第39話 招待されました
「…デカいな」
「ほんと立派だね」
「大きすぎると…ファウ、困っちゃう」
「君達…いや、いい。入ろうか、ジュン」
「あ、うん…」
アム達の妙な言い回し…主にファウの言葉を言及するのを止めたクリスチーナに促され、目の前の屋敷へ。
今日は急遽ローエングリーン家に昼食に招待され、クリスチーナ達はお目付け役として強引に付いて来た。
何故、急にそんな話になったかと言うと、前回狩に黙って出てた事がバレてました。
バレたのは白薔薇騎士団のメンバーでも世話係のフランでもなく、ピオラにだった。
宿舎に帰った時、俺の部屋の前で仁王立ちするピオラから、何か黒いオーラが立ち昇っている錯覚さえ覚えた。
過去にも何回か受けたお説教だが、今回は派手に怒られた。
何故、白薔薇騎士団にはバレなかったのに、ピオラにバレたのかと言えば
「何となく、ジュンの気配が遠くに行った気がしたのよ」
と、あっさりと言ってのけた。
それだけで宿舎まで来て確認し、仕事ほったらかしにして此処で待ってるというのだから…ハッキリ言って怖い。
前からそうだったが、孤児院を出てからピオラの執着心は強まる一方な気がする。
何となくヤンデレ化してる気がするし…やはりユウとは最恐タッグだな。
で、話を戻すが俺の無断外出がバレた結果、再度話し合いが行われ、やはり三ヵ月外出禁止というのは可哀想だと、クリスチーナ達とローエングリーン伯爵家組が結託。
護衛付きでローエングリーン伯爵家の屋敷や、エチゴヤ商会の店舗、アム達の冒険者活動等に付き合うくらいは認めようとなった。
護衛は監視兼任だが。
そして現在、クリチーナとアム達と一緒にローエングリーン伯爵家の屋敷、その玄関前に居る、というわけだ。
「やっと来たわね!…じゃない。遅かったじゃないか、ジュン。クリスチーナ達も」
屋敷内に入るとカタリナが出迎えてくれる。交渉の時のような、気合いを入れたドレス姿で。
…俺ら以外にお客さんでも居るの?俺ら普通の平民ですよ?
クリチーナが平民でも買えるパリっとしたスーツを用意してくれたから服装はおかしくないと思うが。
「…今日は招待ありがと、カタリナ。慣れない言葉使いはやめて、普段通り喋っていいぞ?」
「全くだね。前も言ったけど、無理に母親の真似をしなくていいんだよ」
「う、うるさい。私はいずれローエングリーン家を継ぐんだ。私も成人したのだし、母を見て仕事を覚えないといけないからな。形から入るというやつだ。それより、行くぞ。こっちだ」
カタリナはそれなりに母親を尊敬しているらしい。いきなり娘と同い年の男に結婚を申し込んで来るような母親だが。
「来たか。ようこそ、ローエングリーン家へ。先ずは座りたまえ」
案内された食堂では上座に座るカタリナの母親、アニエスさんと女執事とメイドさん達に出迎えられ、席に着く。ゼフラさんとファリダさんも居る。
俺の席はアニエスさんの左隣。向いにカタリナ。俺の左にクリスチーナ、アム、カウラ、ファウと続く。
「食事は直ぐに来る。ところで我が屋敷を見た感想はどうかな?」
「流石はローエングリーン家の屋敷ですね。広すぎて迷子になりそうです」
「成金趣味が多い貴族の中で、まともな貴族屋敷だと思うよ。厭味ったらしく美術品をそこかしこに飾ってないのはいいね」
「あたいはよくわかんねーけど、無駄にデケーのはわかる」
「わたし達が昔住んでた家は狭かったけど…かといって此処まで大きいとね」
「デカすぎ」
クリスチーナ以外はデカいって事しか言ってないな。所詮はザ・平民。貴族屋敷に対する真っ当な誉め言葉なんて浮かばない。
クリスチーナも褒めてるのかは微妙だが。
「ハハハ。確かにデカいよな。今、この屋敷に住んでるローエングリーン家の人間は私とカタリナだけだ。後は皆、家臣と使用人。私の母や伯母上達は存命だが、別の場所で暮らしている。だから、こんな広い屋敷は不要なんだがな…伯爵家には伯爵家に相応しい屋敷に住まなくてはならない。貴族の見栄というやつさ。維持費等も馬鹿にならないし、面倒な事この上ない。ハハハ」
カタリナもそれには同意なのかウンウンと頷いている。
アム達の言葉は他の貴族だと怒りそうなもんだが…アニエスさんはその辺は案外大らからしい。
「宿舎での暮らしはどうだ?ま、無断で外出した事から察するに、窮屈な思いをしてるんだろうが」
「…窮屈とまでは。でも、居心地は悪くは無いですよ。むしろ良すぎて堕落してしまいそうなのが怖いです」
「…あの環境で堕落?……不憫だな、男として生まれたというのに」
あ~…あの生活がこの世界の一般的な男の生活だとすれば貴族に囲われてる男はもっと贅沢な環境にいるわけか。一応はあの宿舎でも貴族に囲われていると言えなくもない俺だが、一応は匿われてる、保護されてるという状態だから堂々と贅沢は出来ないわけだし。
で、それを知ってるアニエスさんやカタリナ、使用人の皆さんは俺が不憫に見える、と。
そんな憐憫の眼で見なくても、孤児院で女として育てた院長先生には感謝の念しかありませんよ?
「まぁ、院長の判断は正しかったとは思うがな。確かに孤児院に男の子供が居ると広まればろくでもない連中に狙われただろうしな」
「隠しててもこうやってろくでもない連中に狙われている事だしねぇ」
「それって私達の事じゃないよな?クリスチーナ」
「さぁてね。お母様に聞いてみたらいいんじゃないかな」
クリスチーナは会話の節々にトゲを混ぜて来るな。
カタリナはそんなに嫌いじゃないみたいだけど。
「伯爵様、御食事の用意が出来ました」
「よし、並べろ」
少し空気が悪くなったが、気にせず…むしろ場の空気を良くするためか、アニエスさんは料理を運ばせる。
貴族の料理と言うと、フランス料理のフルコースのように前菜から一品ずつ出て来るのかと思えば最初から全員分、前菜からメインまで出て来た。
「そういう方式もあるにはあるが、私は嫌いでね。まとめて出て来る方が良い。デザートは別だが。さ、マナーは気にしなくていい。好きに食べなさい」
「ありがとうございます。いただきます」
「ひゅー!さっすがお貴族様!うまそうだぜ!」
「美味しそうだけど…これ、どうやって食べるの?」
「カウラ、これは先ず殻をむくんだよ」
「…殻ごとじゃないんだ」
伊勢海老によく似たエビの蒸し焼きが一人一皿あるんだが…殻ごと丸齧りはワイルド過ぎるぜ、ファウ。
食事しながらの話すのは俺とカタリナが出会った時の話だ。
「ハハハ。今は随分とマシになったが、その頃のカタリナは我儘だったからな。めんどくさいガキだっただろう?」
「…お母様、やめてください。あの頃の私は…ちょっと荒れてただけです」
荒れてたって…五歳児で?そんな不良中学生じゃあるまいし。
「そう言えばカタリナは何故ローエングリーン家の人間だと名乗らなかったんだい?何となく貴族の人間だとは思っていたけど」
「…お母様に言われていたんだよ。外で自分の我儘を通そうとする時は家の名前と権威を使ってはいけない、と」
「ローエングリーン家の昔からの教育方針だ。私もそうだったよ。自分の力で掴み取るという事を覚えさせるためにね」
「それを破ったらお仕置き…五歳の子供でも容赦ないお仕置きが待っていた、というわけだ」
一度、そのお仕置きを味わっている、というわけね。
だからゼフラさんのストップに従ったと。
そして話の続きはカタリナのフルネームだ。
「なんだ、まだ名乗っていなかったのかって、私もまだ名乗ってないか?改めて、カタリナの母にしてローエングリーン家の当主。アニエス・エヴァンナ・ローエングリーンだ」
次はお前だと、カタリナに目線で促すアニエスさん。
浅い溜息をしてからカタリナは名乗り始めた。
「…はぁ。カタリナ・ローエングリーンだ」
「おいおい…ちゃんとフルネームを言え」
「………カタリナ・リーニャ・ローエングリーン、だ」
「…フゥ。すまないな。カタリナは父親が嫌いでな。父親が付けたミドルネームが嫌いなんだ」
「もう顔も覚えてないくらい会ってないし、父親と認めてないがな」
交渉の時にも言っていたが、アニエスさんは入籍しておらず、カタリナの父親は現在何処にいるのかもわからないらしい。
「勿論、探せばすぐ見つかるだろうけど、別に会いたくないからな」
「と、言って探させてくれんのだよ、カタリナは。まぁ、今となってはそれでよかった。下手に復縁していたらお前と結婚出来なかったかもしれないしな」
「だからお母様とは結婚させませんからね!」
「ほう。お前はジュンと結婚すると?この場で申し込むのか?」
「あ、いや、それは…その…け、結婚はします、けど…か、勘違いしないでよね、ジュン!別にあたしはジュンの事なんてす、好きじゃないけど…あんたは中々優秀みたいだから?貴族的に優秀な血を取り入れるべきだと判断したというか!」
「落ち着きたまえよ、カタリナ。言葉使いが戻ってるよ」
「それに今更そんな言い訳しても無駄だよなぁ」
「そうだよね。素直になった方がいいよ?」
「隠すの無駄」
「うっ、うう…」
ほんとにな…大人ぶっててもまだまだツンデレなのは変わらないらしい。
微笑ましくはあるが。
「…しかし、父親…入籍してないとはいえ夫の行方がしれないというのは心配ですね。本当に探していないですか?」
「ああ。だがどんな生活を送ってるかは想像がつく。あいつは見た目はそこそこだったからな。今も昔も女にはモテていた。色んな女の家を転々としてるんだろうさ」
「……そんなだから嫌いなんだ」
更に詳しく聞くと。
カタリナの父親は貴族。男爵の出でローエングリーン家の家臣家の一つ。
アニエスさんとは幼馴染みにあたるとか。
「貴族の男子は貴重だからな。母は私に仲良くするように言っていたが、言われずともそれ以上にお互いに惹かれ合っていた。お互いに十五歳になったらすぐに愛し合ったしな。その時に出来たのがカタリナだ」
「…そんな事まで言わないでいいですよ、お母様」
十五、六歳で産んだって事っスね。通りで随分と若いお母さんだと思った。
「元々はチヤホヤされて育ちながらも真面目な男ではあったんだがなぁ。初めての女が私という極上の女だったのが良くなかったのか、すっかり女遊びにハマってしまってな。手当たり次第に貴族令嬢に手を出しては子供を作ってた。だからカタリナには腹違いの妹が沢山いるぞ。ま、それはカタリナに限らず、だがな」
王族、貴族、平民問わず。一人の男を夫として共有するのは普通の世の中だ。そりゃ言わずもがなで姉妹が沢山いるだろうな。
カタリナに限らず、クリスチーナやアム達にも腹違いの姉妹が。
ただ、腹違いの姉妹を親族だと言っても認められないというのが暗黙のルールとして存在するので孤児になっても頼る事が出来ないのだが。
「ま、あいつの事は気にする必要はない。私と結婚するのにあいつの許可も必要ないしな」
「だから!お母様とジュンが結婚するなんて認めませんからね!」
と、まぁ。カタリナの父親についてはこれで終わり。
今後関わる事も無いかもな…と、思ってたんだけどなぁ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
異世界ファンタジー週間ランキング237位。
統合週間ランキング468位。
皆さんの応援の御蔭でここまで上がって来ました。
ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
目指せランキング100位以内!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます