第60話 旅を続けました

「ナヴィ、数は?」


「ん~…見える範囲に居るのは21っスね。後方から馬車が一台。その中に何人居るのかは不明っスね」


 王都出て直ぐに襲撃。王都から近すぎる事と全員が馬に乗ってる事を考えると野盗とは考えにくい。


 つまりは何者かに雇われて馬と装備を与えられた傭兵、冒険者崩れのチンピラ。


 ダイアナ商会に雇われた連中だろう。


 当然、全員女だ。


「そこの馬車!止まれぇ!」


「大人しくしてりゃ命までは取らないでやらぁ!」


「ヒーハー!」


 …セリフはとても野盗っぽいが。でも、野盗と言えども美人なんだよなぁ。


 まだ何にもされてないし、出来れば殺したくはないのだが…


「ナヴィ、牽制射」


「了解っス」


 ナヴィさんが馬車から弓を放つ。


 ソフィアさんも殺すつもりはないのか、牽制…矢を射かけて脅すようだ。


 これでビビッて帰ればよし。それでも襲って来るなら殺す。


 そう考えてるようだが…帰ってくれないかなぁ。


「…やっぱり、帰らないわよね」


「スッね~。まぁこの程度でビビるようなら最初っから襲って来たりしないっス」


「そうね。ゼフラ先輩、戦闘になります。カタリナ殿も覚悟を。ジュン君は決して無理しないで、自分の身を護る事に集中して」


「せ、戦闘…同じ人間同士でか…」


「ご安心を、お嬢様。あの程度の数ならば私とソフィアで殲滅出来ます」


 ……俺一人でも、出来るんだけどさ。俺Tueeeeeのチャンスでもあるんだけどさ。


 やはり人死には可能な限り出したくない。


 後々別の誰かが襲われるかもしれないとか考えたら、ここで始末するのが正解なんだろう、というのはわかる。


 わかるが…


『ええんちゃうか、マスターのやりたいようにやっても。たらればの話したらキリがないしな。人殺しをしたくないっちゅううんは当たり前の感情やし、誰も責めたりせぇへんて』


 ……だな。やはり追い帰す方向で行くとしよう。


「ナヴィさん、どいてください。俺が魔法を撃ちます」


「え?…あ~、そういやジュン君は魔法も使えたっスね」


「ええ。派手なの一発撃ちます。それで帰ってくれたらいいんですけどね…………行きます!インフェルノ!」


 俺達が乗る馬車と野盗達の間に巨大な炎の柱を出す。


 炎の柱は膨らんでいき、最後には爆音を上げて爆ぜる。


 それは見た目にも派手で、爆音と合わさって迫力満点だ。


 野盗達が乗る馬は驚き、棹立ちになり、何人かの野盗は振り落とされている。


「ま、魔法使い!魔法使いがいやがる!」


「しかも今のは…火魔法の最上級魔法じゃねえのか!?」


「や、やべぇぞ…あんなんくらったらあたいらの装備じゃ骨も残らねぇ!」


「てっ、撤退だ!撤退しろ!」


 実際は最上級じゃなく上級魔法だけどな、インフェルノは。


 でも、折角思惑通りに帰ってくれるんだ。訂正する気は無い。訂正する機会も無いけど。


「…帰って、いえ、逃げて行くわね」


「そりゃあ、あんなの見せられて逃げないようなら頭がどうかしてるっス」


「凄いじゃないか、ジュン!」


 あっさり帰って…逃げてくれたのはいいけど、それならそれで今度はクリスチーナのとこに向かうだろうか?


 それとも俺達を追ってくるか…どっちにしろ、だ。メーティス。


『Okや。あいつらにも偵察機、貼り付けとくでぇ』


 これで大丈夫かな。あいつらが逃げた方向が王都じゃないのが気になるが…いっそ、俺達に向って来てくれる方が気が楽って考えるか。


「いや、旅を続けるつもりなんスか?ジュン君」


「ここは一度帰った方が…」


 と、ソフィアさんとナヴィさんは旅の中止を提案。


 しかし、ここで帰ってもなぁ。


『今の野盗がダイアナ商会が雇ったチンピラやとして。折角戦力を分けてくれとるんやから好都合って考えもあるわな』


 そういう事だな。


 仮に此処で帰ったら俺は問答無用で白薔薇騎士団の宿舎で保護だろうし。


 そうなると全戦力がクリスチーナ襲撃に向かうわけで。


 それは避けたい所だ。


 という事をソフィアさん達に説明。


 一応は納得してくれたので旅は続ける事に。


 その後、半日は問題無く進み。日が完全に沈む前に街道近くの開けた場所で野営する事に。


「今日は此処で野宿になりますね。ソフィア、テントを張るから手伝ってくれ」


「はい。ナヴィも手伝って」


「ファリダは食事の用意を」


「はい」


「了解っス」


 …お嬢様のカタリナは兎も角、俺にも仕事が割り振られないのは当たり前なんだろうな、この世界では。


 しかし、周りの皆が働いてる中、手持無沙汰なのは落ち着かない。


 カタリナも同じようだ。


 何かする事は無いか…


「…よし、カタリナ」


「ん。なんだ?」


「あっちに小さな林がある。枯れ木を集めに行こう」


「え?あ、ああ…うん、わかった」


 自分が誘われるとは思ってなかったのか、カタリナは少し戸惑っていた。


 そして、それに全員が反応する。


「ジュ、ジュン君は働かなくてもいいのよ?」


「そっスよ!男はデンと座って待ってるだけでいいっス!」


「お嬢様、チャンスですよ!」


「一気に最後まで行くのもアリです!」


「う、うん?よくわからんが…行って来る」


 ファリダさん…あんな薄い林でプレイに及ぶ事はありません。絶対に。


 だって丸見えですやん。


「枯れ枝が欲しいんだけど…あんまり無いな。こんな小さな林じゃ当然だけど」


「うん…なぁ、ジュン。良い機会だから聞きたいんだが」


 枯れ枝を集めている最中、カタリナが真剣な顔を向けて、そんな事を言う。


 こ、これは、もしかしてアレですか?ゼフラさんとファリダさんに焚きつけられて告白ですか?


 火を点けたいのは焚火であって、カタリナの恋心じゃないんですが!?


「クリスチーナは何故、貴族が嫌いなんだろうな。初めて会った頃はそうでもなかったのに、私が貴族だと知ってからは距離を置かれている…それがどうしても気になるんだ」


 違った。


 恋愛脳みたいに思ってごめんなさい。


 しかし、クリスチーナが貴族を嫌う理由、か。


 確かに、クリスチーナは貴族が嫌いみたいだけど、大人になってからはあまり表には出さないし、カタリナの事は嫌ってないんだけどな。


 でも、カタリナもそんな事が聞きたいわけでもないだろう。


「…俺もはっきりと聞いた事ないから、わからない。でも、推測でよければ話せる」


「推測か…構わない。聞かせてくれ」


「あくまで推測だからな?…クリスチーナの母親と姉が死んだ事件の事は?」


「…聞いている」


「それが関係してるんだと思うんだ」


 クリスチーナの母親と姉は王都に来る途中、魔獣に襲われて死んだ。


 もっと詳しく言えば王都に続く街道で襲われた。


 そして街道の警備・管理なんかは王国、貴族の仕事なのだ。


 実際、魔獣に襲われた街道の管理は王都に住むなんとか子爵の仕事だったらしい。


 つまり、そのなんとか子爵がちゃんと仕事をしていれば、未然に防げたかもしれない事件なのだ。


 だから、普段威張ってるくせに、税金をとってるくせに、ちゃんと仕事をしなかった子爵が嫌い。貴族が嫌い、そうクリスチーナは思った…考えたんじゃないだろうか。


 それが俺の推測だ。


「……なるほど。それは貴族が嫌い…いや、憎くても仕方ない事だな」


「あくまで推測だぞ?それにクリスチーナは貴族を憎んではいない。嫌いなだけだ…そこそこ集まったし、戻ろうか」


「…うん」


 真剣な顔は暗い顔に変わり。足取りも重くしたカタリナと野営地に戻る。


 …折角の旅なのだから楽しく行きたいけど、懸念材料があるせいでそうも行かなくなって来た。


 そこにカタリナまで暗い顔でいて欲しくないんだが…カタリナには責任の無い話なんだし。


 どうしたもんかね。

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