第27話 俺はそう思いました

「現在の所、アインハルト王国の優勢。エロース教のヨハンネ教皇猊下、ツヴァイドルフ帝国を批難する声明を発表。一時的に帝国よりエロース教の撤退を決定…か」


 この世界には新聞がある。戦争中の為に主な記事は戦争関連ばかりで、全てが真実とは限らないが、王国が優勢の間は流れる情報は殆どは真実だろう…と、思う。


 しかし、帝国はエロース教に見限られたか。


『エロース教を敵に回したらあかんわなぁ。周辺国だけやのうて、自国民からも支持を失ってまうわ』


 戦争の理由がアレすぎるからなぁ…エロース教としては帝国の味方するわけにはいかんだろうなぁ。


『アインハルト王国の王子ジーク・エルム・アインハルトを皇太子の夫として差し出せ、拒めば戦争も辞さない…で、本当に戦争やもんなぁ。幾ら何でもアホすぎるやろ、皇帝』


 ほんとにな…王子も気の毒に。


 なんでも今代の皇帝は男狂いで有名らしいからな…皇太子の夫とは建前で実際は自分の愛人に育てるつもりだろうと、もっぱらの噂だ。


 俺も男だとバレたら他人事では無いのだが。


『そやなぁ…今バレたら、最悪王子の身代わりとして帝国に差し出されるやろ。孤児の子供一人で戦争が終わるなら安いもんってな考えで』


 それはまぁ、ね。俺が王様でもそうするかもしれん。差し出される身としてはたまったもんではないが。


『王子は確か、まだ八歳やろ?マスターと同い年で結婚迫られて拒否したら戦争とか。そら支持は失うわな』


 ソフィアさんから噂は真実だと聞いてから数ヵ月後。収穫期が終わって直ぐに戦争が始まった。

今は年が明けて春…開戦から半年が過ぎていた。


 カタリナの家の当主…つまりカタリナの母親は一軍の将として戦争に参加。それにゼフラさんも付いて行かねばならなくなり、カタリナはあまり外出出来なくなった。


 戦争中ともなれば有力貴族の息女を狙った誘拐等も起こり得るので、仕方の無い事なのだが。


 そんな中でもソフィアさんと、ソフィアさんの友人、同期の騎士による俺とアム達への指導は続いていた。


「今日は此処までにしましょう。大分動きがよくなってますよ、アムさん」


「ハァッハァッ…あ、あざっス…」


 アムに槍の稽古を付けているのはソフィアさんの同期で親友クライネさんだ。

短く切り揃えた青髪のおかっぱ頭で眼鏡をかけてる知性的な見た目の美人さん。

彼女も貴族で男爵家の次女らしい。槍の腕も同期の中では一番だそうだ。


「うんうん。だんだん良くなってるっスっけど、まだまだっスね。もっと中心に当てられるように鍛錬あるのみっス」


「は、はい~」


 カウラに稽古を付けてるのは同じくソフィアさんの同期ナヴィさん。王国では珍しい褐色肌で黒髪。ツリ眼で八重歯が光る活発的な印象を受ける女性。


「そう、魔力操作は魔法使いにとって基礎中の基礎です。この基礎訓練はずっと続けるように」


「…はい」


 ファウに指導してるのも同じくソフィアさんの同期、ハエッタさん。

彼女はエルフの血を引いてるらしく、長い緑髪に少し尖った耳のスレンダーな美人さん。


 ファウはドワーフの血を引いているので戦士向きなんじゃ?と思っていたが本人の希望通り魔法の才能が高いらしく、火・土の二属性に適性があるようだ。


 メーティス曰く


『一属性でも適正があれば一人前の魔法使いになれる。二属性使えたら一流。三属性も使えたら超一流や。まぁマスターは全属性が使えるわけやけども』


 との事らしい。


 俺もハエッタさんには魔法を少しずつ教わっている。


 しかし、この指導もいつまで続けられるかはわからない。

何せ彼女達は新人とはいえ王国最強の白薔薇騎士団員。今は王都に残っているが、いずれは…


「そうね…白薔薇騎士団千人は五つの部隊で構成されているのだけど、その内三つの部隊を前線に。残る二つを王都と王城の防衛に充てているの。私達新人は優先して後方にいるようになっているけれど…いずれは前線に行く事になるわね。多分、新人期間が終わる来年には…」


 騎士になって二年は新人として扱われ、騎士として教育期間となるらしい。

去年騎士となった彼女達は来年から一人前の騎士として扱われ、戦争に行くのだ。


「処女のまま死にたくないっスよね~」


「ね。どこかに良い男いないかしら」


「せめて恋人になってくれると確約してくれる人がいたら、何が何でも生きて帰ると誓えるのですが…ソフィアにはそんな男にあてがありそうですね?」


「な、なな、なんのことかしら?そ、そんな良い人、い、いないわよ?」


 …あからさまに動揺してらっしゃる。ソフィアさんには想い人がいるらしい。


 まさかエロース教の神子じゃないよね?


 しかし、何が何でも生きて帰る、か。そうだよな…戦争に行くんだから当然死ぬ可能性があるわけで…俺が戦場に行ってドカンと一発!ってわけにも行かないしな…


『可能か不可能かで言えば可能やけども…今後に影響でまくりやろうなぁ。正体隠してやるにしろ暫くは王都から行方不明にならなあかんし。何よりこの世界、一兵士から大将に至るまで全員女やで?男なら平気ってわけでもないやろけど、マスターに殺せるん?』


 無理ですね、はい。いくら俺Tueeeeeがしたいと言っても殺人がしたいわけじゃない。

戦争だからって割り切れるとも思えないし…殺人に慣れたいとも思わない。


『ま、それが当然の考えやろ。マスターは善性の人間やって神様の御墨付やしな。ソフィアらに何かしたいんならもっと別の何かにするんやな』


 もっと別の何か…ありきたりだけど御守りとか?


『ええんちゃう?御金は特許の収入で充分にあるけど、あまり高価なもんはあかんで?』


 となると手作り…御守りを手作りか。そういう風習とかあるかな?母親が戦地に行く子供に持たせる御守りとか。


『どんぴしゃなんがあるでぇ。小さな木の板に無事を祈る言葉を彫って、首からぶら下げる袋に入れて持たせるんや。尤も、男が沢山いた時代の、まだ男が兵士とかしてた時代の風習やけどな』


 つまり今では廃れた風習ってことか…まぁ問題なかろうて。これで行こう。


 そうだ、どうせなら…


「ソフィアさん。ソフィアさんの同期って何人いるんですか?」


「え?二十人だけど…」


「二十人…今年入った新人は?」


「今年は新人が居ないの。戦争が始まったから…わざわざ戦争に行くのがわかってるのに王国の騎士団に入れる親は少ないわ。今年は騎士になるにしても自分の家の騎士になるって人ばかりよ」


 なるほど、そりゃそっか。自分の家の騎士なら危険な戦場に送る事を避けられるし。


 親ならそうするだろう。


 ソフィアさん達が戦場に行く迄に二十人分の御守り…時間はまだあるし、用意出来るだろう。


 …………………


 それから一年後。この一年、戦況は王国がやや優勢のまま。しかし、戦死者は多数出ており孤児院にも子供が増えた。


 ピオラは今年十五歳で孤児院を出る歳なのだが、子供が増えた為に職員を増やす事になったのを良い事に、そのまま職員として残るようだ。


 そして三日後、ソフィアさん達が戦場に行く。今日で最後の訓練…にならない為にちゃんと御守りは用意した。


 後は渡すだけだ。


「…じゃあね、ジュン君。この二年、楽しかったわ。元気でね…グスッ」


「ソフィアさん、これを。同期の皆さんの分もあります」


「これは…何?何か板のような物が入ってるみたいだけど…」


「御守りです。これをあげますから、今日で最後の訓練みたいに言わないで、戻って来たらまた、うぶぅ!」


「ああん、もう!もうもうもうもう!わかったわ!私、絶対に帰って来るぅ!」


 …話途中で抱きしめられてしまった。てか、色んなとこ触り過ぎじゃない?


「ソフィア、代わってください。次は私の番です」


「その次にあたしっス!」


「え~私が最後?その分サービスしてね?」


 サービスってなんじゃい。サービスって言うなら御代払ってもらうでほんまに!


「ごらぁ!ジュンはあたいらのもんだ!誰にも渡さねぇぞ!」


「今日くらいいいじゃないですか。私達はあなた達の師匠なんですよ?」


「いくら師匠でもダメー!ジュンは渡せないもん!」


「ケチな弟子っスね~師匠不幸者~」


「…ジュンは家族。家族は渡さない…」


「師匠も家族の枠に入れてくれていいのよ?」


 …さっきまで湿っぽい空気だったのに。あっと言う間にぎゃいぎゃいのと騒がしい空間に変わり。


 そして彼女達は戦場へ赴いた。


 彼女達の活躍の報はすぐに王都に届く事になる…



………………………………………



 時は現在に戻る


「…とまぁ、こんな感じか?皆との出会いとこれまでは」


『そやな。まぁ、その後もなんやかんやと色々あったけどな』


「だなぁ」


 孤児院に子供は増えたのと同様に、隣の教会でも子供を保護するようになり。教会での勉強は中止。


 孤児院の子供は俺とピオラも教師役になって教えたり、そこへ久しぶりに外へ出る事が許されたカタリナが乱入するようになり、新しい子供達と一悶着起こしたり。


 十五歳になって行商人になったクリスチーナの初行商に護衛に雇われたアム達の手で、ほぼ誘拐同然に同行させられたり。


 クリスチーナの母親が店を開く予定だった場所は怨霊が出る場所になってて除霊させられたり。


 戦争が始まって四年目に白薔薇騎士団の団長、副団長が戦死。

ソフィアさんが団長、クライネさんが副団長に大抜擢されたり。


『それで、や。どうや?これまでの事思い返してみた感想は?カタリナは兎も角、クリスチーナとかシスターとか、その他諸々。マスターの行動が原因やと思わへん?』


 いやいや、そうは思いませんけど?原因は不明で、少なくとも俺のせいじゃないと思いますけど?


 でも、そやねぇ…


「クリスチーナが大商人になれたのって、俺の御蔭じゃね?マヨネーズとかジェンガとか…石鹸とか、他にも色々教えたしさぁ」


『……………そやね』


 だしょ?そう思うよね?ね?

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