向かって魔法を撃ったらどうや?下手したら余計なもん呼び寄せる可能性があるけど』


 余計なもん…魔獣か。居るか知らんが亜人や山賊もか?


『魔獣やな。この辺はそこそこ強い魔獣が居るし。亜人も山賊も住み着かんわ』


 なら問題無いだろう。むしろ大量に来たら俺Tueeeeeのチャンス。


 そうと決まれば派手なの打ち上げようか!


『そこはブレへんなぁ…山火事にならへように気をつけるんやで』


 山の中だしな。流石にそれはわかる。


 俺がソフィアさん達の前で見せたのは火と土の魔法。


 今は夜だから目立つのは火。しかしインフェルノは山火事になるのは間違い無いから此処は…


「ファイアーボール!」


 特大の火の玉を空中に打ち上げる。


 爆発せずに空に向かって進みやがて消えた。


 これで気が付いてくれただろうか?


『OKや。ちゃんと気が付いて、そっちに向かい始めたわ。後でもっかい同じ事すればええやろ…あ』


 なんだよ。その『あ』は。


 何かあったか?


『ヤバいわ。エチゴヤ商会をガラの悪い連中が囲んどる。ザッと百はおるな』


 百!?なんでだよ!俺を捕まえるのに傭兵団を回したのに、まだそんな数が居たのか?


『その傭兵団も今しがた合流したんや。んで、そのままエチゴヤ商会襲撃に参加するみたいや』


 最悪じゃねぇか!…対するエチゴヤ商会の戦力は?


『アム達含め二十三名。警備員が十。臨時雇いの冒険者が十』


 約五倍の戦力差…ヤバい、本気でヤバい!まさか此処までの数を出して来るなんて!


 てか、そんな大人数が武装してたら目立つだろ!衛兵は何してんだ衛兵は!


『…周辺に衛兵の姿は無い。金でも握らしたんとちゃうか』


 ダイアナ商会に買収されたってか…デウス・エクス・マキナは?!


『空間転移はまだ使えへん。使えたとしても気絶したままのイーナを置いていかれへんやろ』


 じゃあどうしろって!?クリスチーナ達を見捨てろと!?


『そんなわけあらへんがな。ちゃんとあるで、奥の手が』


 メーティスがそう言うと、空間から出て来たのは高速飛行が出来るパワードスーツだ。


 ただし、中身がないが。

 

『…んん、よし起動完了。どや、聞こえるかマスター』


 ええ?まさかメーティス?偵察機に意識を移したみたいにパワードスーツに意識を移したのか?


『今はこっちにおるから、喋ってくれなわからんで』


 そう言えばそうだったな…やっぱり偵察機に意識を移した時と同じか。


「で、まさかお前がそれ使ってクリスチーナ達を助けに行くって?」


『せや。これならものの五分で王都に行けるしな』


「なら俺が行ってもよくない?」


『パワードスーツ姿のわいに残れって?その場合はマスターはどうやって王都に帰るん?パワードスーツは使えへんねんで?』


 ……飛行魔法で帰っても走って帰っても片道二時間以上かかるな。


 確実に目立つから目撃者も出るし…


『納得したみたいやな。ほな行って来るわ。誰も死なせんへんから、安心しとき』


 百人相手に凄い自信……………ちょっと待て。


 それって俺Tueeeeeじゃねぇの?


 俺より先にお前が俺Tueeeeeやんの?


「ちょ、メーティス?!相棒!カムバッーク!」

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