第65話 ドジっ娘でした
イーナに裸を見られた。
慌ててパンツを履くが時すでに遅し。
俺を凝視したまま微動だにしないイーナは鼻血を流している。
「取り敢えず一旦外に出て――」
「結婚しましょう」
「またこのパターンか!」
どうしてこうもいきなり求婚する奴ばかり。
同い年からの求婚は初だが…せめて鼻血拭け。
「事故とはいえ殿方の裸を見てしまった以上、責任をとらねばなりません。平民、それも孤児と婚姻などレンドン家の長い歴史でも無かった事ですが…さして問題ありません」
「いやいやいや」
その前に俺に結婚の意思が無いんですが。
勝手に話を進めないでいただきたい。
あと鼻血拭け。
「ジュン、いつまで……あ」
「あ。カ、カタリナ!?あ、あ、貴女、殿方と一緒に入浴してたの!?」
「うっ…ジュン、バレたのか…」
「そうだけど、その前に服を着るか中に戻るかしなさい」
脱衣所から出ない俺の急かしにカタリナが来た事で更に話しがややこしい事に……
「ならカタリナ!貴女も責任を取りなさい!」
「は?責任って…なんの?それと鼻血出てるぞ」
「殿方の裸を見たのなら当然でしょう!」
「取り敢えず先に此処から出てくれませんかね…」
そこで話は一旦打ち切り。
俺達用に用意された客室で話をする事に。
「なるほど。孤児院で育ったのは本当ですのね。そして女として振る舞って来たと」
俺は今日に至るまでの事をザックリとイーナに説明。
男である事は黙っていて欲しいとお願いしていた。
「俺は冒険者をやりたい。だからまだ結婚は考えていない。でも男だとバレたら―――」
「確実に面倒な事になりますわね」
「そうだ。だから我がローエングリーン家と白薔薇騎士団…他にも居るが、協力体制をとってジュンを護る事にしたんだ」
「代わりにジュン君はあたし達全員と結婚する事になってるっス」
…結婚については前向きに考えるって話の筈では?
今は訂正しないでおくか…
「因みに全員とは白薔薇騎士団全員を含みます」
「はっ?」
「他にもこの場に居ない協力者がいるっスからね。全員で約千人っス」
「千人!?いくらなんでも一人の夫を千人で共有って無茶が過ぎませんこと!?」
わー…久しぶりに女性から常識的なお言葉が。
もっと言ってやってください。
「何か問題があるか?」
「無いわけが………あら?特に浮かばないわね…」
おいいいい!あるだろ!いっぱいあるだろ!
「だろう?千人というのは確かに前代未聞だが、言い換えれば問題はそれだけだ」
「何なら子種だけくれたらいい、結婚はしないって言う娘もいるしね」
「子供だけ作って結婚はしないなんて貴族でも珍しい話じゃないっス」
「そうですね…わたくしのお母様もそうですし」
レナータさんもシングルマザーなのか…まさかと思うが、ユーグがイーナの父親だったりしないよな。
「ですが、それなら話しが早いですわ。わたくしもジュン様を護る会に入会しますから、わたくしとも結婚しましょう?」
何か勝手に名前が決まったぞ。そこはどうでもいいけど…やはりそうなるのか。
相棒、どうすればいい?
『入会を認めるしか無いんちゃうか。司祭みたいに精神魔法で記憶を消すとかしたないんやろ?』
そりゃあな。今回はこちらの落ち度と言っていいし。
カタリナの友人の記憶を消すなんて、簡単には出来ないし、それ頼りが当たり前になるのは良くない、とは思っている。
「…入会しても確実に結婚出来るわけじゃない事と、俺が男なのは秘密。家族にも家臣にも。それが納得出来るなら、俺は構いませんよ」
「わかりましたわ!」
「……仕方ない、か」
「そうね…ああ、でも私達が付いてながらこの結果…」
「きっと副団長あたりにネチネチ言われるっス…」
その後、イーナはソフィアさん達に念押しされ、他の入会者と役割を説明された所で話し合いは終了。
明日になれば、また帰りに寄るまでは会わないし、その後は暫くは会う事は無い…そう思っていたのだが。
「…おい、イーナ。なんだ、その恰好に荷物」
「わたくしも着いて行くわ!」
お母様から許可は貰ったから問題無いらしい…いやいや、侍女も護衛も無しとか、何を考えて…自分の事は自分で出来る?
護衛はソフィアさんが居れば何も問題無いと太鼓判を押された?
ああ…そっすか…
「くっ…騎士としての名声が自分の首を絞める事になるなんて…」
「それと帰りはわたくしも王都まで行きますわ。住む所はレンドン家の王都屋敷がありますから、ご心配なく」
「誰も心配してないっス」
…旅の間だけじゃなく、王都まで付いて来るのか。
昨日の今日で此処までやる行動力…厄介だなぁ。
「何してますの?さぁ、早く馬車に乗っ、ぶべっら!」
「今、何も無い所で転んだっスよ、この人」
しかも受け身もとらずに。
いきなり顔に傷作ってるし鼻血出てるし。
仕方ないなぁ…
「あたた…あ、あら?回復魔法ですか?」
仕方ないので魔法で治した。回復魔法は初披露だが…こんなしょうもない怪我で披露する事になるとは。
「はぁ…昨日は鳴りを潜めていたが…ドジなのは変わらずか」
「うっ…」
「昔っからドジなんスか?イーナちゃんは」
「ああ。馬車の中で話そう。道中のいい話のネタになる」
「や、やめて頂戴…」
こうして。予想外に旅の仲間が一人増える事となった。
そしてこれが、面倒事の引き金だった事をこの時の俺は知らないのだった。
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