第63話 ライバルが登場しました
「見えたわ。あそこが今日の宿泊地よ」
「あ~、お腹空いたっス~!入ったらすぐにメシに行こっス!」
「いや、今日もお母様の伝手で泊めてもらえる事になってる筈だぞ、カモンド男爵」
天国のような地獄を味わった日から三日。
旅を始めた日の四日目。あれから一つの村と一つの街を越えて、今日は二つ目の街に到着。
あの日の翌朝は魔法で眠らされた事に皆プンスカ怒っていたが…特にカタリナが怒っていたが今では機嫌も直り。
宿に泊まった際は一人部屋を主張し譲らなかったので穏やかに過ごせた。
傭兵団の方はゼフラさんの予想通りに帰って…はいなかった。
街に入ってからは代官である貴族の屋敷に泊めてもらったし、傭兵団の監視も見てたのだがそれでも監視は続いていて、今も街に入るのを監視している。
だが、メーティスが偵察機で得た情報によれば今日、明日まで様子を見て王都に戻るつもりのようだ。
どうやら割と義理堅い…と言っていいのかわからないが、傭兵団の団長は義理堅い人物らしく。
もらった報酬分の仕事はする、と。やれるだけの事はやると考えているようで手持ちの資金などを考え、今日明日まではチャンスを伺い、無理なら王都に引き返す事に決めたらしい。
クリスチーナ達も今の所は無事。ただ店の周りをウロチョロしてる怪しい奴も増えて来たようで、出来る限り早く戻りたい所だ。
「それで、今日もこの街を治める代官の貴族屋敷に泊まるんですか?」
「いや、この街に居るのは代官じゃなく、この辺りの領地を治める領主レンドン伯爵だ」
「う!あ、あいつの家か…」
レンドン伯爵…知らないな。元々貴族とは関わりが薄い…事はないか。
がっつり関わってるけど、今まで聞いた事の無い家名だ。
「で?カタリナはレンドン伯爵を知ってるみたいだけど」
「嫌そうな顔してるけど、あまり良くない関係なのかしらカタリナ殿」
「あ、ああ…レンドン伯爵ではなく、その娘が、ちょっとな…」
「お嬢様、その娘と思しき方が出迎えに来ておられますが…」
「え?…うわぁ…」
街に入ってからも馬車で進んでいたのだが進行方向に貴族のお嬢様っぽい人とメイドの集団が。
その奥には貴族屋敷が見えるし。もしかしなくてもアレが今話に出てた娘さんか。
「えっと…あの人がその娘?」
「ああ…イーナ・アーニャ・レンドン。同じ王都の学校に通っていた同級生なんだが…」
カタリナが12歳から15歳までの三年間、通っていた学校でずっと絡んで来たらしい。
絡んで来たと言っても嫌がらせとか乱暴されたとかではなく、何かとライバル視され付きまとわれたとか。
「なんでライバル視されたんだ?」
「共通点が多いからだな。互いに伯爵家の娘。互いにギフト持ち。ミドルネームが似てる…とかな」
はぁ、なるほど。でも嫌な事されたわけじゃないんなら、そんなにイヤそうな顔しなくても。
「そうなんだが…あいつを見てると、こう…なにか、むず痒くなると言うか、いたたまれなくなると言うか…」
「なんスか、そりゃ。ところであのお嬢さん、ギフト持ちなんスか。どんなギフトを持ってるんスか?」
「ああ、それは――」
「カタリナー!何してるの!早く降りてらっしゃいな!」
馬車がイーナっていうお嬢さんの前に着いてからも少し話していたのだが急かされてしまった。
渋々と言った表情で降りるカタリナに続いて俺達も馬車を降りる。
「御久しぶりね、カタリナ。あら、髪型を変えたのね。似合ってるわよ」
「あ、ああ…ありがとう。久しぶりだな、イーナ。お前は変わりないようだな」
「フッ…まぁ見た目はね。でも、わたくしだって成長してるのよ?胸だって………うっ、また大きくなってるわね」
「何か言ったか?」
「いえ、なにも?オホホ…それより御連れの方を紹介してくださる?」
「ああ…いや、それはレンドン伯爵の前でいいだろう。先に屋敷に入れてくれないか?」
「え、ええ、そうね。口調も変えたのね…」
イーナの先導で屋敷へ。
そのイーナはこの世界の御多分に漏れず、美人。スタイルもカタリナに勝るとも劣らず。
背中まであるダークブルーの長い髪、白い肌に足の長い美人さんだ。
「お母様は食堂で御待ちよ。食事の用意も出来てるから、このまま食堂へどうぞ」
「いいのか?私達は旅装のままだが…」
「構わないわ。お母様がそうしろと仰ったのだし。あ、此処よ。お母様、入ります」
食堂に入ると女執事とメイドが数人。そして上座に座る三十代半ばくらいの女性。あの人がレンドン伯爵だろう。
「ようこそ、レンドン家へ。レナータ・オーナ・レンドンよ。歓迎するわ」
レナータさんね。イーナと同じダークブルーの髪をショートカットにした、これまた美人さんだ。
「そちらがカタリナさんね。イーナから話は聞いているわ。そちらは…あ、あら?貴女は…レーンベルク団長?それに、そちらの貴女もお会いした事があるような…」
「ええ。戦勝記念のパーティーでお会いして以来ですね、レンドン伯爵」
「あたしもその時に一緒に挨拶したっスね、確か。カモンド男爵っスよ」
「え?団長?男爵?………ちょっと、カタリナ?どういう事?」
「あー…お母様はその辺りの事は伝えてないのか…」
どうやらレンドン伯爵方は来るのはカタリナとカタリナの友人、そして従者としか聞いていなかったらしい。
アニエスさんにしても白薔薇騎士団の誰かが付いて行くのはわかっていただろうけど、誰が行くのかはわからなかっただろうし…仕方ないか?
いや、面倒だっただけだろうな、多分。
「…私は娘の友人が娘と一緒に行くから泊めてやって欲しいとしか…」
「私達はその友人…ジュン君の師匠なのです」
「弟子が心配で付いて来たっスよ」
「で、彼女がそのジュンです」
「あ、どうもジュンです」
「「な、なるほど…」」
レナータさんとイーナの二人はまだ頭に疑問符を浮かべたままだが一応は納得したらしい。
咳払いの後、席に着くよう勧められたので座って食事を始める。
この街の傍には大きな河があり、川魚が名物らしい。
魚料理がメインを飾っていた。
食事をしながらの会話に出て来るのは俺とカタリナの事だ。
「あら、貴女がカタリナが話していた孤児院で出来た友人?孤児とは思えないくらいに優秀だと聞いてますわ」
「お、おい、イーナ…」
「悪口を言っていたと告げ口してるわけではないのだし、いいでしょう?。そうそう!このマヨネーズを作った方だと聞いてますわ。他にも幾つか特許を取っているのに、それらを同じ孤児院の仲間に譲る器量の持ち主だとも。特許を譲るだなんて中々出来る事ではありませんわ。わたくしもとても素晴らしい事だと思いましてよ」
何だ、カタリナが苦手そうにしてるからどんな子かと思えば。普通に良い子そうじゃん。
いや、褒められて気を良くしたわけじゃなく。
「そうだわ!よろしければ食事の後、わたくしと勝負してくださらない?」
「へ?俺…じゃなくて、私とですか?」
「言葉使いは普段通りで構いませんわよ。お聞きになってるか存じませんけど、わたくしとカタリナはライバルですの。そのカタリナが認める貴女の実力を知りたくて。よろしいですわよね?」
…なんて屈託のない笑顔。まるで子供のよう…いや、十五歳なんて実際子供か。
うーむ…一宿一飯の恩義もあるし、此処は承諾するか。
「ジュン、嫌なら断っても良いんだぞ」
「いや、良いよ。こうしてお世話になるわけだし。ただ長旅で疲れてますし、明日からも続くので簡単な勝負、一つだけにしてくださいね」
「よろしくてよ。フフ…楽しみが出来ましたわ」
という訳でイーナと勝負する事になった。
なんだか、ちょっとデジャブ。
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