第35話 納得出来ませんでした

「我が輩は人間である。名前はもうある」


『…突然何を言い出すんや?意味わからんわ』


 いや、だって暇なんだよ…夜になったら歓迎会とか言ってたけど…それって夜までなんもすること無いって事じゃん?


『まぁ…確かに暇やな。でも、何もこの部屋でジッとしてなあかんわけちゃうやろ。外に出ぇへんと中をウロウロするくらいは何にも言われへんのとちゃう?』


 ふむ、なるほど。確かに宿舎内は自由にしていいって言ってたしな。此処で暫くは世話になるなら中を見学して周るくらいは問題無いだろう。


 何処に何があるか、全くわかんないしな。


「では出発」


『おー…お?』


 ドアを開けて廊下に出ると、一人の女の子が居た。


 メイド服を着ていて…十二歳前後か?


 ちょっと間を置いて、その女の子が話を切り出した。


「お出掛けですか?」


「あ、うん…暇だから、少し中を見学しようかと」


「なるほど。最初の獲物を物色しようと」


「んん?今なんて?」


「いえ、お気になさらず」


 なんかエラい事言われた気がするが…見た目大人しそうな子だし、気のせいか?


「ところで、君は?俺——」


「知ってます。ジュン様ですね。ワタシはフラン。ジュン様の世話係に任じられ、ご挨拶に来ました」


「君が?」


 …そりゃあ宿舎とはいえこの国最強の白薔薇騎士団のだし、此処で働くメイドくらい居るか。


「そっか。暫くの間、よろしくね」


「…この手はなんでしょう?」


「え?いや、握手しようと…」


「なるほど。最初の獲物はワタシ、というわけですか」


「なんて?」


「この手を掴んだら最後、無理やり部屋に引き摺り込んで押し倒すわけですね。ケダモノのように…ケダモノのように!」


「風評被害!誤解されるような事言わないでくれる!?」


「いいでしょう。覚悟は出来ています。受けてたちましょう」


「誰かー助けてー話が通じる人ー」


 何なんだ、この子は…恐ろしく話が通じないな。


「ああ、そうだ。遊んでないでワタシの話を聞いてください」


「あれ?おかしいな。俺がいつ遊んでたって言うのかな?」


「団長達がお呼びです。付いて来てください」


「マイペースやね、君…」


『今までに無かったタイプやな…』


 フランに先導され着いた部屋は…応接室かな?


 部屋の前にはナヴィさんとハエッタさんがいる。


 中にも…結構な人数の気配がする。


『ふんふん…あぁ~…なるほどなぁ。大体読めたわ』


 何が読めた?中に誰が居るのかわかるのか?


『わかるで。何でおるかは…見たらわかるやろ』


 見た方が早いって事ね。了解。


 まぁ、今日、この流れで誰が居るかは察しがつくけど。


「失礼しますー…あぁ、やっぱり」


 一人二人、知らない顔が居るけど…まぁ大体予想通りだ。


 クリスチーナにアム達、エチゴヤ商会組。


 ゼフラさんとファリダさんが後ろに控えている所を見ると、あの二人はローエングリーン伯爵家の人か。


 カタリナによく似た人はお姉さんか何かか?


 姉が居るなんて聞いた事はないが。


『何言うてるんや。アレ、カタリナやで』


 え?アレ、カタリナなの?なんか随分感じが違うけど…エラい気合入れていオシャレしてるし。


 後は…司祭様が居るのはエロース教代表かな。


 院長先生とピオラが居るのはいいとして…ユウはどうした?


 ソフィアさんとクライネさんは…何とも言えない顔してるな。


 で、皆してなんか俺に期待の眼差しを向けてるし。


 一体、此処で何があった……ん?


「お前がジュンか」


「あ、はい…貴女は?」


「私はカタリナの母だ」


「そ、そうですか、はじめまして…あの、なんか近くないですか?」


「気にするな。もっと良く顔を見せてくれ」


 いや、近い近い!なに、なんなの!エラいドアップで迫ってくるやん!


「あの、近い、近いです。なんなんです?一体…」


「…結婚しよう」


「なんて?」


「お母様!?」


 突然何言ってるんだ、この人。ジョーク…にしては眼がマジだし。


「君の為なら私の全てを差し出そう。そうだ、伯爵になれば良い!そうすればさっき挙がった問題の殆どを解決出来る!」


「お母様!?落ち着いてください!」


「私は冷静だ!なるほど、確かにこれ程の美形なら誰もが欲しがる!帝国のような阿呆がいくらでも出て来るだろうな!だがしかし!私の夫になりローエングリーン伯爵になってしまえば色んな問題が解決出来る!」


「そ、そりゃあ…他国の伯爵を無理やり連れ去ろうなんて大問題なるだろうし、それこそ戦争にまで行く覚悟がなければ出来ないでしょう。エロース教だって、まさか伯爵を神子になんて出来ないでしょうし」


「そうだろう!その通り!」


「ですが!それなら私の夫で良いでしょう!どうしてもお母様と結婚しなければならない理由はないはずです!」


 おお…あの脳筋娘のカタリナが頭を使ってる…ちょっと会わない間に成長したらしい。


「大体!お母様にはあの男がいるでしょう!」


「問題無い。もう何年も会ってないし、生きてるか死んでるのかもわからん。そもそも入籍もしてないしな」


 あの男って…カタリナの父親か。え?つまり、ローエングリーン伯爵って、未婚のシングルマザー?


 それって…いいのか?アインハルト王国の名門貴族でしょ?


「…燃えるような恋をしたとか言ってたのは何だったんですか…」


「気のせい、一時の迷い、魔が差しただけだ。お前だって嫌ってるんだからジュンが父親になった方がいいだろう?」


「何処に同い年の父親がいますか!」


 何なんだ…この人。何で会ったばかりの俺にそんな本気なわけ?


『そりゃあマスターのフェロモンにバッチリあてられてもうたんやろ。この人には特に効いたんやろなぁ』


 …フェロモンって、普段は出ないようにメーティスが抑えてくれてるんじゃなかった?


『そやねんけど、あまり抑え過ぎるといつかどこかで大量に出さんとあかんみたいでなぁ。普段は一般男性よりも少な目に出してたんやけど…それでも抜群に効いたみたいやな』


 個人差って事か。


 しかし、この人…カタリナの母親だけあって、美人さんだ。


 年齢は三十代前半くらいか。……三十代前半?


 じゃあカタリナを産んだのって十五、六?随分早くに産んだんだな…いや、この世界じゃ別におかしくもないか?


「ローエングリーン伯爵…兎に角座ってください。話が進みません」


「そうですよ、お母様。ほら、早く!」


「ちょっ、痛い痛い!わかったから首を掴むな引っ張るな!お前が本気出せば私の首が千切れるぞ!飛ぶぞ!」


 名残惜しそうに俺から離れて行く伯爵…ちょっとドキドキした。


「ジュン、私の隣が空いている。此処に座りたまえ」


「ああ、うん…」


 クリスチーナに促され、椅子に座る。


 いや、でも立ってる人居るのに後から来た俺が座るのもな。


「気にすんな。あたいらは平気だ。でも…よいしょっと」


「…あの、アムさんや?何をしてるのかな?」


「乗せてんだよ」


 なんだと…『当ててるのよ』は聞いた事あるが『乗せてんだよ』は初めて聞いたぞ!?


 重いけど重くない不思議!


「ちょっとアム、ズルい!」


「ズルくねぇよ。いいじゃねえか、これくらい。マジで重いんだぞ、これ」


「ちょっとおっぱいデカいからって…呪う」


「ん?フッフッフッ…ファウにゃ真似出来ないよなぁ。あ、カウラにも出来ねぇか」


「アム…いいわよ、戦争ね!」


「マジでバトルする五秒前…」


「頼むから仲間割れしないでくれよ、君達…」


 そういうクリスチーナさんも太もも触るのやめてくれます?


 嫌だ?なんでやねん…この世界にもセクハラって概念あるんとちゃうんかい。


 クリスチーナと反対側に座ったピオラには何故か太ももで手を挟まれてるし…お姉ちゃんって、そんな事する人でした?


「…もういいかしら?ジュン君を呼んだ理由を説明したいのだけど」


「あ、はい。どうぞ」


「じゃあ説明するわね。実はね…」


 ふむふむ………はぁ…へぇ…まぁ、アレだ。


 一言感想を述べるとしたら、だ。


「ナンデヤネン!」

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