第46話 初めてカッコいいと思いました

「以上が、彼女達が行動を起こした理由だ」


「で、男日照りが続いてる所に、再びジュン君を眼にして発情状態に入って、それが部族全体に伝染。他二つの部族にも及んだ、というわけね」


 発情状態って伝染するんだ…いや、そんな事はどうでもいい。


 今、考えるべきは他にある。さしあたっては…


「これだけの騒ぎになった以上、俺が男だって事は隠しようがありません、よね?」


「それは今の所は大丈夫だ。言ってなかったか?」


 何故、大丈夫なのか。アニエスさんが言うには、亜人達が部族毎、王都近くに集結しつつある事は掴んでいたらしい。


 その目的まではわからなかったが、過去の事例から男を狙っての事かもしれない。


 そうだとしても俺を狙ってるとは考え辛いが、念の為にこの件はローエングリーン家が対処すると上…女王陛下とかけ合い、許可を得たらしい。


「だからあの時あの場に居た兵士の殆どはローエングリーン家の私兵だ。秘密は保たれるさ。協力者も居るしな」


「流石はお母様です」


「ありがとうございます、アニエスさん」


 それは本当に助かります…流石は現役の名門伯爵家当主。


 ところで協力者って?


「フフン。……ただし、この件を無事に解決しなくては意味が無い。私の手には負えませんでしたでは上が出張って来るしかないし、ローエングリーン家の名に傷もつく」


 それはその通りで。しかし、この件の解決って、つまりは…


「男を充てがう…だな。そこで一応確認するが。ジュンは彼女達の男になる気はあるか?」


「ありません」


 ガックリと族長三人が項垂れるが…こればっかりは仕方ない。


 仮にあると答えた場合、族長ら三人以外の女性に何されるかわからん。


「聞いての通りだ。お前達が確認だけでもしろというから聞いてはみたが…ジュンの事は諦めろ。王都近くに新たな集落…村を作る事は街道の警備を担ってもらう事を条件に、女王陛下に認めてもらうよう交渉してやる」


『シカシ、ソレダケデハ…』


 男が居ないという状況は変わらない。ならば何処からか確保する必要がある。という事はまた同じ事を繰り返す必要があるわけで。


「コンナ極上ノ雌ヲ眼ノ前ニシテ、オアズケナンテ…」


「餓死寸前ノ奴ノ前デ、焼イタ肉ヲ喰ラウヨウナモノダゾ」


 わぁ、それは恨まれそう。


 しかし、だ。無償で彼女達を助ける理由が無い。


 少なくともアニエスさん達には。何故なら彼女達は…


「だがお前達はアインハルト王国の民では無い。税を納めていない以上はな。大災害が起きたときなどは助け合うが、それ以外は不干渉。それが取り決め、約定だった筈だ。現に君達は帝国との戦争に参加していない」


『『『……』』』


 まぁ、そうなるよなぁ…アニエスさんの立場なら、そう言うしかない。


 しかし、だ。


 俺を見て発情した森のオークとゴブリンの混成部族、マヨネーズが欲しいゴブリン部族はともかく。


 オーガの部族が故郷を離れる事になったのは俺が原因の一つ。


 何とか助けてあげられないものか…


『故郷云々はあんま気にせんでええと思うで?オーガは元々、遊牧民的な文化を持つ種族やし』


 どういう事かと言うと、オーガ達は狩りで生計を立てていて、獲物が少なくなって来ると移住するのだとか。


 だから故郷と呼べるような場所は無いのがオーガという種族らしい。


 しかし、それでもなぁ…


「ナァ、ドウシテモダメカ?セメテ一度ダケデモ…」


「う、うぅ…」


「おい、ジュン?何悩んでんだよ」


「ジュン君?」


 此処で頷く訳には行かない。それはわかっている。


 しかし、見捨てるというのも…


「まぁ待て。我々が男を用意するわけには行かない。だが、この世界には都合の良い宗教があるだろう。迷える女達を救うべく立ち上がった宗教が」


「伯爵様、丁度来たようです」


 それって、もしかして…あ、やっぱり。


「おまたせしたようですね、伯爵様」


「そうでもないさ、司祭様。それで、来てくれたのだろうか?」


「勿論です。亜人とはいえ、女性に救いの手を差し伸べるのが私達エロース教の教え。必ず彼女達を救ってみせましょう」


 部屋に入って来たのは予想通りにエロース教の司祭様。


 そして彼女の後ろから来たのは…七人のおっさんだ。


 見た目三十代後半から四十代後半の。この世界じゃソコソコに美形のイケオジって感じの。


「亜人達の目的が男だった場合は必要になると思ってな。念の為に呼んでおいて欲しいと、司祭様に相談してたんだ」


「紹介しましょう。彼らこそ、エロース教が擁する神子の中でも熟練の技術と経験を持ち、その容姿と性格も含めて極めて高い人気を誇る神子達。人呼んで神子セブン!」


 司祭様の紹介に合わせて、ニヤリと笑うおっさん達。


 なんか、アイドルっぽく紹介してますけど、ようはアレですよね?


 信者に人気の神子トップ7だってだけですよね?


 つまりは人気男娼…或いは人気男優達。


「フッフッフッ…俺達に」


「任せておけ」


「必ず全員を」


「孕ませて」


「みせるぜ」


「丁度、普通の女には」


「飽きていたしな」


 …なんでこの人達、順番に喋ってんの?打ち合わせでもしてた?


「それじゃ早速ヤるか」


「先ずは外の連中だな」


「外にテントとベッドを用意してくれ」


「あんたらも後で来いよ」


 と、言いたい事だけ言って神子セブンは外に向かった。


 …って、千人近い人数をたった7人で相手するつもりなの?


 大丈夫?死ぬんじゃない?


「マサカ、ソノ極上ノ雄ヲ我慢スル代ワリニ、アノ雄ドモデ我慢シロト?」


「有り体に言えばそうなる。金は私が出してやるんだから、感謝しろよ」


「イヤ、デモ…」


「安心してください。彼らには特製の精力剤を持たせています。千人が相手でも必ずヤりとげてくれます」


『『『……』』』


 不承不承といった感じではあるが、三人の族長は一応は納得。


 既におっ始めていた野外テントに向かった。


「さて、司祭様には他にも協力してもらいたい事がある」


「ええ、ええ。今回の騒動でジュン君の事を知った、ローエングリーン家以外の人間の記憶操作ですね?お任せを」


「一ヵ所に纏めてある。付いて来てくれ」


 あ、協力者って司祭様なんですね…流石は伯爵様。アフターケアもばっちり。


「な、なぁ、本当に大丈夫なのかよ…あいつらで」


「わかんないよ…でも、信じるしかないんじゃない?」


「突然出て来られたら、困る」


 アニエスさんと司祭様が部屋から居なくなり、少しの沈黙の後、アム達が不安を口にし始めた。


 確かにな。神子の存在は広く知られていても、神子セブンとか急に言われてもな。


 でも、今は信じて任せるしかない…よね?




 それから一週間。王都の外、野外テントではとてもお子様には聞かせられない嬌声が響き。


 王都に近くにある為に野次馬まで出る始末。


 そして一週間後の朝…王都の門をくぐり彼らが戻って来た。


「フッフッフッ…全ての女達は…」


「俺達の前に跪いたぜ?」


 7人全員がヤり遂げた感満載の顔でサムズアップして帰って来た。


 その姿を見て…この異世界に来て初めて、おっさんをカッコいいと思いました。


 ヤった事を冷静に考えると、アレなんですけど…

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