第28話 油断してました
~~クリスチーナ~~
「…はぁ!?ジュンが誘拐!?」
今日はジュンが孤児院を出て冒険者になる日。遅いなと思いながらアム達と一緒に冒険者ギルドで待っていると、職員と話していたアムがそう叫んだ。
……ジュンが誘拐?え、誘拐?
「た、大変じゃない!助けに行かないと!」
「ああ!行くぞ!カウラ!ファウ!」
「合点承知」
「わたし達は『天使の守り手』だもんね!」
アム達は私と同じく、ジュンにホれている。誘拐されたと聞けば何もせずには居られない。
アム達にとって天使とはジュンであり、ジュンを守ると決めている。
私だってそうだ。
「お、落ち付いてください!誘拐犯は逃がしたものの、ジュンという方は保護されたとたった今情報が入りました!」
冒険者には犯罪者逮捕に協力する義務がある為に、事件が起きれば情報が逐一入って来る。
しかし、発生してから解決まで妙に早いな…それに情報の伝達も速すぎるような?
「なんだ、そうかよ…ビックリさせやがって!」
「ほんとにもう…ジュンはやっぱりわたし達がいないとダメね!」
「…ファウ達で管理する」
それは逆だろう。アム達がジュンがいないとダメなんだ。それも私も同じだが。
アム達はそれを自覚してないのが玉に瑕だ。
それより問題は、だ。どこの組織が動いたのか、だ。
王家にはまだジュンの存在は知られていない筈…ローエングリーン家も動く様子は無いと、部下から報告が挙がっている。
となれば怪しいのはエロース教のドスケベシスターズか、色ボケした白薔薇騎士団か。
チッ…どちらにせよ、油断していた。ジュンは冒険者ギルドに確実に来るのだから、ここで待っていれば確保出来ると…まさか孤児院を出る初日から誘拐なんて手段に出る組織があるなんて。
しかし、誘拐とは…初手にとる手段としては些か過激すぎるだろう、本当にどこの馬鹿だ。
「兎に角、ジュンを迎えに行かねぇとな!」
「そうね。でも、何処にいるのかしら?」
「あ、保護したのは白薔薇騎士団だそうですよ。ラッキーな方ですね」
「「「はぁ!?」」」
「ど、どうしました?」
そういう事か…!恐らくは誘拐したのも白薔薇騎士団!誘拐に見せかけたのは、保護という建前で自分達の手元に置く為!
そして誘拐犯を捕えてない為に犯人の素性と目的がわからない以上、外部との接触は認められないといって私達からジュンを隔離するつもりだ!
「ちぃ…やっべぇな。どうするよ、クリスチーナ!」
「は、早くジュンを取り戻さないと…」
「ジュンが穢されちゃう…」
「え?保護されたのにですか?」
アム達も何となく裏が読めたのだろう。私に意見を求めて来る。
「…一度戻ろう。情報を集める必要がある」
「そんな悠長な事言ってていいのかよ!早くしねぇと、ジュンの、ど、どう……アレが!」
「落ち着きたまえ。それは大丈夫だ。いいから行こう」
まだ納得行かない様子のアム達を連れて私の店兼私達の家へ。
此処にはジュンの部屋も用意しておいたのに…無駄になってしまうかもしれないな。
「で!?どうすんだよ!やっぱ突撃か!?」
「ジュンの為なら白薔薇騎士団とだって戦うよ!」
「…師匠といえど、抹殺」
「だから落ち着いて。ジュンの貞操は大丈夫だよ。白薔薇騎士団の連中は、頭の中恋愛脳だからね」
「そ、そうか?…そうかなぁ?」
「でも…そうかも?」
「…ソフィアは間違いない」
昔からそうだった。全員がそうだとは思えないが、少なくともソフィアとクライネがジュンを見る眼は恋する女の眼。
認めたくはないけど、私と同じ眼だった…だから気に入らないんだ、白薔薇騎士団は。
どうしてソフィア達が気に入らないのか、最初はわからなかった。
貴族は嫌いだけど、商人としてそんな感情は見せるべきではないし隠せるつもりだった。
でも、ジュンが男だと知って、やっと解った。これは嫉妬だと。
私達以外の、孤児院の仲間以外の女がジュンにベタベタしているのを見ると心がザワつく…カタリナはまだマシだが、ソフィア達はダメだ。
「おい!おいってば!クリスチーナ!何、ボッーとしてんだよ!」
「あ、ああ。すまない」
「しっかりしてよ~クリスチーナはわたし達の頭脳労働担当でしょ?」
「早く、作戦立案」
…ふふっ。体は大きくなっても、中身は変わらないね、君達は。
こんな時なのに、少し笑ってしまう。
「な、なんだよ…何笑ってんだ?」
「いや…今、部下に情報を集めさせてる。作戦を決めるのはそれからだけど…恐らくは白薔薇騎士団と交渉になるね」
「交渉?そんな悠長な事でいいのかよ。力尽くで奪った方が早くねぇ?」
「王国最強騎士団相手に、それが出来るとしても、だよ。相手はこの国の英雄達なんだ。腐ってもね。表だって彼女らを敵に回すのは頂けない…腹立たしい事に、社会的な立場は向こうの方が上なんだ」
「…チッ!これだから貴族ってやつは…今は待つしかねぇか…」
力業ではあるけど、本当に厄介な手で来られた。さっき馬鹿と言ったのは取り消そう。
自分達の地位と能力の高さを全面的に利用した作戦…兎に角、確保さえしてしまえば何とかなると。
これを更に力業でどうにか出来るとすれば…もはや王家くらいだろう。
多分、この作戦を考えたのはクライネだ。脳筋の白薔薇騎士団で唯一の頭脳派。本当に厄介だ。
「あ~あ…あたいらももっと早くにジュンが男だって気付いてればだなぁ」
私達がジュンは男だと気付いた…いや、知ったのは偶然。偶々ジュンを行商の旅に誘いに孤児院に来た時、珍しくジュンが寝坊していた為に部屋に起こしに行ったら…その、おっきくなっていたんだ、アレが。
あまりに予想外の光景過ぎて、その場では何も出来ずに部屋から出て考え込んでる内にジュンが起きてしまったが…後々落ち着いて考える事でアレがなんなのか、わかった。
それで知ったんだ。ジュンが男だと。
「そうだよねぇ…せめて孤児院を出る前に気付いてれば…」
「ジュンとアレやコレや出来たのに…」
「…ピオラ先生…いやピオラ姉さんがいるのにかい?」
「「「うっ」」」
ピオラ姉さんのジュンに対する執着は私達から見ても異常。そのピオラ姉さんがいる孤児院でジュンと…エ、エッチな事をした場合、いや、しようとした場合、すぐにピオラ姉さんは飛んで来てお仕置きされる…いや、もしかしたら自分も混ざろうとするかも?
「なぁ、今思ったんだけど…姉御が傍にいた筈だろ?なのにジュンは誘拐されたのか?」
「あ!確かに!ピオラ姉さんなら相手が白薔薇騎士団でもなんとかしちゃう気がするもん!」
「姉御、ジュンに関する時だけ、無敵」
言われてみれば…先も言ったようにピオラ姉さんのジュンに対する執着は異常。
誘拐なんてされて黙っている筈が…まさか!
「ピオラ姉さんは白薔薇騎士団と組んだ…?」
「え?ど、どういう事だよ、それは!」
「わたし達を裏切ったの?」
「…裏切り、許すまじ」
いや…ピオラ姉さんは私達にも情報を流していた。今日、ジュンが孤児院を出ると教えてくれたのもピオラ姉さんだし。
ピオラ姉さんの判断基準は恐らく…ジュンをより完璧に守れるのはどちらか、という事。
そして私達ではなく白薔薇騎士団だと判断したか…チィッ!
「状況は想定よりも悪いかもしれない…まだローエングリーン家やエロース教に確保されたんじゃないだけマシかもしれないけど…」
「ど、どうすんだよ?」
「…兎に角、交渉するしかない。ジュンの居場所が判明次第…」
「会長!ジュンの居場所がわかりました!」
そこへ部下…彼女も私達と同じく孤児院出身で、ジュンに世話になった子だ。
彼女が持って来た情報ではジュンは白薔薇騎士団の宿舎にいるという。
「宿舎?白薔薇騎士団員の?こういう場合、本部か詰所じゃないのかよ」
「そのどちらも王城にあるからね。王城だと他の貴族や騎士団、王家にも知られる危険性が高くなるからだろう…しかし、君。よく宿舎に居るのがわかったね?」
「ほんと。白薔薇騎士団の宿舎になんて入れないでしょ?」
「あ、それが…孤児院に帰って来ていたピオラ姉さんが教えてくれました」
なるほど…やはりピオラ姉さんは白薔薇騎士団と手を組んだのか。
「ピオラの姉御…なんで…」
「わたし達じゃダメだったの…」
「…呪う」
「ピオラ姉さんに関しては後だ…兎に角、宿舎に行って交渉しよう」
状況はかなり不利だけど…諦めない!ジュンは誰にも渡さない!
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あとがき
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