第58話 ブッキングミスしました
「指名依頼?」
「うん。ダイアナ商会に不穏な動きがあってね。護衛をして欲しいんだ」
不穏な動きとやらを詳しく聞くと。
ダイアナ商会が傭兵崩れやら冒険者かぶれのチンピラを集めているのだとか。
どっちも女なんだが…物騒な事には変わりない。
「ダイアナ商会は現在かなり苦しい状況にあるしね。破れかぶれな手段に出ようとしてるのさ。ま、十中八九、狙いは私さ」
「何だよ、そんなのあたいらが居れば…」
「勿論、アム達にも護って貰うよ。君達はエチゴヤ商会専属なんだから。でも、相手の数が不明だしね。警備兵を追加で雇っているし、衛兵にも見回りを強化するように頼んでる。あまりあてにできないがね」
白薔薇騎士団に頼む事は…しないんだろうな。
いや、そう言えば以前、ソフィアさんとナヴィさんが一緒で、協力するって話だったような?
「そうだけどね。それはジュンを護る為であって私の為じゃない。それに貴族に借りを作る気は無いよ。貸しを作る気はあるけど」
「…クリスチーナは本当に貴族が嫌いなんだな」
「おっと…ま、貴族の中でもカタリナはマシだと思ってるから、安心しなよ」
カタリナはマシに思って欲しいんじゃなく、友人だと思って欲しいだろうな。
素直に口にすれば案外受け入れそうな気もするんだけど。
「話はわかったけど、護衛っていつから?四六時中一緒に居なきゃいけないのか?」
「流石に昼間に襲っては来ないだろうし、暫くは遠出をする予定もない。夜間に一緒に居てくれれば良いから、昼間は冒険者活動をしても構わない」
「よ、夜に一緒って…まさか一緒に寝るつもりじゃないだろうな、クリスチーナ」
「ん?フフ…」
「な、なんだ、その笑みは…同衾なんて許さんからな!」
「お嬢様、声が大きいです。控えてください」
その時はどうせアム達も一緒だから、おかしな雰囲気になったりは…
『するやろ。4P…いや5Pやな。初体験でもなんの障害にもならずにやりよるやろ、クリスチーナらは』
……一人で寝させてもらおう、うん。
俺の心の平穏の為に。
「指名依頼は明日か明後日には出すから、受けておいてくれたまえ。破格の報酬を約束するよ」
と、いう事で翌日。
今日も冒険者ギルドへ。
カタリナは今日も来るかと思ったが、クリスチーナが心配だからとエチゴヤ商会に居るそうだ。
ああ見えて、心配性で友達思いのカタリナである。
『マスターかて心配性やん。デウス・エクス・マキナの偵察機、クリスチーナに張り付かせるやなんて』
……念の為だよ、念の為。
さてさて、今日はどんな依頼があるかなっと。
「ああ、来たな。おい、ジュン。こっちに来い」
「ギルドマスター?」
冒険者ギルドに入るとギルドマスター、ステラさんが呼んでいる。
久しぶりの登場だけど、一体何の用だろうか。
「お前に指名依頼が入っている。受けるか?」
「え?もうクリスチーナが指名依頼出してるんですか?…って、どこ触ってるんです」
「チッ…少しくらいいいだろ…」
話を聞く為に近付いたら腰に手を回され、太ももを触られた。
これ、この世界じゃ男にやったらセクハラ…いや、日本でもセクハラになるな、これ。
「指名依頼を出したのはクリスチーナではない。お前、昨日三日月草の採取依頼をこなしたそうだな。依頼者はそれと同じだ」
何故、その人が俺に指名依頼を出したかと言うと。
俺が納品した三日月草の状態が非常に良く、本数も一度に十本と期待以上だった。
よって、ランクは低くとも採取に関しては高い知識を持っているのだろうと考えた依頼者は他にも欲しい希少な植物を俺に集めて欲しいと、そう考えたらしい。
「どうする?指名依頼はなるべく断らない事をオススメするが」
「何故です?」
「指名依頼をこなした方が色々とお得だからな。報酬、名声、ギルドへの貢献、ランクアップの助け。あんまりな依頼内容なら断ってもいいし、依頼者が気に入らないから断るのも自由だ。断ってもペナルティは無いしな」
つまりは受ける方が断然お得だって事か。
報酬や名声はともかく、ランクアップしやすいってのは助かるな。
ランクが上がれば強い魔獣と戦う機会も増える。
俺Tueeeeeのチャンスも増えるという物。
折角の指名依頼でもあるし、前向きに検討しようか。
「詳しい内容を聞かせてください」
「詳細な依頼内容は直接聞くといい。依頼者は魔法道具店『エリザベス』のオーナー、エリザベスだ」
…自分の名前が店名かぁ。別におかしな事じゃないが、自分の名前、好きなんだろなぁ。
ステラさんから店までの道を聞いて、すぐに向かった。
店の場所は冒険者ギルドからほど近く。
店構えは特におかしな所は無い。ただ外から見る限り、繁盛はしてなさそうだ。
店員の姿も見えないが…とにかく入るしか無さそうだ。
「お邪魔します…誰かいませんかぁ」
返事は無し。高価そうな魔法道具が並んでるのに無用心な…簡単に盗まれちゃうぞ?
「…誰もいねぇのかな?」
「ううん。奥で音がするから誰か居るよ」
「それにしても無用心」
カウラの耳には何かの音が聞こえているらしい。
しかし、これ以上奥に入るのはダメだろうし、呼んでも来ないとなると…どうするべかな。
「…えーと…すみませーん!誰かいませんか!」
「…聞こえてるから、大きい声ださないでよね」
ノソっと、表現される現れ方でようやく人が出て来た。
出て来たのは褐色肌にダークブルーの長髪。長い耳…異世界転生後、初のダークエルフだ。
眠そうな眼に、とんがり帽子にローブ。
魔術師のような見た目の美人さんだ。
「…誰?客なら適当に見てて良いわよ。欲しい物があったら表記されてる通りのお金を置けば持ち出せるようになってるから」
「なんだそりゃ。持ち逃げ出来ないようになってるって事か?」
「そ。それに…………」
「それに?……あれ?この人、寝ちゃってるよ?」
会話の途中で寝るとか…よほど寝不足なのか?
「はっ……なんだっけ?」
「あ、起きた」
「…持ち逃げ出来ないようになってるって話の続きです」
「…ああ、そうそう。その置き物、ゴーレムだから。盗っ人は捕まえようと動く。ドアも魔法道具で、お金ヲ払わずに出ようとしたら雷魔法が流れた後に自動で閉まる」
なるほど。だから店内に店員が居ない…って、それ説明されなきゃわかんないよな。
それじゃ持ち逃げか諦めて店を出るかの二択じゃね?
こうやって諦めずに呼ばない限り。
「………おお。それは盲点」
駄目だ、この人。商売に向いてない。
「良いのよ。店はついでにやってるだけのオマケだから。…それより、何か用?」
「ああ、えっと…貴女がエリザベスさんですか?指名依頼を受けて来たんですけど」
「指名依頼…何だっけ……………………」
「寝るな!」
スパァンと、アムがエリザベスさんの頭を叩く。
依頼主に手荒な真似はお止しなさい…
「……痛いじゃない」
「話の途中で寝るからだろうが。次寝たらもっと強く叩くからな」
「えー…指名依頼…あぁ、三日月草を採取してくれた人ね。えっと…いっぱい居るけど、誰が?」
「一応は俺…私です。こっちの三人は仲間ですけど、別のパーティーになってます」
白薔薇騎士団の護衛は今日も居るが、今は店の外で待機中だ。
「そう。依頼内容は難しい話じゃないわ。私が求める希少な植物や鉱物なんかを貴女に採取して欲しいだけ」
「はぁ、植物や鉱物…何に使うんです?魔法道具の作成ですか?」
「違うわ。魔法道具の作成は仕事だけど、貴女に依頼するのは趣味に使うの」
その趣味とは?何となく気になったので聞いてみると、御呪いに使うのだとか。
「呪いにも使えるけどね」
「御呪いに呪い…例えばどんな?」
「そうねぇ…お母さんが一ヶ月の間ワキガになる呪いとか。落とし物が三ヶ月以内に見つかる御呪いとか」
……微妙。一ヶ月ワキガになるとか地味に嫌な呪いだと思うけど、お母さん限定なの?
「あとは…お父さんのパンツの紐が物凄く大きな音を立てて切れる呪いなんかもあるわよ。試してみる?」
「…遠慮します」
どうやら子供のイタズラレベルの呪いや御呪いみたいだな…これなら協力しても…問題無い、か?
「それで、私に何を採取して欲しいと?」
「屍草って知ってる?」
「ええっと…」
メーティスさんや、出番です。
『はいはい。屍草はマスターに分かりやすく一言で言えば冬虫夏草やな。この世界の冬虫夏草は魔獣の死骸にも寄生する、わりと大きくなるやっちゃな』
…アレかぁ。虫の死骸なんかに寄生する菌類。
採取後はともかく、死骸に寄生してる姿を見るのは嫌だなぁ。
「…死骸に寄生する植物ですよね」
「そうそう。知ってるなら話が早いわ。どんな死骸に寄生した物でも構わないから、三本ほど探して来て。報酬は一本につき金貨三枚。三本以上取って来ても構わない」
最低三本って事か…念の為に確認するけど、探せるよな?メーティス。
『勿論や。何も問題無いでぇ』
ならば良し。受けるとしようか。
「わかりました、受けます。…因みにそれは何に使うんです?」
「一週間手汗が凄く出る呪い」
「………行ってきます」
本当にあんのかな、そんな呪い…
「あ、期限は設けないけど、なるべく早くお願い。因みに屍草はこの辺りだと片道一週間かかる山まで行かないと無いからね」
………なんて?
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