第52話 再び全員集合しました
「さて、全員揃いましたね」
「どういう事か説明して頂けますか、ローエングリーン伯爵」
「ああ。実は…」
アニエスさんが戻った後。すぐにソフィアさん達に連絡。
院長先生に司祭様、クリスチーナにピオラにユウまでローエングリーン家の屋敷に集合した。
そして、何がどうなっているのか再度アニエスさんは説明した。
因みにユーグ…いや、もうおっさんでいいや。おっさんは此処には居らず別室で監禁されてる。
「それは…面倒どころじゃないね」
「クリスチーナの言う通りです。これは非常に厄介ですよ」
「先の『トランス・パレード』を治めた功績もこれでチャラ…いえ、マイナスと言っていい失態ですよ、これは。ローエングリーン伯爵」
「ぐっ…」
あのおっさんは結局何をやらかしたのかと言うと。
俺をワイアン王国に連れ帰りたいと言ったのだ。女王様とイオランタ侯爵、宰相や他の貴族が立ち並ぶ謁見の最中に。
それさえなければ、事態は丸く収まる筈だった。
アニエスさんは未練も無いようだし、女王様が提示した条件もアインハルト王国とワイアン王国との貿易で多少優遇されるというアインハルト王国にとって利益になる事。
全て万々歳に終わるという席で、婚約者となったイオランタ侯爵と以前は愛し合っていたアニエスさんの前で言い放ったのだ。
女王様に「今日会った美しい子も連れ帰りたいのですが、いいですか」と。
結婚の許可を貰いに来てるのにもう次の女を欲しがってるという屑っぷり…は取り合えず置いておくとして。
問題は俺の存在を謁見の最中に言い放った事だ。
「女と勘違いされているのが不幸中の幸いですか」
「それで女王陛下はそれに対し何と?」
「本人が望むなら好きにすればよい、と。つまりジュンが拒否すればあのバカは黙らせれる。それに馬車の中でわからせた。もうジュンを連れて行きたいなどと言うまい」
…わからせたって、アレですよね。言葉でじゃなく物理で、ですよね。
ズダボロだったもんなぁ。
「…つまり、当面の問題はイオランタ侯爵のみ、という事ですか」
「いや…院長先生。それだけじゃ終わらないと思うよ」
「私もクリスチーナに同意。多分、イオランタ侯爵の動向を探ってる貴族が居る筈。他国の重鎮だもの。安全確保と監視の意味も込めて護衛くらい着くと思うけど」
「……ユウは本当に賢いわね」
つまり、下手すると俺が男だって事が明日バレるわけだ。イオランタ侯爵やアインハルト王国の貴族、最終的には女王様に。
そうなると、これまでの苦労はなんだった……別にバレても問題無いんじゃね?
だって、アレでしょ?俺が安全に冒険者活動出来る為の根回しは終ってるって話だ。
それって俺が男だとバレても問題無いようになってるって事じゃねぇの?
『いやいや…その場合は結婚が前提やで?白薔薇騎士団、ローエングリーン家、クリスチーナ、アム、カウラ、ファウ、ピオラ、ユウ…オマケでノイス支部のシスター達。全員と結婚して初めてバレても問題無いって条件やった筈やで?』
Oh…という事は明日男だとバレると…
『マスター的には拙いわな。最悪イオランタ侯爵だけでも誤魔化さんと』
ワイアン王国の貴族達にも狙われるってわけですね。
本当に面倒な事してくれたな、あのおっさん…
「…奇しくも、ユウの言った事を証明してしまったわけだね、ローエングリーン家は」
「ぐっ…」
「ああ…それぞれの力だけじゃジュン君を確保出来ない、この場に居る全員が協力体制をとらないとって話ね。確かに、それを証明してしまったわねぇ」
ああ、うん。もしも今回、ローエングリーン家単独で何とかしなければならなかったら。
俺が男だと言う情報をどこまで隠せたか…………って、全員協力体制をとってる今でも難しいって話をしてたんじゃね?
「…クライネ」
「ええ。イオランタ侯爵の護衛と監視には白薔薇騎士団が付けるよう上に掛け合いましょう。問題無く通る筈です」
「イオランタ侯爵の動向を探ってる貴族は…ジーニ司祭様」
「ええ、お任せを。拙い情報を掴んだ下っ端の記憶だけどうにかすればいいでしょう。マチルダも手伝ってね」
「わかってるわ。ステラも呼びましょう。隠れてる諜報員を見つけるのは、あの子の得意分野だもの」
ステラって…ギルドマスターか。あの人も呼ぶのぉ?あの人はあの人で面倒臭い事になりそうだけどなぁ。
「…ではイオランタ侯爵以外の対応はそれで良いとして。肝心のイオランタ侯爵自身はどう対応するんだい?」
「そのイオランタ侯爵だが…珍しい物に眼が無いらしい。珍しい物を沢山売ってるというエチゴヤ商会に買い物に行きたいとも言っていたそうでな…」
「……そこでうちが出て来るのか。わかったよ、ジュンの為だ。イオランタ侯爵への贈り物は適当に見繕っておく。代金はローエングリーン家に請求させてもらうけど、構わないね?」
「…すまんな」
つまり、イオランタ侯爵の誘いを断る代わりに贈り物でご機嫌を取ろうと。そういう事らしい。
そしてイオランタ侯爵の他の情報はと言うと。
「ワイアン王国でも有数の資産家。三十八歳。すでにあのバカとの間に子供が居る。今回の訪問では連れて来てない。男好きであのバカは五人目の男だが、結婚は初めて。こんな所か」
今日、大急ぎで集めた情報らしい。おっさんが情報源の一つだと思うが…当てにしていいんだろうか。
「五人目の男で初めての結婚、ですか…女性から嫌われてそうですね」
「だな。そして男好きとなると、ジュンが男だと知ると本気で欲しがるようになるかもしれん。イオランタ侯爵自身がな」
おっさんが新しい女を欲してるという点をどう思ってるのかと言えば、よくわからないそうだ。
ただニッコリと微笑んで、じゃあ一度その子に会って見ましょうか、と。明日、ローエングリーン家に伺いますと。それだけを言っていたそうだ。
普通怒るんじゃないの?夫となる人物が別の女を欲してるっなんて…
『ええ気分はせんやろうけど、一夫多妻が普通の世の中やからなぁ。そのイオランタ侯爵も独占出来るなんて考えてへんのやろ。あんなおっさんでも。ま、実際どう思ってるんかは明日にならんとわからんな』
うへぇ…男だとバレてもダメ。かと言って女として気に入られてもダメ。でも相手がどう出るかもイマイチわからない。
うはぁ…面倒くせぇ。
『せやなぁ…まぁ兎に角、明日は男だとバレないようにする。これが絶対条件や。対策、考えようかぁ』
頼むぜ相棒。
『おう。ちゃあんとわいの言う事聞くんやで』
で、翌日。
メーティスと考えた対策をした上でイオランタ侯爵が来るのを待っているのだが。
「…ぷっ、くく…アーハッハッハッ!ジュン!よく似合ってるじゃんか!」
「ウフフ、本当!何処かのお嬢様みたい!」
「流石ジュン。女の子よりも女らしい」
「…三人共、後で覚えとくように」
メーティスと考えた対策の一つに、今よりも女っぽい服装をするというのがあった。男だとバレないのは絶対条件だからだ。
渋々ながらそれを了承した俺は皆に提案したのだが…こんな時なのに皆に寄ってたかって玩具にされた挙句、こんな姿になった。
「まぁ、ちょっとやり過ぎな気もするがな。これで男には見えんだろ」
「そうですけど…これ女として自信なくしちゃうほどの出来じゃありません?ちょっとジュン。これを機に目覚めたりしないでね?」
「一体何に目覚めると言うんだピオラお姉ちゃん…」
ドレスにハイヒール。ティアラやイヤリング。化粧は勿論、胸に詰め物までして。
自分で言うのも何だが一見ちょっと背の高い貴族…いや、どこぞの御姫様のような姿になってしまった。
「ククッ…どうするカタリナ。ジュンはお前よりも美人で女らしいぞ?」
「なっ!何をバカな!流石に女らしさでは私の方が上です!」
「そうか~?」
楽しそうですね、アニエスさん。今回の発端は貴女の身内が原因ですよ?覚えてます?
全く…此処までやって散々な結果に終わったら…暴れちゃおっかな、いやマジで。
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