第41話 またまた現れました

「あ!ジュンお姉ちゃん!」


「おかえりなさい!」


「ただいま、みんな」


 今日は孤児院に来ている。


 誘拐されてから、無事だと報せてはいたものの子供達が会いたがっていると聞いていたからだ。


 帰って来た俺を院長先生と子供達が迎えてくれる。


「おかえりなさい、ジュン。クライネさんにハエッタさんも、いらっしゃい」


「お邪魔します」


「これはお土産です」


 そして今日の護衛はクライネさんとハエッタさん。


 二人とも鎧でも騎士服でもなく、目立たないように街娘のような服装なのだが、クライネさんは槍、ハエッタさんは杖で武装してるので返って目立つ。


「あっ、やっぱり。ジュンの気配がすると思った」


「気配…ただいまピオラ先生」


「……」


 途端にピオラの眼がスッと昏くなる。


 いきなり何故…あ。


「…ただいま、ピオラお姉ちゃん」


「…うん。おかえり!」


 眼が元に戻った…大人になって落ち着くどころか悪化するってどうなってんだよ。


 謎の能力は健在だし。


「あ、ジュン。おかえり…で、いいのか、な?」


「いいんじゃない?」


 ジェーン先生とユウも来た。


 ユウとは…一度二人きりで話をしたいのだが、この状況じゃ無理かな。


「大丈夫。その内話すから、待ってて」


 とか考えながらユウと眼を合わせるとそんな事を言って来た。


 読心術でも心得てるの?


 頭の良さだけで言いたい事がわかったなら、怖いんですけど。


「お姉ちゃん!遊ぼ!」


「お馬さんになって!お馬さん!」


「あたし、おままごとがいい」


「絵本読んで!」


「誘拐された時怖くなかった?」


 相変わらずのフリーダム…!


 今、孤児院にはユウを除いて五歳から七歳の子供が五人いる。


 その五人がお姉ちゃんと呼んで慕ってくれるのはいいが、それぞれが違う要求をしてくるので困る。


「大変よねぇ。この子達に比べたらジュン達は全然手がかからない子供だったわ」


「むしろジェーン先生が手のかかる…いはい、いはい」


「悪い事言う御口はこれかな?このこの」


 ジェーン先生も相変わらずなようで何より。


 院長先生もだけど、ジェーン先生も見た目変わって無いんだよなぁ。


 二十代でも全然通じる。


 それから二時間ほど。


 クライネさんとハエッタさんも子供達の玩具にされながら過ごしていると。


 ユウが院長先生にお使いを頼まれた。ジェーン先生も行くみたいだ。


「買い物?」


「うん。お昼ごはんと夕ご飯の。食べてから帰るでしょ?クライネさんとハエッタさんもどうぞって」


「あら?それは…良いのですか?」


「いいんじゃないですかね。ここはお金に困ってるわけじゃないですし」


「ではお言葉に甘え…る、だけなのもなんですし、お買い物に付き合いましょう」


「お買い物?あたしも行くぅ!」


「わたしも!」


 あれよあれよと。結局は子供達全員参加で買い物に。


 この人数でお買い得は大変そうだが…迷子とか。


 しかし大丈夫だ。こういう事は初めてじゃない。


 メーティスのサポートがあれば迷子探しも楽なもんよ。


『それって働いてるのわいやん?ええけど。必要無さそうやし』


 子供達は基本的には俺の言う事聞いてくれるし、ずっと誰かがくっついてる。


 二人は手を繋ぎ、一人は肩車。残る二人はユウとジェーン先生が手を繋いでいる。


「いいなぁ…肩車」


「いいですよねぇ…肩車」


「そんなん羨ましがらないでくださいよ」


 そんな眼で見てもやりませんからね。


 宿舎に帰ってから?余計に嫌です。


「ジュンはほんとにおっきくなったねぇ。孤児院に来た時はこーーんなちっちゃかったのに」


「いくら赤ん坊でもそこまでちっちゃくないでしょうよ」


 そんなビー玉みたいな大きさじゃない。…て、何処見て言ってる?


「いやいや。背丈じゃなくてね?デュフフ…」


「…詳しくは聞かないけど、それセクハラだからね?」


 全く、この人は…偶にこういうセクハラしてくるんだよな。


「ジェ、ジェーン先生は見た事あるんですか?ジュン君の…その…アレを」


「ん?そりゃああるわよ。ジュンのオムツも替えたし、お風呂にも入ったし!」


「う…羨ましい…」


「…ジュン君?」


「一緒にお風呂は却下です」


 そんなん一人でもしたらなし崩し的に全員とする事になるに決まってる。


 そしたら理性が何処に飛んで行って行方不明になるわ。


「ん?アレは…」


「ジュン君、どうかしましたか?」


「あそこにフランがいます」


「フランが?あ、確かに」


「あの子はジュン君専任ですし、ジュン君が此処に居る以上、出掛けていても問題はありませんけと。何をしているんでしょうね?」


 少し見ていると、フランは店に入っては少し会話したら出て、別の店に入ったりを繰り返している。


 偶に近くを歩いている人にも話しかけている。


 その様子からして何かを探している感じだが。


「お…私を探してる…わけじゃないか」


「ジュン君が何処に向かったのかは知ってるはずですしね」


 俺を探してるなら先ずは孤児院に行くはず…って、こっちに気付いたな。


「あっ…行っちゃった」


「行っちゃいましたね」


 こちらに気付いたフランは頭を下げた後、どこかに行ってしまった。


 やっぱり俺を探してたわけじゃないらしい。


「…そう言えば、フランって何故宿舎でメイドなんて?まだ未成年ですよね」


「ああ…あの子は戦死した白薔薇騎士団員の娘で」


「母親は平民の出で、身寄りが無いというので白薔薇騎士団で面倒を見る事に」


 なるほど、そういう。変な子だけど、あの子も苦労してるんだな。


「ねぇねぇ。早く行こうよ」


「お昼ごはん、遅くなっちゃうよ」


「ああ、はいはい」


 子供達に促され、買い物へ。


 あれ買って、これ欲しいとわがままな子供達を宥めつつ苦労して買い物を終えて孤児院に帰ると、客が来ているようだ。


 孤児院の前に馬車が停まっている。


「貴族の馬車では無さそうですね。商人のものでしょうか」


「商人、ですか」


 またスカウトか何かかな?と、思いながら孤児院に入ると食堂で院長先生と客と思しき人が話していた。


「ですから、今、此処に居る子供はまだ幼くて、そんな話をされても困ります」


「ならば教育の秘訣を。どうやったら孤児院なんて環境で優秀な子供ばかりを育てられるのか。何か特別な事をしているんでしょう?」


「いいえ。特にこれといった事は…あっ」


「おや?」


 院長先生と客人が俺達が帰って来た事に気が付いた。


 客人は見た目六十代の女性。側に一人、執事っぽい女性も居る。


 院長先生は何か失敗したかのような渋い顔になった。


「なんだ、大きな子もいるんじゃないですか。それもとびきりの美人と来た」


「…その子は孤児院を出た子です。もう自分の道を選んでいます」


「なら、そっちの子は?」


「その子は職員の子です。孤児ではありません」


 客人の女性は俺とユウを見て、そんな事を言って来た。


 やはりスカウトか何からしい。


「ふむ。しかし、この孤児院で暮らしているのでしょう?そちらの子も孤児院を出たとはいえ年齢的に最近と見える。ならば二人とも優秀なのでは?」


「……」


 院長先生は返す言葉につまってしまったようだ。


 しかし、ただのスカウトなら、悩まずに俺達に振ればいいのに。


 それをしない所を見ると…あまり良くない人物なのか?この人は。


「どうなんです?院長先生」


「…優秀です。二人とも。ですが…」


「やはりそうですか!ならば二人とも、私の商会で雇おう!高給を約束するよ」


 スカウトで確定したが…なんだ、この人。


 まるでハイと答えるのが当たり前なように言ってるが。


「私はお断りします」


「私も」


「…何故かね。こう言っては何だが私の商会は王都でも――」


「マダム、この子達にはまだ自己紹介をされておりません。それと、次の商談のお時間です」


「ああ、そうか…確かに名乗っていなかった。それに時間か。では、二人とも。私は王都でも指折りの商会、ユーバー商会のゼニータという。また話をしに来るから、その時には色よい返事を聞きたいね。では失礼」


 また来ても返事は同じだけどなぁ。それに俺はもう此処で暮らしてないし。


 それにいくら優秀だからって孤児院の子供に執着せんでも。


「ふぅ…ごめんなさいね、ジュン、ユウ」


「院長先生は何も悪くないよ。それより…」


「ええ…あの人はこの孤児院の子供達が優秀だと聞いてスカウトに来た。それは今までにもあった話だからいいのだけど…」


 それだけじゃなく、教育方法も教えて欲しいと。


 教育役が職員で、その職員も優秀なら雇いたいと言って来たらしい。


 つまりは孤児院を丸ごとスカウトに来たようなものか。


「そのくらいのつもりではあったわね…」


「ユーバー商会は知ってます。確かに王都でも指折りの商会ではあるのですが…だった、と言った方が正確かもしれません」


「だった…つまり今は違うって事ですか?」


「はい。あの商会は――」


 クライネさんの情報ではユーバー商会は鉱山を二つ抱え、鉄の輸出や加工、販売で大きくなった。


 近年では戦争特需もあって鉄で大儲け。その勢力を更に伸ばしたが…鉱山の一つが廃鉱になった。


 それでいきなり潰れたりはしないが雇っていた者達を全員解雇するわけにも行かず、新しく商売を始めようと色々やってはみたもののどれも上手く行かず。


 王都以外の街ではいくつか閉店、撤退したらしい。


「そこでクリスチーナ達の噂を聞いて、更にこの孤児院の子供達は優秀だと聞いたのでしょうね」


 まだ余力のある内に優秀な者を集め、何とか新商売を軌道に乗せたい、と。


 そういう事か。


「それだけならいいのだけど…上手くいってないから焦ったのか、良くない商売に手を出し始めたとも聞くの。その商売が何かはわからないけれど…うちの子供達を良くない商売に関わらせたくはないし…」


「良くない商売、ですか。私達で少し調べて見ましょう」


「…お願い出来ますか」


「はい。ユーバー商会が良くない商売…それが犯罪なら裁くのが騎士団の役目です」


 ダイアナ商会に引き続き、面倒くさそうな商会が出て来たなぁ…やだやだ。




――――――――――――――――――――――――――


あとがき


フォロー・レビュー・応援・コメント ありがとうございます。


一つ一つのコメントに返信出来ればとは思うのですが、この場で御礼を述べるだけに留める事、ご理解頂ければ幸いです。


今後も本作をよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る