第56話 思ったよりも悪党でした
「うん…いい。凄くいいぞ、ジュン!」
「…ふ、ふん!ま、まぁ、少しはあたしの婚約者らしくなったんじゃない?」
「…そりゃどうも」
素が出てるぞ、カタリナ…いや、別に構わないんだけども。
今日はおっさんとイオランタ侯爵に再び会う日。
貴族っぽい服装…何故か会って話をするだけなのにタキシードを着させられている。
もっと他にあったんじゃないかと思うが…今日僅かな時間の間だけだし、まぁいいか。
「それじゃ、はい、これ。変装用の魔法道具よ」
司祭様に渡されたのは白い宝玉がある腕輪。これを着けて宝玉に数秒間触れると…
「…どう?」
「…う、うん。変わったな」
「髪は金髪、短くもなった。顔も変わったが…元の顔の方が良いな、うん」
「流石ジュン君…この魔法道具は金髪イケメンに変装する魔法道具なのに、元の顔の方がイケてるなんて…素敵!」
金髪イケメンに変装する魔法道具ねぇ…どれどれ。
ふむ…確かに金髪イケメンだな。ハリウッドスターとかにいそうな…こっちの方が男っぽく見えるな。
少なくとも長髪にして女装しても女には間違えられそうにない。
「うお~い、侯爵とおっさんが来た…って、誰だ、お前!どっかで会った気がすっけど!」
「…もしかして、ジュン?」
「もはや別人」
部屋の中に居なかったアム達が俺を見て驚く。アムがわからないくらいなら、おっさんとイオランタ侯爵に見破られる事は無いだろう。
今日もおっさん達と会う場所はローエングリーン家。
面子もクリスチーナが不在なのと司祭様を除けば同じ。
アム達と司祭様は別室で待機となってる。最悪の場合は司祭様の精神魔法でアレらしい…アレ。
バレたら国際問題なので本当に最終手段だが。
必要無いけどね。
「おはようございます、ローエングリーン伯爵」
「おはよう、アニエス!カタリナ!さぁ、おはようのハグをしよう!YO!」
アム達がおっさん達が来た事を伝えに来てすぐ。おっさん達は来た。
朝からハイテンションだな、おっさんは…
「…ようこそ、イオランタ侯爵」
「…おはようございます」
「あ、あれ~?どうして二人共僕を無視するの?」
ハグしようと両手を広げてるおっさんを華麗にスルー。それだけでおっさんは涙目だ。
メンタル弱いな…ん?
「それで…そちらの男性が?」
「お、お前が僕からアニエスとカタリナを奪おうとする間男か!」
間男…この世界にもあったんだな、その言葉。おっさんに言えたセリフじゃないと思うんだが。
「…初めまして、イオランタ侯爵、お義父さん。私はジュン・フランコ・ルーデルト。ルーデルト子爵家の者です」
ルーデルト子爵家とはソフィアさんのレーンベルク家の遠縁に当たる家で、アインハルト王国貴族の中では無名…北部の小領を治める地方領主だ。
俺と結婚する時に貴族籍を与える為に、ルーデルト子爵家の養子にするように話を着けていたらしい。
それを今回の件で使用…ってか、多分後々調べられた時の為に本当に養子にさせるつもりなんだろうな。
その証拠にミドルネームは急遽考え、適当に付けられたものだがファーストネームはそのまま。
ファーストネームまで偽名だと、うっかり反応出来なかったら困るとかなんとかソフィアさん達は言ってたが。
「ルーデルト子爵家~?聞いた事も無い!リズは知ってる?」
「…その言い方は失礼よ、ユーグ。でも、ごめんなさいね、私もルーデルト子爵家の事は存知あげないわ」
うん。流石に北部の小領主の名前まで把握してないらしい。おっさんは聞いた事も無いとか言ってるが、自分と関係を持った女性の家以外知らないだろ、どうせ。
「で?君はどういうつもりなのかな」
「…どういうつもりとは?」
「そんな事もわからないのか!僕に無断でアニエスとカタリナに手を出すなんて!どういうつもりかと聞いてるんだよ!」
席に着いたおっさんが俺を睨みながら何か言って来る。
このおっさん…自分の事棚上げしすぎじゃない?自分も散々色んな家で子作りして来たんでしょ?
それに、俺は二人に手を出した覚えはないぞ。
出されそうになった事はあるが。
「お前が言えた事か。私が知ってるだけでも相当な数の家に出入りして子作りして来たくせに。お前、全ての娘の父親に許可を取って来たとでも言うのか?」
「うっ…そ、それは…」
「私が誰と婚約しようがお前には関係が無い。顔を見たなら満足だろう。ワイアン王国に帰れ」
「カ、カタリナ…そんなぁ…」
アニエスさんとカタリナにそろって袖にされて落ち込み、何も言えなくなるおっさん。
おっさんはそのまま放っておけばいいとして、問題は…
「……」
ずっとニコニコしながら俺を見るイオランタ侯爵だ。
何企んでるんだか…可能なら、あの切札はきりたくない…いや、もう切ってるんだけど。
アニエスさん達の前では晒したくない。誤魔化すの面倒だからな。
デウス・エクス・マキナで調べたイオランタ侯爵の弱味…最悪だったからな。
即決で白日の下に晒すと決めたくらいには。
「ジュンさん…と呼んでいいかしら?」
「構いません、イオランタ侯爵」
「ありがとう。それで一つお願いがあるのだけど」
「…御願い、ですか」
いきなり来るか?まさかおっさんの前で私のモノになれとは言わないと思うが…
「その腕輪、外してくださらない?」
「は?」
腕輪を外せ?…何故?
まさかこれが変装用の魔法道具だとバレてる?
「…何故そのような?」
「私、それとよく似た腕輪…魔法道具を知っているの。ワイアン王国に居るエロース教の神子が着けていたわ。細かいデザインは違うけれど…それと同じ物じゃないかしら」
うはぁ…完全にバレてますやん。
どうするか…って、外すしかないよなぁ。
アニエスさんも仕方ないとばかりに頷いているし。
ハァ…すんなり終わらせてくれればいいものを…
「あ、あれ…君は…」
「あら。先日の子だったのね。そう言えば、ジュンって呼ばれてたかしらね」
「ええ。念の為に言っておきますが、俺は男ですよ」
「そ、そんな…」
ガックリとうなだれるおっさん。まぁ、男を口説いてたと知ればな。如何にアレなおっさんと言えどもショックだろう。
「結婚式に招待する体で一緒の船に乗せればこっちの物だと思ってたのに!招待状まで用意したのにっ、ぷごおお!?」
「まだ諦めてなかったのか貴様は!」
「本当に貴様は大馬鹿だな!ド阿呆だな!」
…このおっさん、筋金入りどころか鉄骨入りだな。その点だけはぶれないにもほどがあるだろ。
アニエスさん曰く、影響を受けやすい奴なのに。
「どうして変装なんて?いえ変装していたのは先日もだけど。先日お会いした時に女装なんてせずにカタリナさんの婚約者だって言えば良かったと思うのだけれど?」
「…こちらにも少々事情がありまして。決して御二人を騙すのが目的だったわけじゃありませんし、俺を女だと思ってるおっさ……ユーグさんの事を考えたわけでもありませんよ」
いや、ほんと。出来る事なら女装したくなかったし、会いたくもなかった。
「ふぅん…ねぇ、ユーグじゃないけれど本当に結婚式に来ません?皆さん、ご招待しますよ」
「「「はぁ?」」」
何言ってんだ、この人…例えるなら離婚した夫が再婚するからと、再婚相手の女が元妻とその娘を結婚式に招待するようなものだぞ。
面の皮が厚すぎないだろうか。
「…何を仰っているのか、わかりませんね。何故俺…私達を結婚式に招待なんて」
「貴方を気に入ったから。それだけよ。良かったら仲良くして欲しいわ。末永く、ね」
……ああ、やはり、そう来るか。
変装してるのがバレようがバレまいが、俺をワイアン王国にに来させようとするのは読めてた。
イオランタ侯爵……いや、この女の悪趣味は相当なモノだからな。
「ちょ、ちょっとリブ…何言ってんの?」
「あら、おかしい?あなただって招待してたじゃない?」
「そ、それはそうだけど…僕は彼を女だと思ってたからで…」
「なら私だって彼を誘ってもいいじゃない。男だろうと女だろうと、結婚式に招待するくらいどちらでも構わないでしょう?ああ、そうそう。出発は明日に延期しますから、一緒の船で行きましょう?」
「……参加すると決めたわけではないが、それは非常識だと思うが?イオランタ侯爵」
「私達にも都合というものがあります。そのような勝手を言われても困ります」
「ならジュンさんだけ一足先にワイアン王国に行きましょう?楽しい所に御案内しますから、ね?」
ああ…そうやって俺をアニエスさん達から引き離そうってか。
もういいかなぁ…いいよな?切札を切っても。
『ま、しゃあないやろ。このおばはんはやり過ぎや。このおっさんはワイアン王国に帰っても大丈夫やろうけど』
そうだな。他の男四人は今頃は保護されてるだろうし。引導を渡すのが少し早くなるだけだ。
「…イオランタ侯爵。この写真を見て下さい」
「写真?何かし…ら…こ、ここ、これは!?」
「早く国に帰った方がいいんじゃないですかね。今頃大騒ぎですよ」
デウス・エクス・マキナで探ったイオランタ侯爵の弱味。
アニエスさんは外務系貴族からは何のネタも仕入れられなかったようだが、こちらは大当たり。
とんでもないネタを掴んでしまった。
「な、ななな、何故、貴方がこんな写真を?それに大騒ぎって…ま、まま、まさか!」
「リブ?一体どうしたの?」
「イオランタ侯爵?その写真には一体何が…」
「な、なな、何でも、何でもなくてよ!か、帰りましょうかユーグ!失礼しますね、ローエングリーン伯爵!」
「あ、ああ…」
「え、ちょ、待ってよリブ!」
取り乱し、大慌てで出て行くイオランタ侯爵。それを追うおっさんとイオランタ侯爵の家臣達。
今から帰っても手遅れだけどね。
「ジュン、あの写真は一体…」
「俺が独自ルートで入手した写真です。もう一枚ありますから、見ます?見ても余り楽しい物じゃありませんけど」
「どれ……何だ、これは!?」
写真に写っているのは四人の男性。イオランタ侯爵の屋敷で撮られた、デウス・エクス・マキナで撮影したものだ。
「四人の男性…何故、牢屋に繋がれている?皆、俯いていて顔は見えないが…」
「ジュン、これは一体…」
四人の男性…言わなくてもわかると思うが、イオランタ侯爵のおっさんより以前の男達だ。
ワイアン王国で調べた結果、別れた男達は暫くして行方不明者扱いになっていた。
しかも、全員元は別の女性の婚約者だったというのだから笑えない。
で、何故四人の男性がイオランタ侯爵の屋敷…牢屋で繋がれているのか。
その目的はというと…好き勝手に弄ぶ為だ。イオランタ侯爵だけじゃなく、イオランタ侯爵の家臣の女達、取り巻きの貴族達で。
つまり、イオランタ侯爵は他人から婚約者を奪い、飽きたら周りの女に与えていたのだ。
貴族からは見返りとして金銭や情報、商売での優遇措置なんかを対価に受け取って。
おっさんも放っておけばいずれ五人目になってたに違いない。
「そ、それは…何という…」
「ま、待て。それじゃあの男がワイアン王国に帰ったら…」
「それは大丈夫。既にイオランタ侯爵を捕縛しようとワイアン王国が動いているから。逃げ場の無い海上で捕まる事になると思うよ」
一応は父親であるおっさんを、カタリナは心配したらしい。
なんだかんだで父親だと認めてるという事か。
「そ、そうか…しかし、ジュンはどうやってこんな写真と、その情報を手に入れた?」
「それは秘密。…ま、その気になれば俺に調べられない事は無いって事。カタリナが自分の部屋に何を隠してるのとかも調べられ…うわぉ!」
「バ、バカ!絶対に調べないでよ!絶対よ!調べたらただじゃおかないから!」
そんなに慌てるとは…本当に何か隠してるらしい。なんだろうな。少し気になる。
本当に調べちゃうか?
『それはあかんやろ、マスター。仮にも乙女の秘密を単なる好奇心で暴こうなんて…今回みたいにな事情があればしゃあないとしてやな』
冗談だよ。…ほんとだよ?
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