第50話 変なおっさんが現れました
神子セブンに会ってローエングリーン家に戻るとカタリナの父親が帰っているという。
その報を聞いたカタリナは少し考えてから口を開いた。
「あの男が…よし、消せ」
「お嬢様!?」
真顔で消せと言うカタリナ。
冗談…じゃ無さそうだけど、本気じゃないよね?
「あの…カタリナ?」
「心配するな、ジュン。大丈夫だ」
「あ、やっぱり冗談――」
「此処はローエングリーン家の敷地内だ。いくらでも誤魔化せる。証拠なんて残さないさ」
あ、これ本気ですやん。
俺に向ける顔は笑顔だけど、眼が笑ってない。
このハイライトが仕事してない眼、前にも見たな…
「…兎に角、殺すのはナシ。別に犯罪者でもないんだろ?」
「そ、そうだぜ。一応父親なんだろ?」
「昔、何が有ったのか知らないけれど。止めた方がいいよ」
「人殺し、ダメ、絶対」
「むぅ…」
アム達も止める側に周った事で諦めたのか、少し落ち着いたようだ。
兎に角、屋敷に入って父親に会う事に。
「お母様はまだ戻っていないのか?」
「はい。伯爵様はまだ…あっ」
「Oh!狩って来たかいMy娘!」
…なんか変なおっさんが出て来た。
なんか、アロハシャツみたいなのと七分丈のスボンにサングラスに麦わら帽子、オマケに花の首飾りを着けた髭が有る太ったおっさん。
…ハワイにでも行って来たの?今、冬なんですけど…寒くない?
「誰だ、貴様は」
「HAHAHA!冗談キッツいYO!君のパパだよ!」
恐ろしく冷たい眼で冷たい声を出すカタリナと、何が楽しいのかハイテンションなおっさん。
温度差が激し過ぎる…これが噂の温度差で風邪をひくってやつか。
『いや、風邪はひかんやろ…しかし、このおっさんがカタリナの父親か?なんちゅうか…全然貴族には見えへんな。一応貴族なんやろ?』
確かに。男爵家の出だって話だよな。とてもそうは見えない…いや、平民にも見えないが。
「貴様が?冗談はよせ。私の父はもう少しまともだった筈だ。それでもろくでもない男なのは変わらないが。貴様はろくでなしに輪をかけて変人ではないか」
「お、Oh…そんな風に思ってたの?My娘…流石にショックだよ、パパ…」
…さっきからなんだ、My娘って。My daughterくらい言え。
「それにしても…おい、お前達!何故こんな変人を屋敷に入れた!」
「お、お嬢様、御気持ちは解りますが…その方は正真正銘本物の御父上でございます…」
「冗談はよせと言ってるだろう!我が父は一応は貴族だぞ!こんな阿呆な恰好した貴族が居るか!証拠でもあるなら見せてみろ!」
「あ、ある!証拠ならあるYO!ほら!」
「む?」
おっさんが取り出したのは家紋入りの短剣。家紋入りの短剣は貴族の身分証明書のような物。
ローエングリーン家の家紋とはまた別のようだけど…どこの家紋だ?
「…ゼフラ」
「はい、お嬢様。これはローエングリーン伯爵家の家臣、バーニャ男爵家の家紋で間違いありません」
「バーニャ男爵家…父の実家か」
「YES!これで僕がパパだと解って――」
「つまり貴様は父からその短剣を奪った強盗だと言う事だな。よし、殺せ」
「ええええええ!ちょ、My娘!どーしてそーなるの!」
カタリナはどうしても父親だと認めたくないらしい。
殺せと命令するカタリナをゼフラさん達が宥めてるが、聞き入れない。
このままじゃ話が進まないが…おや?
「騒がしいな、何事…む?」
アニエスさんが帰った来た。アニエスさんならこのおっさんが誰かわかる筈――
「あ!My妻!会いたかったYO!」
「誰だ、貴様は」
「えええ!ちょっ、アニエス!?」
…ほんとにこの人、カタリナの父親?
アニエスさんにまで誰何されてますけど。カタリナと全く同じセリフで。
「僕だよ!ユーグだよ!君のユーグ・ヴェル・バーニャ!ほら証拠の短剣!」
「……確かに、これはユーグが持っていた短剣だ。だが、貴様は本当にユーグか?」
「そうだYO!いい加減信じてYO!」
「なんだ、その妙な喋りは…ならばサングラスをとってみろ」
「あ、そうか!サングラスのせいか!ほら!」
サングラスを外したおっさんの眼は…妙にキラキラしてる。
少女マンガのキャラみたいにキラキラしてるけど…太った身体と服装に似つかわしくない。
アンバランスさが凄い。
「……その眼は確かにユーグだな。認めよう、確かに貴様は本物のユーグだ」
「……お母様がそう言うのでしたら、仕方ありません」
「や、やっとわかってくれたかい…じゃ、じゃあ!再開のハグといこう!My妻!そしてMy娘よ!」
「「だが断る」」
「なじぇえ!?」
ちょっと可哀想になって来たな…おっさんが涙目になってるの見てると流石にな。
しかし、アニエスさんまで拒絶するとは…まさかとは思いますけど、俺が居るからなんて言いませんよね?
「私は確かにお前と愛し合い子供を作ったが、それは過去の話。そもそも入籍もしてないのだから妻呼ばわりされる筋合いはない」
「十年以上姿も見せず、手紙すら寄越さなかったくせに父親面しないでもらおう」
「う、うぅ…」
二人揃って容赦のない…しかし、言ってる事も事実なんだろう。
十年以上何の音沙汰も無かったのも入籍していないのも。
おっさんは助けを求めるように周りを見回すが助けてくれる人は…ん?
「き、君達!見たところ、My娘カタリナのお友達だろう?何とか言ってくれな…………お、おぉ…」
「な、なんです?」
なんか、俺を見たと思ったら震えながら近づいて来るけど…あ、激しく嫌な予感。
『…せやな。わいにはこの後の展開が読めたでぇ。このおっさん、多分死ぬわ。もしくは死にかけると見たで』
あ、俺も同じ予想です。だって、凄い悪寒がするもの。
「なんて美しい!是非、僕と子作りを――ぷぎゃあああああああ!」
「それが娘の眼の前で娘の友人に言うセリフか?おい」
「よし、殺れ、カタリナ。私が許す」
出た、カタリナの必殺技アイアンクロー。五歳の時点でかなりの強さだったカタリナの握力は鍛えていた事もあり十五歳になった今では岩くらい簡単に粉にする。
本気出せばおっさんの頭蓋骨くらい簡単に――
「って、待った待った!殺すのは流石に拙いって!」
「大丈夫だ。お母様の許しも出た。こいつはローエングリーン家に侵入した愚か者。そう処理される」
「その通りだ。この屋敷内で起きた事ならばどうとでもなる。心配しなくていい」
「い、いや…でもですね…」
「ぎいやあああ!痛い痛い!バキッとかゴキッとか言ってる!顔から鳴っちゃいけない音が鳴ってるぅ!き、君ぃ!早く二人を止めてー!」
「このおっさん、まだ結構余裕あるんじゃね?」
「そうだね…でも、ちょっと可哀想…」
「愚か者に情けは無用」
「余裕なんか無…ぐああああああ!」
その後、数分間。カタリナとアニエスさんの二人をなんとか宥め。
カタリナが手を離した時にはおっさんは失神。瀕死の状態だった。
使用人さん達が魔法で癒していたので助かったが。
回復魔法があるから此処までやったんですよね?…ね?
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