第38話 視線を感じました
「あぁん!久しぶりのジュン成分補給!」
「んなぁ~ゴロゴロ…」
「ジュン…抱っこ」
「…取り敢えず、一旦離れようか」
何故、アム達が此処に…この森は冒険者が来るにしても新人が野営訓練なんかに来る程度の森のはず。
もう一人前の冒険者と言って差し支えないアム達が来る場所じゃない。
「ユウが教えてくれたんだよ」
「…ユウが?何を教えたって?」
「ジュンって、数年前からコッソリ此処に狩りに来てたんでしょ?偶に孤児院に匿名で届けられた獲物ってジュンの仕業でしょ?」
「で、そろそろ宿舎での生活に飽きて森に出掛ける頃だって教えてくれてよ。昨日から此処に出張ってたんだけど…バッチリだったな!」
「予想的中」
…千里眼でも持ってるの?ユウは。なんなの、その的中率…昔から狩りに出てるのもバレてるし。
ユウとはあの交渉の後、少し話したけど、産まれた時から今日までの記憶が全てあるとか言っていた。
だから一緒にお風呂に入った事も覚えてるし、俺が男だと知っている、と。
本当に産まれた時から全ての事を記憶してるなら、それはもう超能力と言っていい気がするが、本当に凄いのはユウの頭の良さだろう。
あの日、あの場所に皆が集まるように仕向けたのはユウだとピオラも言っていた。
全て本当ならとんでもない知能。IQテストとかやれば200とか行くんじゃね?
それにユウがヒロイン候補説に真実味が出て来たし。
『せやなぁ。まだ確信はでけへんけど、可能性は高そうやな。限りなく黒に近いグレーやな』
黒に近いグレー…そんな容疑者みたいな言い方な止めなさい。
『だって、わいのメインヒロインの座を狙っとるんやろ?なら敵やん?まあサブヒロインなら認めたるけど』
お前……いや、良い。その件に関してはツッコむまい。
「で、見たとこ、まだ獲物狩れてねぇんだろ?あたいらが手伝ってやんよ!」
「いや。一匹だけジャイアントホーンラビットを狩ったよ」
「へ?何処にあんの?」
「まさかその場に置いて来ちゃった?」
「…誰かに盗られる」
…まあ、良いか。見せても、アム達なら秘密にしてくれるだろ。
『ええと思うで。似たようなスキル持ちはおるからな。ただ、デウス・エクス・マキナの事まで言ったらあかんで。あと容量は少ないって事にしとき』
スキル。ギフトや魔法とは違う、この世界に存在する力。
ギフトと同じように先天的に所持してる者も居れば後天的に手に入る事もある。
後天的に手に入った時は何となくわかるらしい。
ゲームみたいにステータスが見れたりはしないので本当に何となくわかる、感じるというのがスキル持ちの共通の感想だ。
そしてメーティスの言う似たようなスキルとは『収納』というスキルだ。
所謂アイテムボックスだな。
「ほら、これ」
「うおおう!どっから出したんだよ!」
「もしかして…スキル?」
「流石ジュン。有能」
メーティスの言う通りにスキルだと説明。
アム達はすんなりと受け入れていた。
もっと驚くかと思ったのだが。
「いやぁ、これもユウがな?」
「一人で狩りに行って持って帰るには量が多いからスキルとか持ってそうって」
「軽装で森に居たら確定って言ってた」
……ユウが賢すぎる件。
なんなのあの子!本当にあのジェーン先生の子供?
鳶が鷹を生むを地で行ってない?!
『鳶も鷹やけどな…でも、普段は普通に年相応の子供にしか見えんかったのになぁ。まさか隠してたんか?マスターが孤児院を出る時まで?』
マジかよ…そこまで俺に執着してんの?ユウがピオラと組んだのって、そこらへんに理由が?
『自分と同じくらい執着心を持ってるピオラなら組むに値するって?理由としてはありそうやなぁ』
だとしたら最恐タッグじゃね?最強じゃなく最恐な。
「おーいジュン?どした?」
「疲れちゃった?おんぶしてあげよっか?」
「ファウの背でもいい」
「いや、いい…大丈夫」
「そか?じゃあまだ狩りすんのか?」
「…うん。もうちょい狩るよ」
「じゃ、獲物探そ。わたしが探してあげるね」
「疲れたら言うといい」
アム達は俺より背は低いし、力は鍛えてるだけあって相応だが、それ以上にメーティス式身体強化魔法を教えてある。
魔法適正が低く、属性魔法が使えずとも魔力は誰にでも多少はあるので無属性の身体強化魔法は使える。
身体強化魔法を使えば非力なカウラでも俺を背負うくらいは出来るわけだ。
因みにカウラは兎獣人なので耳がかなり良い。森の中での索敵もお手の物だ。
「んー…あっちにスライムが居るっぽい」
「スライムなんて狩ってもしょうがねぇだろ。食えねぇし」
「討伐報酬も安い」
「わかってるよぉ…近場には他にいなさそ。もうちょい奥行こ」
「あんま奥には行けねぇぞ。あいつらに絡まれたらめんどくせぇし」
「同意」
「それもわかってるよぉ…じゃあ進むよ」
アムの言う、あいつら。
それはこの森に住むという亜人達だ。
ゲームや異世界物の話によく出てくるゴブリン・オーク・オーガなどのモンスター達。
この世界では亜人に分類され、それなりの文明を築いている。
その殆どが人類に対し友好的。多くは部族毎に小さな村を作って生活し、中には国民として認められ、国に対し税を払っている部族もある。
アインハルト王国では国民として認められてなくとも良き隣人であり、災害時なんかは互いに協力しあっている。
しかし一方で縄張り意識は高く、この森に住む部族も村の近くで狩りをすると追い返したり警告してきたりする。
冒険者ギルドでも争わないように注意喚起してるし、不和の種はまかないのが賢明だろう。
因みに俺はまだ亜人に会った事は無い。
「ふんふ〜ん♬」
「アム、ご機嫌」
「まぁな!ファウとカウラもだろ?」
「うん!」
「ジュンと一緒。当然ご機嫌」
「だよなあ!ところでジュン。白薔薇騎士団の奴らに変な事されてねぇ?」
「嫌になったらわたし達の部屋に来ていいからね?」
「誰が来ても護る所存」
「そりゃ心強いね。でも大丈夫だよ……今の所」
実はあの宿舎ではソフィアさんは住んでいない。
ナヴィさんも住んでなく、クライネさんとハエッタさんは住んでる。
ソフィアさんは伯爵家当主だし、当然王都に屋敷がある。
ナヴィさんも実は男爵家の当主。当然屋敷がある。
一番親しい四人の内の二人が居らず、比較的控え目な性格の二人が宿舎でブレーキ役になってくれている。
それでもセクハラは止まらないし、何ならあの二人も参加して来るが…
「…まぁ、ジュンにベタベタするのは仕方ないな、うん」
「わたし達も止められないもんね…」
「止められない止まらない」
「今だってくっついてたいもんね……あっ、近くに猪が居るっぽい!」
「おっ!猪か!」
「今夜は肉鍋」
「こっちだよ!」
お喋りしながらでもカウラの耳は働いていた。
案内された場所では中々大物の猪が地面を掘り返していた。
野生の芋でもあるのか?
『あるなぁ。自然薯っぽいのが。まだ無傷やで』
メーティスが解るのはデウス・エクス・マキナで調べる事が可能だからだ。
芋の存在までわかるとは、流石は神様のお手制。
素晴らしい能力である。
「どうする?あたいがやろうか?」
「いや、俺がやるよ。見てて」
「気をつけてね」
「援護の用意は万全」
援護の必要は無いけどね。猪程度なら身体強化も使う必要無く…
「シッ!」
「プキィ!」
飛び出して逃げる間を与えず眉間に一刺し。
すぐに血抜きを行う。
「おーやるじゃん!」
「ジュン、カッコいい!」
「ジュン、輝いてる」
アム達が褒めてくれるが、これくらいは冒険者なら当たり前。
早く俺Tueeeeeがやりたい…
「ん?」
「どした?あっ…」
「オーク?いや、ゴブリンかな?すぐに何処かいっちゃったみたい」
茂みに潜んでこちらを伺う視線を感じたのだが、すぐに消えた。
カウラ曰く、オークかゴブリンらしい。
「此処らへんはまだあいつらの縄張りじゃねえし、気にする事ねぇだろ」
「そだね。それじゃどうする?まだ狩る?」
ん〜…成果はデカ兎と猪とキノコ。
猪はアム達と分けるとして、もう少し狩りたいとこだが…
『アム達が一緒なら徒歩で帰るんやし、そろそろ帰った方がええで。転移までは見せる気ないやろ?』
だな。しゃあない、帰るか。
「今日は此処までにするよ。帰ろう」
「そっか!じゃあ帰ったら王都の酒場で猪焼いてもらおうぜ!」
「あ、いや、食事は用意されてるだろうから、それはまた今度で」
「「「えー…」」」
そもそも黙って出て来たから出来るならバレないように帰りたいと説明しながら帰路についた。
時折妙に視線を感じたけどメーティスは悪意を感じないと言っているし、問題無いだろう。
…と、この時は思ってました。
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