第34話 大体上手く行きました

 ~~ユウ~~



「先ずは…そうね、私がどうやって、此処に集まるように仕向けたのかを説明しましょうか」


「「「……」」」


 フフ…良い感じね。もう誰も私が子供だからって舐めている様子はない。


「さっきも言ったように、それは簡単なの。情報を与えればいい。それだけよ」


「情報を…与える?たったそれだけでローエングリーン家を思うように動かしただと?」


「私達だけじゃなく、白薔薇騎士団も?」


「私達でさえも操ったと?」


「操ったわけじゃないわ。そうなるように仕向けただけ。違う行動を取る事も十分に考えられた。その中で一番都合のいい形になってくれただけ」


 白薔薇騎士団が地下下水道を拡張してるのはわかってた。白薔薇騎士団がお兄ちゃんを確保出来るようにピオラ先生を通して情報を流した。


 カタリナを通してローエングリーン家に情報を流して、後手に回るよう「冒険者ギルドに付く前に誘わないと予定が入っちゃうよ」と囁いた。


 クリスチーナ達には孤児院を出る日を伝えて「真っ直ぐに冒険者ギルドに向かうみたい」っと伝える。それだけで冒険者のアム達だけでなく、孤児院よりも冒険者ギルドに近い位置に商店を構えてるクリスチーナを冒険者ギルドで待つように仕向ける事が出来る。


 院長先生と司祭様とシスター達には特に何もしていない。院長先生が情報を渡しているのはわかってたし、白薔薇騎士団に確保されればお兄ちゃんに会いに行くのはわかってたから。


「た、確かに、そんな事言われたけど…」


「たった、それだけでこの状況を作り上げたと?ユウ、君は一体…」


「全て理想通りに行く可能性は低かったわ。でも白薔薇騎士団が確保してくれればこうなる可能性は高かった。誰もがお兄ちゃんを簡単に諦めたりしないのはわかっていたし」


 だから、お兄ちゃんが想定外の行動をするのが一番の不安要素だった。


 私の作戦ではお兄ちゃんは何処かに確保される必要があって、一番理想的なのが白薔薇騎士団に確保される事だったから。


「…ならばローエングリーン家でも良かった筈だろう?君が交渉に加わるならエチゴヤ商会の方が話もしやすかった筈。何故、白薔薇騎士団なのだ?」


「そ、そうだぜ!同じ孤児院で育った仲間じゃねぇか!」


「ユウにはお母さんがいるから孤児じゃないけど…それでも仲良くやってきたじゃない」


「お姉ちゃんは悲しい…」


 ま、そう考えるわよね。でも、ローエングリーン家もクリスチーナ達もダメなの。私の目的に沿わない。


「ローエングリーン家に確保された場合、交渉なんて受け付けないでしょう?少なくとも孤児院の子供の意見なんて、こういう状況を作らないと耳も貸さないはず。カタリナを通して話しても時間が掛かり過ぎるし」


「…フン。まぁ、そうだな。ローエングリーン家ならばジュンを確保するのに他所の力を借りる必要が無いからな」


「足りませんけどね」


「……何?どういう意味だ」


「それは後で。クリスチーナ達が確保すれば私の話は聞いてくれるだろうけど、お兄ちゃんの確保は出来ない。いざとなれば力尽くでどうにかされちゃうもの」


「そんな事はない。その為の対策は――」


「警備兵を雇うとか、秘密の部屋を用意するとか、そんなんじゃどうにもならないわよ?」


「……」


 一応は納得してくれたかしらね。さて、それじゃ本題ね。


「それが白薔薇騎士団を選んだ理由。幸いピオラ先生に接触して来てくれたしね。やりやすかったのもあるの。で、何故私がこの状況を作ったのか。最初に言ったようにある提案をする為よ」


「…いいだろう、聞いてやる」


「言っていたまえよ、ユウ」


「…私達も一応聞くわ」


 院長先生も司祭様は何も言わないけれど、視線は私に向けてる。ちゃんと聞くつもりはあるみたいね。


「此処にいる全員で手を組みましょう。お兄ちゃんを護り切るにはそれしかない」


「…ハッ!何を言うかと思えば。それならばローエングリーン家だけで事足りる。最初から我々に協力すれば良かっただけの話だろうが」


「さっきも言ったように、足りません。お兄ちゃんを狙う勢力は今後も増えて行きますから」


「…どういう事だ?」


「つまりですね…」


 お兄ちゃんが表舞台に出れば、必ず注目を集める。それはいずれアインハルト王国全土に届き、王家や公爵家の耳に入り、他国の王族の耳にも入る。


 エロース教教皇の耳にも入る。そうなれば必ず動き出す。


「そうなった時、ローエングリーン家だけで護り切れます?アインハルト王国内だけなら出来るかもしれませんけど、他所の国まで動き出したら無理でしょう?」


「…動き出せばな。だが、ジュン一人の為にそこまでの動くのか?」


「そうだね。そこまでの勢力が動くなら私達エチゴヤ商会だけじゃどうにもならないのは理解出来るよ。でも、孤児院の子供一人にそこまで大袈裟な事になるかね」


「なるわ。間違いなく」


「何故、言い切れる?実際に動いている勢力は此処にいる者で全てなのだろう?」


「…理由は言えません。でもお兄ちゃんは冒険者になる事が夢で、その為に努力して来た。ローエングリーン家では冒険者なんてさせないんじゃないですか?それは白薔薇騎士団も同じでしょうけど」


「…当たり前だ。男が冒険者をやる必要が何処にある。男は家で子育てでもしていればいい」


「ジュン君には悪いけれど…冒険者として活動するにしても護衛が必ず必要になるわ。そうなると毎日は…難しいわね」


 実際に護衛が必要かと言えば、必要無いんだけど…でも、それは問題じゃない。


「一番恐れるべきはですね、お兄ちゃんが私達の前から居なくなる事です。やりたい事もやれない環境って辛いでしょう?お兄ちゃんはいざとなれば誰にも見つからず姿を消すくらいの事は簡単にやってのけます」


「ジュンが…」


「居なくなる?」


 それを防ぐ為の提案、それがこの場に居る全員で手を組む事。それしかない。お兄ちゃんを護り、私達がお兄ちゃんと添い遂げるには。


「…確かに、此処にいる全員で協力体制を築けば大概の脅威からは護れるだろうさ。しかし、それでもエロース教全体、または帝国のように阿呆な王様や皇帝が現れたら厳しいぞ?」


「…戦争の火種になるくらいならジュンを渡せと、そう言いだす連中はいるだろうね。まともな考えを持つ人間なら、そう言うだろうさ」


「そもそも、それって私達が提案した事と何が違うの?私達に協力してくれればジュン君の妻の一人になれる。貴女が言ってるのは全員で協力してジュン君を護り、ジュン君と添い遂げようって事でしょう?何が違うの?」


「白薔薇騎士団に従う形での協力と、全員同じ立場での協力はまるで違うでしょう?」


「……つまり、私達が最初にジュン君を確保したという優位性を捨てろと言うのね?」


 そもそも白薔薇騎士団の言い分だと、お兄ちゃんに選ぶ権利が無い。


 それはそれでお兄ちゃんが姿を消しかねない。強制的に千人の妻を娶れなんて…普通は嫌がる筈。


「ま、そうだよね。そこは同意するよ」


「だなぁ。あたいらみたいにずっと一緒に暮らしてたなら兎も角」


「いくら訓練を見てくれてたからって、それだけの知り合いが騎士団全員と結婚なんてねぇ」


「無理筋」


「ぐっ…」


 正論をつかれて黙るソフィアさん。クライネさんも沈黙してるけれど、こちらはどう挽回するか考えているみたい。


 でも、此処から挽回はもう無理。


「…それから伯爵様が仰ったように、この場に居る全員で協力したとしても、より強大な勢力に来られたら護るのは難しい。だから王家の誰かを味方に引き入れます」


「…はぁ?それじゃ意味ないだろう」


「王家に知られたら拙いって解ってる筈だろう?」


「何も王家全員を味方にって話じゃないわ。王家の中でもそれなりの発言力がある人…可能なら次期女王が理想ですね」


「第一王女殿下か…」


「あの方を味方に…出来るのかしら…」


 どうしてか、この国の第一王女の情報は極端に少ないけれど…どうしてもやる必要がある。


 お兄ちゃんと私達の幸せの為には。


「まだ何かありますか?」


「…いいかしら?」


「院長先生…何?」


「ユウがそんなに賢い事にはビックリしたし、ジュンの事をよく考えているのもわかったわ。でも、そこにジュンの意思が介在していないのは変わらないわよね?」


「……うん」


 確かに、ここにお兄ちゃんが参加してない以上、これは私達の考え。


 お兄ちゃんなら別の答えを出すかもしれないのはわかってる。


 もしかしたらもっと素晴らしいアイディアが出るかも…でも、それって多分私が選ばれる事無いし…こうでもしないと私が入り込む余地なんて…


「そ、そうだぜ!先ずはジュンに聞くべきだろ!」


「そうよ!ジュンがわたし達と一緒が良いって言えばそうするべきだし!」


「ジュンの意思が最優先」


 ここぞとばかりにアム達が同意して来た。アム達でお兄ちゃんを独占できる可能性なんて、もうそれしかないから、わからなくはないけど…それって選ばれなかったらどん底に落ちるの、わかってるのかしら。


 私はそれが怖くて仕方ないんだけど…


「ふむ…そうだな。私はまだジュンに会った事が無いし。やはり直接見て見極めるべきだな。そして護る価値が無いと判断すれば、ローエングリーン家は手を引く。逆に護る価値有りと判断すればユウの言う通りに此処にいる全員で協力体制をとるのも吝かじゃない。ジュンの選択も尊重しよう」



「…そうだね。ジュンが選択した結果なら…私も納得出来るという物さ」


 お兄ちゃんに意見を聞くという事で話は決まった。


 白薔薇騎士団の二人は不満そうではあったけど、至極真っ当な事なので反論出来ないまま結局は認めた。


 此処までは上手く行ったけれど…お兄ちゃんを呼ぶって流れも想定内だけど…お兄ちゃんはどんな選択をするだろう…

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