第43話 何かが起こりました
「これにするかな。最初だし」
「いんじゃね?場所的にもよ」
「危険が少ないしね~」
「安全第一」
冒険者ギルドで登録完了後、御約束の採取クエストを受ける事に。
常設クエストで、初心者向けの依頼の為受付も滞りなく進んだ。
「ジュン君、目的の場所は何処?」
「え?王都に一番近い森ですけど…もしかして現場まで付いて来るつもりですか?」
「当然よ。言ったでしょう?護衛は必須だと」
…アム達も一緒なんだし、何も心配ないと思うんだが。
言っても聞かないんだろうなぁ…やはり、その内に俺の実力を示すべきだろうか?
……ん?
「来たな。ちょうど良いタイミングだったな」
「……カタリナ?ゼフラさんにファリダさんも」
何故かカタリナ達が冒険者ギルド前に居る。しかも武装して。
「今日ジュンが冒険者登録をする事は聞いていたからな。そのまま冒険に出るだろうから、付き合おうと思ってな。予想通りだったな」
「…姿を見せないと思ったら。私達はジュン君の護衛に専念するので、自分の身は自分でお願いしますね」
「無論だ、レーンベルク団長。ゼフラも居るし、私も鍛えている。問題は無い」
…付いて来るのはもういいとして。
普通、伯爵家の御令嬢を優先すべきでは?
「王都の外に出るんだろう?馬車を用意したから、乗るといい」
「……随分と用意の良い事ですね」
いやいやいや…冒険者に成りたての新人の付き添いに馬車て。
しかも大勢乗る事想定して二台用意してますやん。
「ジュンはこっちだ。アム達も一緒に乗るといい」
「ソフィア達はこっちで頼む」
「ゼフラ先輩…ですが…」
「言うな。私が御者をしてやるから。…本当なら私だってアッチがいい」
…これはアレだな。駄々こねて歩いて行くって言っても無駄だな。
俺達が乗る馬車はファリダさんが御者をするようだ。
「で?行先は何処だ?」
「王都に一番近い森」
「あそこか。ファリダ」
「畏まりました」
俺達が乗る馬車が前を行き、王都を出る。
カタリナは俺の隣に座っているんだが、妙にご機嫌だ。
「なんでそんなニコニコしてんだ?カタリナ」
「ん?私も冒険は好きだからな。本当なら冒険者登録もしたいんだが…未来のローエングリーン伯爵が冒険者になったと噂されたら騒ぐ奴らも居てな。面倒な事だが」
「そんなの無視しちゃえばいいじゃない?」
「もしくは物理的に黙らせる」
「ファウは中々過激だな…そうもいかんのが貴族というものだ」
ちょっと前ならファウが言うまでもなく、そうしてただろうに。
カタリナも少し大人になったらしい。
そのカタリナだが、軽装の鎧に武器はショートソード一本のみだ。
腕に付けてるガントレットはやけにゴツいなと思うが。
「カタリナはジュンと同じで軽装だな。今日行く森なら充分な装備だけどよ」
「まぁな。私も今までそれなりに訓練を受けていた。今日はその訓練の成果を見せてやろう。フフフ」
「そんな機会がアレばいいけどな」
その機会は是非とも俺に譲っていただけませんかね?
あ、ダメっスか?
「今日はわたし達はジュンのお手伝いと護衛が目的だから~」
「カタリナは、自分の身は自分で護るべし」
「無論だ。お母様にも同じ事を言われたしな」
そう言えば今日はアニエスさんが居ないな。
あの人なら自分も付いて行くとか言い出しそうだけど。流石に伯爵本人がそんな事言えないか?
「いや、お母様も本当なら付いて来るつもりだった。だが、少し警戒が必要な事が起きていてな」
「警戒が必要な事?」
「もしもの時に備えているだけで、心配は要らないそうだから気にするな」
ふうん?少し気になるけど…今はいいか。
それからほどなく。目的地の森に到着。
馬車は森の手前に停めて、直ぐに採取を開始する。
「あ~やっと着いたっス」
「退屈な道中でしたね…アム、帰りは代わってくださいね」
「やなこった!」
ギャーギャーと騒ぐアム達を背に採取開始。
判別と探索はメーティスの出番だ。
『はいはい、出番やな。薬草と毒草、止血草を採取するんやな?ほなら取り合えず右斜めに少し進めば毒草があるでぇ』
異世界の毒草は尖った緑の葉っぱに中央に赤い線が一本入った物だ。
毒草を何に使うのかと言えば、毒消しを作るのに使うのだとか。
勿論、普通に毒も作れるそうだが。
「ナヴィ、ハエッタ。お喋りはそこまで。ジュン君が採取を開始したわ。護衛を開始するわよ」
「あっ、了解っス」
「私は左、ハエッタは右を。ナヴィは森に入って危険がないか確認。団長はいつでもジュン君のフォローに入れる位置へ」
団長のソフィアさんが指示するのではなく、クライネさんが指示を出しているが、それはいいのだろうか?何も言わないとこをみるといつも通りなんだろうけど。
いや、しかし、それ以前にだ。
「これって冒険と言えるんだろうか…」
「そ、そうだな…私も想像とは大分違う気がするな…」
「ま、まぁ…最初だしな。少し過保護なくらいが丁度良いんじゃね?」
そう?そうかなぁ…とてもそうは思えないんだけど。
だって王国最強騎士団である白薔薇騎士団の、その中でも指折りの実力者四人が護衛に付いてるんよ?
もはや王族待遇じゃね、これ。
『何を今更言うとるんや。ええから早う採取しいや。ほら、次は薬草があるで。そのまま真っ直ぐに進んだら見えるわ』
そうして二時間後。
採取クエストの目標数は達成した。それは良い。それは良いんだが……
「やっぱりこんなの冒険じゃない!何、この安全さ!」
「い、いや、良いじゃんか。安全な方がよ」
「危険は無い方が良いと思うよ?わたしも…」
「安全第一。本日二回目」
そりゃそうだけども!!少しくらい冒険者らしい事させてくれてもいいじゃない!?
危険なとこに採取に行く必要があるから冒険者に依頼されてるクエストなわけだしさぁ!?
「いやぁ~中々大量っスね」
「猪が二頭、ジャイアントホーンラビットが一匹、狼が二匹。この森じゃそこそこの成果よね」
「お肉は孤児院に配りましょうか」
「それがいいですね」
淡々と解体しながら疲れを全く見せずに会話するソフィアさん達。
合計で五匹も襲って来たのに一度も戦わせてくれなかった。
「当たり前じゃない。その為の護衛なのよ?」
「いや、しかしですね!俺は冒険者なんですよ?今日は採取クエストですけど、その内に魔獣の討伐クエストだって受けるんですから。それも戦わせないつもりですか?」
「そうだぜ。ジュンが心配なのはわかるけどよ。過保護過ぎるのもどうかと思うぜ?」
「そうですよー」
「同意」
とか言うアム達も他人の事は言えないんだけどね。君達も俺から付かず離れずで護衛して俺に近づこうとする魔獣達を威嚇してましたよね。
「途中からは私に狙いが変わったようだがな」
「そりゃそんなに血の匂いさせてたらね…」
途中、カタリナも狼を一匹仕留めたのだが、その手段がなんとアイアンクローだ。
飛び掛かって来た狼の頭を掴んだと思えば、そのまま頭蓋骨を砕いて仕留めてしまった。
その後も同じ方法で…その腰の剣は何の為にあるんですかね?
「予備武器だ」
「予備…」
握力で殺してるのに予備?腕が使えなくなった時は剣も使えないと思うんだが?予備を用意するならガントレットじゃね?君の場合。
しかも、そのやり方だと必ず返り血を浴びるし。そりゃ魔獣や狼を呼び寄せるってもんよね。
「それより、クエスト達成に必要な数は集まったのでしょう?」
「なら帰りましょう。お昼は王何処かの御店に入って頂きましょう。団長の奢りで」
「……いいけど。何故クライネが決めるの?」
「やったっスね!じゃ、早く……ちょっと待った!何か来るっスよ!」
森の奥から出て来たのは大型の蛇。アイアンスネークだ。
堅い革と5メートルはある身体。絡み付いて絞め殺すのがこの蛇のやり方だ。
この森では一番強い魔獣と言えるかもしれない。
「おっしゃ!こいつはあたいらが!」
「ちょ、待った待った!俺!俺にやらせて!」
折角出て来てくれたんだ。一度くらいは戦いたい!こいつも俺Tueeeeeにはほど遠い獲物だが!
「えー…でもよ、こいつはこの森じゃ強い方だぜ?」
「ジュンなら大丈夫だと思うけど…」
「…なら、こうする。ストーンバレット」
「ギャシャア!」
「あ」
ファウが魔法で石の弾丸…ストーンバレットを使い、アイアンスネークを使って仕留めてしまった。
結局、俺にはやらせてくれないのね…
「チッチッチ。ジュン、よく見る」
「…何を?」
「まだ生きてる。止めさして」
「…あっ、ほんとだ」
「一応、生きてるね」
……虫の息ですやん。胴体に大穴開けられて、放って置いても死にそうな…これに止めさせと?
「なるほどぉ…アレならジュン君に戦わせても安心ね」
「私達も次からそうします?」
「…………ただ甚振ってるようにしか見えないので、楽に死なせてやってください」
こんなの冒険じゃないや………断じて!俺の強さはソフィアさん達もある程度は知ってるのに!
どうして任せてくれないのか!
「そうは言ってもねぇ……ん~例えばの話よ?女王様が世界一強くて、誰にも負けない剣士だったとして。それでも戦場に居たら身を挺して護るのが騎士の務め。それはわかるわよね?」
そりゃまぁ…わかりますけれど?女王様を万が一にも死なせるわけにはいかないんだし。
「ジュン君も同じよ。例えジュン君が世界最強の冒険者でも、身を挺して護るのが私達の務め。率先して戦わせるなんてもってのほかなの」
「それが騎士という者です」
……それって俺を女王様と同等の存在として扱ってる事になりますけど、騎士として大丈夫ですか?
国に二心有りって思われちゃいません?
「それはそれ、これはこれよ」
「愛と忠義は別物です」
「……そっスか」
言っても無駄って事ですね。どうしよう…これからもずっとこの調子なのかな。
アム達もずっと一緒に付いて来そうだし…これはもう俺の強さを示すべきか?
いや、でも例え世界最強でもとか言ってたし…ん~…………ん?
「………」
「どうしたの?ジュン君」
「森の奥の方から、誰かがこっちを見てたっスっけど、どっかに行ったっスね」
「今のは多分オークだよ。ゴブリンも居たっぽい」
またか。前にこの森に来た時もそうだったな。
遠巻きに見て来るだけで何もせずに帰っていったが。
「兎に角、帰りましょ?」
「今日獲ったお肉は夕ご飯にしましょう」
悩みは解決しないまま王都への帰路に着く。
王都に近づくにつれ、何か様子がおかしい事にファリダさんが気が付いて、御者台から話しかけて来る。
「お嬢様。王都の様子が変です」
「変?どう変なんだ?」
「門前に武装した兵士が居ます。慌ててる様子です。何やらこっちに向かって叫んでるような…」
「カウラ、聞こえるか?」
「うん…大勢叫んでるからよく聞き取れないけど…『早く来い』とか『逃げろ』とか言ってるよ」
「逃げろ?逃げろって…何から?」
逃げろ…俺達に?つまり後ろから何か来てる?後ろは…ソフィアさん達が乗る馬車しか見えないな。
「何が何だかわからないが…スピードを上げてくれ、ファリダ」
「畏まりました」
よくわからないまま王都の門へ。普段なら兵士による簡単な検問があるんだが、それも無しに兎に角入れという。
兎に角、王都に入ろうとした瞬間。王都外壁の上にいる兵士が叫んだ。
「来た!見えたぞ!『トランス・パレード』だ!」
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