第44話 スタンピードではありませんでした

「来た!見えたぞ!『トランス・パレード』だ!」


 外壁の上にいる兵士がそんな事を叫ぶ。


 門前にいる兵士に緊張が走り、身構えた。


 …トランス・パレードって、なんぞ?


『トランス・パレードっちゅうのはな。理由は様々やけど、普通の精神状態ではない集団、組織が列をなして移動する様を言うんや。この世界ではな。モンスターの集団だったり、戦意高揚薬をキメた傭兵団やったりな。因みに今回の場合は――』


 そ、それってつまりは…スタンピードじゃね?異世界ファンタジーモノに良く出て来るモンスターによる災害…


『スタンピード?…ああ、マスターがおった世界では野生動物なんかが興奮、恐慌状態に陥った際にとる集団行動をそう言うんやったっけ?確かに似とるな。でもな、今回のは動物や魔獣やのうて――』


 ふ…ふふふ…来た!ついに来たぞ!念願の俺Tueeeeeの時間が!


『いや、それは無理やな。何故なら今回の相手は――』


「ソフィアさん!俺がそのスタンピードをなんとかします!」


「え?スタンピード?」


『いや、聞けやマスター!だから今回の相手はやな!』


 方角は…あっちか!俺達が来た方向から何か来てるな!


『おーい!おーいってば!マスター!』


「おお、お前達、戻っていたか」


「あ、お母様。お母様がこのタイミングで此処に来るという事は…」


「うむ。万が一の為に警戒していた事が実現してしまったわけだ。だが、出来るだけ穏便に済ませたい。そこでレーンベルク団長は今日は休暇のようだが、手伝ってくれ。カタリナはジュン達を連れて避難しておけ。何せ今回の奴らの狙いはおそらく…って、おい!どこへ行くジュン!」


「ちょっと!ジュン君!?」


「はやっ!えっ、ジュン君ってあんなに脚速かったっスか!?」


 ハッハー!待ち望んだこの瞬間!避難なんてしてられるか!俺が一瞬で片付けてやるぜ!


 メーティス!デウス・エクス・マキナを!


『だーかーらー!話きけやマスター!今回の相手は魔獣やないんやって!』


 ………あ?魔獣じゃない?だったら何が来てるんだよ?


『今回のトランス・パレードは…ああ、もう見た方が早いわ…』


 ん?全速力出したからな…もう目視で集団が見える距離まで来てた。


「確かに、魔獣じゃないな…アレは…人間?」


『いいや。今回のトランス・パレードは亜人の集団。ゴブリン、オーク、オーガの混成集団や。取り合えず逃げた方がええで、マスター。ほら転進転進』


 ゴブリン?オークにオーガ…アレが?


「アッ!ボス!アレガソウデス!」


「ホウ!アレガカ!確カニ極上ノ雄ダナ!」


「ツッカマエロー!」


「ヒャッハー!」


 なんか俺を見て走って来る!よだれ垂らして!


「ヒッ!な、なんか知らんがとりあえず撤退!」


『だから話きけって言うたのに…まぁマスターの脚なら逃げきれるやろ』


 は、話?そんなんしてたっけ?いや、兎に角アレって何!?


『だからゴブリン、オーク、オーガの混成集団やって。目的は多分マスターやな。なんでトランス状態になったかっちゅうと、マスターを見て発情したんとちゃうか』


 は、発情?俺を見て?い、いや、それよりも!アレ、本当にゴブリンとかオークなの?オーガだって見当たらないぞ!?


 小柄で小さな角が生えた美女。垂れ耳で豊満、だが決してデブでは無い美女。大柄で筋肉質、大きな角がある野性的な美女。そんな人達ばかりの集団がゴブリン、オーク、オーガの集団?


 だって肌の色とか普通の人間と同じだし、何より美人の集り過ぎませんかね!?


『それはアレや。前にこの世界の女が美人ばっかりな理由は説明したやろ?』


 血の存続っていう生物としての本能云々の話か。ゴブリン達、亜人も同じだと?


『せや。亜人達も男の出生率が低いんは同じやからなぁ。時には人間の男を攫って…あ~…交配して来たんや。結果、人間に近い容姿と人間から見て美人な容姿になったわけやな』


 という事はつまり、あの集団は亜人とはいえほぼ人間と変わらない集団って事か。


『まぁ、そやな。勿論、元々の亜人の特徴も受け継いどるわけやけど…続きは後でするとしてやな。もうちょい本気で走った方がええで、マスター』


 …へ?


「待チナサイ!極楽ニツレテッテアゲルカラー!」


「オーガノ体力ヲナメルナヨ!ドコマデモオイカケテイクゾ!」


「ゴブリンハ脚ガ速インダカラネー!」


 ヒィ!?は、速い!眼が血走った集団が追いかけて来るって恐怖!


『これが今回のトランス・パレードの正体や。性欲に支配された亜人達の行列。本能全開って突っ走てるから説得なんて無理やで。ましてや標的は最初からマスターみたいやったし。兎に角逃げ切りぃや。捕まったらあの集団全員を孕ませるまで解放されへんで』


 恐すぎるわ!いくら美人の集りだからってあの数…何百人いるんだよ!


『ん~と…総数983人やな。白薔薇騎士団よりは少ないやん。アハハハ』


 笑える要素なんてねぇぇぇ!


「こんなの…こんなの…俺が知ってるスタンピードじゃねぇぇぇぇ!」


『それは最初っから言うてたやんか…わての話聞かんからや。自分で何とかしぃや』


 メーティスさん!?まさか見捨てないよね!?ごめんなさい!謝るから!許して!


『見捨てるわけやないで。反省が必要やと思っとるだけや。大丈夫や、必死に走れば。あ、ほら、回り込もうとしてる集団がおるで。気ぃつけえや』


 う、うおおおう!?本気過ぎる!大体なんで俺が男だってバレてんだよ!


『オークの鼻はかなりええからなぁ。匂いでわかったんとちゃうか。ゴブリンとオーガは本能が刺激されたとか?』


 あれか、豚の嗅覚は犬の1000倍とかってって、そんな話は後でいい!今は逃げ切らなければ!


「ジュン!こっちだ!その大岩の手前まで来たら大きく迂回して私の所まで走れ!」


 アニエスさん!?アニエスさんが外壁前で何か言ってる!


『ふむふむ…ああ、なるほどなぁ。マスター、言う通りにし。あの大岩の手前まで来たら大きく迂回や』


 ら、ラジャー!言われた通りにします!


『それがええ。あ、ほら、迂回や』


 はい!迂回します!


『あと五十メートルくらい進んだら外壁の方に向かって走り…はい、方向転換!』


 はい!外壁に向かいます!


「ナァニシテルゥ!ボヘァ!?」


「方向ヲ急激ニ変エテ攪乱ノツモリカ!?ヒィァ!?」


「ソンナノ無駄…ヌアッハー!?」


 悲鳴に反応して振り返れば、追いかけて来ていた亜人達の大半が姿を消していた。


 そして地面に大穴。これは…


『落とし穴やな。大怪我せんように底には藁やら何やら敷き詰めてあるし、亜人達は頑丈やからな。皆生きとるわ』


 な、なるほど…どうしてこんな物があるのかわからんが、アニエスさんはこれに誘導したかったらしい。


 亜人達が落とし穴にはまったのを見て兵士達が一斉に動きだしたし。


「よし!残った亜人どもを捕えろ!怪我はさせるなよ!」


「大人しくしろ!」


「ハ、離セ!ヌワー!」


「ワ、我々ハ、アノ雄ヲ、ヌガー!」


 自分達の仲間の大半が落とし穴に落ちるのを見ても俺を狙って来る亜人達。


 元々正気じゃないのに加えて武装して襲って来るわけでもないから、兵士達に簡単に取り押さえられていた。


 魔法や魔法道具なんかも駆使していたので、落とし穴に落ちた亜人も含めて全員捕縛。


 これにて今回の騒動は一件落着…


「とはいかんな。ジュン、説明してもらおうか」


「どういうつもりで一人で飛び出したのかしら?」


「納得のいく説明をしてもらおうじゃねえか」


 …あ、はい。皆さん、お怒りですね。


 すみませんでした…



――――――――――――――――


あとがき



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