第49話 面倒事の予感がしました

 司祭様が訪ねて来た日の翌日。


 今日はエロース教会にて神子セブンと会う日だ。


 一緒に来てるのはカタリナとゼフラさんとファリダさん。そしてアム達だ。


 果たして、神子セブンが俺に何の用があるのやら。


『ド阿呆のマイケルっちゅう前例から考えると、抱かせろとか言い出しそうやなぁ』


 それは嫌過ぎる…その時は全力で抗おう。


 いや、しかし…あの神子セブンは性格も良しと認められているらしいから、それは無い…かな?


 無いと信じたい。


「安心しろ、ジュン。エロース教の神子だろうがなんだろうが、ローエングリーン家が護ってみせるぞ」


「あたいらがいる限りジュンに手出しさせねぇよ!」


「いざとなったら教会を破壊してでも脱出するから!」


「ファウの魔法でドカンと一発」


 教会の破壊はダメです、カウラさん、ファウさん。


 でも、強引に迫られたら俺もやっちゃうかも…


『此処でウダウダ言ってても何にもならんやろ。兎に角、会って話をせんと。案外、マスターにとっていい話かもしらんし』


 そんな事あるかなぁ…でも確かに此処で話してても仕方ない。


 兎に角入ろう。


「あ!ジュンさ…ジュン君!」


「どうぞどうぞ!こちらへ!」


 教会に入るとシスターが出迎えてくれる。


 マイケルの決闘事件の時は見習いだった娘達だ。


 教会を訪ねる度に、何かと良くしてくれるのだが…今日は何だかスキンシップが激しいな。


 何でそんなにくっついて来る?


「ちょっとあんたら。ジュンにくっつき過ぎじゃねえか?」


「そうよ、離れなさいよ!」


「いいじゃないですか、これくらい!」


「貴女達は一緒に居る時間が多いけど、私達は偶に会うだけなんですもん!」


「せめて教会に来た時くらいは見逃して欲しいです」


 …いいですけどね?シスターさんにモテモテなのは悪い気しないし。


 それにこの腕に伝わるダイレクトな胸の感触…さてはノーブラですね?


 御馳走様です!


『マスター…前からもしかしてとは思うてたけど、シスターが好きなん?個人が好きなんやなく、シスターって立場な人が…なんちゅうの、イメクラ?』


 イメクラ言うな。


 しかし、まぁ…ドスケベな美人シスターとか前世からの大好物ですが何か?


 前世でドスケベなシスターに出会った事ないけどな!


『…あぁ、うん。どういう物で大好物やったんかはわかったわ…それならそれで、此処のシスターをいただいてしまえばええやん?何でやらんのん?』


 それは他の女性達と関係を持たない理由と同じ。


 エロース教のシスターなら平気だろ、なんて考えないよ。


『…俺Tueeeeeの為にってか?なんちゅうか…つくづくマスターの願望と需要がマッチしてないなぁ、この世界』


 それは同意。一も二も無く女を抱きたいって奴なら、この世界は天国だろうな。


 あのマイケルみたいな性格になっちゃいそうだけど。


『それはそれで嫌やなぁ。おっと、着いたみたいやで』


「この部屋です」


「神子様達は既に中に」


 メーティスと会話してる内に目的の部屋に着いたようだ。


 ノックして中に入ると…神子セブンの他に司祭様が居るのはわかる。


 だが何故に院長先生が?


「私が呼んだの。一緒に話を聞いて欲しいって」


「私も神子様が貴方に何の用があるのか、先に聞いておきたかったから、こうして話をしていたのよ」


 そう言えば院長先生に物理で何とかさせるとか言ってたな…本気だったのか。


「やあ。よく来たね」


「お連れのお嬢さん達も。いらっしゃい」


「さ、座りなさい。今、御茶を淹れよう」


 なんか、思ったより丁寧な応対だな。


 最初に登場した時は、もっとこう…野卑た感じというか…ちょいワルオヤジ的な感じだったのだが。


 今はカフェのマスターみたいな穏やかな感じがする。


「ありがとうございます。それで院長先生、先に用件を聞いてたんですよね?」


「ええ。結論から言って、何も心配無いわ」


「ほんと。一体何の用があっての事なのか身構えちゃったけど…杞憂だったわ」


 ふむ?つまりは俺に危険が及ぶ類の話じゃないと。


 ならリラックスして聞けそうだな。


「うん。我々に君をどうこうするつもりは無いから安心して欲しい」


「そうそう。君が男だって言うのもバラすつもりは無いよ」


「え?」


「「ぷっ!!」」


 俺が男だと知っている。


 その言葉に驚いたのは、この場に居る女性陣と俺。


 つまりは神子セブン以外の全員だ。


 院長先生と司祭様も聞いてなかったという事。


「か、かか、神子様!な、何故、その事を!」


「僕達は神子だよ?それも二十年、三十年と神子をやって来たベテランだ」


「その子…ジュン君と言ったかな。彼が女装をした男の子だって事くらい、見ればわかるさ」


「この世界の女性を数え切れないくらい相手してきた経験だねぇ」


 …おお。それは…凄い能力なのだろうか?


 でも、マイケルは俺が男だって気付かなかったし…いや、あいつはベテランではないか。阿呆だったし。


「さっきも言ったけど、安心して欲しい」


「我々は君が男だとバラすつもりは無いから」


「無論、神子にならないか、なんて言うつもりも無いし、エロース教上層部に報告する気も無い」


「むしろ秘密にするのに協力してもいいとすら考えているよ」


「ジーニ司祭は彼が男なのを長年秘密にしていたんだろう?」


「それを咎める事はしないし、共犯…いや、別に犯罪じゃないか」


「兎に角、我々は敵じゃないと知って欲しい」


 …順番に喋るのは決まり事なんですかね?


 嘘…では無さそうだけど。


『大丈夫ちゃうか?用件次第やけど、取り敢えず悪意は無いし』


 メーティスから見ても悪意は無いらしい。


 なら兎に角、話を聞くとしよう。


「どうしてジュンにそこまで?今日がほぼ初対面と言っても過言では無いでしょう?なのに何故?」


 と、思ってたら院長先生が先に質問した。


 でも、それは俺も聞きたかった内容だ。


「僕達も男ですから」


「彼が孤児で、女として振る舞ってる。その理由も察しがつきます」


「冒険者をやっているというのもわかります」


「我々は神子としてもてはやされてはいても…自由はありませんから」


「だから彼を羨ましく思う気持ちが無いわけじゃないんですがね」


「それ以上に応援したい気持ちが強いんですよ」


「若者の夢を壊したく無いですし、貴女方に恨まれたくも無いですしね」


 …やっぱり順番に喋るんですね。まぁ、それはいいとして。


 どうやら本当に俺の味方をしてくれるらしい。


 これは本当に有り難いかも。


「納得して貰えただろうか?」


「であれば、そろそろ我々の話を聞いて欲しいのだけど」


「あ、はい。どうぞ」


「うん。君…とても綺麗な肌をしているね」


「…はい?」


「何か特別な手入れをしているのなら、教えてくれないか?」


「…それが本題、ですか?」


「そうだよ?」


 何かおかしな事言ったかな?とでも言いたげな顔で首を傾げる神子セブン。


 どんな事聞かれるのか身構えて……ああ、そうか、これは院長先生が既に聞いていたのか。


 確かに杞憂だな。


「えっと…特別な手入れなんかはしてません。ただ…」


「ただ?」


「石鹸は皆さんが使ってる物とは別物だと思います」


「「「「「「「「石鹸?」」」」」」」」


 仲良いな…綺麗にハモってる。


 この世界の石鹸は動物性石鹸が主流だった。


 だがそれはあまり良い匂いがしないし、汚れが落ちてる気がしないのだ。


 だから俺が新しい石鹸…花の香りがする植物性石鹸の作り方をクリスチーナに伝授。


 王都中に広めてもらったのだ。


 王都以外から来た神子セブンは新しい石鹸の存在を知らなかったらしい。


「なるほど!良い話を聞けたよ!」


「本部の皆へのお土産も決まった!」


「この後、早速エチゴヤ商会に行かせて貰うよ!」


 と、凄く大喜びだ。


 喜んで貰えたなら良かったけど…何故そんな事を?と、そのまま聞くとこれまた納得の返事が帰って来た。


「僕達は女性の相手をするのが仕事だからね」


「だから身だしなみには気を使うし、髪や肌の手入れにも気を使うんだ」


「体調管理にも気を使うし」


「神子は楽な仕事に見えるかもしれないけど、気苦労も多いんだよ?」


 あらやだ、この人達本当にイケオジかも。


 少なくとも神子という立場にとても真摯に向き合っている。


 それだけに最初の登場時と今では様子が違うのは何故だろうか?と、疑問に思ってしまう。


「ああ、あの時は…」


「相手に合わせて態度や口調を変えるのが我々のスタイル…なのもありますが…」


「流石にあの人数ともなると普段のテンションでは厳しくて」


「興奮剤を使用してたんですよ」


「あ、勿論違法性の無い、安全な物ですよ?」


「興奮剤を飲むと多少攻撃的な性格になると言いますか…」


「いや、お恥ずかしい」


 との事だった。いや納得です。無理も無いですよ…何人だっけ、983人?


 そんな人数相手にするのに素で挑めって言う方が無理。


『マスターの身体はその気になりさえすればイケるで?』


 ならねーよ!身体はイケても精神がついていかんわ!


 それからいくつかの他愛ない話をしてから帰路についた。


 神子セブンは今日、買い物を済ませたら明日には本部に帰るらしい。


 再会を約束して固い握手をして別れてきた。


 歳の離れた男の友人が出来た気分だ。


「思ったよりまともな連中だったなぁ」


「ほんと。あのド阿呆神子とは大違い」


「比較にならない」


「私達の神子のイメージはあのド阿呆だからな…」


 確かに。マイケル以外の神子を知らなかったから無理も無い。


 あの人達は神子の中でも特に人格者なんだろうな。


 流石は神子セブン。


「今日はもう昼近いし、冒険者の仕事は休みで良いんだろう?」


「ああ、うん。今日はもう休もう」


「うん。ならば屋敷でゆっくりしよう」


 というわけで真っ直ぐにローエングリーン家の屋敷へ。


 しかし屋敷に入ると何だか騒がしい。


 何かあったか?


「騒がしいな…おい、何があった?」


「あ、お嬢様!大変です!旦那様が…お父様がお戻りに!」


「…何?」


 旦那様?お父様って…つまりカタリナの父親が?


 何故だろう…面倒事な予感…

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