第23話 やっちまいました

「以上が、私達、女性と貴女達がまだ会った事も見た事もない男性との違いです。皆さん、わかりましたか~?」


「「「は~い」」」


 …………………キッツい。


 今日からエロース教のシスター達の子供達に混ざってお勉強してるのだが、キッツい。


 俺は初参加なので、先ずは同じ初参加組の子供達と一緒に教えられているのだが…先ず最初に保健体育の授業ってどうなのよ?


 しかも子供に教えるにしては最初っから生々しい…もっとオブラートに包んで欲しい。十枚重ねくらいに。


 コウノトリが運んで来るとまでは言わなくても、せめてメシベとかオシベとか…


「ジュンさんは御返事がありませんけど、わからなかったですか~?」


「…いえ、大丈夫です。続けてください」


「ジュンさんは大人っぽい物言いしますね~。じゃあ続きです~」


 言わずもがな、子供達もシスター達も全員女性。そんな中に混じって受ける保健体育の授業…キッツい。


 もはやうろ覚えだが、小学生の時男女に別れての保健体育の授業があったように思うが…女子の方はこんな内容だったのだろうか?


 多分違うだろうな、うん。違うと信じたい。違うと言ってくれ。


『誰に聞いとるんや…わいは日本の保健体育の授業内容なんて知らんで?』


 デウス・エクス・マキナには?


『流石にそんなデータ入っとらんわ』


 神は死んだ!


『…ニーチェの言葉やっけ?神様に実際に会ったマスターが言うと、罰当たりやなぁ』


 ニーチェを知ってんのね…しっかし、この授業内容…流石はエロース教と言えばいいのか…らしいっちゃらしい内容だなぁ。


『せやなぁ。子作りが教義やしなぁ。信者になる事こそ強制せんとは言え、信者を増やす為に少しずつ教えを説いて行くって事やろ。つまり、これは序の口やな』


 これが序の口…最終的には何処まで行くのか…怖いんですけど。


『かと言ってやな。ピオラ達が勉強しに来てる以上、マスターも来るんが自然な流れやし。変に目立つ事して目をつけられるんも困るやろ?』


 まぁ、いつかは諦めるだろうけど…クリスチーナ達が諦めないだろうし、俺が行かないなら自分も行かないとか言い出しても困るしな。


 だから悩んだ結果、こうして参加してるわけだが…一つわからないのは…どうしてこいつも参加している?


「カタリナさんはどうですか~?わからない所はありますか~?」


「平気よ!あたしにわからない事なんて無いわ!」


 お前、お嬢様なんやろ?普通にお家で家庭教師とか用意してもらえばええやん?


 なんでわざわざお家から離れた教会まで来て勉強してるん?


『そらマスター達が来とるからやろ。わかっとるクセに』


 そりゃわかってるけどね…カタリナだって他にやる事あるだろうに。わざわざここまで来て勉強せんでも。


 つうかお貴族様とかお金持ちの家の子なんかが通う学校はあるんだし、そっちに通えばいいだろうに。


「そっちは十二歳からだもん。あんた達が此処で勉強するなら、あたしだって此処で勉強してもいいじゃない」


 なるほど。どうやらそういう事らしい。しかし、付き添いで来てるゼフラさんとファリダさんも大変だな。


「それじゃ、今日は此処までです~。また明日来てくださいね~」


「「「は~い」」」


 教会での授業は短い。教える内容が保健体育と歴史と算数のみなのだから、午前中で終わってしまうのだ。


 最初の保健体育の授業は苦痛だったが、歴史と算数の時間は穏やかに過ごせた。


「あ、皆さ~ん!今日は見習いの子達がお昼御飯を用意してくれたみたいです~是非、食べて行ってくださ~い!」


「「「わ~い!」」」


 見習い、というのはシスター見習いの…修道女的な存在だ。尤も、キリスト教の修道女のような貞淑で禁欲の誓いなんて立ててはいないが。


 昼食はピオラ達とも合流して一緒に頂き、さぁ遊びに行こうとカタリナが言い出した時に、そいつはやって来た。


「ふん…なんだこいつらは?ガキばかりではないか。まさかこいつらに我の慈悲を与えろと言うのではなかろうな」


「いいえ、神子様。この子達は、貴方様とは別の神子様の子、もしくは孤児院の子ばかりでございます。此処に集まっているのはエロース様の教えを説き、少しのお勉強をしていただけでございます」


 昼食は教会にある食堂で摂っていたのだが…そこに一人の少年がやって来た。一緒に来たのは司祭様かな?このエロース教ノイス支部の責任者っぽい。


「なんだ、そうか。うん?よく見れば上玉も居るではないか。よし、お前、着いて来い。我の慈悲をくれてやろう」


「え?わ、私?」


 その少年は横柄な態度でピオラを指名し、何処かへ連れて行こうとする。

一目で見て解る高位の祭服を纏った少年…もしかしなくても神子か。


 そして我の慈悲って…………まさか、ピオラと子作りしようってか?


「神子様、その子はまだ子供でございます。それにエロース教の信徒というわけでもございません。無償で神子様の御慈悲をお与えになるのは…」


「我が良いと言っているのだ。一人くらい構わぬであろう。ああ、いや、そっちのお前もだ。来い」


 ピオラだけでなくクリスチーナまで指名しよった。


 この少年、見た所はこの世界での成人年齢…十五歳前後と言った所だろう。それで十歳のクリスチーナを指名とは…いくらクリスチーナが背が高く大人っぽく見えるとはいえ…なんだコイツ。


「ピオラ姉さん…あいつは何を言っているんだ?初めて見たが、アレが男なのかい?」


「わ、私も初めて見たし、何言ってるのかわかんないけど…なんかヤだ」


「え?あいつ男なのかよ。あたいも初めて見た」


「へ、へ~…アレが男…」


「……なんか怖い」


 ピオラ達もあの少年が男だと気が付いたらしい。多少の興味はあるようだが、あまり印象は良くなさそうだ。ファウに至っては怯えてアムの背中に隠れてしまった。


「おい、何をしている。早く来い」


「ヤ、ヤだ…何するつもりなんですか?あたし、行きたくない…」


「私もだ。よくわからないが。とても嫌な感じがする。御免被るよ」


「なにい?我を誰だと思っている!エロース教本部付き大司祭の息子にして神子だぞ!」


 やっぱり神子か…それも大司祭の息子。そりゃそんな立場に生まれたら神子になるのは必然だったのだろうけど…ちょっと教育に失敗してませんかね?


 見た目は…中の中。体型も中肉中背の…フッツーの少年だ。


「神子様、本人が拒否している以上、無理やりはよくありません。今日のところは…」


「うるさいぞ!ええい、黙ってついて来ないか!」


「や、やめて、やだってば!」


「君!ピオラ姉さんから手を離したまえ!」


「うるさい!お前も来るんだ!」


 …異世界に来て初めて見た男だが…腐ってるなぁ。絶対に友達にはなれない。


 段々むかむかして来たし。


『わいはとっくにイラついてんで!マスター!やってまえ!』


「ええい!良い加減に…なんだ、貴様は…な、離せっ!いたたた!」


「離すのはあんただよ。ピオラお姉ちゃんとクリスチーナには手は出させない」


 神子の手首を掴み、力を籠めている…のだが、身体強化を使わずに普通に掴んで握力を籠めてるだけだよ?随分大袈裟に痛がるな。貧弱過ぎない?


『それがこの世界での男ってこっちゃな。貧弱なんばっかりやで』


 そうかー…働かなくていいんだもんな。そりゃ身体鍛えるとかしない。デブってないだけ、コイツはマシなのかもしれないが…性格もまともなら良かったのに。


「は、離せ!お前も中々美人…いや、かなりの美人だが幼過ぎる!我に抱いて欲しいなら後数年待ってから…痛い痛い!」


「気持ち悪い事ぬかすな」


 何故、俺を選んで欲しくてちょっかい掛けてるかのような言い方をする?どう見てもそんな状況じゃなかろうが。


「ぐうぅ!良いから離せ!おい!シスターども!こいつを何とかしろ!司祭も何を黙って見ている!」


「…君、離してください。神子様の御言葉です」


「嫌です。先にこいつがピオラお姉ちゃんから手を離すのが先です」


「貴様っ、ふざけっ、いだだだだ!痛いと言ってるだろが!」


 やっとピオラから手を離した…と、思ったらそのまま俺に拳を振るって来た。サッと躱しお返しとばかりにデコピンをお見舞いしてやった。


 ……ん?


「ぷげええええ!?」


「「「「あ!?」」」」


 えええ?只のデコピンだよ?しかも全力じゃない、思いっきり手加減したデコピンだよ?


 それなのに…気絶してる?


「か、神子様!?あ、貴女達!早く神子様をベッドへ!」


「「「はい!」」」


 シスターとシスター見習いの女の子達によって運ばれていく神子。


 そこで話は終わり、昼食も頂いたし、これでさようなら————


「御待ちなさい。貴女には御話しがあります」


 …ですよね。わかってた。


 やっちまったかな…

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