第30話 ファンでした

~~ジーニ~~


 私はエロース教アインハルト王国王都ノイス支部の長、司祭のジーニ。


 今日、衝撃的な事件が起きた。


 最近の私…いえ私達の悩みの種、神子のマイケル様をジュンさん…いえ、ジュン君が決闘の末、倒した。


 それはもうスカッと……いえ、あのド阿呆の事はもういいのです。


 今までの問題行動に加えて宝物の無断持ち出し…間違い無く神子様ではなくなる。


 それどころかエロース教から永久追放でしょう。


 いくら母親が大司祭でも救いようがない。


 まぁ、それでも男ですから。もの好きな何処かのマダムが拾ってくださるか、盗賊や傭兵団の慰み者としてなら生きていけるでしょう。


 男でありながらエロース教から永久追放されるような者の末路などそんなもの。


 さて、今考えるべきはあのド阿呆ではなく。


 宝物を無効化したジュン君の事です。


 彼女に彼の事を確認しなくては。


「司祭様、来られました」


「来ましたか。通して下さい」


 私の私室に入って来たのは旧来の友人。


 隣人でもある孤児院の院長。


「いらっしゃい」


「…昨日の今日で何の用かしら、ジーニ」


 ジュン君を拾った、マチルダだ。


「まぁお座りなさいな。今、紅茶を入れるわ」


「結構よ。長居するつもりはないの」


「座りなさい。長い話になるわ。貴女にその気がなくてもね」


「……」


 昨日あんな事があったばかりだし、機嫌が悪くなるのもわかるけど…友人の私にそんな眼を向けなくていいじゃない?


「安心して。神子様…いえ、マイケルはもう本部に向けて移送中よ。もう此処には居ないし、戻っても来ない。昨日の事は無かった事にしてくれなんて事も言わない。本部からは関係者には最大限の謝罪と配慮をするように言われてるから」


「…当たり前よ」


 マイケルは昨日、目が覚めた後に渋々ながらもピオラさん達に謝罪。


 私達にも小さな声で謝罪。


 その後すぐに悪態をつき始めたので魔法で眠らせて袋詰にして移送中。


 最後までド阿呆だったわ。


「…用件はそれだけ?」


「いいえ。違うわ。勿体振るつもりはないからはっきり言うわね。ジュンさんは男ね?」


「……違うわ」


「嘘付いてもダメよ。私は…いいえ、私達は確信しているの」


「…私達?」


 そう、あの決闘を見ていたシスター達も確信している。


 何故なら決闘でド阿呆が使った宝物。アレは…


「男にしか使えない。且つ、男には無力な宝物なのよ」


「……」


 麗しき男子の守護者リビング・アーマーズは男を女から護る物…男に攻撃はしないし、出来ない。


 何故、ジュン君に従うように動いたのかは不明だけど。


 ひょっとしたらジュン君の方が美少年だからかも?


 もう一つの宝物。女子絶対不可侵アブソリュート領域フィールドは女には入る事が出来ないバリアーを展開する物。


 つまり男は問題無く入れる。


 この二つの宝物はエロース教徒の間では有名で初代神子様を護るのに使われた物だ。


 だから私もシスター達も気付いた。


 ジュン君は男だと。


「…待ちなさい。それじゃマイケルもジュンが男だと気付いたのではなくて?」


「安心なさい。彼の決闘時の記憶は魔法で曖昧にしてあります。どうやって負けたのかわからないが、負けたのはわかる、という具合にね」


「…相変わらずね、貴女の精神魔法の腕は…使い方は間違えないでね?」


 マイケルに関しては何度も精神操作して癈人にしてやろうかと考えたけど。


 いえ、考えただけで実行するつもりはなくてよ?オホホホ…


「それで?ジュンが男だと知った貴女達はどうするの?ジュンを神子にしようと言うなら、私にも考えがあるわよ」


「元Sランク冒険者の貴女を敵に回すつもりはないわ。ジュン君を神子にするつもりも、エロース教本部に報せる事もしない。ただ…」


「ただ?」


「私達の活動は認めて欲しいの。そして協力して頂戴」


「活動?協力ってなにを…」


「ジュン君のファンとしての…推し活よ!」


「……は?」


「推し活よ推し活!わかるでしょ!」


「いや、わかんないわよ。推し活って何よ」


 推し活とは!贔屓にしてるアイドルや憧れの人を応援したり愛でたりする事を言う!


「愛でたりって…やっぱりジュンを神子にするつもりじゃ…」


「それは違うわ!愛でると言っても遠くから眺めたり、ちょっとお話するとか、匂いを嗅いだりするだけでいいのよ!ま、まあ?ジュン君が望んだら抱かれるのも抱くのも吝かではないけれど?会員番号一番の私以下全員が同じ意見よ?」


「四十代の年増が七歳の子供に色気付いてんじゃないわよ…それより、また新しい単語が出て来たわね…会員番号?」


「年増って、貴女も同じ年でしょうが。私が年増なら貴女も年増よ。…会員番号はジュン君ファンクラブの会員番号よ!私は会長兼会員番号一番のジーニよ!貴女も入る?」


「……結構よ」


 マチルダは頭が痛いとばかりに額を抑えてる。


 何かおかしな事言ったかしら?


「…ジーニやシスター達がジュンを神子にするつもりが無いのはわかったわ。それで協力って?私に何を求めてるの?」


「ジュン君の事を色々教えて欲しいのよ!好きな食べ物とか趣味とか!好みのタイプとかも知りたいわね!あ、写真!写真とって頂戴!」


「写真…また高価な魔法道具を要求するわね……それで協力するにあたって、私のメリットは?」


「貴女はジュン君を護りたいのでしょう?私達も同じよ。彼を護りたい。協力しあえると思うのだけど?」


 私達ならエロース教の動きがわかる。私達が報告しない限り、エロース教本部が動く事は無いと思うけれど、いち早く伝える事が出来る。


 他にも貴族の情報を集める事も出来る。


 エロース教は世界最大宗教。王国そのものに与える影響力も大きい。


 貴族の情報を集める事も容易い。


「……わかったわ。約束は守って貰うわよ」


「勿論よ。ジュン君ファンクラブ会長の肩書きに掛けて」


「貴女の肩書きはエロース教司祭でしょ…」


 それからの約八年間…成長するジュン君を見守る幸せな日々。


 今では絶世の美少年に成長したジュン君が明日、孤児院を出る。


「じゃあ、本当にいいのね?邪魔しなくて」


「ええ。白薔薇騎士団がジュンを保護してくれるなら安心だわ」


「私達が保護してもいいのよ?」


「貴女達に預けるのだけは不安で仕方無いからダメ。一日と保たずジュンが穢されるのが目に見えてるもの」


「失礼ね…否定はしないけど」


 今のジュン君を前に我慢する…ダメね、八年も我慢…いえ、見守り続けたのに、同じ屋根の下に一日…うん、無理。


「なら明日は白薔薇騎士団が上手くやってくれる事を祈りましょ」


「そうね。そして上手く行ったら…」


 ローエングリーン家やクリスチーナさん達も混じえて白薔薇騎士団と交渉ね。


 全てはジュン君の為に…

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