第51話 やらかしてくれました

「ぐすっ…えぐっ…痛い~痛いよ~…」


「ええい、うっとおしい。いい加減泣き止まんか」


「いくら男でも、貴様は大人だろうが。回復魔法もかけた。もう痛みなんてないだろうが」


「起こす時に顔叩いたくせに~…」


 失神したおっさんに回復魔法をかけてから客間に運び、椅子に座らせてから起こしたのだが。


 アニエスさんとカタリナがビンタして起こしていた。


 二人揃って容赦のないビンタだった。おっさんの両頬には綺麗な紅葉が出来ている。


「そんな事より。貴様のその姿はなんだ。服装と言動も変だが太り過ぎだろうが」


「全くだ。10年前に会った時はもう少しマシだったイメージがあるぞ」


「へ、変?…ふ、太ったのは単にあちこちで美味しい物食べてたせいかな、うん。どこ行っても接待されまくりで。それより、二人共…もう少し優しくしてくれてもいいんじゃ…」


「やかましい。それじゃ、この十年どこで何してた。そのおかしな服装はなんだ」


「お、おかしくなんかないYO!これは南方の島国ワイアン王国で平民から王様までみんな着てる服だYO!ちょっと前までそこに…ワイアン王国に居たんだYO!」


「……ワイアン王国、だと?」


 アインハルト王国の南には海があり。遥か南方には常夏の国ワイアン王国がある。


 この世界には飛行機はないので船で行くしかないのだが…個人で行ったり来たりするには旅費が掛かり過ぎる。


 アインハルト王国とワイアン王国は敵対国ではないし、貿易もしてる。


 貴族であれば観光する事も出来るだろうが…この人、そんなにお金持ってんの?


「…どうやって行って、どうやって帰って来た」


「え?勿論、船で行って、船で帰って来たよ?…YO!」


「その珍妙な喋りはワイアン王国の影響か…確かに、あの国の住人は妙にテンションが高い喋りだったな。相変わらず影響を受けやすい奴。…それより、私が聞きたいのは貴様がどうやって船に乗ったかだ」


「どうやって船に?…ワイアン王国の貴族、イオランタ侯爵に気に入られてね?是非、我が家に遊びに来て欲しいって言うから船に乗せてもらったんだよ?」


「イオランタ侯爵だと?まさかリブレット・ヨランダ・イオランタ侯爵か?」


「そうそう!凄く良い人でね!ワイアン王国に行ってからもずっと世話してくれてっ、ぶごぉ!?」


「ワイアン王国の現外務大臣じゃないか!そんな重鎮と関係を持ったのか貴様は!」


 わぁ…それは…うわぁ~…政治には素人だが、それが拙い事だというのは、なんとなくわかる。


『せやな。男を共有するんが普通の世の中やけど、他国の貴族同士の婚姻となると互いの主…この場合はお互いの国王の承認が要るわな。このおっさんがイオランタ侯爵って人とどんな関係やったんか知らんけど…普通に考えて拙い事になるんちゃうか』


 それは、このおっさんが拙い事になるのではなくイオランタ侯爵が、だ。


 外から見ればワイアン王国のイオランタ侯爵がおっさんを…アインハルト王国のバーニャ男爵家の男を拐かしたように見える。


 イオランタ侯爵がどういうつもりだったのかはわからないが、アインハルト王国の貴族が問題にした場合何らかの責任を問う事になる。しかも外務大臣に。


 あれ?だけど、こうして帰って来てるわけだし…黙ってればバレないか?


「チッ…全く面倒な……イヤ、待て。確か今、イオランタ侯爵が来ていたな。外交は私の管轄じゃないから何しに来たのか知らなかったが…まさかお前絡みか」


「あ、そうそう!僕と正式に結婚する為に女王様に謁見をって、ぶごあ!?」


「バカかお前は!いや、バカだな!なら、その席にお前が居なければ話にならんだろうが!」


「い、いや、その席にね?僕のママと主であるローエングリーン家の当主である君に来て欲しくて呼びに、ぶげっ!」


「それを早く言わないか!」


 アニエスさんは慌てて王城に向かう準備を始め、おっさんを連れて向かった。


 カタリナも付いて行くか悩んだようだが、アニエスさんに必要無いと言われ止めた。


「…なんか、すげえアレなおっさんだな」


「うん…アレだね」


「…アム、カウラ。私に遠慮しなくていい。ハッキリ言って構わない」


「マイケルとは別方向のド阿呆」


「その通りだ」


「ファウが言うんだな…いや、言うと思ったけどよ」


「アハハ…」


 ま、確かに。アニエスさんが言ってたように女の家を転々としてたっぽいし。自分の行動が拙い事もわかってなかったっぽいしな、あのおっさん。


 …ずっとおっさんって言ってたけど、アニエスさんと同い年だっけ?ならおっさん呼ばわりは拙いか?


『いやいや…それ以前に貴族様やろ、一応は。年齢云々での判断より、そっちの方が拙いんちゃう?まぁ、そこら辺は気にしてなさそうやけども』


 そういやそうだ。あのおっさん…ユーグさんがあまりに貴族っぽくなくてついつい忘れがちだが。


「んでよ、カタリナ。あのおっさんは結局どうなんだよ」


「…どうとは?」


「だからぁ。なんとかって王国のなんとかって貴族と結婚するつもりなんだろ?お前の母ちゃんとは結婚してねぇのに。それって希望通りになるのか?」


「………………あんなのでも我が国にとって貴重な男だ。私以外にも子供がいるだろうし…無条件で、とはならんだろう。その条件次第だろうな。ま、どちらにせよ私には関係の無い事だ」


「……お前はそれでいいのかよ?」


「…元より、私はあの男を父とは認めていない。お母様も未練は無いようだし、何も問題は無いだろう」


「……そうかよ」


「「………」」


 アム達からすれば、カタリナが言ってる事は…どう聞こえるんだろうな。


 アム達の父親も何処かに居るんだろうが、はっきりと誰とはわからないようだし…それでも母親が居るカタリナが羨ましく見えるだろうし…でも、それでカタリナに対して怒るのは違うわけで。


 複雑、なんかモヤッとする。そんな顔してるな。


「…ん。な、なんだよ、ジュン」


「いや。撫でて欲しそうな顔してたから」


 孤児院時代から、こうすればアムは直ぐに機嫌を直してた。今は不機嫌ってわけじゃなかったかもしれないが、取り合えず表情は良くなった。


 うんうん。アムは相変わらずだな。大きくなってもまだまだ子供っぽい。


 …大きくなったって胸の事じゃないよ?


「アムだけずる~い!」


「全員にすべき」


「はいはい。想定内です」


 アムにこうするとカウラとファウも甘えて来るのはいつもの事。


 君達は本当に変わりませんなぁ。


『…そういう事するからアム達はマスター依存症から抜けられへんのんや。わかっとる?』


 ええ…少し甘やかしてるだけじゃん?そんな厳しい事言わんでも…ん?


「カタリナ?何故並ぶ?」


「ファウが言ったろう。全員にすべきだと。私だけ外すのはおかしくないか?」


 …いいですけどね。頭撫でるくらい。って、ゼフラさんとファリダさんも?


 なんでメイドさん達も並ぶんですかね?あ、他の人まで呼ばなくていいです。


 と、アムの頭を撫でたら何故かローエングリーン家のメイドさん達の頭も撫でる事になり、ナデナデして過ごし。


 アニエスさん達が帰って来たのは夕飯前だ。


「ジュン!すまん!」


「はい?いきなりなんです?」


 ただいまの挨拶も無しに帰って来て直ぐにアニエスさんは謝罪。


 一体何事?その手に引きずってる物体は…もしかしなくてもユーグさんですかね?


「この大馬鹿がやらかした!明日、お前に会いにイオランタ侯爵が此処に来る!」


「……はいいい?」


 俺に会いに?他国の外務大臣が?……いやいや。いやいやいやいや!


 ナンデヤネン!



――――――――――――――――――――――――――


あとがき


いつも読んで頂きありがとうございます。


残念ながら異世界ファンタジー週間ランキングは落ちてきてますが、これからも応援の程お願いします。


いくつかコメントで今後の展開予想等頂いていますが、取り合えず主人公を絡めたモホォな展開予定は無いです(笑)


マイケル君辺りならあるかも?再登場の予定は今の所ありませんが…

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