第47話 拒否権はありませんでした

 亜人達の騒動…『トランス・パレード』から一週間。


 神子セブンが亜人達を全員抱くまでの間、俺は罰として宿舎で軟禁…いや、謹慎処分を受けていた。


 三ヵ月もお預けくらってようやく冒険者になれたのに、その日の内に一週間の謹慎なんて酷いと思わなくもないが、今回ばかりは仕方ないと諦めた。


 神子セブンにより全体に及んでいた発情期が過ぎた亜人達の内、ゴブリン部族とオーガ部族はオーク・ゴブリン混成部族が住む森近くに新たに村を作る事にし、現在建設中だ。


 その辺りの土地はアインハルト王家直轄領なので、アニエスさんが提案した通りに街道警備を担う事で新たに村を建設する許可を得ていた。


 ゴブリンは兎も角、オーガは屈強な戦士。街道周辺に出る魔獣や野盗程度なら問題無く対処出来るだろう。


 雄が居ないという問題は数年は我慢しなくてはいけないが、今回の騒ぎで神子セブンの子供が何人か生まれて来るだろうから、その中に雄が要る事を期待するしかない。


 いざとなればまた神子を利用出来るように司祭様が取り計らってくれるそうなので問題ないだろう。


 あと、俺が男だというのも司祭様の精神魔法で有耶無耶にされたので、恐らくは大丈夫だろう。


 で、謹慎が明けた俺はと言うと…


「ジュン!そっち行ったぞ!」


「あいよー…シッ!」


「お~!お見事ー!」


「一刀両断。パチパチパチ」


「スライム一匹仕留めただけで持ち上げなくていいよ」


 早速、冒険者の仕事に精を出していた。


 謹慎の間に俺が如何に冒険をしたいかを訴え続けた結果、過剰な護衛は無しと認めてもらえた。


 ただし護衛が付くのは継続。今日もいつでも介入出来る位置に白薔薇騎士団員が三人いる。


 更に必ずアム達と一緒に居る事(これはアム達に)を約束させられた。


 結果、一応は戦わせてくれるようになったのだが、基本はアム達が処理してるし複数襲って来た場合も俺が相手するのはその中でも一番弱いやつだけ。


 まだまだ俺が望む冒険には程遠いが…此処で更に我儘を言っても逆効果だろうから我慢してる。


 更に、だ。


「今日の依頼はこれで終わりかな」


「あ~…多分な。大丈夫だよな、カウラ」


「うん。街道近くに沸いた大量のスライムの討伐完了だね。ファウの魔法で大体倒せたから楽だったね」


「ぶい」


「それじゃ、依頼完了の報告をして帰ろう。今日はいい魚が手に入ったとかで料理長が自信の魚料理を作ってくれるそうだ」


 と、カタリナも冒険に付いて来ていた。


 アニエスさんの手腕により、亜人達の『トランス・パレード』を無事に終結させ、俺が男だという秘密も護り切ったので一週間の間俺を自分の屋敷に滞在させるという権利をソフィアさん達から勝ち取っていた。


 俺の知らぬ間に。


 王家からも褒美が貰えるだろうに、実にちゃっかりしてらっしゃる。


 で、今日から一週間はローエングリーン家で御世話になるわけだ。抜け駆け出来ないようにアム達が監視役として一緒に来る。


 クリスチーナも夜には合流するそうだ。貴族嫌いなんだから無理しなくていいのに。


「やぁ、御帰り。御風呂にするか?食事にするか?それとも御風呂でお前を食べていいか?」


「はい、そこまで。お母様はジュンの傍…具体的に二メートル以内に接近禁止です」


「お前…実の母に対して…」


 冒険者ギルドで依頼完了報告をしてローエングリーン家に行くと当主自らの出迎えがあった。


 早速俺に抱き着こうとするアニエスさんをカタリナが阻止。


 アム達が俺に抱き着いて牽制している。…これじゃアニエスさんが抱き着くか、アム達が抱き着くかの違いでしかなくない?


「お前、アレだぞ。亜人達の騒動が上手く片付いてジュンが此処に泊まる事になったのは私の手腕のおかげだぞ。少しは感謝してもいいだろうに。アム達も、少しくらいジュンを抱かせてくれてもいいだろう」


「感謝はしてます。しかし、それはそれ、これはこれ、です」


「あんたは油断していい相手じゃないってクリスチーナも言ってたからな」


「気を許せば何もかも持って行ってしまうってね」


「断固阻止」


「チッ…」


 ああ、図星なんですねアニエスさん。この一週間でなんとか俺をモノにしようと。


 夜這い…くらいなら大丈夫だろう。メーティスが気付くだろうしな。


 頼むぜ相棒。


『え~?ちゃんとわいの言う事聞く~?』


 お前、まだ根に持ってんの?ちゃんと謝ったじゃん。そろそろ機嫌直してくれよ。


『別に怒ってないで?でも、謝ったらそれで終わりって態度は気に食わんなぁ~もうちょい反省が必要か?』


 勘弁してください…


「で、結局どうする?風呂にするか、食事にするか」


「あ、それは本気の質問だったんですね。…そうですね、先に御風呂に入りたいですね」


「だな。少なからず汚れてっし」


「さっぱりしてから御飯食べたいね」


「同意」


「ならば先に風呂だな。直ぐに準備させよう」


 というわけで先ずは風呂に。


 流石はローエングリーン家、流石は貴族。孤児院の風呂とは比べ物にならない広さ。


 これだけの湯を張るのに一体何人の生活魔法使いを抱えてるんだか。


「ふぅ…極楽極楽…風呂は命の洗濯ですなぁ」


「ほう、命の洗濯か。中々上手い事を言う」


「でしょ~?…………ん?」


 な、な、な、何故、アニエスさんが!?はっ!?


「ジュンって昔から偶に難しい事言うよな」


「今のはそうでもないよ、アム」


「命の洗濯……ファウも使お」


 アム達までもが!?な、なら、まさかとは思うがカタリナもか!


「お嬢様、タオルを巻いて湯に浸かるのはマナー違反ですよ」


「何を今更照れてるんです?」


「い、いや、今更も何もジュンに見せた事なんてないから!」


 やっぱり!カタリナだけじゃなくゼフラさんとファリダさんまで!


 い、いや、他にもいっぱい……もしかしてローエングリーン家に仕える使用人全員が入って来るのか!?


 しかも全員全裸じゃん!いや、風呂に入るんだから、当然っちゃ当然だけども!


「我が家の方針として節約出来るところは節約する。贅沢する時はする。これだけの広さの風呂に一人で入るとか、無駄の極みだろう」


「だ、だから、我が家では使用人達と毎日一緒に入ってる……う、嘘じゃないぞ?」


 ほんとかよ……いや、それでも普通男女別にしない!?


「あたいらは今更だしな~」


「風呂上りにジュンに身体拭いてもらったりしてたもんね」


「懐かしい想い出」


「子供の頃の話でしょうが…」


 いや、孤児院出るまでやらされてましたけどね?アム達も十八歳になって十分大人の身体になってるし、直視出来ん。


「それに何で俺を囲むように入ってるんです…」


 アム達だけでなく、使用人さん達まで。


 チラ見じゃなくガン見してくるし。


「使用人達もお前が男だと知ってるからな。勿論、秘密は厳守させてるが…ま、当主として偶には使用人達にもいい思いさせてやらんとな。それに、お前だってサービス精神旺盛じゃないか」


「……何がです?俺がいつ、サービスなんて…」


「そんなエロい身体を惜しげもなくさらして何を言うか。一番大事なとこは隠しているが」


「…男の上半身なんて見ても何も楽しくないでしょうよ」


「……ああ、これはアレだな。女だらけの空間で女として生きて来た弊害だな。可哀想に…」


 何故、そんな本気で哀れみの眼で見る?あれ、もしかして裸見られたら恥ずかしがるのがこの世界の男なの?


 そんな事まで逆転してんの?


『そやで。それに男の裸なんて見る機会そうそうないしなぁ、この世界の女には。マスターの身体はさぞかし刺激が強いやろなぁ。あ、ほら、あの女なんか鼻血だしとるで』


 ええ……ほんまに鼻血出してるやん。あ、いや、ちょっ、大丈夫?心配になるくらいの鼻血出てるけど。


「そうだな…これから一週間はこの屋敷で過ごすんだ。その間に普通の男の生活とはどんなものか教えてやろう。報酬は毎日一緒の入浴だ」


「え~…」


 それ、メーティスに聞いて大体は知ってますけど?


 拒否権は?…無い?そっスか…



―――――――――――――――――――――


あとがき


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