第57話 御指名が入りました

 イオランタ侯爵の一件から三日が過ぎた。


 今回の一件、結末は確認するべきだろうと思い、デウス・エクス・マキナで再び偵察。


 イオランタ侯爵とおっさんはあの後直ぐに王都を出て港まで直行。


 かなり無理をしての強行軍で進み、深夜に到着。


 またまた無理をして深夜だと言うのに渋る船員を強引に黙らせ出航。


 ワイアン王国まで後一日という距離まで来た所で騎士団が乗った船に捕まり御用となった。


 今回一緒に来ていた家臣達もおこぼれを受け取っていたので、国に残っていた家臣同様、重い罰を受ける事になるだろう。


 具体的にどんな罰が降るかまでは見るつもりはない。


 イオランタ侯爵はワイアン王国外務大臣。


 そんな重鎮が起こした事件故にワイアン王国は大騒ぎ。その結末はいずれは海を越えてアインハルト王国まで伝わる事だろう。


 因みにおっさんはと言うと罪に問われるなんて事は無く、無事に保護。


 イオランタ侯爵の悪事を知ったおっさんは酷くショックを受けていた。


 アインハルト王国に帰るかとも聞かれたがイオランタ侯爵との間に出来た娘が心配だと言って残る事にしたようだ。


 意外と子煩悩らしい。


 だが、確かにイオランタ侯爵の子供には誰かが着いていないとダメだろう。


 まだ幼い女の子だし、恐らくは貴族として生きられないだろうから。


 自分を保護してくれた騎士の女性を口説いてたし、おっさん自身は心配する必要は無いだろう。


 で、俺はというと、ローエングリーン家での滞在期間は終了。


 白薔薇騎士団の宿舎に戻った…わけではなく。


 今度はクリスチーナ達の家…つまりはエチゴヤ商会本店に滞在する事になった。


 私達もそれなりに貢献しているのだから、同じようにジュンを泊めるくらいいいだろう?と。


 というわけで、今はクリスチーナとアム達。そして同じくそこで暮らす孤児院出身の従業員達。


 監視役兼護衛として白薔薇騎士団員が交代で泊まり込む事に。


 で、今日はというと。アム達と久しぶりに朝から冒険者ギルドで依頼を受けに来ていた。


「何か手頃な依頼は無いかなっと」


「ジュンはまだFランクだからなぁ。討伐系の依頼は少ないよな」


「でもジュンは採取系の依頼得意だもんね。直ぐに見つけちゃうもん」


「まるで千里眼」


 見つけてるのはメーティスだけどね。


 御陰で採取系は難なくこなす事が出来てる…でも、つまんないんだよな。


 今日も現場まで護衛に着いて来るみたいだし…因みに今日の白薔薇騎士団の護衛は二人だけだ。


「ん?これは…」


「Fランクの依頼にしちゃ破格の依頼だな。でも…三日月草の採取かよ」


「見つける事が出来れば簡単な依頼だけど…」


「まず見つからない」


 三日月草とは日本に存在した物とは違い花は無く、葉っぱの形が三日月形なのでその名がついた。


 麻痺毒や麻酔薬を作るのに使われる、非常に貴重な草だ。


 何しろクローバーよりも小さく、他の雑草と混じって群生する上に数が少ないので見つけるのが困難。


 危険な場所にしか生えてないわけでもないのでFランク冒険者でも大丈夫と言えば大丈夫なんだが。


「どうする?その依頼受けんのか?」


「うん。他に目ぼしいのも無いし」


 というわけで三日月草採取依頼を受け、以前のオーク・ゴブリン混成部族が居る森とは別の、王都から少し離れた西の森に向かう事に。


「来たか」


「…またこのパターン?」


「カタリナ…ストーカーかよ」


「ストーカーは止めろ…いいじゃないか、私も着いて行っても…」


 冒険者になった日と同様に。カタリナが馬車で来ていた。


 当然、ゼフラさんとファリダさんも一緒だ。


「王都の外に行くんだろう?馬車で行こう」


「…ま、いいけどね」


 此処で断ってもカタリナが拗ねるだけだし。


 特に断る理由も無い。今回は以前より大型馬車を用意したみたいで全員が一台に乗れるし。


「自前の馬車を持ってる冒険者も居るけどよ。カタリナは冒険をピクニックと勘違いしてねぇか?」


「何を言うか。私はそこまで能天気では無い」


「そっかなぁ…」


「とても楽しそう」


 カタリナは馬車に乗って王都を出た途端、皆にお菓子を配っていた。


 更に昼食にサンドイッチも用意してるという。


 アムの意見も尤もだと思ってしまう。


 あまりしつこく言うと拗ねるから言わないが。


「それに此処数日はあの男のせいで気が休まらない日が続いたからな…今日くらい楽しんだっていいだろう」


「ああ…うん。ま、そうだろうな…」


「凄く変な人だったもんね…」


「こんなに美女が居たのにジュンとクリスチーナしか口説かない節穴親父」


「口説いて欲しかったのか、ファウ…」


 単に眼中に無いかのようにされたのが気に入らないんだろうな、ファウは。


 ファウはドワーフの血を引いてるだけあって見た目幼いしな。


 流石のおっさんも対象外だったんだろう。


「…何かな、ファウ」


「ジュンが何か失礼な事を考えてる気がした」


 どうして俺の周りには妙な勘に優れる奴が多いのか。


 ピオラといいユウといい…類は友を呼んだのだろうか。


「さぁて、着いたぞ。この森は浅瀬でもソコソコの魔獣が出る事があるらしいから、警戒して―――」


「あった」


「早えな!え、マジであったのか?」


 森に着いて直ぐ、メーティスに三日月草を探してもらったら直ぐ側にあった。


 僅か三本だが、依頼内容は有ればあるだけ。一本からの納品でも構わないとなっていたので、一応は依頼達成になる。


「マジで三日月草じゃんか」


「ジュン、すごーい」


「神懸かってる」


 まぁ見つけたのはメーティスだけどね。運が良かったのも確か。


『わいにかかればこんなもんや。で、どうするん?まだ探すん?』


 そうだな…折角此処まで来たんだし、少しは狩りもしたい。


 もう少し探そうか。


「お、おい…もう帰ってしまうのか?それはあまりにつまらなくないか?」


 …カタリナが寂しそうにしてるし、継続決定で。


『了解や。ほな、もう少し中に入り』


 メーティスの先導で、森を進む。


 この森にはオークやゴブリン、オーガといった亜人達の村は無く、生息する魔獣や動物を恐れないのであれば何処までも進んで行ける。


 最高でBランク相当の魔獣が居るそうだ。


 因みにアム達は現在Cランクで、Cランクの魔獣にソロで勝てるのがCランクの冒険者と考えていい。


 Bランクの魔獣が出て来ても白薔薇騎士団の護衛も居るし何も心配要らないだろう。


 本音を言えば俺にやらせて欲しいが。


 多分やらせてくんないだろうなぁ。


「アム、ファウ。来たよ。正面、狼の群れ」


「狼か…魔獣の狼とか、この森にいたっけか?」


「いない。多分、普通の狼」


 普通の狼か。群れで来るとなると俺にも出番が…


「であっ!」


「ファウ、右の奴お願い。わたしは左やるから」


「ん」


 …無かった。ただの狼五匹くらいアム達にすれば雑魚だった。


「すごいな、アム達は…私の出番が無かったぞ」


「へへっ…まぁな!」


「これでも若手期待の冒険者だしぃ」


「目指すは頂点」


 とまぁ…本日も俺Tueeeeeeは出来ず。


 追加で三日月草を十本採取してから帰路に着いた。


 狼の後は蛇と鳥の魔獣に襲われたが全てアム達が撃退。


 魔獣の討伐報酬と依頼達成報酬で、ソコソコの稼ぎとなった。


 そして夜。


 仕事を終えたクリスチーナを呼んでエチゴヤ商会系列の飲食店で夕食を摂る事に。


 カタリナ達も一緒だ。


「そう、怪我も無く依頼達成出来たなら何よりだよ。くれぐれも美しい顔に傷を付けたりしないように注意するんだよ」


「わかってるよ」


 顔だけは傷付けないなんて思ってないが。


 怪我なんてしたら冒険者を止めさせられそうだし。


「そっちはどうなんだよ」


「邪魔してくるとこ…何だっけ、ナントカ商会」


「ダイアナ商会」


「そう!それ!ダイアナ商会はどうなったの?」


 ダイアナ商会?……ああっ…そういやダイアナ商会のエンビー会長に絡まれたんだったなぁ。


 神子セブンやらイオランタ侯爵やらおっさんやら。


 濃い面子が短期間に集まり過ぎてて忘れてた。


「ああ、そうそう。その件で話しがあってね。ジュン、君に指名依頼を出させてもらうよ」


 指名依頼?この流れで?あぁ…物騒な事になるんですね?

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