第32話 全員集合しました
~~ソフィア~~
「いよいよですね、団長」
「そうね。今日まで長かったわ…」
初めてジュン君と出会った日から今日まで…少しずつ騎士団内に同士を増やして伸し上がって行き…実権を手にする。
レーンベルク家も引き継いで、同士にも自分の家の当主になってもらう。
そしてクライネの主導の下、誘拐作戦を準備。数年かけて、ようやく此処まで来た。
本当は最初はジュン君を独占するつもりだったし、団長にまで成れるとは思ってなかったけど…全てはジュン君を手に入れる為。
そう!ジュン君を私達白薔薇騎士団の恋人にする為に!
その為の大詰めがまだ残っている。
「団長、副団長。来たっスよ」
「そう。最初に来たのはどこ?」
「ローエングリーン伯爵家です。当主自らのおいでですよ」
作戦の全容を知っているナヴィとハエッタが客人の来訪を報せてくれる。
二人共、クライネと同じ私の同期で友人。信頼出来る仲間。
「応接室に通してくれた?」
「うっス。てか、宿舎じゃ応接室くらいしか通せる部屋は無いっス」
「それもそうね。じゃあ、その後に来る客も応接室通してちょうだい」
「よろしいのですか?相手は伯爵様です。後に来るのは…」
「構わないわ。どうせ話す内容は同じなんだもの。まとめてやらないと、時間がかかってしまうわ」
「では行きましょう、団長」
クライネの予想ではこの後、エチゴヤ商会とエロース教の司祭が来る。ジュン君を何とか手に入れようと交渉する為に。
でも、渡さない。ジュン君を確保したのは私達、白薔薇騎士団。
つまり現状で一番優位に立っている。譲歩する必要は全くない。
例え相手がローエングリーン伯爵家でも。
「お待たせしました」
「いいや。こちらこそ、突然訪ねてしまってすまないな、レーンベルク団長」
アニエス・エヴァンナ・ローエングリーン伯爵…先の戦争では轡を並べて戦った戦友。
綺麗な金髪を短く揃え、騎士服を思わせる服装の美女。
武装すれば勇ましき騎士に見える彼女だが、後方で指揮を執るのが得意な指揮官タイプ。
でも、今回に限っては私達の方が上を行ったのだけど。
「フッ」
「…何が可笑しい?レーンベルク」
「いえ、別に何も」
小さく鼻で笑ってしまったのだけど、彼女には聞こえていたらしい。そう言えば今代のローエングリーン伯爵は恐ろしいほどに地獄耳だとか。
戦場でも悪口を聞き逃さないし、小さな情報も聞き落さない。それが彼女の指揮官としての強みでもある。
「おや、カタリナ殿まで御一緒でしたか。御久しぶりですね」
「…はい。戦勝記念パーティーでお会いして以来でしょうか」
カタリナ・リーニャ・ローエングリーン…ジュン君と同い年という事は彼女も成人したのよね。
だからかしら…少し大人になったみたい。それにしても…
「カタリナ殿はどうしてそのような?この後、パーティーにでも?」
「え?…いえ、あの…」
髪型を変えて銀のティアラをつけて、卸したてのドレスに靴。王家主催のパーティーでも出るつもりかしら?
…それにしても胸、デカいわね。
「娘は意中の彼を食事に誘う予定だったのだ。白薔薇騎士団に邪魔されてしまったがな」
「ああ、なるほど。しかし、ローエングリーン伯爵。我々が邪魔したのではなく、誘拐犯の責任でしょう?」
「ふん。誘拐犯などいないくせに。それより、そろそろ本題に入らせてもらいたいな」
「それはもう少々お待ちください、伯爵様。同じ話をする為に、別のお客がくるはずですので」
「別の客だと?我々を待たせて別の客が来てからまとめて交渉するつもりだと?舐めているのか?」
「いいえ、そんなつもりは。決して油断出来ない相手だと思っているからこそ、入念に、念入りに、時間をかけて、今日という日を迎えたのですから。そして事態は私達の思惑通りに進んでいる…それも御分りですよね?伯爵様」
「チッ…」
クライネの言葉に黙るローエングリーン伯爵。
流石は白薔薇騎士団で随一の頭脳派。頼りになるわ。
ローエングリーン伯爵家側の人間は四人。伯爵本人と嫡子のカタリナ殿。そして護衛のセフラ先輩に侍女が一人。
この後も来る人間を入れると…この応接室じゃ狭いかもしれないわね。
「だんちょーう。エチゴヤ商会の人達が来たっスよー」
「そう。通してちょうだい」
「うっスー」
ナヴィの案内で四人入って来る。
予想通りの顔ぶれの四人。
会長のクリスチーナと冒険者パーティー『天使の守り手』の三人。
「…失礼します」
「おうおう!ジュンを出せやこら!」
「怪我させてないですよね」
「怪我してたら…呪う」
「相変わらずね、貴女達…」
不満をこれでもかと表情で示すクリスチーナはまだしも。
アムはもう、なんていうか…ほとんどチンピラじゃない。
…………それにしても、アムの胸、超デカいわね。またデカくなってないかしら?
「貴女達が何の話をしに来たのかは解ってるわ。そこに座って」
「……」
「お、おい、クリスチーナ…チッ!」
クリスチーナが黙って座ったのを見てアム達はクリスチーナの後ろに控えてる。
もしかしたら暴れるかと思ったけど、そこまで無謀でもないみたい。
「おい、カタリナ。あの猫獣人、お前よりデカいぞ、アレ。そっちの銀髪はお前より美人だし。お前、ヤバいぞ」
「な、何を言うのです、お母様!む、胸の大きさは関係ありませんし、私はクリスチーナに負けてなんかいません!」
「そうかぁ~?」
ローエングリーン伯爵…娘の前だとあんな感じなのね…戦場じゃ厳格な軍人だったのに。
それにクリスチーナは確かに美人…で、でも私だって負けてないし?
「フッ…」
「な、何よ…あ、いや、何がおかしいのだ、クリスチーナ」
「無理に母親の喋り方を真似なくてもいいよ、カタリナ。いやなに、私はジュンに毎日のようにクリスチーナは美人だね、美しいねと言われて来たけど、君はどうなのかなと思ってね」
「なぁ!?」
な、なんですって…ど、どど、どういう事!?まさかジュン君の好みはクリスチーナなの!?
「いやまぁ…嘘じゃねぇけどよ…」
「あれはジュンが言ったと言うより…」
「言わされてたというべき…」
「何か言ったかい?」
「「「いや、何にも」」」
アム達の反応を見る限り、違う?いえ、でも…あとで確認しよう。
「さて、これで揃ったのだろう?レーンベルク団長。交渉を始めようか」
「いいえ、まだです」
「まだ?これ以上となると…おいおい、まさか…」
「…エロース教とも交渉するつもりか」
ローエングリーン伯爵もクリスチーナも、それなりに情報は集めているみたいね。
でも…交渉になるかしらね?
「団長、来ました。エロース教の司祭様です。でも…」
「でも?どうしたの?」
「院長先生も一緒です。どうしますか?」
院長先生?ジュン君の孤児院の?…何故?
クライネも…わからないみたい。
「…いいわ、通して」
「はい。どうぞ」
ハエッタの案内で二人入って来る。確かにエロース教の司祭様と院長先生の二人。
何故、この二人が一緒に?隣同士なのだから、面識はあるだろうけど…
「あれ?院長先生?」
「なんで院長先生が司祭様と来るんだ?」
「久しぶりね、クリスチーナ、アム。カウラにファウも。元気だった?」
「は、はい」
「元気、です…」
「うちで働いてる、他の孤児院出身の子も元気です。それより、院長先生はどうして…」
「孤児院出身のジュンが誘拐されたのだもの。私が来るのは当然じゃないかしら」
「そ、それはそうですけど…でも、何故司祭様と?まさか…」
「私もジュン君が心配だったからですよ。クリスチーナさん」
「……」
でもエロース教もジュン君が男だと知っている。なのに何故か大きな動きを見せない。
目的がわからないのは不気味だけど…私達でジュン君を確保した以上、もう関係無い。
「それと、私とマチルダは元冒険者でね。私とマチルダ、あと二人。四人で冒険者パーティーを組んでいたの。その頃からの友人なのよ、マチルダとは」
「…マチルダ?」
院長先生ってマチルダって名前だったの…それに元冒険者。
司祭様も冒険者で仲間だったなんて…調べて無かったわね。
ローエングリーン伯爵は知っていたのか知らなかったのかわからないけど、マチルダという名前に反応している。
「院長先生って冒険者だったんだ」
「知らなかった…」
「あたいは知ってたぜ。昔、院長先生の部屋に入った時、デッけぇ斧があったから聞いてみたんだ」
「ああ、そう言えばあったかも~」
「ただの壁飾りだと思ってた」
そんな貴族屋敷じゃあるまいし、壁に飾り斧なんてかけてないでしょうよ。
でもまぁ…元冒険者には見えないわね、院長先生は。
「デカい斧…マチルダ…ああ!もしかして!『
「あら、知ってる人がいたのね」
「……古い話です」
ギロチンのマチルダ?随分と物騒な…冒険者にありがちな二つ名かしら。
「ギロチン?何ですか、それは」
「カタリナが知らないのは無理もない。私も以前社交界で少し聞いただけだ。昔、どんな魔獣も首を斬り落として仕留める凄腕の冒険者が居たと。巨大な戦斧を持ち、ドラゴンすら首を落として仕留めたSランク冒険者…『
…元Sランク冒険者!?院長先生が!?そ、それが本当なら、院長先生は並の騎士団では歯が立たない戦力を個人で有してる事に………い、いえ、大丈夫、大丈夫よ。
もはや事態は個人の戦力でどうこう出来る段階を過ぎている。それにあくまでも元Sランク冒険者。
確か院長先生は今、五十代という話だし…流石に現役時代には劣る筈。
何も恐れる必要は…
「それに司祭殿…貴女も同じパーティーだったと言ったな。ならば貴女は…まさか『
また新しい情報が出て来たわね…でも、そうか。院長先生が元Sランク冒険者なら同じパーティーだった司祭様も同じく元Sランク冒険者…ナイトメア?
「お、お母様…ナイトメアとは?」
「悪魔ナイトメアからとられたものだろうな。精神魔法が得意で幻覚を見せたり恐怖を植え付けたり…一度敵対した冒険者に精神魔法を掛け連日連夜悪夢を見せて精神を破壊、廃人同然にした事があると…だから『
「…事実です」
「そんな事もあったわね。懐かしいわ~でも、破壊した後、ちゃんと治したのよ?」
「植え付けられた恐怖は消えずに、結局は冒険者を引退させたわね」
「それは相手がやわだっただけよね」
…だ、大丈夫よ。私達に精神魔法は早々効かないし…問題なんてない。無いわよね?
でも、何故圧倒的強者感をこの二人から感じるのだろう…
「…と、兎に角、これで揃ったのだろう?レーンベルク団長」
「だんちょー、お客さん追加っス」
「え?誰が来たの?」
クライネの予想ではこれ以上来ない筈…院長先生が司祭様と来るのも想定外だったけど、一体誰が?
「ピオラ先生っス。あと、何でか子供が一人」
「ピオラ先生?彼女が何故…いいわ、通して」
彼女とは既に話が付いてる筈…それに子供?孤児院の子供かしら…でも、何故一人だけ連れて来たの?
「…失礼します」
「失礼しまーす。あ、やっぱり院長先生も居た」
「…ユウ?どうして貴女まで此処に?」
「ピオラ姉さん…やっぱり白薔薇騎士団側に付いていたのか…」
ユウ…この子、確かジェーンっていうもう一人の孤児院の先生の子よね。何故この子が此処に?
「交渉はまだ始まってないよね?なら、もうこれ以上は来ないし、始めましょ。皆が幸せになるために、ね」
「……」
どうしてかわからないけれど…この子を子供だと思って舐めてはいけない。
そう直感で思った。
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