第61話 追い詰められました

「どうぞ、お嬢様」


「うむ」


「ジュン君も、どうぞ」


「いただきます」


 野営の準備を始めて一時間と少し。


 もうすぐ春という時期で、この辺りは温暖な地域だが、流石に日が落ちると少し寒い。


 それを見越してか、ファリダさんが用意した食事は暖かいシチューにパン。それと干し肉。


 シチューには野菜が入ってるし、野外で食べる料理としては満点と言っていいんじゃなかろうか。


 何気に嫁スキル高いな、ファリダさん。


 此処までは一見して順調な旅に見える。


 だが実際はそうではなく。


 王都を出て直ぐに襲って来た野盗、その一部が追って来ているのだ。


「まだいる?ナヴィ」


「居るっスね。向こうにポツンとある大岩。その影に二人居るっス」


 更に後方に四人、その更に後方に残りの野盗が全員。


 俺達を見張り、油断するのを待って襲うつもりだろう。


 と言っても、彼女達は野盗ではなく…


「どごぞの傭兵団っスね、多分」


「ええ、そうね。雇ったのはダイアナ商会でしょうね。タイミング的に」


「うん?何故わかる?」


 カタリナとファリダさんには何故、野盗でも冒険者でもなく傭兵団と判断したのかわからないらしい。


 俺は何となくだがわかる。


「統率がとれてましたもんね」


「お、ジュン君はわかってたっスか。流石っスね」


 付け加えると。馬の扱いにも長けているようだった。


 馬はお金がかかるし、馬車まで所持してる冒険者はそうはいない。


 馬や馬車を所持してる冒険者は居るには居るが、それは冒険者として成功してると言える人達。


 こんな野盗の真似事なんてする必要がない。


 しかし、傭兵団は別。


 そこそこの大きさの傭兵団は馬も馬車も持っているし、冒険者よりは統率がとれる。


 アインハルト王国は戦争が終わったばかりだし、仕事が無く臨時で冒険者をやる傭兵も少なくないらしい。


 以上から、彼女達は傭兵団だと推察したわけだ。


「なるほど。ならばどうする?近くの街にでも逃げ込むか?」


「いえ、何もせず放置で構わないでしょう。警戒は必要ですが」


「何故だ?追って来てるなら、私達を襲う気なはず。寝込みを襲われたら不利だろう」


「来ないっスよ。ジュン君の魔法を見てるっスから」


 魔法使いは一人でも居たなら警戒度は跳ね上がる。


 結界を張ったり、壁を作ったり。


 水属性の魔法が使えるなら飲水を出したりも出来る。


 最上級魔法まで使えるなら尚更だ。


「魔法使いが居るのは想定外…聞かされてなかったんでしょうね」


「だから、あいつらは今は情報収集に徹してるっス」


「魔法使いは希少だし、魔法の恐ろしさは傭兵なら戦場で嫌と言う程味わっているでしょうしね」


「あたしらも味わってるっスしね」


 だから傭兵団は情報収集に移り。その結果で、諦めるか諦めないかを決めるだろう、そうソフィアさんとナヴィさんは予想した。


「諦めたとしても着いて来るでしょうけど」


「やれるだけはやった。でもダメだった。って言い訳するためっスね」


「そうか…ずっとあいつらに付き纏われるのか…」


「いえ、そうはならないでしょう。ご安心ください、お嬢様」


 何故そうならないか。


 目的地の山までの行程で野営をする必要があるのは今日と帰りの最終日だけ。


 残りは街か村に泊まる事が出来る。


 明日は街で一泊する予定だが、そこでは街を治める代官の貴族屋敷に泊まれるよう手配済。


 貴族屋敷に泊まる=ターゲットは貴族、もしくは貴族と繋がりのある誰か。


 貴族屋敷に入る所を見れば、そう判断するはず。


 そうでなくても街や村で襲撃すれば揉み消すのは難しい。


 それにあいつらは長期の旅の用意などしてたとは思えないから、着いて来たとしても三日か四日もすれば諦めて引き返すだろう。


 旅の用意も無く、相手は最上級魔法の使い手が居て、貴族かそれに準ずる何者か。


 此処まで悪条件が揃えば余程の馬鹿でなければ諦める。


 ゼフラさんはそう考えていた。


「向こうは私達の目的地も知らない筈ですから。何処まで行くのかわからない相手を追うのは苦痛でしょうし」


「急遽決まった旅っスから。ジュン君以外の面子が何者か、調べる時間も無かったんじゃないスっかね」


「元々、ジュンを攫う計画を立てるつもりで監視していたから動く事は出来た、という事か…」


 つまり、襲って来るとしたら今日が傭兵団にとってラストチャンス。


 しかし、それに気が付けるような情報は無し。


 更にダメ押しでこんなのも出そう。


「これは…ゴーレムね」


「ジュン君って、火魔法だけじゃなく、土魔法も使えるんスか!」


「ハハ…これでもう絶対に襲って来ませんよ、お嬢様」


「あ、ああ…」


 テントを囲むように五体のゴーレムを魔法で作成した。


 土と石で出来たゴーレムなので、それほど強くないが遠目に見たら誰が出したのかわからない。


 最悪、二人目の魔法使いが居ると考えるだろうから、より警戒して情報を集めようとするはず。


 よって、今日の安眠は確保出来ただろう。


『大丈夫そうやで。見張りの二人の内一人が慌てて報告に走ったわ。予想通りに動くやろ』


 と、デウス・エクス・マキナの偵察機で監視してるメーティスも居るし。


 今夜は何も心配いらない…


「ごちそうさま。美味しかったわ、ファリダさん」


「ごちそーさんっス!」


「お粗末様でした」


「さて…食事も終わったところで」


「そろそろ決める必要があるっスね!」


「ん?何をだ?」


「それは勿論…」


「誰がジュン君の隣で寝るか!っスよ!」


「「!!!」」


 俺とカタリナに衝撃が走る。


 そうか…テントは一つ。


 六人全員が入るのに十分な大きさのテントだが、それはつまり俺も同じテントで寝るという事。


「ジュン君がゴーレムを出してくれた御陰で見張り番も要らないし」


「全員が一緒に寝れるっスよ」


「このチャンスの為に骨肉の争いをして、勝ったのよ、私達は」


「だからジュン君…逃さないっスよ」


 ほ、本気の眼…いや、しかし!こういう抜け駆けを見張る為にカタリナ達が…はっ!?


「お嬢様、チャンスですよ」


「私達は後でいいですから」


「な、何がだ?何のチャンスで、何の順番だ?」


 けっ、結託してる!ゼフラさん達がソフィアさん達に懐柔された!


 いや、まさか逆か?ソフィアさん達がゼフラさん達に唆された!?


『どっちゃでも一緒やん、そんなん。覚悟決めるか、逃げるか、やり過ごすか。はよ決めや』


 い、いやあぁぁぁぁぁぁぁ!!

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